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【著者に聞く】リノベーション建築の旅はいかが? 専門家が語る新旧融合の魅力

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『古いのに新しい! リノベーション名建築の旅』

常松祐介著、講談社、税込み2052円

 

 夏休み、旅行をしようと考えている学生も多いだろう。普段は行かない地方に行くのもよし。東京を散歩するのもよし。そんな人にぜひ読んでもらいたいのが、建築を専門とする常松祐介さん(工学系・博士1年)が書いた『古いのに新しい! リノベーション名建築の旅』だ。

 

 古い建物に現代のデザインを取り入れ大胆な増改築を行うリノベーションは、近年建築業界で注目を集めつつある建築手法だ。歴史的建造物の深みと現代建築の格好良さを同時に味わえるリノベーション建築には、新築にはない魅力がある。本書は日本国内に存在するリノベーション建築の中から、北は北海道、南は香川まで、えりすぐりの22事例を紹介。元の建物の歴史から、改装に当たってのデザイン上の工夫まで、専門家ならではの詳細な説明でその魅力を語り尽くす。

 

 大学院でリノベーション建築の研究をしていた常松さん。しかし研究する中で「リノベーション建築は研究対象として扱うのではなく、実際の事例を伝えた方が価値がある」と思うようになったという。特に、旅をして土地の雰囲気を感じながらリノベーション建築を見る経験の豊かさをより多くの人に知ってもらいたい。その思いを、学生が自分のアイデアをプレゼンして本の出版を勝ち取る競技会「出版甲子園」にぶつけ、見事出版を勝ち取った。

 

 本書では既存建物を尊重しながら歴史的な建造物を改修した事例について、「対比」「同化」「転用」「記憶」の四つの特徴で分類して紹介している。最初は専門的な内容は書かないつもりだったが「今や簡単な紹介はネット上にあふれている」との編集者の指摘で方針を転換。建物の歴史、地域の物語、改修設計に当たっての工夫を解説にふんだんに盛り込んだ。執筆に際しては、各建築の施設運営と設計それぞれの担当者に取材し、地域の郷土資料館にも足を運んで調べたという。新旧の大胆な対比が特徴の国際子ども図書館や、既存建物への見事な同化を図りつつ新しさを加えた東京駅など、代表的な作品には10ページ以上を割く。

 「実は建物を巡る文化は奥深い。そのことを自覚した途端に建物の見方が変わるはず」と常松さん。特に地域振興の分野で、リノベーションというハード面からのアプローチがあることに目を向けてもらいたいと語る。「旅やリノベーション建築をきっかけに、古い建物が持つポテンシャルに気づいてもらえたら嬉しいですね」

(高橋祐貴)

 

常松祐介さん

 「著者に聞く」では、本の著者に取材して執筆の背景や著作に込めた思いを掘り下げます。


この記事は、2019年7月30日号に掲載した記事の転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

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「若手研究者・学生への支援を充実」 目白台インターナショナルビレッジ

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 目白台インターナショナルビレッジは、キャンパス構成員の多様性を高め、東大の教育研究の質の向上を図る目的で建設される宿舎。本年度9月オープンに伴う学生・若手研究者支援の拡大と施設について、学生支援担当の松木則夫理事・副学長、設計に携わる千葉学教授(工学系研究科)らに話を聞いた。

(取材・山中亮人)

 

本年度9月よりオープンする目白台インターナショナルビレッジ(写真は施設部管理課提供)

 

 今後の東大の宿舎について、松木理事・副学長は「目白台インターナショナルビレッジの建設に伴い、宿泊施設が拡充されることを受け、若手研究者や学生支援を充実させるため、東大が所有する宿舎の位置付けを見直す」と説明する。本郷キャンパスから最も近い追分国際学生宿舎は、入居対象者を障害のある学生、ポスドク、特任研究員などの若手研究者、研究などで来日した外国人研究者、大学の危機管理に携わる職員や研修医などに変更。2021年度まで現行通り運用し、同年秋季入居で募集を停止する。

 

 豊島国際学生宿舎B棟は、本年度9月より経済困窮学生の宿舎費を2万円から1万円に変更し、経済支援を拡大する計画。豊島国際学生宿舎に入居を希望し、経済困窮学生と判定されたにもかかわらず入居できなかった学生は、目白台インターナショナルビレッジに月額施設使用料1万円で入居できるよう大学が支援することも考えている。ただし、管理費・光熱水費などは別途負担となる。

 

 目白台インターナショナルビレッジは、外国人研究者、留学生や日本人学生を対象に入居募集が行われている。施設部の有村義幸管理課長によると、第2次募集を終えた段階での入居希望者は328人。来年度4月からの入居者を考慮し、合計855戸に対して、開寮時点で50%の入居者数を目標としている。7月31日までの第3次募集が終了した後も随時入居募集を行う。

