Quantcast
Channel: 東大新聞オンライン
Viewing all 2984 articles
Browse latest View live

【セミが見た高知④】ふるさと納税の光と影

$
0
0

 近頃何かと話題のふるさと納税。

 

 そんなふるさと納税で全国9位、約39億円(平成29年度)もの寄付を集めた自治体がある。人口約3000人の小さな町 奈半利(なはり)だ(東大の新入生は1年間に約3000人、奈半利は全世代で同じ規模なのだからその規模感はなんとなくイメージできるだろうか)。

 

 税収が2億円ほどの町に、突然40億円近い寄付がやってきた。ふるさと納税の光と影、小さな町の今をお伝えする。

 

奈半利へ!

 

 「あなないなすびさんの穴内です」(電車のアナウンス)

 

 「ん!?」電車でうとうとしていた僕は謎のアナウンスにびっくりして目が覚めた。「なんだなんだ??(笑)」

 

 「あなないなすびさん」は穴内駅のご当地キャラ。どうやら、アンパンマンの生みの親、やなせたかしさんの仕業らしい。土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線では各駅にこうしたご当地キャラがいる。高知県はやなせたかしさんの出身地、高知駅でアンパンマンが至るところにいたのを思い出した。

 

 「なはりこちゃんの奈半利です」

 

 高知駅からおよそ80分、奈半利町に到着だ。

 

なはりこちゃん。ちなみに高知県東部で電車で行けるのはこの奈半利まで。この先にある室戸に行くにはバスや車に乗り換える。

 

 今回の旅で共に回ることになっている川本亮(医学部3年、Grubin代表)、東加奈子(経済学部3年、2か月前に食堂でたまたま知り合い意気投合した)とは奈半利で合流することになっていたが、数時間早く着いたため、お昼ご飯を求め1人奈半利の街を歩くことにした。

 

奈半利の一コマ

 

奈半利のママ

 

 奈半利の街を歩くがなかなかお店が見つからない。歩き疲れた末に、昔ながらの喫茶店に入った。店内は一昔前の雰囲気。どこか懐かしい。

 

 そこで、お昼を頂いて一息ついていたが、お店のお母さんと話すこともなく静かな時間が流れた。こちらから声を掛けないと、気まずい沈黙……というよくあるパターンだ。

 

 せっかくなので、思い切って声をかけてみた。

 

 「お母さん、このお店はいつからはじめたの?」

 

 

奈半利のママ

 

 お母さんは奈半利の街で初めての喫茶店を50年前にオープン。昔はたくさん取材が来たんだとか(それくらい喫茶店が珍しかったらしい)。夜には2階のスナックを切り盛りするなど、「奈半利のママ」的存在だ。

 

 ここ奈半利は、かつてカツオ船が水揚げをして大いに繁盛していたそうだ。しかし、今は静岡の方で水揚げをするようになってしまったのだという。そして、一昔前はダムの建設に従事する人達でにぎわっていたが、ダムの完成と共に一気ににぎわいは去って行ってしまった。

 

 「奈半利は特産品とかってあるの?」と聞いてみたが、「あんまりない」のだと言う。

 

 お母さんと話をしていると、常連のお父さんがやってきた。

 

奈半利のお父さん

 

 お父さんは50でサラリーマンを辞めて、なすびを作り始めたという。有名なものはあまりないとのことだったが、奈半利も含めた一帯は”なすび”が有名なのだそう(ただ、観光などで推せるほど有名ではないのも確かだ。”有名”というよりは”特産”といった方が正しいかもしれない)。電車の窓からハウスがたくさん見えていたが、きっとそのうちの一つなのだろう。

 

 そうしてお父さんのなすび作りの話を聞いていると、なんと、お父さんのなすび園、息子さんが継いでくれるのだそう。

 

 「こんなの継いでもいいことないのにな(笑)」

 

 そんなこと言うけどお父さん、今すっごい嬉しそうな顔してるやん!

 

奈半利町役場へ

 

 奈半利町役場は海の近く、小学校の隣にある。川本、東と合流し、待ち合わせの時間まで役場の駐車場で話をしていると、小学校の校庭から声がする。

 

 「誰ー!?どこから来たんー?アメリカ!?(笑)」

 

 元気な奈半利の子ども達だ。なんだか自分の子ども時代を思い出して懐かしくなりながら、待ち合わせに向かった。

 

 今回、お話を伺うのは奈半利町役場の柏木雄太さん。ふるさと納税で奈半利町を押し上げた仕掛け人だ。

 

柏木雄太さん(写真左から3人目)。「絶対に田舎には戻ってきたくない」そう思っていた。しかし、気づけば奈半利町を背負うキーパーソンの1人として孤軍奮闘する日々を送っている。写真左端が川本、右端が東。

 

 人口約3000人の町 奈半利。面積も文京区2つ分ほどの広さで、隣にある田野町など他の自治体との「境目」が(意識の上で)結構あいまい。住人の方のお仕事は主に、農家、漁師、JA、公務員(役場や学校など)。他は町外に通勤しているのだそう。

 

 「町の活性化のためにはふるさと納税に賭けるしかない。」

 

 ふるさと納税の制度が始まったとき、柏木さんはそう確信したそうだ。しかし、何といっても人口3000人の小さな町だ。地場産品といえるものは今までになかった。町の定食屋を回り何か売り出せるものがないかと探す、そんな日々から始まったという。

 

 今までは「生計を立てるため」に作っていたものを、職業として魅力的なものにできないか。そんな想いだった。

 

 そんな試行錯誤の中で生まれたのがゆず豚や米ヶ岡鶏といった畜産の奈半利ブランドだ。ゆず豚は60代のお父さんが、県外に行っている大学生の息子さんに「帰ってきてほしい」という一心で必死に考えた取り組みの結果なのだという。当初はこうしたキーパーソン2〜3件だけで始めたふるさと納税への取り組み、今では40億円に迫る規模に成長した。

 

 奈半利町ではその寄付金を使って、返礼品を作る2つの工場を新設。高知県の取り組みで各自治体にある「集落活動センター」でもふるさと納税に関する作業に取り組んでいる。

 

 「今までは作って終わりという意識だった。安い値で売るか、ご近所に配るか、自家消費するかだったものを、このふるさと納税をきっかけに変えていきたい。」

 

ふるさと納税の影

 

 税収も増え、仕事も増えた。しかし、いいことばかりではない。ふるさと納税で「うまく」いったことによる弊害も大きい。

 

 「ふるさと納税に依存している今は、悪い意味で勘違いしてしまっています」

 

 税収2億円ほどの町に、40億円近くの税収が入ってくるまさに「ふるさと納税バブル」。どうしても奈半利町の抱える根本的な問題に正面から向き合えずにいる。

 

 「結局ふるさと納税で、現状としては何も変わっていない。依存体質のまま。ここから抜け出さなくちゃいけないんです」

 

 高知大の受田先生(セミが見た高知③)の言葉が浮かんだ。「さらなる刺激を求める」ってこういうことなんだな…。

 

 ふるさと納税の返礼品が多くの住民が参画できる形になっているか。今は本来の市場とは違う「ふるさと納税市場」での戦い。まさに「ぬるま湯」の中での出来事なのだ。いつ崩れてもおかしくはない。

 

 そして、ふるさと納税は今年度から制度が厳格化され、返礼品への制限も明確になる。

 

 「奈半利への寄付は間違いなく減るでしょう。本物しか残らなくなる。ガクっと下がったときに本気になれるかどうか……今が勝負なんです」

 

 「地域の若い人たちへ、雇用の受け皿を作りたい」その一心で進み続ける柏木さんと奈半利町。本当の勝負は今、始まったばかりだ。

 

人材不足!

 

 奈半利町を含め、農業などの後継者のほとんどは、イベントなどで呼び込んだ結果、東京から来る人たちばかりだという。

 

 柏木さんの口からしきりに出た言葉、それは「人材がいない/足りない」。

 

 「カリスマ的なキーマンが欲しい。ある素材を見て、ビジネスにできるような人が」

 

 ただでさえ、人口が少ないなかで、子どもは少なく、多くは町外に出て行ってしまう。町を変える人材が1人でも多くこの町に来てほしい。

 

 人口3000人の町。1人の人間が背負う期待と責任は、東京では想像もできないくらい大きい。それは重荷でもある。ただ、「代わりのいる自分」ではなく、1人の人間を必要としてくれる地であることも確かだ。

 

 若い力、外からの力が1人でも増えれば、「分かってもらえないことも多い」という柏木さんのような人たちももっとやりやすくなるのになあ。

 

地方創生の罠

 

 そして、胸に刺さった言葉がある。

 

 「でも、街が応援してくれないとできない人ならそもそもうまくいかないんです」

 

 地方は東京より「劣って」いる、だから補助金や支援を受けて、東京に負けない環境にして、それから……

 

 「地方創生」というと、無意識のうちにそんな意識でいなかったか。補助金がもらえるなら……そんな姿勢では遠くない将来に破綻してしまうだけだ。

 

 東京にない、今は誰も注目していない「宝石」を見つける。これこそが地方の生きる道なんじゃないのか。「東京>地方」の前提で「腫れ物に触る」態度が「地方創生」なのだとしたら、そんなものは上手くいかない。「かわいそうな」地方を助けたい。そんな想いなのならやめておいた方がいいと思った。ふるさと納税の町 奈半利での滞在を通して気付かされた。当たり前のようでいて気付かなかった「地方創生」の罠だ。

 

本音

 

 賛否両論のふるさと納税について、柏木さんは最後にこう漏らした。

 

 「ふるさと納税が都会に不利って言われるけど….戦後から今までずっと、教育するだけ教育して、人材を輩出してきた地方にこれくらいあってもいいんじゃないかって思うよ……」

 

 東大生には都会育ちの人たちが多い。そんな皆にこそ分かってほしい。僕も三重県伊勢市で生まれ育ったから痛いほど分かる。どんどん人が出ていく地方。若い人が日に日に出ていく。この「寂しさ」を。元気がなくなっていく気持ちを。「ああ…昔は元気だったのに…」そんな声を。そんな中で、その地で生きる人たちは懸命に「今」を生きている。

 

星ってこんなにきれいだっけ

 

 そして、お隣田野町の宿泊先へ。柏木さんのご厚意に甘えて車で送っていただいた。

 

 実は、田野町にあるゲストハウスに3人で予約していたのだが、手違いで泊められないというハプニングが。すると宿のお母さんが自宅に泊めてくださるという。

 

 今から向かうと電話を入れると、

「近くのスーパーでうどん買っておいで」

 

 何かな?と思っていると、なんと軍鶏の鍋をごちそうになってしまった!!人生初の軍鶏だったが、これがもうなんと表現していいのか分からないほどにおいしい!

 

お母さん。泊めていただいた分のお金を…と思っていたら「お接待しとくよ!」
温かい、そしてユーモアあふれる最高のお母さんだった!

 

 そして、夜に外に出ると街灯の明かりもほとんどない。あたりは真っ暗だ。空を見上げると、思わずため息が出てしまった。

 

 東京に出てきて2年。忘れていた。夜空の星ってこんなにきれいだったっけ。

 

 朝は軍鶏の鳴き声で目覚めた。さあ、今日も長い一日の始まりだ。 

 

さあ、出発だ

 

文・写真 矢口太一(孫正義育英財団 正財団生・工学部機械工学科3年)

Mail: taichikansei@gmail.com (記事へのご意見大募集中!)

 

【セミが見た高知 シリーズ】

セミが見た高知① 高知県知事、駒場に来たる!!

セミが見た高知② 人ってこんなに温かい!?

セミが見た高知③ んん..思ってたのと違うぞ? セミ現実を知る。


英語民間試験利用反対 国会請願の審査未了 

$
0
0

 2021年度大学入学共通テスト(20年度実施)での導入が予定されている英語民間試験。羽藤由美教授(京都工芸繊維大学)らが中心となって利用中止を求める署名運動を実施、8千筆以上の署名と共に衆参両院に請願書を提出していた。請願は審査保留のまま、6月26日の国会の会期終了とともに審査未了となったが、TOEICが撤退を表明するなど、まだ英語民間試験利用を巡る混乱は収まっていない。英語民間試験利用の問題点、署名運動に至った経緯を羽藤教授に聞いた。

(取材・中井健太)

 

「構造的欠陥の解決が困難」

 

 羽藤教授は英語民間試験の利用について、多くの問題点を指摘している(表)。そのどれも「導入まで1年を切った今からでは対応し切れない」と話すが、中でも大きな構造的欠陥が二つあるという。

 

羽藤教授らの記者会見資料を基に東京大学新聞社が作成

 

 

 一つ目は、複数の民間試験の成績をCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)を介して比べること。「異なる能力を測る目的で設計された試験の成績を比べることはできません。例えば、50m走とマラソンの記録を比べて走力の優劣を決めることはできません。英語力も同じです。その不合理を隠すためにCEFRが誤用されています。しかし、根本的な問題は解決せず、英検でA1レベルの人とGTECでA2レベルの人が同じ試験を受ければ、順序が入れ替わる可能性は十分あります。これでは公平な入学者選抜はできません」

 

 二つ目は、試験の運営を民間団体に丸投げしていること。「今回の制度では、作問、試験の実施、採点、トラブル対応など、受験生に成績が返されるまでの全過程が不透明。それを営利目的の民間団体に任せるなら、高度な専門知識を持つ第3者による監視や監査の制度が必要」と指摘。「採点の質の担保やトラブル隠蔽(いんぺい)の防止などが不十分です」

 

 羽藤教授は、英語教育の研究者として、民間試験を大学入試に利用することが検討され始めた時から、学内外で反対を訴えてきた。今回の署名運動では、10日程度の短期間で8千筆以上の署名が集まり、多くの人が危機感を共有していることを実感したという。

 

 国会請願はごく一部を除きほとんどが保留扱いのまま審査未了となる。「今回の請願もそうなることは予想していました」。しかし「国を代表する専門家を含む多くの人たちの抗議の声を国会や文部科学省に届け、記録に残したことには大きな意味がありました」。

 

 羽藤教授は、東大が21年度入試から、出願資格としてCEFRのA2レベル以上の民間試験の成績、またはA2レベル以上の英語力があることを高校などが証明する書類、もしくはその両方を提出できない事情を明記した理由書の提出を求めることにも言及。「英語だけを取り出して出願要件にすること、その基準にCEFRを用いることについて、東大として十分な検討をしたのでしょうか。理念や理論と照らして、もう一度検討し直していただきたい」

 

東大は現時点で再考予定なし

 

 五神真総長は18年に行われた林芳正文部科学大臣(当時)との会談で、東大での英語民間試験利用の条件として「高等学校、大学等関係団体及び試験実施団体等の幅広い関係者によって今後の入試実施にあたっての諸課題を検討する場」の設置と、英語民間試験利用に際し問題が起きたときの責任を明確化する文科省令の制定を挙げていた。入試担当の福田裕穂理事・副学長によると前者は既に文科省内に設置されており、議論が進んでいるが、文科省令の制定は検討中だという。

