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退職教員インタビュー③ 高木利久教授 使命感で進めてきた生物学のデータベース化

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 毎年恒例の退職教員インタビュー企画。今年度末で退職する教員たちの目に、今の東大はどのように映っているのだろうか。4人の退職教員に、自身の研究内容を振り返ってもらった他、東大生への最後のメッセージを語ってもらった。

 

 3人目は、長年バイオインフォマティクスに携わり、理学部生物情報科学科の立ち上げにも関わった高木利久教授。研究での苦労や昨今の研究環境に対して思うところを聞いた。

 

(取材・武沙佑美)

 

遺伝子をコンピューター解析

 

──最大の研究成果は

 当初は実験で得られるゲノムのデータを整理しコンピューターで解析するバイオインフォマティクスの研究をしました。

 

 生物学の分野では年間100万件近く論文が発表されます。そこで私は論文に書かれた膨大な知識をデータベース化する手法の研究を行うことにしました。これにより実験データと整理された知識を、より効率的に研究を進めることができるようになります。

 

 ただ、正直なところ思うように研究時間が取れず、心残りも大きいですね。

 

──なぜそう感じますか

 工学部計数工学科出身でアルゴリズムやソフトウェアの研究をしたかったんです。しかしゲノム解析に国を挙げて取り組む必要性が高まった30年ほど前、人手不足だった情報系の担当としてゲノム情報解析やデータベースのプロジェクトを任されました。プロジェクトに携わるうち、この年になってしまいました。

 

──どのような苦労や挫折がありましたか

 プロジェクトの主題であったバイオインフォマティクスは生物と情報を融合した新しい分野ですが、研究方法やアプローチなど、文化や価値観は分野ごとに異なるため、それらをうまく融合させることが大変でした。生物系は私の専門外だったので、この研究に取り組むこと自体への葛藤もありましたね。

 

──活動のモチベーションは何だったのでしょうか

 大げさに言えば使命感です。バイオインフォマティクスを発展させなければ世界に後れを取ってしまうという危機感がありました。

 

 今でも国内のこの分野は人手不足ですが、人材育成をする場である大学は少子化や予算の問題で対応できていません。新分野の確立には教員や予算などの資源が必要ですが、既存の学問分野を縮小するわけにもいかず余裕がないのです。バイオ産業の規模が小さいため就職先も少なく、既存の分野へ人が流れるという悪循環があります。

 

 人手不足の解消に貢献しようと、東大では理学部生物情報科学科の立ち上げに関わりました。人材不足解消には「焼け石に水」かもしれませんが、政府や学内の関係者に必要性を説き、やっと実現できました。

 

科学技術振興機構バイオサイエンスデータベースセンターのセンター長を務めている(写真は同センターのウェブサイト

 

──日本におけるデータベースの現状をどう評価しますか

 研究を効率化し新たな知識発見につながるようなデータベース基盤の構築への道筋は見えてきたとは思います。大量の生命データの処理次第で人間への進化の痕跡や病気の原因に関する新発見もあり得るので引き続きデータベース化を進めたいです。

 

──研究者を取り巻く現状を見ていて思うことは

 今は若い人が新しいことに挑戦できない環境だと思います。研究職は期限付きで業績を上げる必要もあり、大きなプレッシャーを感じる人も多い。バイオインフォマティクスは融合分野なので成果が出るまでには長い時間がかかります。

 

 学生には、失敗も財産になるので広い視野で物事を考えるよう言っています。人生山あり谷ありです。

 

──学生に向けてメッセージをお願いします

 目の前のことに惑わされず、自分の頭で考える癖を付けてほしいです。世の中理屈通りにはいきませんし、研究の世界もある学問分野がいきなり脚光を浴びたりその逆もあったりと変化が目まぐるしい。東大生の中には進学選択の際に点数が高いとか人気の分野だからと進学先を選ぶ人もいると聞きますが、一時的な狭い価値観にとらわれず広い視野を持てばどんな分野でもやっていけると思いますよ。

高木利久(たかぎ・としひさ)教授(理学系研究科)
 76年工学部卒。工学博士。医科学研究所、大学院新領域創成科学研究科教授などを経て14年より現職。科学技術振興機構バイオサイエンスデータベースセンター長なども務める。


この記事は、2019年3月19日号からの転載です。本紙では、他にもオリジナル記事を掲載しています。

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起業の超初期を支援する「FoundX」施設開設

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 産学協創推進本部と三菱地所は1日、起業の超初期段階にある東大の卒業生や研究者、学生を支援するプログラム「東京大学FoundX」用施設を、文京区本郷五丁目に開設した。今後も本郷近辺に複数のFoundX関連施設を開く。馬田隆明特任研究員(産学協創推進本部)によると、起業支援を通じて「時間や精神などのゆとりを生み出し、さまざまな意味での理性に基づく社会を作る」ことを目指すという。 

 

 FoundX開始の背景には、既存の起業支援では対処しづらい課題の存在がある。主にプログラミング能力が求められ、3カ月ほどで起業できた15年ほど前と異なり、現在は研究開発型など長期間の準備段階を要する起業が増加。準備が不十分だと資金調達が難航する恐れも高い。起業の超初期に寄り添うことで、従来の起業家層とは異なる層の起業を促す効果も期待できる。一部の企業への資金集中を防ぐ狙いもある。

正解なき分野で生み出す新たな価値 ~人気上昇中?グラフィックデザインの魅力とは~

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 テント列、サークルオリエンテーションといったイベントが終わり、各団体の新歓活動は佳境を迎えようとしている。宣伝のために壁に貼られるポスターや配られるビラ、あるいは各団体のホームページなどを見ると、デザインの凝ったものが少なくない。今回は、このようなデザインが東大生といかにつながっているのか探るべく、駒場で開催されるデザイン講義の運営陣と、実際にさまざまな団体にデザインで関わってきた学生に取材した。(取材・村松光太朗

 

視覚を通じたコミュニケーション

 

 駒場キャンパスで毎年開講される主題科目「グラフィックデザイン概論」。4月初めの初回授業でガイダンスを行い、そこで40人ほど受講者を選抜しなければならないほどの人気講義だ。開講者の保田容之介非常勤講師(以下、保田)と、今年度の講義でTAを務める学生2人(種田裕紀さん、伴玲吾さん)に取材した。

 

TAの種田 裕紀(おいだ・ひろき)さん(文Ⅱ・2年)伴 玲吾(ばん・れいご)さん(理Ⅰ・2年)

 

 保田 本講義の意図を正しく理解してもらうためには、まずデザインの定義が必要です。私たちにとってデザインとは「視覚的なコミュニケーションの手段」であり、「情報発信者と受信者の関係性を考えること」でもあります。特に前者のような文脈では「グラフィックデザイン」と呼ぶことも多いです。

 

 種田 高校までの美術のように自己表現を貫くことはデザインの本質ではありません。誰かに何かを伝える場面における一つのコミュニケーション手段なのです。例えば官僚やビジネスマンであっても理系研究者であっても、事業や研究の内容を誰にでも分かるように説明する必要があります。そのための資料やスライドなどに効果的なデザインを施すと、大きく伝わりやすさが変わるでしょう。

 

  このようにデザインを直接の専門としない人々や学生にとっても、デザインはより身近なものになってきました。この流れを支えたのが、デザインのソフトウェアです。私の周囲でも、デザインを専門としていない学生がソフトウェアを使ってデザインをしているところをよく見かけるようになったと感じています。

 

 保田 他の大学と比べても、東大生のデザインツールへの興味関心は高い印象です。デザインという比較的新しい分野に対する東大生の好奇心の高さを反映しているのかもしれません。東大生にはその好奇心を生かして、在学中ひいては卒業後のキャリアでもデザインの知識を使えるようになってほしい。そして、新たな価値を創造できるようになってもらいたい。このように考え、2014年に本講義を開講しました。

 

 種田 実際の授業設計には我々TAも大きく関わっています。受講生は、まず色や文字のフォントといった視覚的なデザインの理論を座学形式で学び、その後、学生同士でチームを作ってデザインの実践を行います。重要なのは実践終了時に行う学生同士のフィードバックです。デザインはコミュニケーション手段という最初に述べた定義から、情報がどう伝わっているのかについて他者の目線を知る必要があると考えたので、取り入れています。

 

授業で扱う理論の例① プレグナンツの法則
無意識下で情報がグループ化される法則。左ではCと比べて隣接したAとBがひとまとまりに見える一方、右では書体の同じAとCがひとまとまりに見える。
授業で扱う理論の例② グーテンベルクダイヤグラム
視線が左上から右下に流れることを利用した配置パターン。左上と右下の情報の優先順位が高くなる。記者の渡した名刺のデザインも理に適っていたようだ。

 

  ビラや資料など、実践的にデザインする対象となるのは、色や文字といった基本単位の複合体です。先に述べた講義方式は、基礎をしっかりと固めた上でそれらを組み合わせ応用的に生かすという形をとっており、多くの東大生が受験で体験した道筋を踏襲するものです。ある種、東大生の上達法に合致する講義方針だと考えています。

 

 保田 最後にもう一つ、この講義を受ける前と後では、周りの景色もかなり変わって見えることでしょう。というのも、日常的に見るさまざまなデザインについて、それまで気づかなかった視点から新たな発見ができるようになるからです。街中を歩くだけで楽しいデザインの勉強ができるようになるのです。(

ガイダンスは4月5日(金)の5限目にKOMCEE West K214で行われる。詳細は公式サイト(http://u-tokyo.design)を参照いただきたい。Twitter:@utokyo_design