 

 豊島国際学生宿舎や追分国際学生宿舎とは異なり、日本人学生・留学生別の定員は設けていない。希望者の内訳は留学生の比率が高めだ。定員を上回る応募が集まった場合の選考基準は「検討中」とのこと。

 

 単身用だけでなく、夫婦向けの住戸が96戸ある点も注目を集める。「留学生や外国人研究員向けの住居であるインターナショナル・ロッジを参考にし、一定量の需要が見込まれると判断した」と有村さんは話す。

 

 施設使用料は、最も安い住戸でも5万5300円と他の宿舎に比べて高いが、近隣住宅の相場よりは安く設定されている。「充実した施設と管理運営を提供するため」という。

 

目白台インターナショナルビレッジのシェアスペース(写真は施設部管理課提供)

 

国際交流をしながら1人でくつろげる場所も

 

 8、9年ほど前から宿舎の設計に携わる千葉教授は「従来の宿舎で実現できなかったコモンスペースを設けることで、留学生が日本の生活に自然になじんでいけるようなコミュニケーションの場を目指した。『第2のキャンパス』とも位置付けられる場だ」と話す。シェア型住居では20LLDKとして、約20人がキッチンやシャワー室などのある一つのシェアブロックを共有する。「20人は、緩やかなコミュニティーを形成する上で適切な人数。日常生活の延長で国際交流が図られれば」と期待を込める。

 

 一方、畳コーナーや多数のシェアリビングなど多様な場所を確保した。「一歩自室から出たら常に誰かと顔を合わせなければならないわけではない。1人でくつろげる場所も必要」と千葉教授は説明する。

 

 セキュリティー面では、鍵と電子キーの併用や宿舎エントランスでの受付常在など、万全を図る。一方で宿舎前の広場や、1階に入居するコンビニ・レストランなどの施設の一部は地域に開放することを検討しているという。宿舎内に併設される産学連携施設は、プロジェクトルームや講義室、コワーキングスペースなどを設置し、主にコンピューターを用いた実験を行うドライラボとして使用される予定。

 

 千葉教授は「学生や研究者が共に暮らし、そこに産学連携施設が連携している国際宿舎はあまり前例がない。大学宿舎の新しい在り方として意義を持つのではないか」と思いを語った。

 

【関連記事】

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この記事は2019年7月30日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナル記事を公開しています。

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サーギル博士と歩く東大キャンパス③ 駒場Ⅰキャンパス 1号館

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 我々が日々当たり前のように身を置いている「場」も、そこにあるモノの特性やそれが持つ歴史性などに注目すると、さまざまな意味を持って我々の前に立ち現れてくる。この連載企画では、哲学や歴史学、人類学など幅広い人文学的知見を用いて「場」を解釈する文化地理学者ジェームズ・サーギル特任准教授(総合文化研究科)と共に、毎月東大内のさまざまな「場」について考えていこうと思う。第三回は、駒場Ⅰキャンパスの1号館だ。

(取材・円光門)

 

ジェームズ・サーギル准教授(教養学部) 14 年 ロンドン大学大学院博士課程修了。Ph.D.(文化地理学)。ロンドン芸術大学助教授などを経て、17 年より現職。

 

覆い隠される1号館

 

 我々が普段見逃しているいろいろなモノの痕跡に着目すること、歴史はそのような『日常的な考古学』によって発見され得るのです」とサーギル特任准教授は語る。1号館は正にその実践の場だ。中庭へとつながる入口の上のアーチには、旧制第一高等学校の紋章が残されている。さらに足元を見ると、そこには紋章を刻んだマンホールがある。建物内に入り廊下の窓から中庭を覗くと、災害や空襲などの非常事態を想定して造られたと思われる地下道へとつながる階段を目にすることができる。

 

 1号館は関東大震災から10年が経った1933年7月に建設された。そびえ立つ時計台、そして駒場キャンパスでは数少ないゴシック様式が見られるこの建物は、周囲にアナクロニスティックな雰囲気を与えている。第2次世界大戦中に学生たちが時計台に登って爆撃機を見張っていたという噂や渋谷まで続いていると言われる幻の地下道の話は、真偽のほどは分からないものの、1号館の異様さから生まれ、語り継がれている。

 

 だが、この異様さの源は何なのか。サーギル特任准教授によると、それは過去が現存するモノによって表象された際に起こる、時間軸の揺らぎによるものだ。「過去は現在においては不在ですが、その不在が過去の痕跡を示すモノによって明らかにされた時、現在に居残るわけです。まるでそこにいてはいけない幽霊のように、過去がその場に取りつくのです」

 

1号館の両端には草木が生い茂る

 