 

 福田理事・副学長は東大における英語民間試験の利用方針に関して「全学で十分検討した上で出した結論ですので、現時点で再考の予定はありません」とコメントした。

 

国会請願は審査すらされず

 

 国会請願はなぜ審査未了に終わったのか。法学者の南部義典さんは、慣例により全会一致でないと請願が採択されず、保留のまま審査すらされない、など国会請願の採択のハードルの高さが原因だと説明する。審査の保留を決定する理事会は委員会と異なり非公開のため、採択に反対している会派が分からず、責任の所在が明確化できないことも問題だと指摘した。

 

TOEICは参加取りやめ

 

 2日、TOEICを運営する国際ビジネスコミュニケーション協会(IIBC)は共通テストへの参加を取りやめることを発表した。IIBCは撤退の理由として、受験申込、試験運営、結果提供の処理の複雑性から「責任をもって各種対応を進めていくことが困難」になったことを挙げた。

 

【関連記事 英語民間試験】

大学入学共通テスト 英語民間試験を入試に活用へ 方針を転換

共通テスト英語民間試験 教養学部英語部会から反発の声 「懸念解消されず」

英語民間試験の利用方法を3案提示 認定試験利用方針を再び転換

東大、英語民間試験の成績提出を必須とせず 2020年度実施の入試で

東大、英語民間試験の成績提出を必須とせず 2020年度実施の入試で

英語民間試験の必須化に待った それでも「受験の先を見すえた4技能習得を」

理事が明かす英語民間試験を巡る決定の舞台裏 検討の契機は相次いだ出題ミス

東大の決定「ありがたい」 英語民間試験 教育現場、負担の少なさ歓迎

東大、英語民間試験の代替となる「英語に関する証明書」「理由書」様式案を公表

 


この記事は2019年7月9日号からの転載です。本紙では他にもオリジナル記事を公開しています。

 

東大総長賞受賞者の素顔② 山岸純平さん ~細胞の謎に学際的に挑む~

$
0
0

 東京大学総長賞とは、学業や課外活動で業績を挙げ東大の名誉を高めたと認められた東大の個人・団体を総長が表彰するものだ。今回は2018年度受賞者のうち、学業分野で大賞を受賞した山岸純平さん(養・4年=受賞当時)の素顔に迫る。

(取材・武沙佑美、渡邊大祐)

 

総長大賞受賞を記念して。中央で記念品を持つのが山岸さん。左右の2人は総合文化研究科所属で、最新の論文の共著者である畠山哲央助教(左)と金子邦彦教授(写真は山岸さん提供)

 

高校時代 円城塔の作品から複雑系の科学へ

 

 山岸さんの研究は、さまざまな分野が絡み合う。関係する分野は生物学から数理科学、物理学、そして経済学にまで及び壮大だ。

 

 今年学部を卒業したばかりの山岸さんだが、論文は既に専門誌に掲載されたことがある。しかもそれは山岸さんが1、2年生の時の研究に基づく。研究室配属はおろか、専門分野も決まっていない前期教養課程の間の研究が、専門誌に掲載される論文にまで仕上がるのは異例だ。

 

 なぜ前期教養課程のうちから研究を始められたのか。「1年生の時から金子先生のゼミで研究していて」。金子邦彦教授(総合文化研究科)は生命現象を物理学の観点から解明しようとしてきた第一人者だ。そもそも東大入学を考えた理由の一つも、金子教授の存在だという。金子教授に憧れを抱いた高校時代の話を聞くと、その後の研究に至るテーマも見えてきた。

 

 高校時代、さまざまな学問分野に興味を持っていた山岸さん。部活動でディベートをする際に、数値で表され根拠になりやすいと経済学や、哲学に興味を持っていたという。

 

 そして高校2年生の時、ある小説と出会う。それは、SF小説『Self-Reference ENGINE』。著者の円城塔さんは金子研究室出身だ。作品にも研究と関係するテーマが登場する。他の円城作品やその参考文献を読みあさった山岸さんは、金子教授の著作にも強く感銘を受けた。

 

 山岸さんによると、金子教授や円城さんの専門は大枠では「複雑系の科学」。ある物の性質を考える際、さまざまな要素が影響を与えていると個々の要素の影響を考えても、全体の性質を説明できないものがあるという。この問題をモデル化とシミュレーションなどで解決しようとするのが「複雑系の科学」だ。聞き慣れない言葉だが、気象現象や経済などに広く用いられている。山岸さんは「複雑系の科学」に魅了されるも、まずは基本的なところからと古典力学や量子力学など物理学の基礎を独学で学んでいたという。

 

東大入学後 金子ゼミで細胞間のやりとりをモデル化

 

 東大に入学した山岸さんは、憧れの金子教授がゼミを開いていると知る。前期教養課程の一環として開講されている「『生命とは何か?』に迫る研究体験ゼミ(現・生命の普遍原理に迫る研究体験ゼミ)」だ。入学直後から2年間参加し続けた。

 

 金子教授らの指導の下、山岸さんが取り組んだのは「細胞間の共生の仕組み」の解明。細胞は自身にとって有益な物質を放出することがある。これはその細胞自体の生存には不利と考えられる、不思議な現象だ。放出された物質は他の細胞で利用されると考えられている。このように細胞間が共生する仕組みの解明は、生物が一つの細胞からなる単細胞生物から、複数の細胞からなる多細胞生物へ進化した理由を考える上で重要だ。

 

 山岸さんは、細胞同士が物質をやり取りする様子を数理科学や物理学を基にモデル化。シミュレーションした結果、細胞が物質のやり取りをしない場合よりも、複数の細胞同士が物質をやり取りした場合の方が、細胞の成長速度が速いことなどを確かめた。

 

 当時の山岸さんは週に1度、金子教授や斉藤稔特任助教(総合文化研究科=当時)と議論し、研究を進める日々を過ごしていた。サークルには入らず、ゼミに打ち込んだ。成果は論文にまとまり、後に専門誌に掲載されるほどの仕上がりだった。しかし山岸さんは当時を「打ちのめされていた」と振り返る。「自分が独自に考えた部分はありましたが先生方のアドバイスは圧倒的で、研究者の道に進む自信を失いました」

 

 実際山岸さんは2年生の夏に進学選択で、金子教授のいる教養学部ではなく、医学部医学科に進学する。「医学科で学べる基礎生物学への関心もありましたが、研究者ではなく医者になろうとも思っていました」。しかし生物学を学ぶうち「アカデミアに残りたい」という思いが強まり、転学部することにする。3年生を終えたタイミングで教養学部統合自然科学科に移り、金子教授の下で研究を続けた。

 

二つの細胞が物質の授受を通して共生する様子を山岸さんが単純化したモデル。左側の細胞が漏らした物質M₁を右側の細胞が取り込み利用する。細胞内の矢印は化学反応や遺伝子の翻訳を表す(図は山岸さん提供)

 

今後の展望 謙虚に研究を続け成果を異分野に還元

 

 4月から総合文化研究科の修士課程に進学した山岸さん。最新の研究では、これまでの研究の延長線上に経済学を導入。細胞同士の物質のやり取りの解明に、人同士の物のやりとりを記述するミクロ経済学を利用した。高校生時代の幅広い興味とつながる学際的なテーマだ。

 

 総長大賞の題目「代謝物の漏出とやりとりによる細胞間分業と共生の数理、物理そして経済学」にも学際性が際立つ。受賞した感想を聞くと「医学部から教養学部に転学部する時には家族ともめましたが、今回の受賞では認めてくれてその点でもうれしかった。一方自分が総長大賞を頂くのは恐縮で、浮かれる気持ちよりも今後の研究生活への期待と不安の方が大きいです」。

 

 学部の早い時期から研究を続けてきた山岸さんの原動力は、高校生の時に出会った2人の存在だ。「金子先生や円城さんへの憧れが大きいです。2人と同じ視点で世界を眺めてみたい」。私生活で研究に集中するこつは、家にインターネットを引かないことだとか。「ネットがあると大して好きでもないことに時間取られちゃうので(笑)」

 

 今後は生物の1個体を超え、生態系単位を物理学で理解することや、経済学で生命現象を理解する他、その知見を経済学自体にも還元することに興味があるという。最後に学部生へのメッセージを聞いた。「偏見を捨てながら、好きと嫌いにだけは忠実にいてほしいです」

 

【関連記事】

東大総長賞受賞者の素顔① Grubin ~最高の仲間と得た、最高のご褒美~


この記事は6月11日発行号からの転載です。本紙では他にもオリジナル記事を公開しています。

 

 

ニュース:連携強化目指すも難航 ITC―LMSとUTASの相違は
ニュース:液体のりで造血幹細胞増幅 山崎特任准教授ら 血液疾患の治療に貢献
ニュース:紫外線の損傷を検出 皮膚がん抑制などに期待
企画:駒場リサーチキャンパス公開2019 ようこそ先端科学の世界へ
企画:細胞の謎に学際的に挑む 総長賞受賞者たちの研究② 
企画:「心」の根本的理解を目指す神秘主義 視野広げ真理を探求 
新研究科長に聞く:①経済学研究科 渡辺努教授
世界というキャンパスで:分部麻里②
サーギル博士と歩く東大キャンパス:②本郷キャンパス三四郎池
ひとこまの世界:駒場の商店街で食べ歩き
キャンパスガール:黒田汐音さん(文Ⅲ・2年)

※新聞の購読については、こちらのページへどうぞ。

教員の研究時間割合 02年度より13.6ポイント減

$
0
0

 文部科学省が6月26日に公表した「大学等におけるフルタイム換算データに関する調査」の2018年度版で、大学などの教員が研究に使える時間は総勤務時間の32.9%と、02年度比で13.6ポイント減少していることが判明した。調査は02年度以降5〜6年ごとに実施され、研究に使える時間の割合は減少傾向にある。

 

 研究時間割合が減ったのは、研究以外全ての職務活動時間割合が少しずつ増えたため(図)。外部研究資金を得るための業務に要する時間が年間の研究時間の5.0%を占めることも調査から分かった。 

 

文部科学省の資料を基に東京大学新聞社が作成

 

 教員の人数は19万2334人と02年度比で2万人以上多く、増加傾向。一方、教員の研究時間割合に教員の人数を掛けたフルタイム換算値は6万3286人と、02年度比で1万6千人以上少ない。

 

 国立大学教員の研究時間割合は40.1%と年度比で10.6ポイント減ったが、研究教育関連でない社会サービス活動(診療活動など) は年度比で7.7 ポイント増えた。公立大学教員の研究時間割合は31.4%、私立大学は28.5%。博士課程在籍者85.6%、医局員14.7%、その他の研究員77.0%だった。

 

 学問分野別だと理工農分野ではフルタイム換算値、教員の人数ともに13年度から大きな変化はないが、人文・社会科学系はフルタイム換算値が2千人近く減少。保健分野では教員の人数が13年度比で3千人以上増えたが、フルタイム換算値は減少した。


この記事は2019年7月9日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナル記事を公開しています。

ニュース:英語民間試験利用反対 国会請願の審査未了 「構造的欠陥の解決が困難」
ニュース:教員の研究時間割合 02年度より13.6ポイント減
ニュース:6競技終え総合首位 七大戦 少林寺拳法8連覇逃す
ニュース:東大教員の研究成果、『ネイチャー』に
ニュース:ホッケー部男子 1部残留決める
企画:研究と実社会で示す存在感 知られざる「地学」の魅力を探る
企画:出版甲子園の熱気に迫る 一筆入魂で大舞台へ
新研究科長に聞く:⑤医学系研究科 齊藤延人教授
新研究科長に聞く:⑥新領域創成科学研究科 大崎博之教授
教員の振り返る東大生活:蔵治光一郎教授(農学生命科学研究科附属演習林)
東大最前線:rDNAの移動 堀籠智洋助教、小林武彦教授(定量生命科学研究所)
サークルペロリ:東京大学神社研究会神楽部会
キャンパスガール:小見杏奈さん(文Ⅲ・2年)

※新聞の購読については、こちらのページへどうぞ。

ホッケー部男子 1部残留決める 立教大との入れ替え戦に勝利

$
0
0

 ホッケー部男子(関東学生1部リーグ)は6月30日、2部2位の立教大学と春季リーグ1部2部入れ替え戦に2-0で勝利し、1部残留を決めた。東大はペナルティーコーナー(PC)の好機で着実に加点した。

 

東大|1001|2

立大|0000|0

 

先制に成功し、喜ぶ東大チーム(写真はホッケー部男子提供)

 

 第1クオーター(Q)7分、サークル内で相手守備陣が反則を犯し、東大はPCを獲得。吉川剛選手(経・4年)が決め、先制に成功する。第4Q開始直後にも再びPCから、中村能之選手(理・4年)が勝利を決定づける2点目を奪った。

 

 東大は今季リーグ戦・順位決定戦を合わせて1勝4敗でリーグ7位だった。

 

(中井健太)


この記事は2019年7月9日号からの転載です。本紙では他にもオリジナル記事を公開しています。

 

ニュース:英語民間試験利用反対 国会請願の審査未了 「構造的欠陥の解決が困難」
ニュース:教員の研究時間割合 02年度より13.6ポイント減
ニュース:6競技終え総合首位 七大戦 少林寺拳法8連覇逃す
ニュース:東大教員の研究成果、『ネイチャー』に
ニュース:ホッケー部男子 1部残留決める
企画:研究と実社会で示す存在感 知られざる「地学」の魅力を探る
企画:出版甲子園の熱気に迫る 一筆入魂で大舞台へ
新研究科長に聞く:⑤医学系研究科 齊藤延人教授
新研究科長に聞く:⑥新領域創成科学研究科 大崎博之教授
教員の振り返る東大生活:蔵治光一郎教授(農学生命科学研究科附属演習林)
東大最前線:rDNAの移動 堀籠智洋助教、小林武彦教授(定量生命科学研究所)
サークルペロリ:東京大学神社研究会神楽部会
キャンパスガール:小見杏奈さん(文Ⅲ・2年)

※新聞の購読については、こちらのページへどうぞ。

声を上げやすい社会にするためメディアは何をすべきなのか 白熱のシンポジウム実録

$
0
0

 五月祭で本郷キャンパスが盛り上がる5月18日、祭りの喧騒から離れた情報学環福武ホール地下2階の福武ラーニングホールで、「わたしが声を上げるとき」をテーマにしたシンポジウムが開催された。主催は昨年学内外で議論を巻き起こした姫野カオルコ『彼女は頭が悪いから』ブックトークなどを開催してきた「メディア表現とダイバーシティを抜本的に検討する会(MeDi)」。声を上げにくい社会で声を上げることを可能にするにはどうしていけばいいのか、登壇者たちの示唆に富んだ議論をお伝えしたい。

 

(取材・撮影 高橋祐貴)

 

 

登壇者(五十音順)