 

曖昧な思いを形に

 

 大学に入ってからデザインを始めた西丸颯さんは、さまざまな団体のビラやロゴのデザイン、およびウェブページのUI(ユーザーインターフェース、サービス利用者とコンピューターをつなぐ機能の総称)のデザインに関わってきた。デザインを始めた経緯、デザインを通して学んだことや苦労したことを尋ねた。

 デザインには高校時代に興味を持ち、大学でデザインサークルのDP9に入りましたが、本格的にデザインを始めたのは1年次の1月ごろです。新歓活動に向けてさまざまな団体からDP9にビラの制作依頼が入る時期で、私は日中学生会議と運動会弓術部の依頼を受け、ビラを制作しました。絵を描くのは得意でなく、できるのはパソコン上で図形や色、文字を組み合わせることです。その制限下でどうすれば魅力的なものができるか考えることに、難しさと同時に面白さも感じました。夢中になって1日中パソコンに向かう日々が続き、睡眠不足になりました(笑)。

日中学生会議のポスター(画像提供:西丸さん)
弓術部の新歓パンフレット表紙(画像提供:西丸さん)

 

 2年になってからは東大美女図鑑などでロゴデザインに携わった一方、大学の先輩が通う会社から誘われウェブページのUIデザインにも手を出すことになりました。やる気はありましたが、最初はウェブデザイン用のツールの使い方など最低限の常識を習得することに精一杯で、納得のいくものは作れませんでした。それでも根気よく勉強するにつれて、ある程度UIに関する知見が深まっていったかと思います。

Bizjapanのウェブサイト(画像提供:西丸さん)

 

 さまざまな団体から要請を受けてデザインをする中で、意識するようになった点がいくつかあります。まず、とにかく団体の関係者と話すこと。関係者の考えや感情をくみ取らず、最終的に出来上がる作品が作り手の独り善がりになってしまっては誰も得しません。実際にこのことで、依頼主からデザイン案を丸ごと却下されるという痛い失敗を経験しました。また、考えたデザイン案は大雑把なものでもすぐに共有することも大事だと思います。より良いものになる余地があるのに、現案に必要以上の愛着が湧くと、柔軟性がなくなってしまうからです。

 

 東大美女図鑑のロゴを新しく作る過程では、編集部員の思いを聞いては案を出すことを繰り返すうちに、部員たちが抱いていた団体そのものの価値をふんわりと掘り起こせたと考えています。誰に見てほしいのか、どのように形にすべきかといったところは論理で考え通しましたが、関係者たちが漠然と抱く曖昧な部分を許容したままアウトプットにつなげるのもまたデザインの役割なのかな、と思うようになりました。

 

東大美女図鑑のロゴ(画像提供:西丸さん)

 

 デザインはある種マラソンのようなものだと思います。作っている時は行き詰まることもあるし、大体つらくなります。しかしその分、出来上がった時や誰かに喜んでもらえた時のうれしさもひとしおでしょう。そして、これからデザインを始めようと考えている東大生には、デザインの力を信じて突き進んでほしいと思います。最後のブラッシュアップを1ミリ単位で行うぐらいの執念で、デザインそのものやそれを必要としている人々に真剣に向き合ってみてください。そうすれば、自分なりに納得のいくデザインに行き着くかもしれません。(

 

西丸 颯(にしまる・そう)さん(経・3年)

この記事は、2019年4月2日号からの転載です。本紙では、他にもオリジナル記事を掲載しています。

インタビュー:東大に閉じこもるな 平成の暮れ、元総長が望むこれからの学生像 小宮山宏さん、濱田純一名誉教授
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福島の放射線量過小評価か 早野名誉教授らの論文不正疑惑を概観

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 東日本大震災以降、福島の放射能汚染問題について調査研究と情報発信をしてきた早野龍五氏(理学系研究科教授=当時)。早野氏が宮崎真氏(福島県立医科大学助手=当時)と共同執筆した、福島県伊達市の市民の外部被ばく線量に関する2本の論文について、放射線量の過小評価や伊達市民の個人情報の不正利用などの疑惑が浮上している。論文の不審な点を指摘し続けている黒川眞一氏(高エネルギー加速器研究機構名誉教授)の話を基に疑惑を概観するとともに、伊達市や福島県立医科大へ情報開示請求をしてきた伊達市民の声を紹介する。(取材・小田泰成 構成・山口岳大)

 

放射線量はいかにして過小評価されたか

 

 問題となっているのは、2016年の12月に発表された「第1論文」と17年の7月に発表された「第2論文」。第1論文は国の放射線審議会で政策決定の参考資料として使われたが、19年1月に参考資料から削除された。

 

(図1)線量計の一種であるガラスバッジ。伊達市はこの線量計を市民に配布し、個人の外部被ばく線量を測定した。2016年4月から、旧型(左)に代わり新型が使われるようになった(写真は島明美氏提供)

 

 第1論文は、ガラスバッジ(線量計の一種、図1)で測定された個人の被ばく線量と航空機で測定された空間線量の間に見られる相関を分析したもの。航空機で測定された空間線量率で各市民の個人被ばく線量率を割った値の平均値が0.15であり、政府が定めた値0.6の4分の1になると結論づけた。これは、政府の定めた規準が個人被ばく線量を必要以上に高く見積もっており、安全サイドに寄り過ぎていることを示唆している。

 

(図2)第1論文中の、個人被ばく線量率と空間線量率の関係を示した箱ひげ図の一つ。矢印(東京大学新聞社が挿入)で示したビンには、最小値から1%以内もしくは最大値から1%以内に当たる「外れ値」しかなく、その階級に属する市民の99%が外部被ばく線量ゼロになっている(出典:”Individual external dose monitoring of all citizens of Date City by passive dosimeter 5 to 51 months after the Fukushima NPP accident (series): 1. Comparison of individual dose with ambient dose rate monitored by aircraft surveys”Makoto Miyazaki and Ryugo Hayano 2017 J. Radiol. Prot. 37(1))

 

 黒川氏によれば、第1論文にはいくつかの大きな問題があるという。例えば図2のように、あるビンに属する市民の99%が外部被ばく線量ゼロになっている箇所が三つある(図2)。多くの市民がガラスバッジを正しく装着していなかったことや、バックグラウンド(自然界に元々存在する放射線量)の引き過ぎによる過小評価が考慮されていない。さらに航空機によって測定された空間線量率は、地上で測定された空間線量率よりも1.5倍ほど大きい。「これらの効果を含めると、0.15は0.36ぐらいになる」と黒川氏は語る。

 

(図3)第2論文中の、個人被ばく線量の推移を示す箱ひげ図「図6」(上)と、そのデータを基に累積線量を示した「図7」。「図6」の単位を変換し、3ヶ月ごとに個人被ばく線量を積み重ねていったものが「図7」に当たる(出典:”Individual external dose monitoring of all citizens of Date City by passive dosimeter 5 to 51 months after the Fukushima NPP accident (series): II. Prediction of lifetime additional effective dose and evaluating the effect of decontamination on individual dose” Makoto Miyazaki and Ryugo Hayano 2017 J. Radiol. Prot. 37(1))

 

 生涯被ばく線量の評価と除染の効果が主題の第2論文にも不可解な点がある。図3に示す通り、第2論文中の「図6」は、一定の条件のもとで選ばれた市民425人の、事故後7ヶ月から38ヶ月までの個人被ばく線量の推移、「図7」は、「図6」で用いたものと同じデータを基に算出した累積線量を、それぞれ示したものである。ところが、「図6」から求めた累積線量と比較すると、「図7」から読み取れる累積線量は約半分になり、一致しない。黒川氏は、ガラスバッジは0.1 mSv単位でしか線量を測れないはずなのに、「図7」の中央値(全体が425人なので、上下から213番目の個人の累積線量にあたる)の3ヶ月あたりの増加量が約0.15 mSvというより細かい数値になるという矛盾から、「図7」の値の方が半分に減らされていると断定。「故意ではなくとも著しい注意不足によるミスであり、研究不正とされても仕方ない」とした。

 

 黒川氏は昨年秋、2本の論文が載った『ジャーナル・オブ・レディオロジカル・プロテクション(JRP)』に第2論文を批判する論文を投稿し、上記の「図6」と「図7」の不整合を含む、論文の不自然な点を指摘。早野氏は今年1月、一部誤りを認めた。しかし黒川氏によれば「実際には早野さんは私の指摘に正面から答えていない」。本紙は早野氏にも、事実関係の確認のために事務所経由で取材を依頼したが、本人と見られる人物から電子メールで「メディアを使って応酬するのは適切ではない」と断られた。

 

研究倫理に違反している可能性も

 

 黒川氏は『科学』19年2月号(岩波書店)で伊達市民の島明美氏と共に、論文の「人を対象とする医学系研究についての倫理指針」違反を七つ指摘。例えば、自分のデータを使われることに同意していない市民のデータを使ったことなどが挙げられる(図4)。この七つ以外にも、研究計画書では「分担研究者(注:早野氏)に、随時主任研究者(注:宮崎氏)が解析した結果についてレビューしていただき、統計や計算処理の不備や問題点の指摘とその解決法などについて助言をいただく予定」と書かれているが、実際には早野氏自身が解析していた疑いなどがある。

 

(図4)2013年度の個人の測定データの一部。拡大した部分が示すように、「同意書」の欄に「同意有無」が記載されている。論文には、同意のなかった市民のデータも利用されたとみられる(黒川氏提供のデータを基に、東京大学新聞社が作成)