 1号館の不可解な雰囲気は、時間だけでなく空間においても見出すことができる。1号館の両端には草木が生い茂り、正面には大木が植えられているため、安田講堂とは違い我々は離れた地点からこの建物の全体を視野に収めることができない。さらに、建物は中庭を囲むようにできているが、中庭を通り抜けることはできず、正門の反対側に移動するためには必ず1号館をぐるりと回らなければいけない。というのも、本来は憩いの場であるはずの中庭への入り口は鉄の柵で閉ざされているからだ。建物の全体を認識できないということ、建物の中心にたどり着けないということは、1号館の本質が常に覆われていて、捉え難いという印象を我々に与え得る。

 

中庭へ至る道は閉ざされている

 

 建物内では、その捉え難さは一段と増す。入り口をを入ると薄暗く細長い廊下に出るわけだが、廊下は建物の四隅でそれぞれ折れ曲がっているので、どこに立っていても一度に見渡すことのできるのは、建物の四辺のうち一辺だけである。言い換えれば、我々が角を曲がる度に見えるものが変わってくるのであり、建物の全貌を一挙につかむことはできないのだ。

 

 モノの痕跡から示される過去と、建物の配置によって限定される我々の視野。これら時間と空間における共通点は「常に何かが覆い隠されている」ことだとサーギル特任准教授は指摘する。過去は現在においては不在として覆い隠され、モノの痕跡を通じてしか我々はそれに触れることができない。1号館という建物もまた、一度に全貌をつかむことを我々に許さない。あらゆる存在物は、完全な存在と完全な不在の間で揺れ動いている。「対象とは、多くの特性を示すと同時に隠す単位である」と哲学者グレアム・ハーマンが言ったように。

 


【英訳版】

Take a Walk through Todai’s Campuses with Dr. Thurgill #3 Building 1, Komaba Campus

 

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Take a Walk through Todai’s Campuses with Dr. Thurgill #3 Building 1, Komaba Campus

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We, without doubt, lay ourselves in “places,” which, if we heed the specialty of things therein or the history therewith, appear to us as having a variety of meanings. In this serial article, we aim to contemplate various “places” found in Todai’s campuses with the cultural geographer Dr. James Thurgill, who interprets “places” by employing a knowledge of the humanities that spans philosophy, history, anthropology, and so on. Our third meeting is at Building 1 on Komaba Campus.

(Interviewed, Written and Translated by Mon Madomitsu)

 

Dr. James Thurgill Graduated from the graduate school of University of London in 2014. Ph. D (Cultural Geography). After serving as an assistant professor at University of the Arts London, from 2017 he is a project associate professor of the University of Tokyo.

 

            “History can be discovered through a kind of ‘everyday archaeology’. Material traces of the past surround us in our daily lives, just waiting to be uncovered, but they frequently go unnoticed” says Dr. Thurgill. Building 1 is indeed a place well suited to discovering such ‘traces’. Above an archway leading to the courtyard remains the crest of the former Ichikou, First Higher School of Tokyo. In the same place, beneath our feet, lies a manhole cover where another of Ichikou’s emblems can be found embossed within its metal surface. Looking through the corridor windows inside the building we can catch a glimpse of a staircase, possibly leading down to the rumoured underground tunnels, which are said to have been constructed as a safety precaution for disasters, air raids, and so on, but which are now sealed off and inaccessible.

 

              Building 1 was constructed in July 1933, ten years after the Great Kanto Earthquake. With its looming clock tower and Gothic-style architecture, a rarity on Komaba campus, the building gives an anachronistic atmosphere to its surroundings. Extraordinary narratives rooted in the history of Building 1, such as that of the former High School students who are said to have climbed the clock tower in order to surveil the skies for bombers during the Second World War, or the underground tunnels believed to run beneath the building (which some students say continue as far as Shibuya), are undoubtedly born from the uncanniness of Building 1 and have been handed down through generations of Todai students.

 

              But what is the origin of this uncanniness? According to Dr. Thurgill, it is due to the fluctuation of the temporal axis caused by the present being affected by past materials. “The past, though at the present being regarded as absent, is made manifest by materials that signify traces of history, and which continue to linger in the present. As if it were a ghost that is not supposed to be there, the past haunts the place.”

 

The overgrown plants are at both edges of the Building 1

 

            The uncanniness of Building 1 can be perceived not only temporally but also spatially. Due to the overgrown plants at both edges of the building and a large tree in front of the main entrance, we can never observe the whole building at once, not even from a distance, unlike the Yasuda Auditorium in Hongo. Moreover, we cannot go through the courtyard enclosed within the building. In order to move to the opposite side of the main gate we must orbit around Building 1, for the gateway to the courtyard, primarily designed as a place of relaxation and which might otherwise allow for free movement within the centre of the building, is closed off by an iron fence. We cannot identify the building as a whole; neither can we gain access to the centre of it. We may be left with the impression that the ‘essence’ of Building 1 is always somewhat veiled and elusive.