ウ ナリ(株式会社キュカ 代表取締役)

小島慶子(エッセイスト)

武田砂鉄(ライター)

田中東子(大妻女子大学 教授)

山本和奈(Voice Up Japan)

 

司会

山本恵子(NHK国際放送局 記者)

 

声を上げられるようになった1年

 

 今回のシンポジウムは、昨今の#MeToo運動の日本での広がりやジャーナリストの伊藤詩織さんへのバッシングなどを受けて、日本社会ではどうしたら人々が自由に声を上げることができるようになるかを話し合う主旨で開催された。

 

 会の冒頭、シンポジウムのテーマの提案者でもあるエッセイストの小島慶子さんが、声の上げやすさについて近年世の中で起きた変化を振り返った。2017年10月の伊藤詩織さんの手記『Black Box』出版やブロガーのはあちゅうさんのセクハラ被害告白、18年4月の福田淳一財務事務次官(当時)によるセクハラ問題の発覚を経て、徐々に世の中の流れが変わってきたと指摘。例として18年12月に『週刊SPA!』に掲載された「ヤレる女子大生ランキング」に対して批判の声を上げた、登壇者でもある大学生の山本和奈さん(国際基督教大学)の活動が世間から広く支持されたことを挙げた。

 

 

 実際に『週刊SPA!』編集部との対話を行い、SPA!誌上で性的合意についての特集が組まれるところまでこぎ着けた山本さんの活動を評価し「伊藤詩織さんの告発からわずか1年の間に世の中が大きく変わってきている」と語る小島さん。「ハラスメントが『普通』のことじゃなくて声を上げるべき対象なんだと気付いた人々が声を上げてきたことが変化の大きな理由ではないか」と今回のテーマの背景を説明した。

 

 小島さんの出版した対談集『さよなら! ハラスメント』(晶文社)にも登場する、ライターの武田砂鉄さんは、アイドルグループとメディアの関係の問題から口火を切った。男性2人から暴行を受けたNGT48のメンバー・山口真帆さんがステージ上で「お騒がせして申し訳ありませんでした」と謝罪させられた件に触れて「暴行を受けた側が謝罪するなんて男女関係なく明らかにおかしいと分かるはず」と憤る武田さん。AKB48の卒業メンバーに対し「恋愛解禁」という修飾を自然と使う、卒業メンバーの結婚を伝えるニュースで妊娠の有無を付け加えるといったメディアの姿勢について問題提起した。

 

 『週刊SPA!』の件で声を上げ、現在は声を上げる人々を支援しジェンダー平等を目指す一般社団法人Voice Up Japanを運営する山本和奈さん本人も登壇。女性の成功者がさげすまれ男性の成功者は羨望(せんぼう)される世の中や、本来女子の大学生を指すだけのはずの「女子大生」という言葉が若い女性の象徴としてある意味でブランド化(idolize)されていることへの疑問を唱えた。想像力を働かせれば自分の大学が取り上げられていなくても今回のような記事に当事者意識を持てるはずだとする山本さん。問題を起こした相手に謝罪を求めるだけではなく、相手の立場に立ってものごとを考え、対話を行うことも重要だという。実際にSPA!のケースでも、SPA!編集部内の特集に対する疑問の声が反映されなかった経緯を聞き、ジェンダー不平等以上に「出る杭(くい)は打たれる」日本社会の空気が今回の問題につながっていたと気付いた。この気付きがVoice Up Japanの立ち上げにつながったという。

 

 

 ネット上で悩みを共有できるサービス「QCCCA(キュカ)」を立ち上げたウ ナリさんは、もともとヤフーの日本法人で「Yahoo!知恵袋」を立ち上げたエンジニア。ヤフーでの仕事を通じ自分がつくったものが人々にさまざまに活用される様を目の当たりにして、テクノロジーの可能性に気付いたという。そんなウさんがキュカをつくったきっかけは、ヤフーで部長になって初めて受けた相談内容がひどいセクハラについてだったこと。相談してきた女性社員は、それ以前にも周囲の同僚に相談を重ねていたが、「それは大変だね」と言われるだけで何も解決しなかったのだという。大きな会社で声を上げることの難しさを実感したウさん。「悩んでる人に一番必要なのは寄り添ってくれる人」だと考え、寄り添う人が最初から集まっているオンライン上のコミュニティーをキュカで実現した。

 

 

 SPA!の「ヤレる!女子大生ランキング」にランクインさせられていた大妻女子大の田中東子教授は報道を見た当時のショックを振り返る。特集に対して山本さんたちが声を上げたことについて学生たちが感じたことを聞いたところ、記事の内容に対する悔しさを訴える声、声を上げてくれた他の大学の学生に対する感謝の声、そして声を上げることに対する恐怖を吐露する声の3通りの反応があったという。特に一つ目の反応については「自分たちは常にJDという記号を通じて『ヤレる女』扱いを飲み会やバイトなどの場でされてきた」というコメントが付随して見られた。これら学生たちへの聞き取りを通じて、田中教授は「さらに傷付けられることを恐れ、声を上げないことが女性たちにとって消極的ながら身を守るための戦略となっている」と現状を分析。「支援者が声を上げることの重要性」を話し合いたいとした。

 

自分自身をエンパワーしていこう

 

 シンポジウムの後半は、前半の話を聞いての会場からの質問を踏まえたパネルディスカッションに。どうすれば社会に対して声を上げられるのかという問いを受け、山本さんは「現状声を上げる若者が少ないのは、特に彼らの生活に余裕がないからだ」と指摘。現在の競争社会はいわば椅子取りゲームで、声を上げたせいで椅子を手放してしまうことへの恐怖心が、声を上げることを妨げているとする山本さん。出る杭は打たれるどころか抜かれてしまうというイメージが若者を「目をつむる方が簡単」という方向に誘導しているという。その上で声を上げるときには、必ずバッシングがある一方で必ず賛同する声も上がるため、意識的に応援の声に耳を傾けることが心の余裕につながると語った。

 

 

 声の上げ方について小島さんは、セクハラや性暴力の問題は「男VS女」の問題ではないとし、対談集『さよなら! ハラスメント』の中で精神保健福祉士の斉藤章佳さんが「日本は『男尊女卑依存症社会』だ」と述べたことを紹介。「男尊女卑依存症社会」とは、辛いことがあったときにお酒に逃げるアルコール依存症のように、抑圧されている現状を肯定するために男女が共に「男尊女卑」という社会構造にすがって「しょうがない」と思おうとする状態を示す言葉だ。男尊女卑から皆で解放されることを目指せば、男女が分断されずに社会をより良い方向に変えていけるはずだという。

 

 武田さんは「男もつらい」という言説に対し、「『男もつらい』と言った後で4、5時間きちんとこの社会について議論するなら別だが、現状この文言は議論を終わらせるための装置として機能してしまっている」と指摘。山本さんが社会の制約の枠に無理やり自分を押し込めて生きる人々を「クッキーの型にはまる人」と例えたのを受け「自分もこんなつらい思いをしている、と『俺のクッキー型自慢』をする男が多すぎる」と嘆いた。これに対し小島さんは「『俺もつらい』と言いたくなるのは、自分のつらさを誰にも聞いてもらえてないからではないか」と指摘した。

 

 

 SPA!編集部にも知り合いがいるという武田さん。SPA!では「大企業から独立して事業を始めたが失敗した」というような「転落人生」「絶望人生」と銘打った記事がとても人気を博すると聞いたという。その理由は「おそらく読者の大半は企業に毎日我慢して通っている人だからだそうです」。クッキー型にはまりながら生きている人が、クッキー型からはみ出そうとして失敗した人を見て「やっぱりクッキー型っていいじゃん」と安心する構図があるという。武田さんは「こうしたビジネスが成り立つ病的な構図を変えていかなければならないが、なかなか難しいだろう」と述べた。

 

 話題はメディアの問題の扱い方にも。「中立公正」というのは本来成立し得ないのに、未だに両論併記に終始して問題の焦点をぼやけさせてしまう報道の在り方や、本来問題解決のためには報道のしつこさが必要なのに、社会の関心の薄まりに合わせて報道をうやむやのまま終わらせてしまうメディアの姿勢に批判の声が上がった。

 

 会の終盤、山本さんは「個人的に(社会を良くするための)鍵は『自己肯定感』だと思う」と主張。今の日本社会は自分の価値を他人からの評価で決めるようになっていると指摘した。「例えば小さい頃から(女性)雑誌を読んでいると、書いてあるのは『モテる方法』『好かれる方法』ばかり。社会にエンパワーメントの視点が欠けているのはメディアの責任も大きいと思います」。自己肯定感のある人が社会に対して声を上げることを応援するメディアが出てくれば、声の上げやすさも変わる。「個々人が自分自身をエンパワーできる環境をつくることが必要だ」と締めくくった。

 社会における声の上げやすさとメディアの報道姿勢の問題を扱った今回のシンポジウム。そこで描き出されたのは「声の上げにくさ」がメディアによって再生産され、抑圧される人々は我慢によって苦痛を乗り切ろうとする日本社会の問題だ。会の最終盤、小島さんが「人々が声を上げるとき、聞く人が必要になる。メディアはしゃべるのが仕事なのではなく、聞くのが仕事だよ」と述べた。抑圧の構造に加担するのではなく、声を上げる人々の言葉を真摯に聞いて、それを社会に発信する姿勢がこれからのメディアに求められる在り方だろう。

 

 東大生を扱うテレビ番組も増えた今、メディアにおけるidolizeは東大生とっても身近な問題だ。何かの枠に当てはめようとする社会の圧力に反発する気持ちがあるのであれば、そこに反対の声を上げてもいい。多くの東大生は、自分自身の感覚を一歩外に広げてみれば、たとえ自分が当事者でなくとも、さまざまなマイノリティーの人々が声を上げる状況に共感できるはずだ。

 

 普段からメディアが再生産するイメージを不信の目で見つめ、おかしいと思ったら声を上げる。一人一人がそうした姿勢を持つことが、やがて社会全体を変える大きなうねりとなるだろう。

ニューロテンシン受容体とGタンパク質の複合体構造を解明 薬の副作用軽減

$
0
0

 加藤英明准教授(総合文化研究科)らは、Gタンパク質と結合し活性化して多くの生理機能に関与するニューロテンシン受容体(NTSR1)とGタンパク質の複合体構造を解明した。鎮痛剤などの副作用軽減が期待される。成果は6月26日付の英科学誌『ネイチャー』に掲載された。

 

 NTSR1は血圧や体温、食欲などの制御に加え、薬物依存やがん細胞の増殖への関与も報告されてきた。NTSR1の作動薬や阻害薬は薬物依存の治療薬などへの応用の可能性が指摘されてきたが、関与する生理機能が多岐にわたるため、副作用を引き起こしてしまい実用化できないという問題があった。

 

 加藤准教授らは、NTSR1とGi1タンパク質の立体構造を解析。その結果、この複合体はC状態とNC状態という二つの構造を取ると判明し、うちNC状態では、C状態の状態に比べGタンパク質が45度回転しているという未報告の構造変化が示された。さらにNC状態はGタンパク質を活性化している状態としていない状態の両方の特徴を持つため、NC状態の構造はNTSR1が一部のGタンパク質と複合体を作る過程で形成される特異的中間体構造だと示唆。NTSR1にNTSR1の作動薬が結合すると、NC状態から活性化状態であるC状態に遷移するモデルを提唱した。

 

 今回の解明により、薬効を特定の生理機能に限定した、副作用が軽い薬剤候補化合物の開発につながることが期待される。

さらなる「タフでグローバル」を求めて【MIT博士課程への進学】

$
0
0

 はじめまして。米マサチューセッツ工科大学(MIT)化学科の博士課程3年目に在学中の田主陽と申します。私は2014年に理学部化学科、2016年に理学系研究科化学専攻の修士課程を卒業した後、MITの大学院の博士課程に入学しました。今回は大学院特集号への寄稿ということで、私の日米両方の大学院での経験について書かせていただこうと思います。(寄稿)

 

MITのシンボル的建物の「Great Dome」

 

■ 今に繋がっている東大院での経験

 

 日本に所属を残す短期留学や交換留学とは違って、私のMITへの留学は入学から卒業まで現地の学生と同じ条件で過ごし、最終的に博士号の取得を目標とするもので「学位留学」と呼ばれます。

 

 この進路について他人に話すとしばしば「東大の大学院に不満があったから留学したの?」という質問を受けます。実際は、全くそんなことはありません。学部4年生の時から3年間所属した研究室は、今思い返しても素晴らしい環境でした。

 

 私の専門は無機化学で、現在までのプロジェクトは全て目的の機能(スイッチ、蛍光、触媒など、テーマによって異なります)が先にあり、その機能を実現するために最適な分子の構造を発案し、その分子を実際に合成した後に目的の機能が実現できたかを測定によって確かめる、という流れの研究です。研究室配属まで私は学術論文などほとんど読んだこともなく、モチベーションに溢れているとは言い難い学生でした。研究内容への興味よりも「研究室の雰囲気が良さそう」「論文執筆や海外学会など色々な経験ができそう」「それほど厳しくなさそう」といった点を考慮し、あまり純粋ではない動機で研究室を選んだのを覚えています。しかし幸運としか言えませんが、研究室に入って「新しい物質を自分で創り出せる」という化学の最も面白い側面に触れることができ、本当の意味で化学を好きになれたように思います。助教の先生に様々な実験操作を教えてもらいながら、どうすれば成功するかを議論する毎日が楽しくて仕方ありませんでした。

 

 初めての研究経験というのは、その後のキャリア選択に非常に大きく影響すると思います。何カ月も上手く行かなかった実験を試行錯誤の末に乗り越えたこと、筆頭著者で書いた論文が学術誌にアクセプトされたこと、海外学会で発表して他の研究者からテーマの面白さを認めてもらえたこと…。数えるときりがありませんが、研究が楽しいと思える経験を東大では本当に多く積むことができました。アカデミアの世界を志望するようになったのもこの頃ですし、何よりも一流の研究者と接することで研究者という生き方に惹かれるようになりました。

 

 これらの過程の中で、実験・論文執筆・研究発表の全てにおいて一から丁寧な指導を受けられたのも印象的です。学部での専門科目の教育や研究室での初期教育については日本の方が遥かに充実している、という考えは留学後の現在も変わりません。アメリカでは研究室主催者(PI)の他に講師や助教といったスタッフがいないのが一般的で、実験の指導などはポスドクや高学年の大学院生に任されることが多いためです。

 

東大時代に行かせてもらったDenver開催のACS(アメリカ化学会) meetingにて、ACSのマスコットキャラのMoleと

 

■ より成長できる場所を求めて

 

 こう書くと、そこまで良い環境を捨ててなぜ留学したのかと疑問に感じる方も多いと思います。もちろん、そのまま東大の同じ研究室で博士課程に進もうと考えたことも何度もありますし、その選択が間違いでないのも分かっていました。奨学金ももらえそうだし、博士課程の間に留学もできそうだし(東大の大学院の短期留学プログラムは非常に充実しています)、同じ環境・テーマで3年間集中できれば研究成果も安定して出せるだろうと思いました。