 

 早野氏への研究不正の申し立てを受け、東大は本調査を進めている。伊達市も早野氏と宮崎氏に正当な手続きで伊達市民のデータが提供されたか調べる委員会を立ち上げた。本紙は東大の研究倫理推進課にも、審議内容などに関する取材を依頼したが「規則に基づく手続き中であり要望には沿えない」と回答された。

 

 論文が掲載された『JRP』も、両論文における同意を得ない個人情報の使用、第2論文における結論に影響する計算方法のミスを指摘した「Expression of Concern(懸念の表明、EoC)」を1月11日に発表している。なお、この『JRP』の動きについて黒川氏は、『JRP』はすでに1月8日ごろに論文の著者からcorrigendum(日本語の「正誤表」に当たる言葉)を受け取っていたが、その際、著者が東大や伊達市の調査が進行中であるということを認めたことから、corrigendumの即時掲載を見送り、EoCを発表するという判断に踏み切ったものとみている。

 

 あくまで論文の第一著者は宮崎氏だ。しかし黒川氏によると「教授と比べれば、助手は大学院生のようなもの。宮崎さんを指導すべき立場にある早野さんの方に批判が集中するのは当然だ」

 

 黒川氏は最後にこう述べた。「早野さんはとても優秀。でも今の早野さんは『科学者』とはいえない。科学者にとって最も重要なintegrity(正直であることと、モラルに関する原則に忠実であることを示す)を失っている。早く科学者に戻ってほしい」

 

情報開示請求に踏み切った市民は

 

 本紙は、伊達市や福島県立医科大に対し情報開示請求を行った伊達市民、島明美氏にも電子メールを通じ話を聞くことができた。島氏は、原発事故直後からすでに伊達市の個人被ばく線量の測定に関心を持っていた。測定結果を拙速に安全基準や除染評価の尺度として利用することに不信感があったためだ。黒川氏からの連絡があったことをきっかけに、今回の論文不正疑惑にも関わるようになった。

 

 一度、黒川氏とともに宮崎氏を訪ねたが「筆頭著者とは思えない、責任は自分にはないと言わんばかりの態度でした」。黒川氏が質問しても、「早野さんに確認する」とパソコンに質問を打ち込み、自ら答えようとはしなかったという。

 

 いま、島氏は論文の著者らに何を望むのか。早野氏に対しては「黒川さんからの質問にすべて答えてほしい」とした上で、「『海容』(早野氏が今年1月に発表した文書に「伊達市および市民のみなさまにはご心配・ご迷惑をお掛けしておりますが、どうかご海容いただけますと幸いです」とある)などという言葉で濁されたくはない」と憤った。放射線に関する市政アドバイザーを務める宮崎氏には、研究倫理に関する伊達市への助言や、論文執筆以前の市民への説明が十分に行われていなかったことに触れ、職務を全うするよう求めた。

 

疑惑の解明は進むのか

 

 今後、疑惑の解明には、東大、福島県立医科大、伊達市がそれぞれ進めている調査の報告が待たれる。また、OurPlanet-TVの報道 によれば、伊達市議会は宮崎氏と早野氏を招いた勉強会を開くことを企画しているとされ、論文の著者自身が釈明を行うかにも注目が集まる。

 

 他方、早野氏自身は今年1月に発表した文書で、「論文の重大な誤りについては、JRP誌という学術的な場での議論に向けて進みつつある段階です」と述べているが、2本の論文が掲載された『JRP』は現在のところ、各調査結果が出るまでは動静を見守るという姿勢を取っているため、調査報告に先立って誌上で議論が進展することはないという。

 

 本紙は、新たな動向があり次第、オンライン・紙面の双方を通じて随時発信していく。

黒川眞一名誉教授(くろかわ・しんいち)
(高エネルギー加速器研究機構)
 73年理学系研究科博士課程単位取得満期退学。博士(理学)。高エネルギー加速器研究機構教授などを経て、09年に退職。

退職教員インタビュー④ 荒井良雄教授 足取り軽く地理学を研究

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 毎年恒例の退職教員インタビュー企画。今年度末で退職する教員たちの目に、今の東大はどのように映っているのだろうか。4人の退職教員に、自身の研究内容を振り返ってもらった他、東大生への最後のメッセージを語ってもらった。

 

 最終回の今回は、時間地理学などを研究してきた荒井良雄教授にインタビュー。教育面で心がけたことや、学生の変化についても話を聞いた。

 

(取材・武沙佑美)

 

荒井良雄(あらい・よしお)教授(総合文化研究科)
 80年理学系研究科博士課程中退。博士(工学)。教養学部助教授(当時)などを経て96年より現職。06年人文地理学会賞受賞。

 

地理的要素と時間を融合

 

──最大の研究成果は

 「時間地理学」ってご存知ですか? 70年代にスウェーデンの学者が提唱した学問で、初めて国内で本格的に研究したのが私たちのチームでした。私は「生活の地理学」とも呼んでいるんですが、要するに世の中の人が1日をどう過ごしているのか、移動距離などの地理的要素と時間とを関連付けて研究する学問です。

 

 私たちの研究では国内3都市のご夫婦に、何時何分に何をしたというような生活の記録を48時間分取ってもらい、それをチームの4人で一夏かけて比較分析しました。とても細かい作業でしたが、地道な努力は地理学の伝統ですからね。

 

 他にも、コンビニの物流について国内で初めて学術的に研究しました。当時は米国発祥のスーパーやコンビニが日本に入ってきた頃で、精密な配送システムに基づき営まれていたシステムでしたが、その実体はよく知られていませんでした。論文を発表した翌日から問い合わせの電話がかかってきたり、役所の朝食会で講演を依頼されたりして大反響でしたね(笑)。

 

2005年、イタリアで開催された国際地理学連合の会議に参加した(写真は荒井教授提供)

 

──人口問題やIT技術の社会的影響についても研究してきました

 近年は国内の人口減少が問題視されていますが、国内の人口分布が大都市に偏っていることが問題ですよね。ただ最近は地方に住もうと思う人が増えていて、問題に対する社会の姿勢が変わってきていると思います。

 

 そうした人の流れができるのは、情報技術の発展によって地方での暮らしが便利になっているからです。ブロードバンドの普及により国内で情報格差はほぼゼロといわれていますし、例えば、小笠原諸島の住民は日常必需品をほとんど通販で調達しています。情報技術の発展で地図上の地理的空間の広がりが再定義されてきているんですね。

 

──27年間駒場で学生を指導していて、心掛けていたことは

 とにかく褒める! 一生研究していても「これはよくできた」なんていうことは一度あるかないかくらいで、たいていの研究結果は妥協の産物。学生たちも研究についてたくさん批判を受けますし、自分たちも批判の内容を理解しているんです。もちろん言わなければならんことはありますが、学生を育てるのも仕事ですので、けなさず可能性を見つけてあげるようにしていました。

 

地理学の基本である巡検の授業も複数回担当した(写真は荒井教授提供)

 

──昔と今で学生の変化は

 従順になりましたよね。素直。悪口ではないですが、何か気味悪いですよ(笑)。私が学生だった頃は学生運動の団体が今の7号館の1階を占拠していたり、今はなき駒場寮ではヘルメットと角材で武装した団体が寮委員会と対立していたり、学生が授業料の値上がりに反対して無期限ストライキをしていたり。当時教員をやっていた先生が、最近は「学生が授業で笑うようになった」と言うほど、当時は学生と教員の関係にも緊張感があったんですね(笑)。

 

 でも、昔も今も教員をはじめ世間の大人は、世を変える原動力として学生に潜在的な期待を抱いていると思うんです。まあ今は大人でも物申せるような平和な世の中なのかもしれませんけれどね。

 

──学生に向けてメッセージをお願いします

 何でも見て歩こうよ! ですね(笑)。読書したりデータを見たりして頭で考えることも大切ですが、自分の目で見てなんぼ。特に地理学では、理論がただ先行するようでは学問としても存在意義が示せない。フットワークは軽く、観察と経験を大事にしてください。「百聞は一見に如かず」ですよ。


この記事は、2019年3月19日号に掲載した記事の転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

ニュース:福島の放射線量過小評価か 早野名誉教授らの論文不正疑惑
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「日本のマンガ・アニメで世界の幸福を最大化する」株式会社ダブルエル代表取締役社長・保手濱彰人さん

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 2019年度4月~7月の火曜日、経済学研究科で講義「ICTと産業」が開講される。第2回からは毎回、ICTにより産業にイノベーションを起こしている企業の経営層をゲストに招き、Q&A を中心とした少人数のゼミ形式での講義が行われる。第2回のゲスト講師として登壇予定なのが、株式会社ダブルエル代表取締役社長・保手濱彰人さんだ。

 

 「世界一になりたい」──夢物語のような言葉を、現実味を帯びた目標として語る保手濱さんは、多くの起業家を輩出してきた東大起業サークルTNKの創設者でもある。2014年からは株式会社ダブルエルの代表取締役社長を務め、世界に向けて日本のマンガ・アニメを発信している。500人を超える著名マンガ家とのネットワークという他にない強みを武器に事業を展開。「日本がGDPで世界一位になることは難しいかもしれない。けれど、世界で最も尊敬される国家となることはできる」。そう力強く語る保手濱さんに、日本のコンテンツに関する思いや学生へのメッセージについて話を聞いた。