 

The gateway to the courtyard is closed off

 

            Inside the building, this elusiveness grows even stronger. On entering the structure we arrive at dark, narrow corridors and wherever we stand, we can only see one of the four sides of the building. In other words, there is a constant shifting of our view as we turn the corner and are once again prevented from seeing the building in its entirety.

 

            Both the past signified through material traces and the restricted view framed by the organisation of the building share a commonality of concealing and revealing time and space respectively, as Dr. Thurgill points out, “something is always veiled in our experience of the world”. The past is veiled as an absence; we can touch it only through the material traces that remain. It is the same with Building 1, a space that does not permit us to grasp the whole structure at any one time. To be sure, every single being is vacillating in-between complete presence and complete absence, just as the philosopher Graham Harman writes, “Objects are units that both display and conceal a multitude of traits.”

 


 

【Japanese Version】

サーギル博士と歩く東大キャンパス③ 駒場Ⅰキャンパス 1号館

 

【Serial Article】

サーギル博士と歩く東大キャンパス① 本郷キャンパス赤門

Take a Walk through Todai’s Campuses with Dr. Thurgill #1 Akamon, Hongo Campus

サーギル博士と歩く東大キャンパス② 本郷キャンパス三四郎池

Take a Walk through Todai’s Campuses with Dr. Thurgill #2 Sanshiro Pond, Hongo Campus

ベストセラー本から自分らしいキャリアを探る対談イベント 8月29日開催

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 米国の18歳の大学生が、ビル・ゲイツ、レディー・ガガ、スティーブン・スピルバーグなどにさまざまなアプローチをすることでキャリアをスタートする物語『The Third Door』。米国でベストセラーとなったこの本の邦訳版(『サードドア』)が、東洋経済新報社より出版されることになった。これを記念して、8月29日の14時からHELLO,VISITS東京大学で対談イベントが開催される。

 

 登壇者は、全米ベストセラー作家であり、現在IBM、ナイキ、アップルなどで登壇も行う、著者のアレックス・バナヤン氏と、世界初の技術でイノベーションを生み出しているスタートアップVISITS Technologies(株)の代表・松本勝氏。両者がこれまでの経験を踏まえ、自身の学生時代や自分らしいキャリアの築き方について語り合う。主催は東洋経済新報社。

 

画像はVISITS Technologies提供

 

 

▽プログラム(予定)▽

1. イントロダクション(主催社挨拶、書籍紹介)

 

2. 対談(通訳付き):

アレックス・バナヤン氏、VISITS Technologies代表取締役松本勝氏が、自身の学生時代やキャリアデザイン、日本の就職などについて議論

 

3. 学生とのQ&Aセッション

 

 

▽基本情報▽

場所:HELLO,VISITS東京大学(丸の内線本郷三丁目駅より徒歩5分)

日時:8月29日(木)14:00~16:00

申込方法:HELLO,VISITSオンライン登録ページより(応募多数の場合は抽選)。締め切りは8月24日(土)。

※参加者特典あり

 

 

▽作品・登壇者紹介▽

・『サードドア 精神的資産のふやし方』(東洋経済新報社)アレックス バナヤン・著、大田黒奉之・訳

発売予定日2019年8月23日

参考サイト https://str.toyokeizai.net/books/9784492046531/ 

 18歳の大学生がビル・ゲイツ、レディー・ガガ、スティーブン・スピルバーグらにさまざまなアプローチをしながらインタビューをするところからキャリアをスタートし、19歳でシリコンバレーの投資家となる、「何者でもない自分が、何者かになる」物語。20歳のときに知っておきたい「連敗の必勝法」をつづっている。

 

・アレックス・バナヤン氏

 1992年8月10日、カリフォルニア州ロサンゼルス生まれ。作家。19歳でシリコンバレー投資家になった。世界最年少ベンチャーキャピタリスト、米国クラウン出版社史上最年少契約。フォーブス「30歳以下の最も優れた30人」、フォーチュンビジネス・インサイダー「金融分野で最もパワフルな人物」として選出・紹介される。自身の経験について、アップルやグーグルをはじめ多くの企業を対象に各地で講演を重ねている。

 

・松本勝氏

 東大工学系研究科修了後、ゴールドマンサクッスに入社。株式トレーダー、金利デリバディブトレーダー(ヴァイスプレジデント)を経て、10年、人工知能を用いた投資ファンドを設立。14年には現VISITS Technologiesを設立し、人のアイデア創造力、目利き力、アイデアの価値を独自の合意形成アルゴリズムにより定量化する特許技術「ideagram」や「デザイン思考テスト」(弊紙2019年7月30日号掲載)を開発。シリコンバレーと東京を拠点に、世界中の社会課題とその解決方法の可視化を、独自のマイニング技術とブロックチェーンによりリアルタイムに実現する研究を行っている。元文部科学省委員。10年、アームレスリング全日本選手権優勝。

