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英語民間試験利用反対 国会請願の審査未了 

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 2021年度大学入学共通テスト(20年度実施)での導入が予定されている英語民間試験。羽藤由美教授(京都工芸繊維大学)らが中心となって利用中止を求める署名運動を実施、8千筆以上の署名と共に衆参両院に請願書を提出していた。請願は審査保留のまま、6月26日の国会の会期終了とともに審査未了となったが、TOEICが撤退を表明するなど、まだ英語民間試験利用を巡る混乱は収まっていない。英語民間試験利用の問題点、署名運動に至った経緯を羽藤教授に聞いた。

(取材・中井健太)

 

「構造的欠陥の解決が困難」

 

 羽藤教授は英語民間試験の利用について、多くの問題点を指摘している(表)。そのどれも「導入まで1年を切った今からでは対応し切れない」と話すが、中でも大きな構造的欠陥が二つあるという。

 

羽藤教授らの記者会見資料を基に東京大学新聞社が作成

 

 

 一つ目は、複数の民間試験の成績をCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)を介して比べること。「異なる能力を測る目的で設計された試験の成績を比べることはできません。例えば、50m走とマラソンの記録を比べて走力の優劣を決めることはできません。英語力も同じです。その不合理を隠すためにCEFRが誤用されています。しかし、根本的な問題は解決せず、英検でA1レベルの人とGTECでA2レベルの人が同じ試験を受ければ、順序が入れ替わる可能性は十分あります。これでは公平な入学者選抜はできません」

 

 二つ目は、試験の運営を民間団体に丸投げしていること。「今回の制度では、作問、試験の実施、採点、トラブル対応など、受験生に成績が返されるまでの全過程が不透明。それを営利目的の民間団体に任せるなら、高度な専門知識を持つ第3者による監視や監査の制度が必要」と指摘。「採点の質の担保やトラブル隠蔽(いんぺい)の防止などが不十分です」

 

 羽藤教授は、英語教育の研究者として、民間試験を大学入試に利用することが検討され始めた時から、学内外で反対を訴えてきた。今回の署名運動では、10日程度の短期間で8千筆以上の署名が集まり、多くの人が危機感を共有していることを実感したという。

 

 国会請願はごく一部を除きほとんどが保留扱いのまま審査未了となる。「今回の請願もそうなることは予想していました」。しかし「国を代表する専門家を含む多くの人たちの抗議の声を国会や文部科学省に届け、記録に残したことには大きな意味がありました」。

 

 羽藤教授は、東大が21年度入試から、出願資格としてCEFRのA2レベル以上の民間試験の成績、またはA2レベル以上の英語力があることを高校などが証明する書類、もしくはその両方を提出できない事情を明記した理由書の提出を求めることにも言及。「英語だけを取り出して出願要件にすること、その基準にCEFRを用いることについて、東大として十分な検討をしたのでしょうか。理念や理論と照らして、もう一度検討し直していただきたい」

 

東大は現時点で再考予定なし

 

 五神真総長は18年に行われた林芳正文部科学大臣(当時)との会談で、東大での英語民間試験利用の条件として「高等学校、大学等関係団体及び試験実施団体等の幅広い関係者によって今後の入試実施にあたっての諸課題を検討する場」の設置と、英語民間試験利用に際し問題が起きたときの責任を明確化する文科省令の制定を挙げていた。入試担当の福田裕穂理事・副学長によると前者は既に文科省内に設置されており、議論が進んでいるが、文科省令の制定は検討中だという。

 

 福田理事・副学長は東大における英語民間試験の利用方針に関して「全学で十分検討した上で出した結論ですので、現時点で再考の予定はありません」とコメントした。

 

国会請願は審査すらされず

 

 国会請願はなぜ審査未了に終わったのか。法学者の南部義典さんは、慣例により全会一致でないと請願が採択されず、保留のまま審査すらされない、など国会請願の採択のハードルの高さが原因だと説明する。審査の保留を決定する理事会は委員会と異なり非公開のため、採択に反対している会派が分からず、責任の所在が明確化できないことも問題だと指摘した。

 

TOEICは参加取りやめ

 

 2日、TOEICを運営する国際ビジネスコミュニケーション協会(IIBC)は共通テストへの参加を取りやめることを発表した。IIBCは撤退の理由として、受験申込、試験運営、結果提供の処理の複雑性から「責任をもって各種対応を進めていくことが困難」になったことを挙げた。

 

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この記事は2019年7月9日号からの転載です。本紙では他にもオリジナル記事を公開しています。

 


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