(取材・森友亮)

 

 

「世界一になりたい」とは

 

──ダブルエルは、ミッションとして「マンガ・ゲーム・アニメを通して優しい世界をつくる」ことを掲げていますね。

 

 私自身、大のマンガオタクで、一カ月に100冊のマンガを読みます。一方で、活字は大の苦手です。高校在学中は教科書を読むことが苦痛で、学年最下位を取ることもありました。でも、マンガを使うことで勉強をすることができた。古典は『あさきゆめみし』、英語は『ドラえもん』の英訳版を使って勉強しました。

 

 生まれたときから目立ちたがりで、「世界一になりたい」と思ってきました。「世界一」と言ったとき、定義を尋ねられることがあります。でも、細かな定義は必要ない。『ワンピース』の主人公・ルフィの名台詞に「海賊王におれはなる」がありますが、海賊王は定義があるものではなくて、みんなが「あいつが海賊王だ」と認めるもの。強いて言えば、ルフィの言う「この海で一番自由なやつ」が定義になります。同様に、私の考える「世界一」は「世界で最も人に良い影響を与える人」。「世界一になる」とは、「世界の幸福を最大化すること」とも言えます。

 

 そして、日本のマンガ・アニメは、相互理解に役立つと思っています。たとえば、『ドラゴンボール』で、最初は敵役として登場するピッコロ大魔王やベジータは、やがて仲間として活躍するようになります。マーベルやディズニーの作品では、悪は悪として倒される。一方、日本の作品は、「覇道ではなく王道」で、東洋的な「分け与える文化」がある。こうした世界観・感覚は、良い影響を世界に与え、「優しい世界」に繋がるはずだと考えています。

 

 

コンテンツの魅力で、日本を「世界で最も尊敬される国家」に

 

 

──日本のマンガ・アニメを海外に発信する事業を展開しています。

 

 コンテンツ産業において、ビジネスの参入障壁となっているのは、権利関係の難しさです。著作権などの権利を誰が持っており、誰の許諾をもらえば海外への展開などが可能になるのか。これをクリアできたのが、ダブルエルの強みです。例えばダブルエルの取締役である鈴木雄大さんの父親が、イーブックイニシアティブジャパンの創業者だったことも大きな助けになりました。同社は電子書籍を扱っていますが、創業当時は電子書籍に抵抗がある関係者が多く、苦労があったと聞いています。作家さんを一人ずつ口説いて、人脈を築いていったのです。そうして作り上げたネットワークを鈴木さんが引き継いでいること、そして私がそれまでに培ってきた経営のスキルなどと組み合わせることで、ダブルエルのビジネスを成立させることができました。マンガ家さんとのネットワークは、既にご協力をいただいているマンガ家さんからの紹介や、新しくマンガ家になられた若手の方との繋がりなどで、現在は500人を超える規模になっています。

 

 私は、日本で生まれ育ったことで、日本へのこだわりが強くあります。私自身が世界一を目指すにあたり、日本が世界一になってほしい。GDPで一位になるのは難しくても、世界で最も尊敬される国家にはなれると思います。鍵となるのは、既に世界中で人気を博しているマンガやアニメなどのコンテンツ発信だと考えています。しかし、世界のコンテンツ市場は2022年には約81兆円になると見込まれる一方で、日本のマンガ・アニメは人気にも関わらず、ビジネスとしてあまり稼げていない。日本発の人気コンテンツの多くが公式には海外に出ていっておらず、海賊版で見られてしまっている現状があるからです。日本のコンテンツ産業が国内に十分大きな市場を持ち、外需に目を向けてこなかったため、海外向けの正規品がないのが原因です。でも、少子高齢化の影響もあり、そういう時代ではなくなっている。

 

 我々は「コンテンツ業界を再編し和製ディズニーになる」をビジョンに掲げ、日本のマンガを起点として、世界中で愛されるコンテンツを展開することに取り組んでいます。「キャラアート事業」では、最新のヒット作から過去の名作まで、直筆サインや描き下ろしイラストの商品化、複製原画の販売などを行っています。最近では、「機動警察パトレイバー30周年記念展~30th HEADGEAR EXHIBITION~」を開催し、連日多くのファンを呼び寄せました。「ゲームリブート事業」では、新しいゲームを開発するのではなく、過去の名作を活用して「Nintendo Switch」や「Steam」などの現代のプラットフォームに蘇らせるという、独自のビジネスモデルを持っています。

 

自由な時代、縛られずにガンガン動いて

 

 

──時間を遡り、学生時代のことを伺いたく思います。在学当時と現在とで、東大生の印象は変わっているでしょうか。

 

 幼い頃から「世界一になりたい」という思いがありましたが、世界一になる方法を学校では教えてくれません。何をしたら良いのか迷っていたのですが、学部3年に在学中の2005年、書店で起業に関する一冊の本に偶然出会い、電撃に打たれたような衝撃を受けました。「ベンチャーの道に進むことで、世界一になれる」と確信したのです。

 

 振り返ってみれば、たいしたことが書かれた本ではありませんでした。しかし、自分には起業についての前提知識がまるでない状態でした。だからこそ、大きな刺激を受ける下地があったのでしょう。自分とは縁遠いと思うようなものでも色んな世界に触れることを、ぜひ心掛けてほしい。これは、起業に限ったことではありません。新しく触れた世界には様々な可能性があって、不慣れな分野だけに、たいしたことがないものからも「電撃を受けたような」刺激を得られるかもしれません。

 

 TNKに所属する現役の学生と話をしていると、10年前にはクレイジーだった学生起業という選択肢が当たり前になってきたと感じます。いま20歳の学生は、高度経済成長期が終わり、バブルが弾けた後の日本しか知らない世代です。彼らは自由で、縛られていないという印象です。のびのびと才能を発揮でき、面白そうだという理由で起業を積極的に選ぶことができる。日本に世界一になってほしいと思う私としては、東大生にはぜひ日本で起業という道を選んでほしいと思います。

 

──読者へのメッセージをお願いします。

 

 いまはインターネットも起業もある、自由な時代です。学生には、縛られずにガンガン自由に動いてほしいですね。

 4月16日の「ICTと産業」の講義では、ICT、起業、ベンチャーといった事柄の実態を伝えたいという。「実情を知って、ガンガン起業をしてほしい」。起業の入り口は、高収入や時間的余裕などの欲望で構わない。「どうせ、起業をしたら苦労するので」と保手濱さんは笑う。「でも、今の学生は、お金や時間ではなく、『楽しい』とか『面白い』などの気持ちをモチベーションに起業を選ぶ気がしますね」

水素の運搬に必要な物質を安価に製造

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 東大は外部の機関と連携して、水素の運搬に必要な有機化合物メチルシクロヘキサン(MCH)を、二酸化炭素を排出せず安価に製造する世界初の技術検証に成功した。二酸化炭素を排出しない水素を主要なエネルギー源とする「水素社会」実現につながることが期待される。この技術検証は東大の社会連携研究の一環として、2018年12月5日から今月14日にかけて実施された。

 

 従来、水素の運搬には、水を電解して生じた水素を貯蔵し、有機化合物トルエンと反応させて液体のMCHとする方法が使われた。今回は、石油元売りのJXTGエネルギーなどが開発した特殊な電解槽で、水とトルエンを電解して直接MCHを製造する方法を用いて工程を簡略化した(図)

(図)水の電気分解で生じた水素とトルエンを反応させる従来の工程を簡略化し、水とトルエンから直接MCHを製造する(図は先端科学技術研究センター提供)

 豪クイーンズランド工科大学が開発した、自動で太陽を追尾し向きを変える高効率な太陽電池を用いて、JXTGエネルギーがオーストラリアでMCHを製造。資源関連の設備を手掛ける千代田化工建設が、日本に輸送されたMCHから水素を取り出した。

 

 JXTGエネルギーの試算によると、今回の製法を用いれば、MCH製造に関わる設備費を将来的には半減させることが可能。太陽光発電を用いたことで、二酸化炭素を排出せずに0.2キロの水素を作ることにも成功した。

「お節介」が高じて漫画家に? 東大OG・北野希織さんの稀有な半生

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 メールボックスをチェックしていると、あるメールが目に止まった。

「東大卒で、東大新聞OGの北野と申します。文学部哲学専修課程卒業後に就職し、結婚を機に退職。漫画アシスタントをしながら新人賞に投稿、小学館で賞を取りデビュー。出産後の現在、講談社で書き下ろし単行本を作成中で……」

 何やら面白そうなOGだ。早速、差出人の北野希織(きたの・きお)さんに会いに行った。

(取材・石井達也 撮影・小田泰成)

 

 

 

悩める思春期を経て東大へ

 「悩める思春期だったんです」と苦笑いを浮かべる北野さん。これまで歩んできた道がそのことを物語っている。

 

 当初から漫画家を志していたわけではなかった。ただ、昔から絵が好きで中学・高校時代にはアトリエに通っていた。美術大学への進学を検討していた時期もあったが、志望者の中では際立った画力がなく、画家の道はいったん諦めた。アトリエでは美術の先生になるために教育大学へ進学することを勧められたが、絵を教えることに迷いがあった。

 

 その「悩める思春期」に出会ったのが哲学だった。高校時代から放送大学の講義を受け、哲学の巨匠・渡邊二郎氏の分かりやすく真摯な語りに感銘を受ける。面接授業に参加した際には、その受講生の数に驚いたという。「こんなに多くの人が生きることに悩んでいるのか、と驚きました」