 

ラクロス男子 リーグ戦を黒星スタート 中大に9失点喫する

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 ラクロス部男子(関東学生1部リーグ)は8月16日、リーグ戦の開幕戦を中央大学と駒沢オリンピック公園総合運動場第一球技場で戦い、5─9で敗れた。昨季関東学生2位の好成績を残した東大だが、リーグ戦突破経験1回の中大に苦杯をなめる一戦となった。そのゲームレポートを、ラクロス部男子のマネジャーに寄稿してもらった。

(寄稿)


 

東大|2021|5

中大|1233|9

 

 8月16日、東大にとって今シーズンのリーグ戦初戦である中大戦が行われた。まずは決勝トーナメント進出を目指し、予選となる総当たり戦に臨む。お盆を直撃した台風の影響が心配されたが、雨に降られることなく無事に開幕戦を迎えた。

 

 先制したのは東大の主将、黒木颯選手(工・4年)。走力を生かした得意のランニングシュートを決め、ベンチ、応援席ともに歓喜に包まれた。その2分後には間野弘暉選手(経・3年)がスタンディングシュートを決め、コンパクトなオフェンスで流れをつかむ。ここまで危なげない守備を見せていた東大だったが、第1Q(クオーター)終盤、相手にゴールから遠い距離からのシュートを決められ、1点を返される。

 

この日先制点を挙げた主将・黒木選手

 

 第2Qは逆に相手にペースをつかまれる苦しい展開になる。やはりリーグ戦初戦、1点入れられるごとに空気が重くなってしまう。しかし2点を追う第3Q、フェイスオフでこぼれたボールを拾った平田東夢選手(工・4年)が、相手ディフェンスの準備ができる前にシュートを打ち込み1点を返す。普段点数を取ることが少ないLSM(ロングスティックミッドフィルダー)の得点に会場が沸いた。その後再び2点ビハインドとされるも、副将成田悠馬選手(農・4年)が豪快に1点を返し、4─5と1点差まで迫った。

 

オフェンスの要である副将・成田選手

 

 第4Qでは成田選手が意地のスコアを見せるも、反撃はここまで。じりじりと点差を広げられてしまう。終わってみれば5─9で敗北という厳しい結果となった。

 

安定感あるプレーを見せた中田誠大選手(文・3年)

 

 次戦は8月25日午後3時20分から、フクダ電子スクエアで武蔵大学と戦う。決勝トーナメント進出のためには、負けるわけにはいかない。気持ちの面で相手に負けている時間はない。今シーズンスローガンである「勝者であれ」を胸に。

 

(文・写真=上羅彩加)

駒場のイタトマ、9月16日まで改修工事 改修後は「カフェ ヴィゴーレ」として再出発

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 駒場Ⅰキャンパスコミュニケーション・プラザ南館1階の「イタリアン・トマト CafeJr. 東大駒場店」 が、8月15日から改修工事を開始した。改修工事中、イタリアン・トマトは休業となり、9月17日から店名を「カフェ ヴィゴーレ」に変えて営業を再開する。新たな契約期間は5年間だ。

 

 本紙の取材によれば、カフェ ヴィゴーレのメニューは「生パスタと窯焼きピッツァ、こだわりのコーヒー」が中心になるといい、酒類の販売も予定しているという。ランチタイムは改修前と同程度の価格帯になる一方、他の時間帯では50円前後の値上げを予定している。営業時間の変更の予定はないという。

 

 改修に伴い、店内にWi-Fiやコンセントを設置。一人でゆっくり読書や勉強をしたり、ゼミなどの打ち合わせに使ったりと、利用者それぞれの用途に合わせて使い勝手良く利用できるよう「客席空間のバージョンアップ」を図る。

 

 イタリアントマト社がカフェ ヴィゴーレを出店するのは、東大駒場店が初めて。「新しい業態に挑戦し、イタリアントマトブランドの魅力をさらに伝えていく」と意気込んでいる。

ラクロス男子 武蔵大に逆転勝ちでリーグ戦初白星 3点差ひっくり返す

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 ラクロス部男子(関東学生1部リーグ)は8月25日、リーグ戦第2戦を武蔵大学と戦い、7-6で勝利した。東大は試合開始から7分の間に3点を失う苦しい立ち上がり。しかし、塩澤拓斗選手(農・4年)、菅原秀選手(農・4年)のゴールで逆転に成功する。その後武蔵大に追い付かれるも振り切り、リーグ戦初勝利を飾った。次は8月31日、駒沢オリンピック公園運動場第二球技場で、立教大学と戦う。

