昨年11月に開業した麻布台ヒルズの中にある「麻布台クリニック」。六本木ヒルズなどを手掛けた森ビルが「緑に包まれ、人と人をつなぐ『広場』のような街 – Modern Urban Village -」というコンセプトを掲げ、多様な都市機能を融合させたヒルズの中で、医療機能を担っている。今回は麻布台クリニックの齋藤昌孝院長に事業内容やビジョンについて取材。前編では基本的な事業内容を、後編では地域に根付く医療の実践での新しい取り組みを紹介する。(取材・清水琉生)

ウェルネス実現への挑戦
医療法人社団なかよし会「麻布台クリニック」では、一般内科、消化器内科、リウマチ科、皮膚科、美容皮膚科の診療に加え、健康診断・人間ドックを受診できる。医師は現在3名。齋藤院長は皮膚科、美容皮膚科を担当。なかよし会理事長で、慶應義塾大学日吉キャンパス内「日吉メディカルクリニック」の院長でもある髙田哲也医師は一般内科とリウマチ科を担当。麻布台クリニック副院長で慶應義塾大学客員准教授の吉岡政洋医師は一般内科、消化器内科を担当する。麻布台クリニックのコンセプトは「TOTAL」。治療を行い全身の健康管理を行う意味に加えて、身体的にも、心理的にも、社会的にもトータルに幸福な状態=「ウェルネス」の実現に貢献することがクリニックの軸になっている。また、「人生100年時代のヘルス&ウェルネスの最強パートナー」をパーパスとし、患者のより健康な未来づくりをサポートするウェルネスのトータルプロデューサーを目指す。「医師はそれぞれの専門分野での経験が豊富ですし、看護師やスタッフもプロフェッショナルが集まっています。髙田理事長と縁があってクリニックに入職した人が多いです」と齋藤院長。

麻布台クリニックの上階には慶應義塾大学予防医療センターがある。麻布台クリニ ックの開業の背景には予防医療センターの存在があった。麻布台ヒルズは森ビルが30年以上かけて取り組んで来た都市再生事業。19年8月に本格始動した当初から「Modern Urban Village」の柱となる「Green& Wellness」 を担う要素として予防医療センター誘致の計画があった。キャンパス外に大学病院施設を作るチャレンジが森ビルの姿勢と共鳴して実現し、近隣住民や麻布台ヒルズに勤めるワーカーにとっても身近な施設となることを願ってビルと同時に開業した。「予防医療センターでは病気の治療は行いません。麻布台ヒルズが街の人々の健康維持に貢献する上で、治療を担える施設も必要であったことから、クリニック誘致の計画も始動していました」。そして、髙田哲也理事長と齋藤院長に声がかかり、クリニック開設の計画が本格化。「当初は都外で開業することを考えていたくらいなので、森ビルと連携したスケールの大きな事業の一角を担うことには戸惑いました。ただ、私は新しいことにチャレンジするのが大好きですし、森ビルの期待に応えられるよう頑張ってみたいと思ったのです」と齋藤院長は話す。ウェルネスの実現に重きを置いたスタイルは最先端だ。最先端を集結させ、未来に事業の運命を託す森ビルと姿勢を同じくして「どうなるかは分からないが楽しみ。麻布台クリニックは多くのチャレンジができる理想的な場」と語る。
予防医療センターとの連携も綿密。麻布台クリニックは予防医療センターの下階にある。健診受診者がすぐクリニックに来て治療を受けることができ、予防医療センターに設置されているMRIやCTなど診断機器の一部を利用することも可能だ。
イメージを壊す 文化を創る
麻布台ヒルズ開業から2カ月が経った今でも、森JPタワーの商業施設が多数入った中心エリアは大いに賑わう。「麻布台ヒルズの中にあるクリニックというだけで敷居の高いイメージを持ってしまいますよね」。麻布台ヒルズの注目のされ方を踏まえてもイメージを崩すのが大変だと齋藤院長は話す。「ただ待っていても患者さんは来ないので、私たちの専門性や得意分野、麻布台地域の強みを生かし、通常のクリニックでは作れない価値を求めて患者さんが集まってくるようにしたいです」

予約制の利点を生かすことで、一人一人に多くの診療時間を割いてコミュニケーションを取れる。「患者さんの目を見ながらの向き合った診療を心がけ、遠くから来てくれた患者さんには『来てくれてありがとう』と伝えるようにしています」。患者の情報をまとめたカルテには、診断や治療に関連した医療情報だけではなく、会って感じたことなども忘れないようにメモを取っているという。「患者さんに関心を持つことが大切です。患者さんが気持ち良く受診して、元気になって笑顔でクリニックから出ていくのが良いじゃないですか」と医療の「サービス」としてのホスピタリティーを大事にしている。「病は気から」という言葉を日頃から実感し、信頼とコミュニケーションがなければ、医療の効果は十分に発揮されないと齋藤院長は考えている。
コミュニケーションを重んじる、患者に関心を持つといった患者との向き合い方をクリニックの全スタッフにも実践してもらい、「麻布台クリニックならではの文化を作りたいと思っています」と齋藤院長。「医療機関の口コミサイトでは、診療内容についての書き込みだけでなく、事務や看護師、さらには医師とのコミュニケーションに関する不満が書き込まれることも多いので、私一人がいろいろ考えているだけでは不十分なのです」。医療行為をする人だけで作るものでないチーム医療の実現には、 麻布台クリニックに勤めるスタッフそれぞれの距離の近さも大きく寄与する。足を運ぶ患者一人一人に「麻布台クリニックに来て良かった」と思ってもらえる体験を提供し、患者の周りの人への紹介などで麻布台クリニックを利用する人の輪が広がっていくことを期待している。「SNSなどでの発信を積極的にしようとは思わないんです。患者さんにとって満足度の高いクリニックづくりをしたいですし、1人にゆっくり時間をかけて行う診療であれば、われわれが慌ただしくなって疲弊することも減ると思います」と、集患のためにSNSでの発信を積極的に行うクリニックとは違う価値を大切にしている。(後編に続く)
施設案内
医療法人社団なかよし会 麻布台クリニック
東京都港区麻布台一丁目3番1号 麻布台ヒルズ タワープラザ4階(森JPタワー)
TEL:03-5544-9390(代表)
TEL:03-5544-9395(健康診断・人間ドック 予約/問い合わせ)
ホームページ:https://www.azabudaiclinic.com/
齋藤昌孝(さいとう・まさたか)さん
96年慶應義塾大学医学部卒業。11年米エモリー大学博士研究員。博士(医学)。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医。皮膚科全般、爪疾患、美容皮膚科を専門とし、13年には慶應義塾大学専任講師を務め、23年11月より麻布台クリニック院長に就任。
The post ヒルズで届ける麻布台風医療 麻布台クリニックの挑戦【前編】 first appeared on 東大新聞オンライン.