 

 哲学を学んですぐに自身の悩みが晴れるわけではなかったが、誰にだって悩みはあるのではないかと考えるように。「駄目なりにちゃんと生きていこう」。絵を趣味としてたしなみながら勉学に打ち込み、渡邊二郎氏の出身校である東大への進学を決めた。

 

 入学後1、2年次には、英語を用いたさまざまな活動を行うサークル「E.S.S.」でディベートに取り組み、チームメートにも恵まれて全国準優勝という成績を残す。3年次に本郷に進む際「世界を知るために、いろいろな人に会って話を聞きたい」と東大新聞に入部。ミスターコンテスト取材や、運動会寮の宿泊体験などを楽しんだという。

 

 卒業後は通信教育業界でグループ教育ソフトの開発などに携わった。働き始めて2年後、同窓の男性と結婚。夫の転勤の際、別居はできないと考え、北野さんは勤めていた会社を退職した。

 

 

 

漫画が持つ力に気付いたアシスタント時代

 結婚は、北野さんのキャリアの中で一つの転機だった。家事の傍ら、プロ漫画家のアシスタントに応募し、経験を積むことに。師事していた少女漫画家の元には、悩みを持った読者からのファンレターが届くことがあった。それを見て、北野さん自身も少女時代に悩んでいた際には漫画に支えられていたことを思い出す。「漫画は、人生の慰めになるのではないだろうか」。その思いがいつしか北野さんの中で大きくなっていた。

 

 自身の漫画執筆に打ち込み、新人賞への投稿を続ける日々。もちろんアシスタントは付けられず、全て自前で作業した。紙の原稿での漫画のトーンは、半透明のシール状のシートをカッターで切り抜き、一つ一つを張り付ける。時代物を描く際は、市販していない模様を自作でシールにした。「こんなに細かい作業をしているのかって、手伝ってもらった友人に驚かれたことを覚えています」。漫画家の苦労は、制作に携わらない限り分からないものなのかもしれない。空き時間を最大限に活用して「限界まで描いた」結果、新人賞に入選。プロの漫画家として歩み出した。

 

北野さんが過去に手掛けたトーン

 

哲学を漫画として表現する

 出産も、北野さんのキャリアで大きな転機だ。一時は漫画執筆を休んでいた北野さん。復帰時には「思春期から興味を持っている哲学について漫画にして、電子書籍として発表しようと考えました」。

 

 その時期に、たまたま漫画編集者・石井徹さんのインタビューをオンラインコラムで読み、人柄に引かれた。石井さんは数々のヒット作を手掛けたマガジンの名編集者で、学術的な古典作品を漫画化する「まんが学術文庫」を創刊した編集長だ。北野さんは「哲学を勉強していたのでお力になれます」と連絡を取った結果、J.S.ミル『自由論』の書き下ろし漫画を執筆することになった。

 

この日は石井さんとの打ち合わせも行われた

 

 古典作品の漫画化は、物語をそのまま漫画にすれば良いというわけではない。作者自身を登場させたり、作者の視点から描いたり、架空の人物に原作の思想を紹介させたり……こうした工夫で、漫画として楽しめる作品にすることが必要だ。

 

 北野さんは石井さんから熱血指導を受けていると話す。石井さんが担当した『名門!第三野球部』などを熟読し、少年漫画の模写を繰り返し、男性向け漫画の作風を学んだ。現在は『自由論』をJ.S.ミルと少年の親子のような成長物語として再構成するストーリーを、共同で制作している。

 

北野さんが描いたネーム(草稿)

 

「勉強をしていて、つまらないな、しんどいなと思う人もいるはず。そんな人にとって、漫画が勉強を始める動機になれば良いなと願っています」

 「少しお節介なんだけど……」。話をする中で、何度もこのフレーズを耳にした。読者のためになることを漫画の中に隠しておきたい。それが北野さんがよく口にする「お節介」の意味のようだ。程よい距離感を保ちながら、人のために自らを賭す。普段の生活でも漫画を描く上でも、これが北野さんのスタイルになっている。

 

 

 「結婚や出産を経験した上でもいろいろなキャリアはあり得るんだということを後輩に伝えられれば」と北野さん。後輩に対して、そして読者に対して、これからも「お節介」はとどまることを知らない。


【部員が見る東大軟式野球2019春①】開幕戦、西野投手の好投で慶應大に粘り勝ち

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軟式野球部春季リーグ第1戦vs慶應義塾大学(3月14日)

 

慶應 0 0 0 0 0 0 0 0 0 | 0

東京 0 0 0 0 0 0 1 0 × | 1

 

 5位に終わった先リーグから5ヶ月が経ち、春のリーグ戦が開幕した。本学の初戦の相手は慶應義塾大。先リーグ2位、東日本大会に出場した強敵である。勝って勢いに乗りたい本学は先発のマウンドにエース西野(育・4年)を送り込む。

 

 試合は東大先発の西野と相手先発投手による投手戦の様相を呈する。捕手川野輪(理Ⅰ・2年)の2度の盗塁刺にも助けられた西野が五回まで相手の攻撃を三人ずつで切ったのに対し、東大はチャンスを作るもののあと一本が出ず試合は両チーム無得点のまま五回を終える。

 

 先に動いたのは相手。六回表、先頭が失策で出塁すると投手に代打を送るが、ここは西野がしっかりと抑え先制点を与えない。七回表にも先頭に出塁されるものの、二塁手菊池(文Ⅰ・2年)の好守もあり無失点で切り抜けた。すると七回裏、東大は先頭の川野輪が代わった投手からヒットを放つと、保知(経・3年)、西野が四死球で続き無死満塁のチャンスを迎える。一死後、相手投手が代わったところで本学は代打、菅野(文Ⅱ・2年)を送る。スリーボールになるとさらに代打の代打に水田(文I・2年)を送り、ここでヒットエンドランをかけると投手強襲のヒットとなり一点を先制。ついに均衡を破った。

 

七回に先制となる適時打を放った水田(文Ⅰ・2年)(写真は軟式野球部提供)

 

 その後は後続を断たれ追加点を得ることはできなかったが、1点のリードを得た西野は気迫の投球を見せる。八回表は三者凡退、九回も先頭を四球で出したもののその後をしっかりと切り、圧巻の投球で九回を二安打完封。強力慶應打線を封じ込め、東大が見事勝利を収めた。

 

気迫を前面に出した投球で完封勝利に導いた投手西野(育・4年)(写真は軟式野球部提供)

 

文責:軟式野球部 水田悠生(文I・2年)

【部員が見る東大軟式野球2019春②】チャンス生かせず明治大に惜敗

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軟式野球部春季リーグ第2戦vs明治大学(3月18日)

 

東京 0 0 0 0 0 1 0 0 0 | 1

明治 0 0 0 0 1 2 0 0 × | 3

 

 第1戦を勝利で飾った東大の第2戦の相手は、先リーグ優勝の明治大学。連勝で勢いをつけたい東大は先発のマウンドに左腕エース、田中(理Ⅰ・2年)を送り込む。

 

 試合が動いたのは五回。捕手川野輪(理Ⅰ・2年)の2度の盗塁刺殺などにも助けられ、ここまで粘りの投球で明治打線を押さえ込んでいた田中が、二塁打と暴投で1死三塁のピンチを迎えると、センターへの適時打を浴び、1点を先制される。

 

 しかし、直後の六回表、本学は今リーグ戦で攻守に活躍の光る四番吉川(工・3年)が本塁打を放ち、同点とする。試合を振り出しに戻した直後の六回裏、無死から失策でランナーを出すと、田中が2点本塁打を浴び、再びリードを奪われる。

 

六回に本塁打を放った吉川(工・3年)と祝福するベンチ(写真は軟式野球部提供)

 

 その後小川(経・3年)が完璧なリリーフをみせ、打線も九回表に1死満塁のチャンスを迎えたものの得点には至らず、本学が13で敗戦した。

 

好救援をみせた小川(経・3年)(写真は軟式野球部提供)

 

 文責:軟式野球部 小泉彰(文Ⅲ・2年)

【部員が見る東大軟式野球2019春③】西野投手の好投で法政大下し序盤戦勝ち越す

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軟式野球部春季リーグ第3戦vs法政大学(3月19日)

 

東京 0 1 0 0 0 1 0 1 0 | 2

法政 0 0 0 0 0 0 0 0 0 | 0

 

 一勝一敗となり白星を先行させたい東大は連戦で疲労の残る中、第3戦を迎え法政大学と対戦。先発投手として開幕戦で完封勝利を収めた絶対的エース西野(育・4年)がマウンドに立つ。

 

 試合は二回に動く。先頭打者の吉川(工・3年)が二塁打で出塁すると、川野輪(理Ⅰ・2年)がすかさず犠打を決めて一死三塁となる。東大はこの場面でヒットエンドランを敢行。保知(経・3年)が完璧に打球を転がし内野ゴロの間に1点を先制する。

 

決勝点となる打点をあげた保知(経・3年)(写真は軟式野球部提供)

 

 1点を追う法政大学は三回と四回に西野を攻める。三回裏、西野が先頭打者に四球を与えると続く打者に安打を浴び、さらに犠打で1死二三塁となる。しかし西野はこのピンチを切り抜ける。続く四回裏には東大の内野陣にエラーが続いてしまい、三塁まで進まれるものの三振を奪って無失点でまとめた。

 