 

この試合3得点の塩澤選手。写真はディフェンダーとゴールの間に体を滑り込ませて決めた、自身2得点目(撮影・児玉祐基)

 

東 大|1321|7

武蔵大|3120|6

 

 東大は試合序盤、守備陣がピリッとしない。試合開始数秒で失点すると、味方が1人かわされた後のカバーで連携がうまくいかない状況が続き、次々に失点。塩澤選手が第1クオーター(Q)終盤に1点を返すも、第2Q開始後すぐに取り返され、3点を追い掛ける展開になる。

 

試合開始直後、相手フェイスオファーにゴールを決められる(撮影・児玉祐基)

 

 しかし「オフェンスは焦っていなかった。普段通りやれば点が取れるという意識があった」と黒木颯主将(工・4年)。第2Q中盤から反撃が始まる。塩澤選手と菅原選手の得点で1点差に迫ると、第2Q終了間際に相手の反則で攻撃権が東大に。その直後「(パスで崩さずに)自分で決めて良い」とのベンチからの指示を受けた菅原選手が中央を1人で突破し、同点に追い付く。さらに第3Q2分、塩澤選手が倒れながらのシュートでボールをねじ込み、5-4と逆転に成功する。

 

同点弾を放った菅原選手は、ベンチに向かって拳を突き上げた(撮影・児玉祐基)

 

 その後互いに点を取り合い、6-6で勝負は最終第4Qへ。ここで踏ん張ったのがゴーリーの三木理太郎選手(工・3年)。東大の反則により守備陣が1人少ない状況で打たれたシュートをセーブすると、守備の要・鍛治惟吹選手(工・4年)が負傷で一時退場する中でもセーブを決め、流れを東大に引き寄せる。

 

シュートをセーブし、味方にパスを出す三木選手(撮影・児玉祐基)

 

 すると第4Q11分、黒木選手が相手の反則を誘い、相手守備陣が1人少なくなるチャンスを迎える。菅原選手のシュートは枠を外れるも、その直後、成田悠馬選手(農・4年)が代名詞とも言える豪快なスタンディングシュート。これが決勝点となり、武蔵大に競り勝った。

 

試合を決めるシュートを放った成田選手(撮影・児玉祐基)

 

(児玉祐基)

 

 

◇黒木主将の話

──試合終了時の心境は

 安堵した。目標である日本一を達成するためには、しっかり自分たちの試合をして、大差で勝たなければいけない相手だったが、僅差になってしまったという残念さもあった。

 

──昨季の武蔵大戦でも序盤3点を先行されたが、苦手意識は

 それはなかった。0-3になっても「しっかり点を返そう」とチームとして集中力を保てたのは良かった。

 

──MVPを挙げるなら

 塩澤選手。前試合は乗り切らなかったが、今回はしっかり決めてくれた。

 

──塩澤選手の本来の力が出た、ということか

 それは怪しいですね(笑)。今日は乗っていた。これからも行ってくれるとありがたい。もともとセンスのあるやつなので、ようやくやってくれたな、という感じ。

 

──前試合で9失点。どのような修正をしてこの試合に臨んだのか

 前試合では、短いクロスを持つ守備の選手が低い位置で守っていて、その選手が抜かれるとすぐシュートを打たれてしまうという状況だった。今回はしっかり高さを上げた。

 

 また、前試合では、守備の選手同士で誰がカバーに行くのかはっきりしていなかった。そこを修正したかったが、まだ修正し切れなかった。それで6失点という東大としては多い失点になった。今後は修正し、5失点以内に抑えたい。


留学、宇宙、子育て 挑戦の連続で得た気付き 山崎直子さんインタビュー

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 東大で宇宙工学を学んだ後、10年にはスペースシャトル「ディスカバリー」に搭乗、日本人女性で2人目の宇宙飛行士としてミッションをこなした山崎直子さん。弊社が8月に発行した受験生向け書籍『現役東大生がつくる東大受験本 東大2020 考えろ東大』では、世界で活躍する「東大女子」の先輩である山崎直子さんに、東大受験や在学時代について聞いたインタビューを収録した。今回は書籍に収められなかった学部卒業後の米国への留学や宇宙飛行士としての仕事についての話を掲載する。

(取材・武井風花、撮影・武沙佑美)

 

 

━━大学院時代、米国に1年間留学しています。留学から何か得たことはありますか

 