 

 ただ一方で、進学後の姿が明確にイメージできてしまい、3年後にアカデミックガウンを着て博士号を授与されている自分に何の疑いも抱かなかったのです。そこで初めて、このままだと修士課程の延長という感覚で終えてしまうかもしれないという不安を覚えました。自分に厳しい人には無縁の悩みかもしれませんが、私は生活に変化が少ないと切迫感が薄れてしまうタイプで、同じペースで成長し続けられる自信がありません。果たして、研究者のキャリアで「修行の時期」と位置づけられる博士課程がそれで良いのだろうか?より新しく、厳しい環境に身を置いて挑戦しないといけないのではないか?そんな疑問が徐々に膨らんでゆきました。

 

 そうして辿り着いたのが、海外、特にアメリカの大学院に進学するという道です。日本との最も大きな違いとしてよく挙げられるのは、アメリカの博士課程の学生のほとんどは大学または研究室に雇われ、学費全額と生活費の保証を約束されるという点でしょう。しかし裏を返せば、当然この好待遇に見合うだけの成果を要求されることを意味し、入学前も入学後も激しい競争を強いられます。そんなアメリカのトップスクールなら、東大以上に自分は成長できるのではないか──期待と憧れの混じった気持ちで、私は訪れたこともない街の大学院の門を叩きました。出願準備はハードでしたが、このようなポジティブな気持ちが決断の理由だったからこそ乗り越えられたと思います。

 

取材を基に東京大学新聞社が作成

 

■ MITの競争的環境で研究に没頭

 

 そして、MITでは期待を遥かに凌駕する経験が待っていました。洗練されたカリキュラムと研究設備、高いモチベーションを持った同僚が揃い、セミナーでは毎週のように超有名化学者が講演に訪れます。特にアメリカの大学院の講義は充実しているとは渡米前から聞いていましたが、単に内容が濃い、課題が多いというだけではなく、非常に工夫して教えられているのを感じました。教授の評価において授業も大きな部分を占めること、教授自身も優秀な学生を見抜いて雇いたいこと、TAの大学院生はそれによって学費と生活費を賄われるため相当な仕事量になること、などがプラスに働いているように思います。

 

MIT化学科に設置された周期表のオブジェ

 

 一方でシビアさもあり、面白い研究には共同研究の誘いが次々と舞い込む一方で、つまらない研究は見向きもされません。給料を出して雇われていることもあり、大学院生でもある程度独立した研究者として扱われるため、成長するもしないも自分次第です。5年目を越えても卒業の見通しが一向に立たない人や、大学院の途中で研究室を出ていくことになった人もこれまでに見てきました。また、自分のキャリア向上を第一に考えるばかりなため競争がとにかく激しく、共用器具の使用を巡りトラブルは尽きませんし、研究室内でアイデアを盗まれそうになったこともあります。1年目はコースワークに加えて教授に雇ってもらうためのアピールが必要、2年目はQualifying Exam(2回落ちると退学が決まる口頭の試験)があり、3年目からは研究成果をさらに求められるため、常に何かしらのプレッシャーは感じている印象です。

 

 それでも、私が博士課程に求めていたものは確かにそこにありました。化学研究のレベル自体で日本がアメリカより劣ると思ったことは一度もありませんが、若手研究者が自分の研究室を持ちやすい傾向(私の指導教官も30代です)もあってか、活気とスピード感は段違いです。印象深かったのは私の研究テーマで大きなブレイクスルーがあった時で、指導教官はデータを報告した翌日には学科内の別の教授に話してフィードバックをもらっていましたし、翌週にはオハイオの研究グループに電話をかけて共同研究をスタートさせていました。徹底的な実力主義をとっている分、競争に生き残れさえすれば本当に素晴らしい研究環境で、充実した毎日を送れています。

 

MITのマスコットキャラのTim the Beaverと

 

■ 学位留学の意義とは?

 

 ただ、個人的には留学して変わったと感じたのは研究環境だけではありませんでした。最近は大学院留学説明会などの活動に関わっていることもあり「短期留学や交換留学にない学位留学の価値は?」という質問をよく投げかけられます。人によって答えは違うものの、学生に給料が出ることや研究環境の違いを答えとする方が多い印象ですが、果たしてそれだけなのでしょうか。

 

 私の場合「留学して良かった」と心から思えるまでに実は2年近くかかりました。特に辛かったのは留学開始から半年後の冬です。最初の学期は出会うもの全てが新鮮で本当に楽しかったものの、それを過ぎた頃に慣れない研究テーマ・研究室の文化の中で実験が思うように進まず、英語も上達している実感も湧かず、順調に見える周りとの競争に勝てる気もせず、ボストンの寒さもあって精神的にかなり落ち込んだ時期がありました。自分は何をしにここに来たんだろう、海外の研究環境を体験するだけなら短期留学やポスドクの期間でも良かった、もう日本に帰って就職しよう、などと、今では考えられないくらいネガティブな気持ちになったこともあります。

 

雪が積もるキャンパスは美しいものの、本当に寒い

 

 「もう一日だけ頑張ってみよう」と思っている間に、 支えてくれた人達がいたおかげもあって状況が好転し乗り越えることができましたが、私にとってはおそらく一生忘れられない体験です。恥ずかしいことですが、それまで築き上げた自信が脆いものだったことも、自分が精神的にとても弱い人間だったことも、ここで初めて知りました。そして、その後似たような難題にぶつかる度に、辛かった時期を乗り越えたこの経験が支えになってくれているのを感じます。同じ留学でも、帰る場所も時期も決まっていれば、結果が出ない時期に精神的に追い込まれることも、それを乗り越えようと必死で努力することもなかったでしょう。自らに挑戦を課し、それを乗り越えることによって得られる成長こそ、「日本からのお客さん」ではない対等な環境に飛び込んで長期間勝負する学位留学の最大の意義だというのが私の意見です。

 

 加えて思うのは、留学という体験を客観的に捉えるためには、ある程度の期間が必要だろうということです。私は留学当初、アメリカの大学院のシステムは本当に合理的で、日本はどうしてこうならないのだろうと思ったこともありました。しかし一見効率的に見える制度でも、実際には大きな負担をかけているのが問題になっていたり、形骸化していたり、時には日本の方式を取り入れればいいのにと思うことさえあります。そしてその中には、外から見たり説明を受けたりだけではなく、実際に近くで体験しないと理解できない点もたくさんありました。長期間滞在することで留学先の良い面と悪い面の両方を経験し、徐々にフラットな視点を持つことができるのも学位留学のもう1つの魅力だと思います。

 

 もちろん、この先私がスムーズに博士号を取得できる保証はないですし、留学がその後のキャリアに良い影響を与えるとも限りません。それでも学位留学やMITへの進学という選択自体を後悔することはないだろうと思えるほど、得たものは本当に多いです。ちなみに、先日のイチロー選手の引退会見で少し近いニュアンスのことをインタビューのへの回答で語られていて感動しました。とても説得力があり素敵な言葉だったので、観ていない方はぜひ。

 

大学から見えるボストンの街とチャールズ川の景色

 

■ 在学生へのメッセージ

 

 最後に在学生の皆さんへメッセージを。日米の大学院について、私はどちらが優れているとも思っていません。むしろ「どちらが上か」といった短絡的な答えを求めなくなることが学位留学の一番の収穫かもしれません。徹底した実力主義のアメリカの大学院は自分の力を試したい人には最高の場所だと感じますが、落ち着いた環境で腰を据えて研究した方が力を発揮できる人というのも確実にいます。考慮すべきは、自分が大学院に何を求めているか、自分に何が合っているかでしょう。ただし、アメリカの大学院に向いているかを決めるのは英語力や海外経験ではなく、競争や挑戦を楽しめる気持ちがあるかだというのが私の意見です。そしてこれは、東大を受験した皆さんには既に備わっているマインドではないでしょうか?

 

MITとハーバード大学があるボストンには日本人が多く、特に東大出身者の同窓会は毎回50人以上が集まるほどです (Greater Boston UTokyo Alumni Clubより許可を得て掲載)

 

***

田主さんも登壇する7月21日の大学院留学説明会について、以下のページでイベント情報を掲載しています。

海外大学院留学説明会@東京大学「知は国境を越える」2019年7月21日


海外大学院留学説明会@東京大学「知は国境を越える」2019年7月21日

$
0
0

 「海外の大学院に興味があるが何から準備を始めれば良いか分からない」。こんな悩みを抱える学生も多いのではないでしょうか。今回は、現在米国のマサチューセッツ工科大学に留学中で、海外大学院留学説明会に登壇する田主陽さんに、説明会について寄稿してもらいました。


 7月21日(日)、本郷キャンパスの工学部2号館213教室にて、海外大学院留学説明会が開催される。 本部卒業生課と米国大学院学生会の共催で年2回行われている本説明会には毎回200名近くの参加者があり、在学生からも関心の強いイベントだ。説明会では6人の留学経験者が登壇し、学位取得を目的とした海外の大学院の正規課程への留学について様々な観点から情報を提供する場となっている。

 

画像は田主さん提供。

 

 「知は国境を越える」をキャッチコピーとして掲げる今回の説明会の特徴は、6人の登壇者が全員東大のOBまたはOGであることだ。一般参加も可能だが、同じ大学の先輩が海外大学院への進学を志した経緯について生の経験談を聞くことができる東大生にとっては特に得るものが多いだろう。今回の登壇者は様々な分野、留学先からバランス良く選定されているため、参加者は自分に近いバックグラウンドの登壇者を見つけてロールモデルとすることができるはずだ。

 

 二部構成の説明会の前半では、東大を卒業後アメリカのトップスクールに進学した3名の留学経験者が、その経験を元に学位留学のシステムや留学先での生活について語る。後半では主に留学準備に関する3つのテーマを設定して講演とパネルディスカッションが行われ、海外大学院出願に関連した実戦的な内容がメインとなる。

 

 なお、講演会の終了後に19時まで工学部2号館展示室で懇親会の開催も予定されている。登壇者からよりインフォーマルな形で話を聞くことができる機会であり、個人的な相談や質問をしたい場合は参加するとよいだろう。

 

第1部 大学院留学経験者による講演会 14:00〜15:10

 

 講演会のトップバッターを務めるのは、理学部化学科出身でマサチューセッツ工科大学に在学中の田主陽さん。 日米の大学院のシステムの差や短期留学・交換留学との違いなど、学位留学についての基本的な情報が網羅される。続いて、工学部化学生命工学科出身でカリフォルニア工科大学に在学中の尾花満衣子さんが、学位留学中の生活をテーマに講演を行い、 アメリカの大学院に進学した場合に待っている授業、試験、TAなどの体験それぞれについて、時系列に沿って細かく語ってくれる。第1部最後の講演者は、理学部物理学科を卒業後カリフォルニア大学バークレー校に進学して博士号を取得した渡辺悠樹さんだ。 今回の登壇者の中で唯一既に学位留学を終え、現在は東大の工学系研究科物理工学専攻の准教授という渡辺さんからは、学位留学後の就職活動、日本とアメリカでのキャリアの比較についての講演がある。

 

第2部 大学院留学準備に関する講演とパネルディスカッション・質疑応答 15:20〜17:00

 

 最初のテーマは「出願準備と合格の決め手」で、経済学部出身で今秋からマサチューセッツ工科大学に進学予定の菊池信之介さんがコーディネーターとして新鮮な出願経験を語ってくれる。続いてのセッションは「英米の大学院の違いと進学先の選択」。 法学部出身でアメリカとイギリス両方の大学院に出願した経験を持ち、現在はオックスフォード大学に在学中の向山直佑さんの進行の元、英米の大学院のシステムの違いについて議論が行われる。最後に、文学部出身で今秋からオックスフォード大学に進学予定の広本優佳さんの進行で「必要とされる英語力と勉強法」についてディスカッションを通じて情報提供が行われる 。パネルディスカッション終了後は、残った時間で参加者との質疑応答のコーナーも設けられる予定だ。

 

▽基本情報▽

7月21日(日)14:00〜17:00、東京大学本郷キャンパス 工学部2号館213教室で。参加費は無料で、社会人の参加も可能。事前登録(推奨)は下記の米国大学院学生会ホームページより。

http://gakuiryugaku.net/seminar/1263

 

▽問い合わせ▽

社会連携本部卒業生部門

https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/alumni/support-programs/advisory.html

 

▽関連記事▽

さらなる「タフでグローバル」を求めて【MIT博士課程への進学】

中国人記者が見た日中文化の違い 同じ源流それぞれの進化

$
0
0

 日本と中国は一衣帯水の隣国だ。しかし伝統的な祝祭や食文化、民族構成などは大きく異なり、共通の文字である漢字についても、両国それぞれの特色が見られる。今回は、中国出身の記者が日本に来て感じた、日中文化の共通点や相違点をまとめた。

(構成:劉妍)

 

日本の中華料理は「和風」

 

料理に映る日中の文化

 

 まず、正月と端午の節句という伝統的な祝祭日を例に挙げる。日本では正月を祝う一方、中国では旧暦に基づき旧正月(春節)を祝う。旧暦であるため、春節の日付は毎年異なる。中国の春節には、真っ赤なちょうちんがあちこちに吊るされ(図1)、真っ赤な春聯や逆さまの「福」という文字が家々の窓や扉に貼られる。春聯とは、春節用の対となったおめでたい文句を書いた紙。逆さまの「福」は「倒福」と呼ばれ、逆さまを意味する「倒」と到着を意味する「到」の発音が同じことから、福が到着するということを表している。

 

(図1)中国・旧正月のちょうちん風景

 

 さらに中国の北方では、大みそかの夜、一家で歓談しながら水餃子を食べるのが伝統。対して南方では春巻きが大みそかに欠かせない食べ物となっている。

 

 端午の節句は、日本では新暦の5月5日に男の子の健やかな成長を祝う「こどもの日」だが、旧暦の中国では新暦より約1カ月遅れる6月に当たる。無病息災を祈念する日として認識され、ちまきを食べる他、邪気や害虫を駆除できるとされるヨモギを家の扉や窓に飾ったり、赛龙舟と呼ばれるドラゴンボートレースが開催されたりする。

 

 食文化について、餃子といえば日本では焼き餃子が主流だが、中国では水餃子が一般的だ。食べ残した水餃子は翌日焼かれることが多い。中国では水餃子を主食として食べるが、日本ではサイドメニューとして食べる点も対照的だ。中国の餃子は決められた具材がなく、個人の好みでニンジン・トウモロコシなどの野菜とキノコ類、肉類(牛・羊・豚など)を組み合わせる。調味料は、黒酢やラー油、ごま油、ニンニクの粉末、しょうゆなど。酢といえば日本では白酢が主流だが、中国の水餃子や鍋料理では黒酢が一般的だ。

 

 記者が日本に来て一番驚いたのは「お冷や文化」だ。中国ではほとんど全ての店が白湯を提供する。温かい飲み物は体の新陳代謝や胃の調子に良いとされるためだ。また日本では、中国には無い中華丼や冷やし中華といった中華料理が食べられていることにも気が付いた。中国ではあんかけご飯という料理はあるが、かける具材は特定されておらず、地域や個人の好みによって異なる。こうしたことから、中国と日本の中華料理は同じ源流を持つが、調味料や作り方が異なりそれぞれの風味を持っているといえよう。

 

 民族構成では、日本は少数民族の種類が比較的少ない一方、中国では壮族・回族などといった55の少数民族で人口が約1億2千万人にも達する。そのため、イスラム教徒である回族の食生活を配慮してほとんど全ての大学にハラール食堂が設置されているなど、各少数民族の文化は各所で尊重されている。

 

字の意味分かれど辞書必須?