 西野の力投に応え追加点を奪いたい打線は八回に先頭の保知が粘って四球を選ぶと盗塁を決める。西野の犠打で三塁に進めると、続く村田(理Ⅰ・2年)に投じられた二球目でスクイズを実行する。これを村田はしっかりと決めて東大は待望の2点目を奪った。

 

 前半こそピンチが続いたもののこれを切り抜けた西野は尻上がりに調子を上げていく。五回以降は毎回の奪三振で法政打線を寄せ付けず、二塁すら踏ませない圧巻の投球を披露する。野手陣もこれに呼応し川﨑(経・4年)の好捕などで西野を盛り立てていった。

 

 そのまま試合は2対0で東大の勝利で終わり、西野は二登板連続の完封勝利となった。

 

被安打わずか1の完封勝利に導いた先発投手西野(育・4年)(写真は軟式野球部提供)

 

 春季リーグ戦優勝に向け序盤を二勝一敗と勝ち越せており、少し間をおいて4月から再開するリーグ戦においてもこの流れを途切れさせずに白星を積み重ねていきたい。

 

文責:軟式野球部 菅野雅之(文Ⅱ・2年)

THE世界大学ランキング日本版 東大は京大に次ぐ2位 国際性が課題に

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 英国の教育専門誌「タイムズ・ハイアー・エデュケーション(THE)」が3月27日に発表した世界大学ランキング日本版で、東大は総合81.9点(100点満点、以下同様)で2位だった。1位は昨年度東大と同率首位だった京都大学で、東大は2017年のランキング開始以来初の首位陥落。国際性と教育成果で京大と差がついた。(表)

 

 

 評価は学生1人当たりの資金などの「教育リソース」、高校の進路指導担当教員への調査などに基づく「教育充実度」、企業の人事担当者や研究者への調査を基にした「教育成果」、学生と教員の外国人比率などに基づく「国際性」の4分野を合計16項目に分けて実施。東大は「教育リソース」で1位の87.0点、「教育成果」で京大に次ぐ2位の97.3点だった。今年度から学生調査が加味される「教育充実度」は79.9点と、昨年度比約19.8点減。例年課題の「国際性」は63.8点で、昨年度比1.2点減だった。

 

 本ランキングはベネッセコーポレーションの協力の下、国内の大学を対象として、分野別に150位まで作成された。研究力に着目する通常のランキングと異なり、教育力を重視する。

国際プログラムを企画運営「STeLA」 プレフォーラム開催&スタッフ募集のお知らせ

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 東大内には多くの国際系の学生団体があります。「興味は持っているけど、何をするのか分からない」「自分でやっていけるのか心配」という考えを抱いている人も多いのではないでしょうか。今回はSTeLA Leadership Forumのスタッフに、活動内容について寄稿してもらいました。

 

写真提供:STeLA

 

<団体紹介>

 科学技術の知識だけでは世界は動かせない。それを運用するリーダーシップを身に付ける場を提供することこそがSTeLAの大きなビジョンです。 

 

 知識を社会的利益に還元するには実践的な訓練が必要である──そう痛感し立ち上がった13年前のMITの学生たちによってSTeLAは設立されました。以来、毎年夏に世界各国から選抜された学生たちを招きサマーフォーラムを開催し、世代・国を超えたネットワークを構築してまいりました。

 

 リーダーというと、カリスマ性に溢れ集団を力強く牽引するイメージを持たれがちです。確かにそのような人はリーダーに向いているでしょう。しかしながら、私たちは「リーダーらしい人物」の鋳型に参加者を押し込めることを意図していません。参加者はMITで開発された理論を学び、実践の場を通して自分の強みに気付き、涵養することができます。これこそ、私たちがフォーラムで最も重要視していることです。また、自分の強みに気付けると他者の強みに気付くこともできます。すると、不思議なことに自然と集団としての連携が生まれてきます。フォーラムの最終段階では常にグループワークを課していますが、毎年多くのグループが限られた時間の中で非常に質の高いアウトプットを産み出してくれます。 

 

 参加者自身が新たな可能性に気付きやすい環境を作るためにSTeLAは多様性にこだわってきました。直近5年のフォーラムは以下のテーマ・国で開催されてきました。

 

開催年・国

テーマ

2014 (Stanford, USA)

Health and Bioethics

2015 (Beijing, China)

Era of Information

2016 (Okinawa, Japan)

The Future of Science and Technology

2017 (Leiden, Netherland)

Technology, Responsibility, Society

2018 (Tokyo, Japan)

Smart Cities and IoT

 

 今年はUAE・ドバイにて“Energy Transition and the Urge for a Sustainable Future”というテーマで開催されます。これまで、できるだけホットなテーマを提供し、それに最適な開催地を選定してきました。実際に社会課題となっているテーマをさまざまな分野の人が知識を出し合うことで、より実践的な議論が期待できます。

 

 もしあなたがその年のテーマに明るいのであれば、自分の知識が他の参加者を動かせるかSTeLAで試してみませんか? もしあなたにテーマに関する知識がないならば、自分のこれまでの経験を新しい知識や人にぶつけることで新しい発見をしてみませんか?

 

写真提供:STeLA

 

<プレフォーラム>

 本フォーラムの導入としてプレフォーラムを7月7日に開催します。

 

 グループワークを通してリーダーシップ理論の実践に加え、外部講師によるイノベーション人材の育成や、本フォーラムのテーマであるエネルギーに関する講義を行います。

 

 プレフォーラムは参加者以外にも門戸を開いているので、翌年以降の本フォーラムに興味があるという方も参加を考えてみてください。応募はこちらから。

 

<スタッフ募集>

 フォーラム・プレフォーラムの参加とは別に、STeLAの理念に理解・共感し、運営を手伝っていただける学生スタッフを募集しています。

 

 大きく分けてテーマ・サイエンス、PR、ワークショップの三つの分野があり、いずれもSTeLAの運営に直接関わる仕事ができます。

 

 特に、テーマ・サイエンス部門はSTeLA特有のものであり、毎年変わるテーマの最新の知見についてのリサーチ、テーマに関連した企業や学生団体との勉強会の企画といった仕事があります。PR部門はSNSやHPの運営、画像・映像の編集など団体の運営に最も欠かせない部門です。ワークショップ部門には参加者が身に付けるべきリーダーシップスキルをテーマに沿った形でワークショップに昇華させる役割があります。

 

 詳しい業務内容についてはドキュメントをご覧ください。

 

写真提供:STeLA

 

 STeLAに興味を持っていただけたでしょうか。ホームページには過去のフォーラムの報告を掲載しているのでぜひご覧になってください。質問や相談等は日本支部のメールアドレス(contact-jp@stelaforum.org)までご連絡ください。

 

寄稿=稲垣直人

ノーベル賞に準ずる実績 藤田誠教授が卓越教授に 特別教授・特命教授も新設

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 東大は3月22日、藤田誠教授(工学系研究科)に卓越教授の称号を授与した。20173月の梶田隆章教授(宇宙線研究所)、十倉好紀教授(工学系研究科) 以来3人目となる。新たに1日付で特別教授制度、特命教授制度も創設し、特別教授4人、特命教授1人を決定した。

 

 卓越教授は、現役教授のうちノーベル賞か文化勲章を受賞した者か、それらに準じる賞の受賞歴や業績を有するとして部局長が推薦した者に付与できる称号。藤田教授はX線を用いた分子構造解析の過程で物質を結晶化する手間を省ける「結晶スポンジ法」を開発。「ノーベル賞の前哨(ぜんしょう)戦」ともいわれるウルフ賞(化学部門)や恩賜賞、日本学士院賞の受賞者に選ばれ、紫綬褒章も受賞している。

 

 特別教授の称号は、国内外で一定の実績を挙げた者に、東大の研究力を維持・強化するために付与される。特命教授の称号は、大学運営に必要な業務経験や専門性を持つ者に、東大の運営業務を円滑化するために付与される。特別教授、特命教授の称号を持つ者は最長75歳まで、それぞれ研究への専念、大学運営業務への従事が可能となる。

第3回Asprovaプログラミングコンテスト 利益最大化スケーリング問題に挑戦

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 マラソン型プログラミングコンテストにチャレンジしてみたい人にお勧めしたくなる、最適化問題関連のコンテストである。今回のコンテストは第1、2回のプログラミングコンテストに基づき、引き続きAtCoderで開催し、使用できる言語はC++、C#、Python3、Java8になる。上位4位の人に対して順番に16万円、8万円、4万円、2万円の賞金が与えられ、5位から10位までには1万円の賞金が与えられる。表彰式で多数の上位プログラマーとの交流ができ、成績優秀者はコンテストを主催するAsprovaのアルバイト採用(時給2500円~)で優遇される。興味がある方はゴールデンウイーク中にぜひチャレンジしてみよう。

 

当コンテストの問題と、実社会問題との関係

 

 常に最大の生産性を求められている工場では、設備、金型、作業員などの「資源」を最大限に利用する必要がある。工場の生産能力はこの資源に依存するが、 設備や金型を増強したり、作業員に残業をしてもらったり、他の持ち場の作業員から応援に来てもらったりして、生産能力を調整することができる。しかし、各オーダーの納期を確実に守るため、どの工程にどの資源を追加すれば納期遅れを解消できるかを判断するだけでも難しい。能力の追加コストを考慮しながら利益を最大化するスケジュールを作成することはさらに難しい問題である。 現実世界ではさらに多くの複雑な要素が絡んでいるので、この問題をコンピュータでうまく解くことができれば、全世界の製造業の利益と顧客満足度の向上に貢献することが期待できる。

