この記事は、2016年8月2日号からの転載です。東京大学新聞の紙面を限定公開 お試し読みのご案内の一環で4月28日まで限定公開しています。
「日本人は無宗教だ」とよく言われる。しかし、東日本大震災を契機に仏教や神道への関心は高まっており、依然として宗教と社会の関係は強い。また世界に目を向けると、宗教紛争はいまだ数多く起きている。現代社会にも深く根差す宗教に対し、フィールドワークの手法で研究に取り組む西村明准教授(人文社会系研究科)に話を聞いた。
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宗教学と聞くと、特定の宗教を信仰する人々による研究だと思うかもしれない。しかし実際の宗教学は、自分の信仰心の有無にかかわらず、人間の営みとしての宗教を客観的に捉えて理解する学問だという。思想や史料、フィールドワークなどさまざまな面からのアプローチを通して、「宗教とは何か」を明らかにしようとしている。
西村准教授の主な研究手法はフィールドワークだ。現場に出掛けて観察やインタビューをし、そこで生まれた疑問などを資料を通して考え直している。最近では奄美群島の調査をしており、「Uターン」や出身地とは別の地域へ移り住む「Iターン」をした住民が島で生活する理由や、島での生活の心の支えなどを学生と研究しているという。
「社会にとって犠牲とは何か、ということに問題関心があります」と語る西村准教授。博士論文では、地元の長崎を対象に、原爆犠牲者の慰霊や追悼の問題を扱った。長崎は雲仙・普賢岳の噴火や島原の乱、原爆などさまざまな苦難を背負ってきた土地だ。「そうした苦難を背負って生きる人々が、何に救済を求めるかというところに宗教的関心を抱いています」。西村准教授は、現在も九州に研究の軸足を置いており「地元から世界や人を理解すること」を目指しているという。現代のグローバルな状況を、江戸時代から世界とつながりを持ってきた長崎をモデルケースに考えることが、現在の西村准教授の研究構想だ。
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宗教学研究室では、各教員・学生がさまざまな時代や地域を対象に、それぞれの手法で宗教を研究している。それ故研究室は非常に自由な雰囲気だという。また、複数の教員が演習や卒論指導を行う集団指導の体制を取っている。各教員・学生から多様な視点を学べるのも、宗教学研究室の特徴のようだ。
「宗教学では、比較の視点を持つことが重要です」と西村准教授は語る。事実を整理・分類する際には、物事を客観的に見ることが必要だ。宗教学でさまざまな信仰に触れることで、対比的に物事を考える力を養える。その結果、宗教に限らず、自分と異なる文化や価値観を持つ人を客観的かつ共感的に理解できるという。「宗教学を理解すると、宗教以外のことも宗教の枠を通して考えられるようになるのです」
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西村准教授は学生に対し「自分にしかできない研究をしてほしい」と語る。「流行に左右されず、自分の素朴な関心や違和感を大切にしてください。そこから大きな問題にぶつかってもらうと、非常にオリジナリティーのある研究ができるのではないかと思います」
(分部麻里)
【東大新聞お試し】研究室散歩:宗教学 地元を舞台に「世界」を理解は東大新聞オンラインで公開された投稿です。