 意図せずしてマイノリティの立場を経験し、「弱者」の立場にある人に共感する意識を持てたことでしょうか。留学先のメリーランド大学には、米国人の他、ヨーロッパやアジアなどからの留学生が多く、日本人は圧倒的に少数派でした。日本語はもちろん通じないので英語で会話するのですが、日本語と比べて言いたいことをぱっと言語化できません。言語が満足に話せないことで起きる弊害は本当に大きかった。日本では、会議やグループディスカッションで空気を読んで黙っていることは普通だし、特に注意されません。でも米国では、発言しない人は存在しない人と同じで、立場をはっきりさせないと「こいつは変なやつだ」と思われ、一人前と認められないのです。英語をうまく話せばいいということではなく、考えていることを求められる場で言語化する必要がある、ということです。それを身をもって知ることができたのは、後になっても役に立ちました。

 

 他には、自分でも気付かないうちにバイアスにとらわれていたことを自覚できたことも大きかったです。現地のパーティーに招かれた時、当時70歳は超えていたであろうおばあさんに「私はヘリコプターを操縦するのよ」とにこにこしながら言われました。それを聞いた時、私はまず「え、お年寄りで、しかも女性なのに?」と思ったのです。そこで初めて、私は自分にも隠れた偏見があることに気が付きました。お年寄りが、女性がパイロットで何がおかしいのだろう。パイロットは男性だけの職業ではありません。目から鱗でしたし、おばあさんに元気をもらうことができました。そのことがきっかけで、それまで無理だろうと思って受験するか迷っていた宇宙飛行士候補者の試験に挑戦してみようと決断しました。

 

━━東大卒業後、宇宙開発事業団(現・宇宙航空研究開発機構)に入社しています。入社してから3年後、2度目の受験で宇宙飛行士に選抜され、2010年にはスペースシャトル「ディスカバリー」に搭乗、宇宙でのミッションをこなしました。訓練期間中の思い出を教えてください

 

 エンジニアとして働いていた際は、国際宇宙ステーションのインテグレーションを担当していました。米国やロシア、カナダ、欧州諸国と調整をする場面が多々あり、決して楽しい思い出ばかりではなく、交渉の場ではお互いに机を叩き合うような激しいやり取りもありました。それでもみんなで一つの計画を成功させようと努力する過程は、今では良い思い出になっています。宇宙飛行士候補者の試験には2回目の受験で合格したのですが、そこからが長く、実際に宇宙に行くまでの訓練期間は11年に及びました。その間も、色々な国の宇宙飛行士と、みんな宇宙に行く機会を巡って競争するライバルでもありますが、お互いのミッションを地上から精一杯助け合ったことが印象に残っています。

 

 

━━実際に宇宙に行った時の思い出を教えてください

 

 無重力状態にいることそのものが楽しい経験でしたね。ふわーっとして体が軽くて。その分、地球に戻ってきた時は重力の重さにびっくりしました。自分の体は漬物石を載せたようで動かしづらいし、紙やペンすらもずっしりと重い。それでも、宇宙船から外に出ると、なんてこともない見慣れた景色なんですが、風が吹いて緑の香りがふわっとした時に、ありふれた日常が本当に美しく思えたのです。「私たちは地球に生かされているんだな」と身に染みて思いました。当たり前というのは、実は何よりもありがたいものなんですよね。

 

━━訓練期間中、出産も経験しています

 

 そうですね、これは本当に大変でした。宇宙飛行士の訓練期間中に妊娠・出産した人は日本人女性では前例が無いし、米国でも一般的ではなく、ロールモデルが少なくて不安でした。子どもはいきなり熱を出しますし、常に慌ただしかった記憶があります。訓練は海外で行うことが多かったので、私が海外に行く時は、日本に残る父子で一時的に父子家庭になったり、逆に私の方に呼び寄せて一時的に母子家庭になったりしました。「子育てはこうしたらうまくいくんだよ」といったような理想論は言える余裕がありません。何か起きたらその都度対応する場当たり的な子育てでした。でも確実に言えることは、一人では絶対にできなかっただろうということです。家族や友人、同僚、保育園の先生など、多くの人の助けがあってなんとか乗り越えることができました。

 

 加えて、日本において根気強く運動を続け、女性が働く権利を勝ち取った先人たちの努力も大きかったです。私たちの世代は、男女雇用機会均等法をはじめとする、女性が社会に出て働く基盤が整備され、世間の理解が広がり始めた後の世代です。まだ課題も多いですが、先輩の女性たちの努力の成果が、私が子育てと仕事を両立しようとする試みを支えてくれました。

 

 

━━現在の活動を教えてください

 

 内閣府宇宙政策委員会委員として政策面から宇宙に関わっている他、各地の科学館でアンバサダーやアドバイザーを務めたり講演したりするなど、草の根的に宇宙の面白さを伝える活動を行っています。最近は「宇宙港」の建設を目指す団体「スペースポートジャパン」や航空宇宙業界の男女共同参画を目指す「宙女Sorajo」の立ち上げにも関わりました。近年、宇宙旅行の実現化に向けた動きが加速していますが、実際に誰でも宇宙旅行に気軽に行けるようになったら、私ももう一度宇宙に行きたいですね。