 

 以下はプロコンの概要である。

 

問題・申し込み:https://atcoder.jp/contests/asprocon3

 

イベント概要

参加登録期間:2019年3月26日~2019年5月10日

コンテスト開催期間:2019年4月26日~2019年5月10日

表彰式:2019年5月17日(金) 17:00から

場所 〒145-0062 東京都大田区北千束 3-20-8 SALON,CAFE & BAR ToiToiToi(トイトイトイ)

主催 アスプローバ株式会社(www.asprova.jp

 

寄稿=工学系研究科修士2年 エン・シキ


【部員が見る東大軟式野球2019春④】エース好投も慶應大にサヨナラ負け喫す

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軟式野球部春季リーグ第4戦vs慶應義塾大学(4月5日)

 

東大 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0  | 1

慶應 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1×| 2

 

 ここまで二勝一敗と、勝ち越し一つとして迎えた春季リーグ第4戦の対慶應義塾大学戦。リーグ優勝に向けて大事な一戦となったこの試合、東大は先発として主戦西野(育・4年)を送り出す。西野は前回の法政大学戦で自責点0の見事な投球を見せている。

 

 一回裏、早くも試合が動く。東大は失策で出塁を許すと、相手四番に長打を浴び、1点を先制される苦しい展開となる。すぐに反撃したい東大は、相手先発の前になかなか得点することができないが、一方で堅実な守りと西野の粘り強い投球で相手に追加点を許さず、二回以降は互いに無得点のまま試合は終盤に突入する。

 

 東大の反撃は七回表。先頭の四番吉川(工・3年)が安打で出塁すると、六番保知(経・3年)の進塁打で二死二塁とする。ここで、七番西野が値千金となる中前適時打を放ち、試合を振り出しに戻す。

 

2安打を放ち打線を牽引した川﨑(経・4年)(写真は軟式野球部提供)

 

 その後は両チームとも得点を許さず、試合は延長戦に突入する。試合が動いたのは十回裏。本学は、四死球で出塁を許すと、捕逸で1死二塁のピンチを招く。すると続く打者に痛恨の中前適時打を浴び、試合終了。本学は12で惜敗した。

 

先発し完投した投手西野(育・4年)(写真は軟式野球部提供)

 

 これで通算成績二勝二敗となった東大。チームの目標である優勝、そして全日本大会出場を目指す中で、痛い敗戦となった。しかし、二塁手静間(育・3年)の怪我からの復帰など、明るい話題もある。気持ちを切り替えて、一戦ずつ勝利を積み重ねていくことで、巻き返しを図っていきたい。

 

文責:軟式野球部 齊藤弘樹(文Ⅲ・2年)

老化した幹細胞を回復する手法を発見 「健康長寿社会」へ道

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 五十嵐正樹助教(医学部附属病院)らは、加齢による幹細胞の機能低下を改善する方法を発見した。「健康長寿社会」の実現に貢献するとされる。成果は28日付けの英科学雑誌『エイジング・セル』(電子版)に掲載された。

 

 身体の老化はがんや糖尿病などさまざまな疾患を引き起こし得る。老化には、組織を作るもととなる幹細胞の機能低下が関係することが知られていたが、幹細胞の機能が低下する原因は十分に分かっていなかった。

 

 五十嵐助教らはマサチューセッツ工科大学との共同研究で、若齢マウスと老齢マウスの腸管上皮組織の標本で幹細胞を観察した。老齢マウスでは幹細胞の増殖能力が低下し、寿命を延ばすとされる遺伝子SIRT1の活性も低下していることが分かった。さらに、研究チームはSIRT1を活性化する化合物のもととなるニコチンアミドリボシド(NR)を老齢マウスに投与。結果、幹細胞の増殖能力や修復能力が改善した。

 

 NRは食品成分やサプリメントとして摂取可能。NRの摂取により幹細胞の機能低下を回復する手法は、身体の老化を改善するための有効な方法として実用化が期待される。

ステーキ状「培養肉」の人工的作製に成功

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 竹内昌治教授(生産技術研究所)は日清食品ホールディングス株式会社との共同研究で、牛肉由来の筋細胞からサイコロステーキ状のウシ筋組織を作ることに世界で初めて成功した。人工的なステーキ肉の実用化への第一歩となる。(図)

 

(図)ステーキ状の培養肉(写真は生産技術研究所提供)

 

 世界的な食肉需要の増加に伴い、自然環境への負荷が少なく衛生管理が容易な人工肉が注目されている。ただ、従来の研究ではミンチ肉の作製が中心だった。

 

 今回の研究では、培養過程でビタミンCを投与して筋細胞の成熟を促進。厚みのある培養肉を作るため筋細胞をゲル状の支持体で立体的に培養したところ、筋組織に特有の縞状構造を持つ細い筋組織の生成にも成功した。さらに、筋細胞の集合体を積層して培養することでサイコロステーキ状の筋組織を作製した。今後、より大きな人工筋組織で「培養ステーキ肉」の実用化が期待される。

「あそびの未来ファクトリー」を情報学環で開催 みんなで創るあそびの未来

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 2月27日から3月13日にかけ、本郷キャンパス情報学環オープンスタジオで「あそびの未来ファクトリー」が開催された。これは、これまでにない遊びを考え、実際に作ってみようというイベントだ。参加者たちには単に新しい遊びを作るだけでなく、議論を通じて新しいアイデアを生み出す力や他の参加者と協力して作業を進める力を養うことが期待された。

 

 参加した東大生たちはグループごとに必死にアイデアを出し合い、短い期間ながら思い思いの遊びを形にした。その中で学生達は遊びを作るだけでなく「遊びとは何か」という問いにも挑んでいたのだ。

(取材・撮影 麻生季邦)

 

 

 主に講義と制作、発表によって構成されていた今回のイベント。初日のガイダンスで「遊び」に関する講義と自己紹介があり、ガイダンスから1週間後の中間発表会で遊びの概形を発表、さらに、1週間後の最終発表会で遊びの詳細を披露という日程だ。各発表会までの期間はグループごとに制作に注力した。

 

そもそも「あそび」とは?(ミニ講義)

 集まった参加者たちには、遊びとして思い付く限りのものを書き出す課題が出された。この作業を通じて、参加者は「そもそも遊びとは何なのか」という問いを抱いただろう。

 

 課題が一段落すると、遊びについて研究している会田大也特任助教(情報学環)が、ロジェ・カイヨワの『遊びと人間』や、ヨハン・ホイジンガの『ホモ・ルーデンス』などの古典的な遊び研究を例に挙げて、参加者に遊びの在り方を説明した。

 

 カイヨワによると、遊びとは六つの要素で成り立っている。それぞれを分かりやすく解釈すると「強制されない(自由)」「空間と時間が確保されている(隔離されている)」「どうなるか分からない、遊ぶ人の振る舞いで結果が変わる(未確定)」「財産や富とは無関係(非生産的)」「その場だけのルールが成り立っている(規則がある)」「日常の生活の外側にある、特殊な意識(虚構)」となる。

 

 カイヨワのほか、ホイジンガの説明なども参考にしながら、会田特任助教は主に身体的な遊びと知能的な遊びの二つの軸を提案した。さらに、身体として「重力との戯れ」「速度の変化」「遠隔操作」を挙げ、知能として「まねる」「判断する」「創作する」を挙げて、遊び作りの切り口を与えた。

 

 参加者たちは会田特任助教の話から遊び作りのヒントを得て、いよいよ実際の制作に突入。プログラミング言語などのスキルや遊びに求める要素を考慮してグループ分けがなされた。参加者たちはグループごとに公園やスタジオに集まり、専門のスタッフからの指導を受けながら自主的に遊び作りにいそしんだ。

 

 制作段階では、春も近づく陽気な日曜の昼下がりに代々木公園に出向き、小さな子どもたちの視線にさらされながら、遊びで使う、地面に書いた円の周りをぐるぐると回るグループもあった。またあるグループは、発表での実演が伝わりやすいように段ボールに大きくイラストを切り貼りするなど、グループごとに独特の工夫が見られた。

 

中間発表会

 中間発表会では、主催者の苗村健教授(情報学環)を始め、マーベラスや博報堂、ソニー・インタラクティブエンタテインメントといった企業の社員を迎えた審査が行われた。

 

 中でも、子どもの片付けを楽しく演出する仕掛け「きれいきれい」と、自分だけの新生物を育てて調理する空想的なアプリ「SweEatMe」は審査員の反響が目立った。

 

 「きれいきれい」は、おもちゃ箱に付随して、片付けで入れられたものの重さを検知し、画面上のゲームの得点に反映させる装置。「幼い子どもが自ら片付けをしたくなる、飽きない仕掛け」がコンセプトだ。審査員は「実際たくさん子どもがいる場所で、子どもたちがどう反応するか試したい」と期待感も込めてコメントした。

 

 「SweEatMe」は、フードプリンターという空想の技術を想定。アプリ内で、育成要素を選び自分だけの未知の生物を育てる。最後にフードプリンターから、3Dプリンターのように実物を生成し、食べる。これには審査員から「遊びに盛り込む要素を欲張りすぎ。本当に入れたいものだけに厳選するべき」と厳しいコメントが付いた。

 

 審査員たちは最終発表に向け、それぞれの遊びが社会や日常の中でどう存在するか、具体的な構想を期待したようだった。

 

発表会では参加者の笑顔が絶えなかった

 