 

実は多様な漢字の世界

         

 漢字は日中共通で用いられる文字だが、漢字と一口にいっても、現代の漢字は繁体字や簡体字、日本語常用漢字で構成されると考えられる(図2)

 

(図2)現代漢字の分類

 

 中国語繁体字である「圖書館」を例にとると、簡体字では「图书馆」、日本語の常用漢字では「図書館」とそれぞれ記される。日中はいずれも識字率の向上を図るため、書きやすい文字への簡略化に踏み出したが、同時に象形文字としての意味合いは薄れていった。さらに、日本語常用漢字の中には「峠」や「辻」といった、中国語に無い日本語国字も存在する。

 

 記者が日本語の勉強で難しいと感じたのは「同形異義語」だ。例えば、中国語で「先生」は男性に対して「○○さん」という意味で使われ、日本語の特定の職業に対する呼称と異なる。「愛人」という日本語は、中国語では「愛している人」という語意から配偶者を指す。日本語の「愛人」に当たる中国語は「第三者」という表現で、日本語の「第三者」は「第三方」という中国語に当たる。他にも、「勉強」は中国語で「無理して何かを行う」という意味。「強」という文字の書き方も微妙に異なり、簡体字では右上の部分が「口」である「强」となる。

 

 さらに、日中で形も意味もほぼ同じ「重用」や「健康」といった言葉も存在する。その一方で、日中いずれかでしか用いられない表現も。徹夜して仕事や勉強を行うという意味の「開夜車」は日本語に無く、「注文」という漢字の組み合わせは中国語に無い。中国だけで使われる表現としては、他に、料理を注文するという意味の「点菜」や、荷物を注文するという意味の「订购」などが挙げられる。

 

 さらに、日本語の「良妻賢母」という漢字表現は、語順が変化した「賢妻良母」として中国語に存在。日本語の「平和」は中国語では「和平」と表されるなど、文字の並び方にも注意が必要だ。助数詞の使い方も異なり、「本」は中国で書籍や雑誌を数える時に使われるが、日本では主に細長い物を数える時に使用される。中国語の「畳」は畳を数える時に「枚」と同じ意味で使われ、日本語の「畳」は音訳されてタタミという発音の「榻榻米」という漢字で表現される。

 

 以上のように、日本と中国の漢字表現は共通点もあれば相違点もあり、単純に区別することが難しい。記者は日本に来てから、漢字を母国語の意味で判断するのではなく、辞書で毎回確認する習慣を身に付けた。漢字や漢字表現は、日中それぞれの発展を遂げたことがうかがえよう。


この記事は2019年6月25日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を公開しています。

ニュース:衆参両院に請願書提出 英語民間試験利用中止の署名運動
ニュース:格下・学芸大に敗北 アメフトオープン戦 控え選手主体で
ニュース:男女平等に貢献した功績でフィンランドから 上野千鶴子名誉教授に感謝状
ニュース:縄文晩期の人口減少 ゲノム解析で証明
企画:論説空間 代理戦争を超えた見方も 朝鮮戦争から振り返る半島の歴史
企画:中国人記者が見た日中文化の違い 同じ源流 それぞれの進化
新研究科長に聞く:②法学政治学研究科 大澤裕教授
新研究科長に聞く:③総合文化研究科 太田邦史教授
推薦の素顔:小林留奈さん(文Ⅲ・2年→文)
東大CINEMA:『誰もがそれを知っている』
東大教員と考える日本の問題:宮尾龍蔵教授(経済学研究科)
火ようミュージアム:クリムト展 ウィーンと日本 1900
キャンパスガイ:古賀隆博さん(文Ⅱ・2年)

※新聞の購読については、こちらのページへどうぞ。

七大戦 東大6競技終え総合首位 少林寺拳法は8連覇逃す

$
0
0

 第58回全国七大学総合体育大会(七大戦)のバスケットボール(男女)、硬式テニス(男女)、少林寺拳法の3種目が6月24〜30日に行われ、東大は30日終了時点で47点の総合首位となった(表)。24日時点で東大は2位の大阪大学に5点差をつけ総合1位だったが、バスケットボールで男女共に6位。しかし、その後の硬式テニスで男子3位、女子1位、少林寺拳法で2位と好成績を収め、首位のまま6月を終えた。

 

(表) 七大戦(6競技終了時点)

 

 バスケは、男子が順位を一つ上げ6位、硬式テニスは前回から男子が一つ順位を下げて3位となったが女子は順位を二つ上げて優勝した。一方、前回まで7連覇の少林寺拳法は、大阪大学に敗れ2位に甘んじた。今回大会は、昨年月に始まり6種目が終了。76日に開会式が行われており、9月に閉会する。

TeaTime Tech Lab. 2019開催 情報系分野に興味を持ってもらうために

$
0
0

 6月8日、六本木ヒルズ森タワーにあるGoogle Japan本社で、TeaTime Tech Lab. 2019が開催された。TeaTime Tech Lab.とは、東大女子を対象に開催されるイベントで、プログラミング体験や女性エンジニアによる講演などを通して、女性が少ない情報系分野に興味を持ってもらうことを目的としている。今回は計7社の協賛を受け(末尾に一覧にて記載)、30人ほどの東大女子が参加し、情報系分野への理解を深めた。

(取材・撮影 上田怜、小田泰成、黒川祥江)

 

 

 初めに周囲の人と簡単な自己紹介を済ませた後、プログラミングを体験した。初心者は用意されたコードの一部を書き換えることから始め、プログラミングの基礎を学んだ。簡単なインベーダーゲームを完成させ、隣の人と対戦。単純なゲームではあったが、会場は盛り上がった。

 

 

 昼食後には、講演会と題し、各社の女性エンジニアが自らの体験を振り返りつつ、情報系に進んでよかったことや、学生のうちにするべきことを語った。文系学部から情報系の大学院に進学した人や、社内で理転した人などさまざまな道を歩んできた人がいたが、いろいろなことにチャレンジして自分の好きなことを見つけ、自分の武器は何かを見極めることが大切だという意見が多く出た。

 

 

 休憩の後には、参加企業の社員と学生3、4人がグループになって座談会が行われた。学生からは「インターンシップに参加する必要はあるのか」「学生のうちにやっておいた方がいいことはあるか」などの質問が多く出た。それらに対して社員側は「インターンシップを通して自分が働きたい業界を決めた」「英語とプログラミングの勉強が大事」などと自分の体験を交えながら答えていた。

 

 

 座談会と並行してGoogle本社のオフィスツアーが行われ、学生はGoogle社員の案内に沿って休日のオフィスを見て回った。美味しいと評判のカフェテリア、ボードゲームや卓球台が置かれた部屋など、興味深い施設が多く存在した。案内した社員は「楽しく仕事ができる環境が、いいサービスを提供できるという考えに基づいて作られています」と説明していた。

 

 最後に立食形式の懇親会が行われ、学生同士や参加企業と学生の間で話が弾んだ。積極的にコミュニケーションを取ろうとする学生が多く、学生同士のコミュニティー形成にも一役買ったようだ。

 

 このイベントを通して、女性エンジニアの実態を少しでも垣間見ることができたのではないだろうか。学生の中には、情報系に興味がある人もそうでない人もいたが、多くの人が「情報系に興味を持つようになった」「自分でプログラミングを習得してみようと思った」などと話しており、TeaTime Tech Lab. は彼女たちの道を広げる一助となったと言えるだろう。女性エンジニアらが語ったように「自分の個性を大切に」して多くの東大女子が情報系分野でも活躍することを願っている。

 

 

参加者の声

神谷優理さん(理Ⅰ・2年)

 知り合いに誘われて参加しました。最近自分でプログラミングを勉強し始めたところだったので、モチベーションアップになりました。多くの企業の方が、スキルがあれば転職という道も考えられるとおっしゃっていたのが印象的でした。

 

運営委員の声

林ゆりさん(理Ⅰ・2年)

 知り合いの運営委員に誘われたので、今年運営委員として参加しました。1、2年生には進学選択の参考となるように、3年生には将来の職業を考えるきっかけとなるように意識して準備しました。TeaTime Tech Lab. は初心者でも気軽に参加できるイベントなので、東大女子のためのアプリづくりコンテスト「東大ガールズハッカソン」へ橋渡しができたかなと思います。

 

協賛企業(五十音順)

アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社

ウルシステムズ株式会社

グーグル合同会社

ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社

日本マイクロソフト株式会社

LINE株式会社

株式会社メルカリ

2020年度進学選択希望集計 文Ⅰ→法また過去最低 理Ⅰ→工はV字回復

$
0
0

 2020年度進学選択の第1段階志望集計表が7月5日に発表された。法学部は文Ⅰからの志望者数が全科類枠設定以降最低を更新し、教育学部はほぼ全てのコースで前年度志望者数を下回った。8月15日〜20日の志望変更期間を経て、8月23日に第1段階の進学内定者が発表される。

 

 法学部への文Ⅰからの志望者数は2年連続で減少し323人で、全科類枠を設定した08年度以降で最低だった。学部全体の志望者数は377人と微増も定数を43人下回り、6年連続の定員割れの可能性がある。

 

 経済学部の志望者数は392人と前年度比24人増。文Ⅱからの志望者が14人、理Ⅰからの志願者が13人増加したことが主な要因だ。

 

 文学部への文Ⅲからの志望者数は13人減少し210人になった。群別では前年度志望者数を伸ばしたA群(思想文化)の志望者数が19人の大幅減。F群(歴史文化―美術史学)は13人→5人となった。文Ⅲ枠ではA群・B群(歴史文化―日本史学)・C群(歴史文化―東洋史学)・D群(歴史文化―西洋史学)・F群・G群(言語文化)が第1段階定数を下回っている。

 

 教育学部は14人→28人と倍増した基礎教育学コースを除く全コースで前年度の志望者数を下回った。基礎教育学・教育心理学コースを除く3コースの志望者数はコース定員以下。文Ⅲからの志望者数は72人→67人と前年度から微減した。

 

 PEAKを除く教養学部は、統合自然科学科物質基礎科学コース・学際科学科A群(科学技術論、地理・空間コース)を除く全コースで志望者を減らした。統合自然科学科統合生命科学コースは志望者数が8人となり、理科枠で第1段階定数を下回るのは2年連続、全科類枠でも5年連続に。PEAKには2コースで3人の志望者が集まった。

 

 工学部は全体の志望者数が987人で、3年ぶりに980人を超えた。前年度は124人→155人と大幅増だった理Ⅱからの志願者数は149人と微減。理Ⅰからの志望者数は784人と、6年ぶりに800人を割った前年度から増加した。学科別では建築学科が54人→82人と大きく志願者数を伸ばした一方、システム創成学科C(知能社会システム)コースが82人→53人に落ち込んだ。

 

 理学部の志望者数は4年ぶりに志願者数を増やした前年度から22人減って308人。一方生物学科は17人→24人と伸びを見せた。

 

 農学部の志望者数は210人と前年度より微減した。環境資源科学課程の国際開発農学専修が14人→28人と倍増したものの、環境資源科学課程の農業・資源経済学専修は前年度から12人減らして41人となった。

 

 薬学部の志望者数は前年度から19人増加した78人。理Ⅰ・Ⅲ枠は志望者数13人と前年度比5人増だったが、3年連続で第1段階定数を割り込んだ。文科から志望者が出なかったのは過去5年で3回目。

 

 医学部医学科への理Ⅲ以外の志望者数は23人で、前年度より4人増。健康総合科学科の志望者数は24人→11人とほぼ半減した。

 個人の特定を避けるため、内定者最低点は発表されない。進学選択参加者は全ての学部・学科で、自らの点数が志望者の中で何位相当かをUTAS上で確認できる。


この記事は2019年7月16日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナル記事を公開しています。

ニュース:文Ⅰ→法また過去最低 進学選択志望集計 理Ⅰ→工はV字回復
ニュース:自由こそ駒場流 教養学部創立70周年記念シンポ
ニュース:阪大に首位譲る 七大戦 柔道で惜敗
企画:2020年度進学選択第1段階志望集計表
企画:本人の意思に潜む罠 「尊厳死」を再考する
企画:東大スポーツ 2019春を総括
新研究科長に聞く:⑦教育学研究科 秋田喜代美教授
サーギル博士と歩く東大キャンパス:③駒場Ⅰキャンパス1号館
キャンパスガイ:髙橋昂汰さん(文Ⅱ・2年)

※新聞の購読については、こちらのページへどうぞ。

 

本人の意思に潜む罠 「尊厳死」を再考する

$
0
0

 7月3日総務省消防庁の検討部会が、心肺停止に陥った患者のかかりつけ医の判断で、救急隊の蘇生措置中止を認める方針をまとめた。「自宅で最期を迎えたい」「延命治療はしないで」といった声がある中、いわゆる尊厳死の是非や人の死の在り方、自己決定の功罪について検討する。

(取材・安保茂)

 

自己決定権の危うさ

 

小松 美彦(こまつ よしひこ)教授
(人文社会系研究科)
 89年理学系研究科博士課程単位取得退学。博士(学術)。東京海洋大学教授などを経て18年より現職。

 

 安楽死はその方法によって三つに区別される(表)。日本で尊厳死と呼ばれがちなものは、このうち「消極的安楽死」を指す。小松美彦教授(人文社会系研究科)は日本で「尊厳死」という語がこのように使われるのは、安楽死推進派市民団体の政治戦略の影響があると指摘。「安楽死を推進するに当たり当面は消極的安楽死に限定し、聞こえが穏やかな尊厳死と呼ぶようになり、それをメディアが踏襲したのです」

 

 

 治療の続行より死を選択する点で共通する安楽死と尊厳死だが、両者の違いは何か。安楽死と尊厳死は元来、動機が苦痛から逃れる「安楽」志向か、尊厳を奪われた惨めな状態から逃れる「尊厳」志向かの違いがある。動機が尊厳に根差していれば、医師による自殺幇助も積極的安楽死も「尊厳死」といえるため「いくらでも範囲が拡大し得る」と小松教授は語る。

 

 しかも現在、日本では「安楽死」「尊厳死」という語はあまり使われない傾向にある。2000年以降消極的安楽死(日本での尊厳死、以下尊厳死)は次第に「終末期医療」という語に置き換わった。そして現政府は終末期医療を「人生の最終段階における医療・ケア」と呼び経済財政政策の一環に位置付ける。小松教授は「終末期医療」は実質的に終末期に治療をしないことを意味し、従来の安楽死・尊厳死と同義だと指摘。政府による「人生の最終段階における医療・ケア」の普及活動は事実上安楽死・尊厳死の推進に当たるという。「本人らが真剣に延命治療中止を判断しても、政府からすれば医療費・社会保障費削減の一こまにすぎません」

 

 厚生労働省発表のガイドラインの変化(図1)も注意すべきだ。「本人に代わるものとして」の文言が加わり本人の自己決定による場合の他、家族らが代理人として決定し得ることを制度化している。さらに「家族」が介護施設職員などをも含む「家族等」に変わり、「治療方針」が必ずしも治療を前提としない「方針」へ。他にも「患者」が傷病者以外も含む「本人」へ置き換わるなど、尊厳死の対象を拡大する意図が見て取れると小松教授は述べる。

 

 

 安楽死・尊厳死の根底にある「自己決定権」についても検討が必要だ。小松教授は自己決定権を「死への誘導装置」だとし、ナチスの優生政策が「本人の明確な要請」と要請能力がない場合の「代理決定」に基づいて行われたと分析。さらに「本来死は死にゆく人と看取る人との関係性の中にあるが、自己決定権はその関係性を捨象した上で成立する概念だ」と自己決定権によって死を選ぶことの限界を指摘する。

 

現場に残された課題

 

米村滋人(よねむら・しげと)教授
(法学政治学研究科、医師)
 00年医学部卒。04年法学政治学研究科修士課程修了。修士(法学)。東北大学准教授、法学政治学研究科准教授などを経て17年より現職。

 

 本人が望まなければ延命治療を中止する、という考え方は一般論では間違っていない。しかし実際の医療現場で尊厳死を運用するとなると、医療関係者と患者の両方からの問題がある、と米村滋人教授(法学政治学研究科)は述べる。

 

 がん末期の高齢者が肺炎にかかった場合、肺炎はがんと別の原因から生じることが多いため、医師は治療を試みる。その患者が治療を望まないとしたら、医師は合法的に治療を中止できるのか。「医療関係者の立場からすると、個別具体的に目の前で起きていることが尊厳死に当たるか否かを判断するのは難しい」と米村教授。一方、本人は延命治療を希望していても、家族の経済事情など別の要素を考慮して患者が延命治療を望まない意思表示をすることもあり得る、という懸念も根強い。

 

 日本の法律では本人が示した意思に沿っているからといって、治療の中止が許されるわけではない。米村教授は、どのような客観的条件があれば生命短縮が許されるのかうまく説明できていない、と尊厳死法制化の課題を分析。「今までの議論は尊厳死の正当化に当たって、本人の自己決定に寄り掛かり過ぎていた。日本では本人が希望しても殺人行為は犯罪(嘱託殺人罪)ですが、これとの区別が不明確になっています」

 

 終末期という語の定義も難しい。米村教授によれば終末期の迎え方は4パターンあるという(図2)。従来の議論はがん末期などの①を念頭に置いており、このパターンでは比較的終末期の判断はしやすい。しかし③であれば、症状が悪化した段階では治せる可能性も患者が死亡する可能性もあり、判断が極めて難しいと米村教授は語る。

 

 

 

 現行制度では、一度人工呼吸器を付けてから取り外すのは作為の殺人罪に当たる可能性がある一方、初めから人工呼吸器を付けなければ罪に問われない傾向にある。刑事責任を恐れる医師たちは、症状が悪化した際治る可能性が残っていても治療を開始しないケースが多いという。米村教授は「治る可能性が少しでもあればそれを追求するのが医療のあるべき姿。回復の見込みがないと分かった時点で、本人・家族の意向に沿い治療を中止できるようにすべき」と、柔軟な制度の必要を訴える。

 

 生死に関わる尊厳死を巡る問題は世間的に関心が高いはずだが、現状の議論に参加しているのは一部の人に限られている。米村教授は、その少数の人が見てきた医療や法律問題だけが議論の前提とされていると指摘。「実際にはモデルケースのように単純な場合だけではないので、決め打ちで考えるのは不適切です。幅広い人が加わり、いろいろな場面を想定して制度を議論する必要があります」

 

終末期への過程に目を

 

西村 ユミ(にしむら・ゆみ)教授
(首都大学東京)
 00年日本赤十字看護大学博士後期課程修了。博士(看護学)。大阪大学准教授などを経て12年より現職。

 

 尊厳死を巡る議論の問題は「病気で苦しくなったら」「自分で判断できなくなったら」など最終局面を過大に捉えている点だと西村ユミ教授(首都大学東京)は語る。患者の痛みを和らげたり心理的負担を減らしたりして患者をサポートする看護学の立場からは、終末期に至る過程を最重視すべきだという。実際、健康な時に延命治療を拒否していた人が重病にかかった場合、病気が進行していく中で「やはり生きていたい」と思うようになるケースがある。「『終末期にこうなったら尊厳死を認めてほしい』という発想は、終末期に至る過程の重要性を見落としていると思います」

 

 なぜ闘病の中で終末期を巡る価値観や気持ちが変わり得るのか。西村教授は、関係者による途切れることのない丁寧な関わりや経済的支援などの社会資源を要因に挙げる。本人の家族だけでなく、思ってもみなかったさまざまな人に力を借りることで、情報や感情を共有できるコミュニティーが広がる。西村教授は「本人の家族以外のいろいろな人に助けられながら生きるのも選択肢」だと述べる。

 

 「依存」というとどこか悪いイメージがあるかもしれない。だが健康な人でも、完全に一から食事を作ったり情報を集めたりできるわけではなく、生きている以上常に誰かに依存していると西村教授は指摘。「依存の度合いが増えるだけと考えれば、終末期だからといって簡単に死を選ぶことはないはずです」


この記事は2019年7月16日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナル記事を公開しています。

ニュース:文Ⅰ→法また過去最低 進学選択志望集計 理Ⅰ→工はV字回復
ニュース:自由こそ駒場流 教養学部創立70周年記念シンポ
ニュース:阪大に首位譲る 七大戦 柔道で惜敗
企画:2020年度進学選択第1段階志望集計表
企画:本人の意思に潜む罠 「尊厳死」を再考する
企画:東大スポーツ 2019春を総括
新研究科長に聞く:⑦教育学研究科 秋田喜代美教授
サーギル博士と歩く東大キャンパス:③駒場Ⅰキャンパス1号館
キャンパスガイ:髙橋昂汰さん(文Ⅱ・2年)

※新聞の購読については、こちらのページへどうぞ。

【東大新聞オンラインPICK UP】〜研究編〜 興味の数だけ広がる世界

$
0
0

 年に一度、東大が全学部の研究内容を公開し、東大を目指す人に学生や教員と交流する機会を大々的に提供するオープンキャンパス。普段なかなか知ることのできない世界を味わえるこの2日間に、特別な関心や期待を寄せる人も多いだろう。そこで今回は、東大新聞オンラインで過去に公開された記事の中から、東大の興味深い研究に関するものを多分野にわたって紹介する。気になる記事はぜひ本文を読んでみてほしい。

 

 まずは東大ならではともいえる、その道の「第一人者」の研究だ。記事「【東大教員からのメッセージ】河合祥一郎教授インタビュー 現場から入ったシェイクスピアの研究」では、シェイクスピア研究で活躍する河合祥一郎教授(総合文化研究科)に、自身の研究や東大を目指す高校生へのエールを寄せてもらった。友人たちと文学研究会を立ち上げるなど、高校時代から文学や演劇に熱中したという河合教授。大学に入ると、演劇や劇場での英語の通訳を通してさらに演劇の世界にのめり込んだ。自分の純粋な興味がどのような経緯で学術的な関心へと発展したのか、実践的な経験と研究がどのように関連しているのか。現在の研究内容も交えながら自身の研究の道のりを明かす言葉からは「自分の好きなこと」を探究する極意を知ることができる。

 

 「学際性」も東大のレベルの高さや自由さ故の大きな魅力。記事「【東大教員からのメッセージ】鄭雄一教授インタビュー 工学からひもとく道徳の構造」は、学際性という観点から東大の強みに焦点を当てる。骨を研究する「骨博士」として有名な鄭雄一教授(工学系研究科・医学系研究科)は、細胞を使い、欠損した組織を補う組織工学を研究。さらに工学の研究から獲得した視座を応用し、道徳の構造のモデル化にも取り組む。文理の枠にとらわれず幅広く知識を吸収したという鄭教授が、「道徳」をキーワードに異分野融合の醍醐味(だいごみ)を語る。

 

 現代社会の問題に学問的知見から切り込む研究も。記事「表象文化論の専門家・田中純教授インタビュー 情動の政治利用を暴け」は、SNSでの意見の分裂など、さまざま

 

な表現に潜む情動と政治性の関係への気付きを提供する。表象文化論が専門の田中純教授(総合文化研究科)は、芸術表現の内容や制作に至る時代背景や経緯などを多面的に考察。例えば、ドイツのナチズムについて。ナチ体制は「伝統」の名において中世ドイツや古代ギリシャの文化を自らの権力の根拠付けに利用したが、それは人々にはるか昔から価値を持つものという印象を与える、と田中教授は指摘。表現に含まれるそれらの意図や政治的な背景に惑わされない態度へと議論を発展させる。

 

 記事「西成活裕教授インタビュー 渋滞学・無駄学の第一人者に聞く 流れを見渡す重要性」は独創性あふれる研究の過程を紹介。もともとは航空宇宙工学を専攻していた西成活裕教授(先端科学技術研究センター)。修士課程2年生の時に転機が訪れ、最終的に渋滞の仕組みを学術的に解明しようと決心した。現在はその知見を生かして東京オリンピック・パラリンピックの委員としても活躍。どのような経緯で、それまで誰も対象としていなかった「渋滞」を研究しようと思ったのか、研究者としてのモットーは何なのか。西成教授の学生時代を追いながら、独創性の源に迫る。

 

 学問の対象に限界はない、と言っても過言ではない。記事「『初音ミク』10周年 知れば知るほど奥深いボカロの世界」で紹介される通称「ぱてゼミ」は学生からの人気も高い。東大卒で初のボカロP・音楽評論家としても活躍している鮎川ぱてさん(教養学部非常勤講師・先端科学技術研究センター協力研究員)がボカロを多面的に分析。ジェンダー論や記号論、精神分析を用いてボカロの隆盛を研究している。ツイッターを使った講義の実況を認めるなど、斬新な授業スタイルも話題。前衛的な研究の存在は、東大の知の豊かさを象徴しているといえよう。関連記事「初音ミクでエンタメはどう変わったのか? 東京大学初のボカロPによるゼミに迫る」もお薦めだ。

 「東大新聞オンラインPICK UP」は東大新聞オンラインに掲載された過去の記事から、特定のテーマに沿ったお薦めの記事を紹介するコーナーです。

 

【東大新聞オンラインPICK UP】

【東大新聞オンラインPICK UP】〜恋愛編〜 バレンタインデーに備えて

【東大新聞オンラインPICK UP】〜留学編〜 心機一転のチャレンジを

 


研究と実社会で示す存在感 知られざる「地学」の魅力に迫る

$
0
0

 地震、火山災害の頻発などで地球科学分野の社会的な重要性が増している。また、はやぶさ2の開発などを背景に宇宙科学分野への関心も高まっているといえるだろう。このように地球、宇宙を軸とした科学を学ぶのが「地学」という科目だが、履修する高校生は理科の他科目より少ない。今までに「地学」をあまり学べなかったと感じている学生もいるのでは。本企画では東大教員2人に取材し、研究と教育の両面から「地学」の魅力を探る。

(取材・小原寛士)

 

研究面 「夢の追求」と「社会貢献」を両立

 

 高校時代に理科4科目の中で物理、化学、生物は受講したが地学の授業は受けなかったという読者もいるだろう。大学入試センター試験への理科基礎科目の導入により増加したものの、高校の「地学基礎」の教科書採択数は「生物基礎」の3分の1未満。センター試験での選択者数も他の科目を下回り、主に理系が選択する専門科目では特に少なくなっている(図)。地学は他の科目に比べて学ばれていないといえるだろう。

 高校の「地学」は地質学、大気環境学、天文学など地球、宇宙を対象としたさまざまな学問領域を含む。今回は地球環境中での物質の挙動を扱う地球化学が専門の高橋嘉夫教授(理学系研究科)に話を聞いた。

 

 高橋教授は地学が高校で学ばれていないことは、この分野の裾野を広げる上で問題だと認識している一方で「地学は物理、化学、生物を基礎に成り立つ分野なので、独立して教育がなされる必要性は必ずしも感じていません」と語る。ただ、高校で教えられないことで他分野より軽視される恐れはあるため、その重要性を訴える必要はあるという。「地震・火山や気候・環境・資源問題を扱う地学は、21世紀で最も重要な科学分野の一つだと思っています。ただ名前が悪く、その広がりを表現するには『地球惑星科学』と呼ぶべきかもしれません」

 

 ある程度科学の基礎が身に付き、応用に移れる前期教養課程の学生には、授業などで地学の面白さを積極的に伝えているという。「私の講義は高得点が取れると噂が広がったようで受講者が増えましたが(笑)純粋に面白いと思って受けてくれる学生も多いです。訴えれば人は集まってくれると手応えがありました」。今後は高校生など、さらに下の世代へ研究の面白さを周知することも課題になるという。

 

 地球化学の魅力は「夢を追求する研究と、社会貢献につながる研究の両方ができること」だという。高橋教授は学生時代に社会問題となっていたオゾン層破壊に関心を持ち、地球化学を志した。オゾン層破壊の原因物質はフロンだ。フロンは安価で人間に直接の害がなく、化学的に安定した気体であるため、冷媒や洗浄剤として世界中で使われていた。しかし、環境中に排出されたフロンは成層圏に到達すると紫外線で分解し、発生した塩素ラジカルがオゾンを分解し、有害な紫外線が地表へ到達するのを防いでいたオゾン層を破壊することが判明した。フロンは安定な物質であるがために利用されてきたのだが、そのために成層圏に塩素を運び、その塩素1つ当たり数万分子のオゾンを分解する。ミクロな分子の反応が地球規模の環境変動に大きく影響していることが感じられ、高橋教授も地球化学の重要性を知るとともに興味深い魅力的な学問だと思うようになったという。「物質が環境中でどんな動き・働きをするのか解明することは単純に面白いですが、その知見が環境問題の解決のために必要になると、別の意味でやりがいが出てきます」

 