最終発表会

 最終日も、中間発表会と同様審査員を迎え、最優秀賞一つと優秀賞二つが選ばれた。各グループ10分の持ち時間の中、動画や模型で自らの遊びを披露した。

 

メンバーの掛け合いで内容を説明する「MeetMe」のグループ

 

 「きれいきれい」は「Tidy Toy」に改名。おもちゃを魚、おもちゃ箱を水槽に見立て、子どもたちに「集めたい」と思ってもらうため、より感情に訴える進化を遂げた。一方で制作の中で議論に上がっていた箱の移動手段については、箱をルンバに接続して、移動しながら自主的な片付けを促す仕組みに落ち着いた。

 

 「SweEatMe」は「MeetMe」に改名し、アプリ内のアバターの主を探すほとんど全く違う遊びに。このアプリでは、事前に自分に関するいくつかの質問に回答。回答に応じて「MeMic」という名前の自分のアバターが作成される。同時に、同じ質問への回答から、自分と相性が良いと診断された相手のMeMicが表示される。アバター作成時に開かれた質問をさまざまな参加者に繰り返す中で、表示された相手MeMicの主を探すゲームだ。質問に関するやりとりが、自然と見知らぬ他人との対面での会話を盛り上げる仕掛けとなっている。

 

 もちろんプログラミングなどの技術を持っていると、作品を高度にする可能性が上がり、選択肢の幅が広がる。今回最優秀賞を受賞した「Tidy Toy」も、片付けの動機となる画面上の反応を上手く演出できていた。日常でただの手間である片付けを楽しく解決するという制作の意義をアピールしたことも印象的だった。

 

 とはいえ今回のイベントで試されたのは、技術力だけではなかった。審査員を巻き込む実演や、アプリ内で表示するブロックを段ボールで代用して実演したグループがそれぞれ優秀賞を受賞したことからも、そのことがうかがえる。

 

アプリ「つめつめ」の実演でピースをはめる参加者

 

 イベントの改善点としては、参加者任せでグループ分けが行われた点がある。グループをけん引する存在がいなかったために、迷走したまま終了を迎えたグループもあった。今後どの参加者も一定に開発の可能性を持てるよう、グループの質の平準化を図る必要がありそうだ。2回目以降の開催にも期待したい。

 

参加者の声

 

◇「ワクワクロック」を作ったグループの1人

 「ワクワクロック」は、アナログ時計の盤面とトランプを組み合わせた遊び。針の動きや、どの数字の上に針があるかなどをルールに盛り込んだ。グループの一員だった学生に話を聞いた。

 

「ワクワクロック」で遊ぶ参加者

 

──イベントに参加したきっかけや、動機は何ですか?

 参加のきっかけは同じ学科の人の紹介。元々遊びが好きでトランプや人狼、その他いろいろな遊びをしてきたので参加しようと思った。

 

──イベントを通して、得られて良かったと思われるものは何ですか? また、今後のご自身の進路や研究にどのような点で生かせそうでしょうか?

 僕たちの班が苦労したのは「アイデアの原石を光らせること」。僕が思い付いた時計を遊びにするというアイデアは個人的にはすごい良かったと思うが、具体的なゲームがぽんぽん思い付くわけではないので1週間頭を悩ませた。アイデア出しの過程でアドバイザーからアイデアを出すコツを教わったので将来生かしていけたらなと思った。またチームワークに関しても非常に大きな経験を得たと思っている。皆で同じ方向に進むことが大変だということがよく分かった。

 

──中間発表で審査員から受けたアドバイスを含め、最終発表で特に気を付けたところはどこですか?

 中間発表で僕たちの班の作品はあまり魅力的でないと思われてしまったようだったので、リアクションをつけて楽しそうにしている映像を使ってアピールしようと思った。

 

──自分のグループ以外で、個人的に面白いと思われたグループはどこですか? また、どういう点で面白かったでしょうか?

 「つめつめ」は詰めるという行為が遊びの一つであることに着目していったことと、実際にダンボールを使い部屋の壁に貼って皆が遊べるように置いておいたことがよかったと思う。

 

──本イベントの良いところ、友人に勧めたい点は何ですか?

 学習面では、遊びの概念の再認識ができ、アイデア出しのコツなどを学ぶことができた。

 その他には、遊びに囲まれているので他の人の遊びなども体験したりと楽しい体験ができた。またハッカソンの性質上素晴らしいスキルを持った人(参加者やアドバイザーなど)と巡り会えるのも良いと思う。

 

◇最優秀賞に輝いた「Tidy Toy」を作ったグループの山下優樹さん(理Ⅰ・2年=取材時)

 

「Tidy Toy」で遊ぶ参加者

 

──イベントに参加したきっかけや、動機は何ですか?

 審査員の苗村先生の授業で紹介されて、面白い人と知り合えたらいいなと思って参加した。

 

──イベントを通して、得られて良かったと思われるものは何ですか? また、今後のご自身の進路や研究にどのような点で生かせそうでしょうか?

 エンジニアとして便利なものを作りたいと考えていたが、遊びのような人間の直感に働きかけるものを作るのも面白いと気付いた。合理性に凝り固まることなく、遊び心のあるエンジニアになりたい。

 

──中間発表で審査員から受けたアドバイスを含め、最終発表で特に気を付けたところはどこですか?

 ユーザーを未就学児にしたので、幼稚園の実態や子どもの捉え方を考慮した。

 

──自分のグループ以外で、個人的に面白いと思われたグループはどこですか? また、どういう点で面白かったでしょうか?

 かわいいファクトリーさんのMeetMeが面白いと思った。なぞなぞ感覚で遊びながら自然と会話が生まれ、相手のことを知ることができるように良く工夫されていた。

 

──本イベントの良いところ、友人に勧めたい点は何ですか?

 学生にとって、製品開発する上で経済的制約、チームメイト探し、活動場所の不足が大きな障壁となるが、これらを企画が支援することで参加者は自由に活動できた。アドバイザーやスタッフが参加者のアイデアを尊重しながらより良いものにしようと全力で援助してくれた。


この記事は、2019年4月9日号に掲載した記事の拡大版です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

ニュース:高校国語の未来② 文学の担い手が減る?「英語と社会」から予想する高校国語の今後
ニュース:19年度入試 出題意図を公表 記号選択問題などの解答も
ニュース:藤田教授が卓越教授に 特別教授・特命教授も新設
ニュース:THE世界大学ランキング日本版 京大に次ぐ2位 国際性が課題
ニュース:老化した幹細胞を回復 「健康長寿社会」へ道
ニュース:ステーキ状「培養肉」 人工的に作製
企画:みんなで創る あそびの未来 新しい遊びを考えるイベント 情報学環で開催
企画:東大生16万人を大解剖 独特な体力テストの裏側
推薦の素顔:角谷透子さん(文Ⅲ・2年→養)
コラム:「伝統」を捉え直す
サークルペロリ:三文会
研究室散歩:量子論
東大今昔物語:2007年4月17、24日発行号より 「東大生」は特別か?
東大CINEMA:記者たち〜衝撃と畏怖の真実〜
キャンパスガイ:太田崚介さん(理Ⅱ・2年)

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東大で平成最後の入学式 上野千鶴子名誉教授、学内の性差別を批判

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 3125人が入学した2019年度学部入学式が12日午前、日本武道館(千代田区)で挙行された。五神真総長と太田邦史(くにひろ)教養学部長が式辞を述べ、上野千鶴子名誉教授(認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク理事長)が祝辞を述べた。同日午後に、4496人の新入生が入学した大学院の入学式も行われた。

 

 

 学部入学式の式辞で五神総長は、人類全体を巻き込んだ「激動の時代」にあって、異なる価値観や知識を持つ人々が協働し、多様なスケールの時間の流れが共存する大学にこそ、社会変革を駆動する責任があると述べた。その上で東大発のベンチャー企業「ユーグレナ」を、東大が社会変革を駆動した例として挙げた。新入生には「まず、踏み出すこと」を勧め、教員や図書館、国際感覚を養う授業や制度の活用を「明日から踏み出せる一歩」として紹介した。

 

式辞を述べる五神総長(撮影・山口岳大)

 

 太田教養学部長は、弱者に寄り添い、人類社会の幸福に貢献できる人間になることこそが教養を学ぶ目的だと語った。

 

 上野名誉教授は祝辞の中で、学生・教員の女性比率の低さ東大女子の参加を認めないサークルを挙げ、東大も社会と同じく「あからさまな性差別」が横行していると批判。一方、東大は女性学を創始した自身をはじめさまざまな教員に開かれた、変化と多様性に寛容な大学でもあるとし、多様性から新しい価値が生まれると述べた。最後に、新たな知を生み出す知である「メタ知識」を獲得することが、大学で学ぶことの価値だとした。

 

 入学生総代の永谷優磨さん(理Ⅲ・1年)は新元号「令和」に関連し「私たち自身が梅の花として花開く」と述べ「勉学に限らずさまざまな経験を積み、学んだことを社会に還元していく」と宣誓した。

 

記念撮影をする新入生(撮影・山口岳大)

 

 各科類の入学者は文Ⅰ421人、文Ⅱ371人、文Ⅲ495人、理Ⅰ1178人、理Ⅱ559人、理Ⅲ101人の計3125人。女子学生は567人と全体の18・1%になり、昨年の19・5%から下降した。留学生は44人だった。

 

 同日午後の大学院入学式では修士課程2927人、専門職学位過程331人、博士課程1238人の新入生の門出を祝った。うち留学生は638人だった。

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