 高橋教授が現在取り組む「役に立つ研究」の一つが原発事故で放出された放射性物質の挙動解明だ。高橋教授らは、被災から約1カ月後の福島県内の土壌を採取し分析したところ、代表的な流出放射性物質であるセシウムの9割は地表から5センチ以内に含まれていることを発見。通常、セシウムのようなアルカリ金属は水に溶けやすいため、その理由をミクロな物質の特性に注目して考察した。

 

 結果、イオン半径の小さなストロンチウムが雨水とともに流出されやすいのに対し、イオン半径が大きなセシウムは土壌中の粘土鉱物に捕捉されて侵食により流出することが分かった。さらにセシウムを含む土壌粒子は、川の流れで運ばれて海水中の高塩濃度環境による塩析効果で河口付近に凝集・沈降することも解明された。「このような放射性物質の挙動が解明されたことで、除染の計画が立てやすくなりました」

 

 環境中の放射性物質の挙動を調べた研究はチェルノブイリ原発事故の際にも行われた。しかし、チェルノブイリ周辺は多量の有機物を含む泥炭湿地で粘土鉱物が少ないため、福島のように土壌に捕捉されたセシウムは少なかったという。類似した環境問題でも、起こる地域の自然環境によって全く違う影響が出ることが分かってきた。

 

 地球環境を専門にしたい学生に対し、高橋教授は「応用を視野に入れつつ、基礎となる分野を固めること」をアドバイスする。高橋教授が学生時代に専門的に学んだ化学は、現在も基礎になっているという。「大学教員は数十年間にわたって世界最先端の研究を続ける必要がありますが、そのためには基礎的な学問を固めておく必要があります。基礎があれば、純粋な夢のある科学を追及しつつ、一方で社会問題の解決に貢献することもでき、やりがいが得られると思います」

 

高橋 嘉夫(たかはし よしお)教授

(理学系研究科)

 97年理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。広島大学教授などを経て、14年より現職。

 

教育面 文理問わず身に付けるべき分野

 

 教育の面では、地学はどう扱われているのか。前期日本学術会議で高校理科教育検討小委員会の委員長を務めた須藤靖教授(理学系研究科)は「物理・化学・生物は扱う対象が明確でまとまりがあるのに対し、地学は気象、地震、地質や火山、さらに天文などさまざまな分野を含む点で異質です」と話す。そもそも地学は応用的な分野であり、まだ専門の決まっていない学生に教えなくても支障がなく、大学で専攻する際に学べば良いと見なされているという。「多くの大学には工学部がありますが、普通科高校で工学が教えられていないのと似た状態です」

 

 一方で「地学は科学リテラシーを高めるためにも国民に広く教えられるべきです」と須藤教授は指摘する。「日本では災害が頻発していることを考えると、理系か文系かを問わず誰もが身に付けておくべき分野は地学かもしれません」

 

 須藤教授は、地学など応用的な分野も含めて科学を総合的に扱う「理科基礎(仮称)」の創設を提唱している。「大学進学率が約5割で、そのうち理系が約3割だとすると、約85%の人にとって理科を学ぶ最後の機会は高校なのです。高校では彼らに最低限必要な科学リテラシーを教えるべきです」。理科基礎では、従来の物理の公式などの暗記事項偏重の解消が図られる。「理科の暗記でつまずいて、その後科学全般に苦手意識を持っている人が多いことこそ問題です」。物理学で記述される素粒子が集まってできる元素、それらが化学的に結合した分子や多様な物質、さらには生物といった、理科の分野にとらわれない「世の中の仕組み」を教えることを目指すという。「確実な学習を促すためには、現実的な手段として入試での出題も必要になるでしょう」。より専門的な教育が求められる理系進学希望者に対しては、その上に専門科目を教える方針だという。

 実際に「理科基礎」を導入しようとすると課題も考えられる。「文系の先生方は賛同してくれるのですが、高校理科の現場の先生は専門外の分野をも教えることになり、負担が増えます。現状でも理科の教員免許は共通なのでどの科目でも教えられるべきなのですが、現実はそうではない。先生方への対応にも工夫が必要でしょう」。他教科、例えば地理歴史科は近代史が独立した科目となるなど、柔軟な再編が進みつつある。「理科は積み上げ型の教科で、途中から教えることができず難しい面はありますが、分野にとらわれず総合的な科学を教えられるような再編を議論すべきです」。小委員会でも同様の提案がなされており、今後は議論の叩き台となり得る教科書の作成も目指すという。

 須藤教授は地学に限らず科学研究を志す学生に「特に専攻を決めていないときにこそ幅広い分野を学んで視野を広げるべきです」と助言する。「理系で違う専門のみならず文系も含めて広く友達を持っておいてください。研究を始めると同じ専門内の狭い価値観に閉じてしまいがちです。むしろそれ以外の友人との議論が有益となります」

 

 基礎を確実に押さえつつ、さまざまな応用の分野を知って自分が興味を持てる分野を見つけることが大事だろう。その際に、高校以前でよく学べなかったからこそ大学以降で、基礎研究の世界と実社会両方に関わる地学の世界をのぞいてみてはいかがだろうか。

 

須藤 靖(すとう やすし)教授

(理学系研究科)

 86年理学系研究科博士課程修了。理学博士。理学系研究科助教授などを経て、06年より現職。

 

この記事は2019年7月9日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナル記事を公開しています。

本郷書籍部、10月中旬ごろから仮店舗営業へ 第2食堂耐震改修工事で

$
0
0

 東大生協は710日、本郷キャンパス第2食堂建物で耐震改修および外壁補修工事が行われる10月中旬ごろから20202月上旬ごろまでの間、同建物1階の本郷書籍部を仮店舗で営業すると発表した。仮店舗では店頭に置かれる書籍の冊数が減少するものの、大学生協書籍インターネットサービスを通した書籍の注文や、研究室への書籍の配達は従来通り実施する。同建物2階の第2食堂・トラベルセンター・組合員センターは、改修工事中も通常通り営業を続ける。

 

 本紙の取材によれば、仮店舗の場所や具体的な営業期間は、10月中旬に実施される入札で工事業者が決まった後に確定する予定だ。工事業者との調整の結果、工期が短くなり、仮店舗での営業を余儀なくされる期間が短縮する可能性もあるという。

 

 工期は、準備に約1カ月かかる教科書・参考書販売への支障が最小限になるように設定。本郷書籍部の竹原昌樹店長は、19年度Aセメスター・20年度Sセメスターいずれもセメスター初頭に店頭で通常通り教科書・参考書を販売できるタイミングを選んだと説明する。

 

 仮店舗の規模によっては、一部の教科書・参考書が店頭に置かれず、大学生協書籍インターネットサービスを通した注文のみの対応となる可能性もある。竹原店長は、改修工事の開始前に教科書・参考書を購入しておくよう呼び掛けている。


この記事は2019年7月30日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナル記事を公開しています。

ニュース:東大「不正はなかった」 早野名誉教授らの論文不正疑惑の調査結果公表
ニュース:10〜2月は仮店舗営業 本郷生協書籍部 第2食堂建物耐震改修で
ニュース:思春期に身近な人を重視するほど自殺考えづらい
企画:「若手研究者・学生への支援を充実」 目白台インターナショナルビレッジ
企画:「学歴社会」は本当か 採用に用いられる学歴フィルターとは
企画:本郷で味わう本場の味 中華料理店4選
推薦の素顔:河村若奈さん(文Ⅰ・1年→法)
ひとこまの世界:ネコカフェでホッと一息
著者に聞く:常松祐介さん『古いのに新しい!リノベーション名建築の旅』
火ようミュージアム:クリスチャン・ボルタンスキー – Lifetime
キャンパスガイ:遠藤一樹さん(文Ⅱ・2年)

※新聞の購読については、こちらのページへどうぞ。

猪子寿之さんが語る、チームラボのアートが目指すもの

$
0
0

  デジタル時代の新しいアートの担い手として近年注目を集める「アート集団」チームラボ。2018年にはお台場に常設美術館「チームラボボーダレス」をオープンしたほか、豊洲で「チームラボ プラネッツ」を開催し、どちらも1年も経たないうちに来場者数が100万人を突破するなど、一種の社会現象を巻き起こしている。

 

 最新のデジタル技術を使い鑑賞者も作品の一部となるような幻想的な作品空間を生み出すチームラボ。弊社が8月2日に発行した受験生向け書籍『現役東大生がつくる東大受験本 東大2020 考えろ東大』では、そんなチームラボの創業者で東大の卒業生でもあるチームラボ代表の猪子寿之さんに、東大受験や東大生活の思い出を聞いたインタビューを収録した。今回は書籍に収められなかった、チームラボの活動を通して目指す世界や、今後のチームラボの展望についての猪子さんの話を掲載する。

 

(取材・高橋祐貴 撮影・西丸颯)

 

 

──チームラボの創業当初から、アートをやりたいと猪子さんは考えていたのでしょうか

 

 サイエンスかアートがやりたかったんだね。でもデジタル領域のサイエンスって何なのか良く分からなくて。新しいコンピューターを作るとかになるのかな?

 

 サイエンスって何かというと、今まで見えなかったものが見えるようになる営みでしょ。長い歴史の中で、サイエンスによって人類の認知する領域は広がってきた。子供の頃は見える領域を広げるサイエンスの営みが楽しかったんだけど、大人になると、もう見えてない領域って原子よりも小さい素粒子の世界の話とか、あるいは宇宙の果てがどうなってるかって話とかになってきて、ちょっと僕の肉体と遠すぎたんだよね。もちろんこういう世界を見えるようにするって素晴らしいことだし、やってる科学者の人たちは本当に尊敬するけど、僕はやらなくてもいいかなと思って(笑)。

 

 対してアートは世界の見え方を変える営み。アートの方も良く分からないものではあるんだけども、僕はこっちの方が知りたくなったんだ。人間は美によって動くと思うんだよね。美は合意が取りにくいから、合意を取らなければならない組織は美ではなく論理で動く。しかし個人については、あんまり論理で動いてることってなくて、個人の美意識に基づいて行動を決定する場合の方が、圧倒的に多いわけ。例えば君が東大新聞で活動してるのって、何らかの合理的な理由からなのかな?

 

──メインの理由は「ただ活動が楽しい」ってところなので、あまり合理的ではないですね

 

 だよね。とか、君がその横縞のセーターを着てるのだって、保温とか被覆とかが目的なら無地の安いシャツを買えばいいわけで。

 

 

 そういう風に考えると、美って人間の行動を決める最大の要因とも言えるかもしれない。にも関わらず、美って何なのか、誰にも説明できないわけだ。

 

 アーティストっていうのは、何かを作ることでそれまで美だとは考えられてこなかったものを美にしてしまう「美の概念を拡張する」ことをした人だと思うんだよ。美が何なのか分からない上に、アートって行為は、その分からないものの領域を今はまだそうではないところに広げていく行為なわけで。もう本当に「わっけ分かんないな!」って思って(笑)。それでアートを知りたいと思ったんだね。

 

 動物的な美ってのはすごく説明がしやすい。つまり性対象への感覚だ。たくさんの人の顔を合成すると美人ができるという話があるように、そこでの美というのは見たものの平均値なんだよ。なぜ平均値なのかといえば、遺伝子欠損が一番少ないことが予期できるから。動物的美はとどのつまり、生殖におけるリスクヘッジなんだね。

 

 ところが、これが人間の美となった瞬間に、意味が分からなくなる。花みたいな、遺伝子的にものすごく遠い、どう考えても遺伝子結合できない対象を美しいと思うのは、生殖だけじゃ説明できないでしょ。これはもうある種の奇跡なんじゃないかって僕は思う。自然を美しいと思う気持ちから、自然を畏敬するような宗教が生まれて、例えば都を作るために木を切ったらその分ちゃんと新しい木を植えるなどして、人類は自然を大切にしてきた。これが時代時代で、その瞬間だけの合理性に基づいて行動してたら、ただただ自然破壊だけが進んで、人類は滅んでいたかもしれない。

 

 

──美を拡張する営みとは具体的にどのようなものなのでしょうか

 

 例えば、デュシャンが便器を置いて、人々はそれがアートかアートじゃないか、議論しちゃったわけだよね。で議論したから、もしそれがアートになるなら、それをアートたらしめるものってコンセプトしかないわけで。デュシャンの作品でコンセプチュアル・アートっていうものが生まれた。

 

 今の時代、ビジネスをやるにしたって、「新しい企画のコンセプトは何か」って求められるようになっている。それって「コンセプトがある方がビジネスは上手くいく」なんてエビデンスはどこにもないのに、我々が無意識のうちに「コンセプトがある方がいいよね」って思っているから。これはデュシャンが便器を芸術にしたから、「コンセプト」ってものが人間の美の概念に入ったってことなんだよ。

 

 

 西陣織なんてデュシャンが登場する前の当時めちゃくちゃ売れてたわけだけど、そこにコンセプトなんかあるわけない。ところが今じゃファッションブランドを新しく立ち上げようと思ったらコンセプトの話をするし、「今年のパリコレのコンセプトは〜」と言うでしょ。みんなコンセプトがあった方が美しいと思ってるんだよ。これが美の拡張ということ。

 

 他には、ピカソがキュビズムで多視点からものを見た方が美しいと示したことで、人類は今ある美の視点だけで世界を見るのは恥ずかしいと思うようになった。でも単一の視点から見た世界に比べて多様な視点がある世界の方が人類の生存確率を上げる上で合理的だなんてエビデンスがあるわけじゃない。ただ多様な視点を認めた方が美しいから、多様性を認めようって動きが出てくる。それで人類社会は、ピカソ以前の時代に比べてベターになってるよね。

 

──猪子さん自身は、チームラボのアート作品を通じてどのように美の概念を拡張していきたいのでしょう

 

 一つものすごく分かりやすいところでは、「物質として実在するかしないかはものの価値に関係ない」という価値観を広げること。ギャラリーを通して、チームラボのアート作品を売っているのだけれど、 買った側は、ハードディスクのデータだけを渡されるわけ。もしかしたら渡された側は一瞬「うっ」って思うかもしれない。でも「そのハードディスクの中身で感動が生み出せたり空間がより美しくなる」ということに納得してもらえれば、それは一つの価値観の更新だよね。これが一番低いレイヤーの話。

 

 もう少し高いレイヤーの目標だと、連続していることこそが美しいという価値観を広げること。世界は、本当は全て連続しているんだけど、人は文明が複雑化するにつれて、まるでものが独立して存在しているかのように思い込むようになってしまった。例えば、あるチョコレートのお菓子は本当は小麦やカカオといった生き物からできていて、その原材料は自然の中で他の生物や環境との連続性の上で生きてるはずなんだけど、食べる時にはなぜかそのお菓子は独立した存在のように思い込んでる。

 

 これは美に関しても同じことで、「美しいものはなに?」って聞かれたら、例えば「赤いバラ」って答えるみたいに、分節され独立した存在が美の対象だと人間は無意識のうちに思っている。それがおかしいなと思って、「境界がない」ことがクールだって概念を広めたかったんだ。「あれ、この絵の中身そっちに出ていかないの?この芸術には境界があるの?」って(笑)。

 

 

 お台場のチームラボボーダレスでは、作品同士の境界も良く分からないし、鑑賞者と作品がインタラクションするし、もうぐっちゃぐちゃなわけだけど、あそこに何度も通う子供がいたら「芸術は境界を持たないものなんだ」って認識するようになると思わない?ボーダレスに薫陶を受けた子供がMoMA(ニューヨーク近代美術館)とかで作品を見て「あれ?この絵動かないの?触っても変わらないの?」ってなったら、めちゃくちゃ面白いでしょ。

 

 世界は本当は連続性の上で成り立ってるのに、人間個人の脳ではそれを認知できなくなってるのが現代社会。だから連続性を意識できていたら出てこないような発言をする人がいる。「連続性が美しい」って概念が広まればみんな自然とその価値観を抱擁できる。そうなったらいいなって思ったんだよね。

 

──今現在チームラボが展開している作品には、そうした目標はどのように反映されているのでしょうか

 

 チームラボボーダレスの何が美しいかというと、個別の作品ではなく「ボーダレス」そのものが美しいんだよね。あそこの作品は、もともとは全部別の作品だったんだよ。作られた時期もコンセプトもまるで違う。でもそうした多様な作品が境界なく連続している空間そのものが美しい。そこにボーダレスの醍醐味(だいごみ)があるよね。

 

teamLab
Exhibition view of MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: teamLab Borderless,
2018, Odaiba, Tokyo
© teamLab

 

 豊洲のチームラボプラネッツは、作品同士というより「自分と世界の境界線」がなくなる美しさを作りたかった。

 

teamLab,TheInfiniteCrystalUniverse,2015-2018,InteractiveInstallationofLightSculpture,LED,Endless,Sound:teamLab
©teamLab

 

 佐賀県武雄市の御船山で毎年夏に開催している「チームラボ かみさまがすまう森 – earth music&ecology」も境界線を意識してるんだけど、こちらは時間の境界線がテーマ。時間って、本来連続しているもののはずなんだけど、時間の認識には境界があって、人は自分が生きた時間で区切りをつくってしまう。例えば10年前は今との連続性を感じるよね?でも生まれる前、例えば太平洋戦争の時代って今から切り離された別世界の話みたいに感じるでしょ。僕だったら40年くらいは連続性のある時代として感じられるけど、それが70年になると、そんな時間的に変わらないはずなのに、断絶したものに感じてしまう。江戸時代なんかまるでフィクション。こんな風に時間の連続性に対して自分が存在している認識の境界を、越えられたらいいなと思ってるんだよね。長い時間の連続性の上に今の自分が立っているってことを体感できる場を作りたいと思って御船山でインスタレーションをやってる。

 

teamLab,Drawing on the Water Surface Created by the Dance of Koi and Boats–Mifuneyama Rakuen Pond, 2015, Interactive Digitized Nature,13min 24sec, Sound:Hideaki Takahashi
©teamLab

 

──今後、チームラボの目標を達成するために、何か新しい動きなどは予定しているのでしょうか

 

 いや、だから今やってることを連続させていくってことだよね(笑)。

 

 まだ国は言えないんだけど、今年は海外の大都市2か所にチームラボボーダレスみたいな常設美術館がオープンするし、来年もさらに海外の3都市に展開する予定なんだ。僕自身、世界にとって、人類にとって意味があることが死ぬまでにできればいいなと思ってるから、世界中で作品を発表していくつもりです。

猪子寿之(いのこ・としゆき)さん
チームラボ代表。1977年生まれ、徳島市出身。2001年東京大学工学部計数工学科卒業と同時にチームラボ創業。大学では確率・統計モデルを、大学院では自然言語処理とアートを研究。

 

※現在発売中の『現役東大生がつくる東大受験本 東大2020 考えろ東大』では、猪子さんに東大入学後の東大への失望と焦り、学生時代の海外遊学での気付きを経てチームラボ創業に至るまでの経緯を聞いたインタビューを収録しています。他にも受験生でない方にとっても面白い情報満載の書籍ですので、ぜひ合わせてご覧ください。

 

チームラボ

東京・お台場に《地図のないミュージアム》「森ビルデジタルアートミュージアム:エプソン チームラボボーダレス」を常設。2020年秋まで東京・豊洲に《水に入るミュージアム》「チームラボ プラネッツ TOKYO DMM.com」、2019年8月24日までTANK Shanghai(中国・上海)にて「teamLab: Universe of Water Particles in the Tank」を開催中。2019年7月12日から九州・武雄温泉の御船山楽園にて「チームラボ かみさまがすまう森 – earth music&ecology」開催。

http://teamlab.art/jp/

本郷で味わう本場の味 中華料理店4選

$
0
0

 本郷には多くの中華料理店が立ち並び、中華を食べようにもどこに入るか悩ましい。今回は、その中でも記者お薦めの4店舗を紹介する。ぜひお店選びの参考にしてみてほしい。

(取材・伊得友翔)

 

一番餃子

 

 

 赤門を出て信号を渡り、右に進むとすぐ見えてくるのが一番餃子だ。「辛さと品質が自慢の激辛料理」と書かれた赤い看板が分かりやすい。店内は広々としており、席数は50席ほど。陽気な店主にお薦めを聞くと、やはり「餃子が一番」と笑顔で答えてくれた。

 

 

 言われた通り「一番野菜焼餃子」と「一番鉄鍋棒餃子」を注文。野菜焼餃子はオーソドックスな焼餃子で、皮がもちもちとしており、形は平たく食べやすい。一方、鉄鍋棒餃子は鉄鍋に入った熱々の状態で登場。やけどに注意しながら口に運ぶと、なじみのない食感に気付く。中には春雨が入っており、硬めの皮の食感に程良いアクセントを加えている。

 餃子の他には、大盛り土鍋ご飯や鶏の唐揚げ炒飯も店の一押し。後者は大盛り無料となっており、セットで安く餃子やビールを楽しむこともできる。辛さや品質だけでなく、一品で満足できる量の多さもこの店の大きな特徴。中華料理をがっつり食べたい時などに訪れてみてはいかがだろうか。気さくな店主が笑顔で迎えてくれるはずだ。

 

辛四川

 

 

 本郷三丁目駅から徒歩2分。春日通り沿いの建物2階にあるこの店は、その名にたがわずメニューには麻婆豆腐やよだれ鶏、担々麺と辛そうな料理がずらり。「小辛」から「地獄」まで、5段階の辛さを選ぶことができる。

 

 

 名物で一番人気の「火焔山石焼麻婆豆腐」を頼むと、麻婆豆腐がぐつぐつと煮えながらやって来た。刻まれたネギの浮いた真っ赤なスープ。その中に沈んだ豆腐を崩しながら食べ進めていく。30種類以上もの漢方香辛料が使われた深みのある味わいだ。しかし記者は、中辛でも食べるのがやっと。辛いものが苦手な人は小辛を頼んだ方が良いかもしれない。

 また、オリジナルのラー油を使用した「本場四川よだれ鶏」も絶品。よだれが出るほどおいしいことから名付けられた料理で、薄く切った冷たい鶏肉にもやしやナッツが添えられている。香辛料の効いた風味豊かなたれとラー油が、肉のジューシーなうま味を引き立てていた。他にも多くの激辛料理があるので、辛党の人は「地獄」を味わいに来てみてはいかが。

 

桂園 本郷三丁目店

 

 

 丸ノ内線本郷三丁目駅を東大側に出た通りに位置する桂園は、都内を中心に17店舗を展開する。看板に書かれている通り、店内は居酒屋然とした活気がある。テレビで紹介されたこともあり、有名人のサインが飾られていた。

 まず驚くのは品数の多さだ。点心や炒飯に始まり、肉料理に海鮮料理、野菜炒めにタンメンまで豊富な品揃えだ。さらに一口に炒飯といっても具材ごとにさまざまな種類がある。壁には、メニューに載っていない料理も。そこで店員さんお薦めの「桂園餃子」と「辣子鶏」を注文した。餃子はたっぷりのひき肉とニラの他に、卵を餡に使用。全部で3種類の餡がある餃子は、それぞれ焼餃子か水餃子かを選べる。小さな皮に餡が詰まっており、しっかりとした食感だ。

 

 

 辣子鶏は、鶏肉の唐揚げを大量の唐辛子や花椒と炒めた四川料理の一つ。ニンニクの効いた小ぶりな鶏肉がネギやインゲンと合い、唐辛子を食べなければちょうど良い辛さを楽しめる。それ以外にも多数あるメニューの中から、自分好みの中華料理を探してみよう。

 

西安刀削麺酒楼 本郷店

 

 

 本郷三丁目駅から徒歩1分。虎ノ門に本店を構える西安刀削麺酒楼の本郷店は落ち着いた雰囲気が漂い、黒を基調としたシックな内装だ。本場西安出身の料理人が、スパイスの効いた西安料理を振る舞う。

 

 

 名物料理は、店名にも冠している刀削麺だ。麺が特殊な包丁で分厚く削られ、独特なコシのある食感を生み出す。注文した「麻辣刀削麺」のスープは、自家製ラー油を使用したしびれる辛さ。そこにパクチーの清涼感が合わさり、何層にも重なった深いコクを感じることができる。タンメンやラーメンとも違う、エキゾチックな味わいだ。

 内陸にありイスラム文化の影響が大きい西安には、羊肉を使った料理も多い。店の大人気メニューだという「羊肉串」もその一つで、串に刺さった羊肉をスパイスと一緒に炒めたもの。一口サイズでありながらピリピリとした辛さが口に広がり、辛さの中にもハーブの風味が効いている。その他お酒のつまみとしても最適な料理を多く取りそろえているので、大人な雰囲気で中華を楽しみたい人にはうってつけの店だろう。


この記事は2019年7月30日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナル記事を公開しています。

ニュース:東大「不正はなかった」 早野名誉教授らの論文不正疑惑の調査結果公表
ニュース:10〜2月は仮店舗営業 本郷生協書籍部 第2食堂建物耐震改修で
ニュース:思春期に身近な人を重視するほど自殺考えづらい
企画:「若手研究者・学生への支援を充実」 目白台インターナショナルビレッジ
企画:「学歴社会」は本当か 採用に用いられる学歴フィルターとは
企画:本郷で味わう本場の味 中華料理店4選
推薦の素顔:河村若奈さん(文Ⅰ・1年→法)
ひとこまの世界:ネコカフェでホッと一息
著者に聞く:常松祐介さん『古いのに新しい!リノベーション名建築の旅』
火ようミュージアム:クリスチャン・ボルタンスキー – Lifetime
キャンパスガイ:遠藤一樹さん(文Ⅱ・2年)

※新聞の購読については、こちらのページへどうぞ。

東大オケがサマーコンサート開催中 8月12日に札幌で演奏会の締めくくり

$
0
0

 現在、各地でサマーコンサートを行っている東京大学音楽部管弦楽団(東大オケ)。8月12日に最後の公演を控える団員に、活動内容と今回の公演について寄稿してもらいました。


 東京大学音楽部管弦楽団(通称「東大オケ」)は今年の夏もサマーコンサートと題した演奏会を行っている。東大オケは東大生のみで構成される唯一のオーケストラで、トップクラスの指導者陣の下で大学の式典での演奏や日本各地のホールでの演奏を行なっている。来年には創立100周年を迎えるまさに伝統と実力のオーケストラだ。そのオーケストラが今年も各地で公演を行っている。既に東京オペラシティ、那須野が原ハーモニーホールでの演奏を終え、来たる8月12日に札幌文化芸術劇場hitaruにて今回の演奏会を締めくくる。

 

 今回の北海道公演について担当外務の橋床亜伊瑠さん(理・3年)に聞くと「札幌出身の自分にとって、新しい令和という時代の初めのサマコンとして、そして今までの東大オケ100年間の集大成として北海道で演奏できることに感動している。今回の曲は明るく終わる曲が多いが、そこに至るまでの過程を聴くことでより深い感動が生まれると感じているので、曲全体とその流れを楽しんでいただければと思う」と語っていた。毎年北海道出身の団員が入っている団にとっても北海道は身近な存在となっている。

 

 今回披露する曲は、

・ヴェルディ/歌劇「ナブッコ」序曲
・ストラヴィンスキー/バレエ組曲「火の鳥」(1919年版)
・チャイコフスキー/交響曲第5番 ホ短調

の3曲。どの曲も夏を体現したとでもいうべき熱い曲だ。演奏会のトリを飾るチャイコフスキーの交響曲第5番は激しくも優雅な曲であり、聞き応え満点である。その中でも第2楽章冒頭のホルンのソロの美しさは有名だ。今回の演奏会でソロを担当する佐藤尚弥さん(工・4年)は、「今回の演奏会は金管楽器の目立つ曲が多く、それぞれの曲の良さが目立っていますが、それ故に雰囲気づくりが難しい曲ばかりです。チャイコフスキーの交響曲第5番もメロディーの意図にさまざまな解釈がある難曲です。今回演奏するに当たっては、さまざまな良さを出せるよう演奏会毎で趣向を変えています。連日暑い日が続いているので、暑すぎない演奏ができればと思います」と意気込み十分に語った。

寄稿=田畑佑宜(経・3年)

 

 

コンサートミストレスからのコメント

 

 今回の曲目は、オーケストラの迫力を感じていただけるような、非常に熱量のあるものとなっております。また、映画に用いられた曲もあり、普段オーケストラになじみのない方でも楽しんでいただけるのではないかと思います。
 
 
 当団は多くのプロの先生方にご指導いただく機会に恵まれています。基礎的な技術、アンサンブルの練習や、あるいは作曲背景や先生方の演奏経験など、多角的なアプローチで曲と向き合うことができます。譜面という平面上の音符だけでは汲み取れないような音楽の奥行きを深められるのは、個人練習だけでは得難い貴重な経験だと感じています。
 
 
 さて、個人的な話ではありますが、私がチャイコフスキーの交響曲を弾くのは今回が3回目になります。実は今までの2回の演奏会ではどちらも、リハーサルで東京には珍しい雪が降った思い出があります。その経験からか、広大で寒いロシアの地を、チャイコフスキーが雪を踏みしめて一歩ずつ進んでいく姿を、曲のさまざまな箇所で想像してしまいます。(恐らく北海道の方々にも身をもってこのイメージか伝わるのではないかと思います……!)
 
 
 今回はサマーコンサートということで、雪にはまずならないとは思いますが(笑)、蒸し暑いこの時期だからこそ、非日常としてのそういった音楽の世界を、お客様にも一緒に楽しんでいただけたらうれしく思います。
 
(町田三紗=理・4年)
 
 
2019年8月10日19:30【記事修正】「コンサートミストレスからのコメント」を差し替えました。
Viewing all 2984 articles
Browse latest View live




Latest Images