 

━━海外向けに東大の魅力を発信するプロモーションビデオにも出演していましたが、山崎さんが考える東大の魅力は何でしょうか

 

 まず、東大は国際的に見ても学術レベルが高いです。例えば、私が卒業した工学部航空学科(当時)は、小惑星「イトカワ」の名にもなっている糸川英夫博士や、宇宙飛行士を何人も輩出するなど、日本の宇宙研究の世界を引っ張る人材を多数輩出してきた伝統と実績ある名門です。在学時代には優秀な学生や教員と触れ合うことで多々刺激をもらうことができました。卒業後にも、その分野の第一人者と言われる人が東大出身者であることが多く、出会いの場が広がるという利点があります。特に女性の卒業生は数が少ないので、女性の先輩方に気にかけていただいたり縦横につながりやすかったりするので、本当にありがたいことだと思っています。

山崎直子(やまざき・なおこ)さん(宇宙飛行士)

96年工学系研究科修士課程修了。修士(工学)。同年、宇宙開発事業団(現・宇宙航空研究開発機構、JAXA)に入社。10年、スペースシャトル「ディスカバリー」に搭乗。11年にJAXAを退職し、現在は内閣府宇宙政策委員会委員、女子美術大学客員教授などを務める。


※現在発売中の『現役東大生がつくる東大受験本 東大2020 考えろ東大』では、山崎さんに東大在学時代、英語演劇に打ち込んだり研究室に泊まり込んだりした日々、少数派である理系東大女子としての生活などについて聞いたインタビューを収録しています。他にも、受験生でない方にとっても面白い情報満載の書籍ですので、ぜひ併せてご覧ください。

新たな磁性材料「磁気スキルミオン」開発 次世代デバイスへの応用が期待

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 車地崇さん(マサチューセッツ工科大)、十倉好紀教授(工学系研究科)らの共同研究グループは、磁気スキルミオンという微小な磁気渦を形成する新たな磁性材料の開発に成功した。次世代のデバイスとして注目されるスピントロニクスデバイスへの応用が期待される。成果は8日付の米科学誌『サイエンス』(電子版)に掲載された。

 

 磁気スキルミオンとは、磁性を帯び得る物質に存在する棒磁石のようなものである磁気モーメントが、渦状に並んだ状態。電子の回転であるスピンのねじれにより安定化する。巨大な仮想の磁場を引き起こすため電気的に検出可能で、磁気メモリなどへの応用が検討されてきたが、空間的に非対称な物質にのみ現れるとされ、応用可能な材料の開発に制約があった。

 

 本研究では、磁気フラストレーションという現象に注目。二つの磁気モーメントの相互作用が拮抗し、安定な磁気状態が一つに定まらない現象のことで、空間的に非対称という制約を脱することができると期待された。

 

 そこで、空間的に対象な化合物であるGd2PdSi3の単結晶でのスピンのねじれを調査。単結晶の三角格子に垂直に磁場をかけた時のみ、磁気スキルミオンが規則的に並ぶ様子が観測された。この磁気スキルミオンは従来に比べ安定化・小型化した他、電気的な信号として検出することにも成功した。今後、より巨大な電磁気応答を示す物質の探求の進展が見込まれる。


この記事は2019年8月27日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナル記事を公開しています。

 

ニュース:レジ袋利用率が減少 有料化の影響を検証
ニュース:七大戦 28種目を終え総合2位 女ラク・陸上ホッケー全勝
ニュース:駒場イタトマ改修工事 9/16まで休業 新たなカフェへ
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ニュース:110億年前の巨大銀河 宇宙の進化の謎深まる
ニュース:東大は2件採択 卓越大学院 博士人材育成に補助金
ニュース:新たな磁性材料開発 次世代デバイスへ応用
企画:「海洋ごみ対策プロジェクト」始動 プラスチックごみの行方を追って
企画:地元の絆、忘れていませんか? 「県人寮」の魅力とこれからに迫る
推薦の素顔:湊杏海さん(理Ⅱ・1年→農学部)
飛び出せ!東大発ベンチャー:Builds 長期インターンのの魅力広める
著者に聞く:『人間と機械のあいだ 心はどこにあるのか』池上高志教授(総合文化研究科)
赤門恋愛相談室:悩める東大生にプロの処方箋
キャンパスガール:平田裕子さん(理Ⅱ・1年)

※新聞の購読については、こちらのページへどうぞ。

110 億年前の巨大銀河 宇宙の進化の謎深まる

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 王涛(ワンタオ)特任研究員(理学系研究科、国立天文台)らは110億年以上前の宇宙に、星を活発に生む巨大銀河を39個発見した。理論上は想定外で、宇宙の進化の謎が深まる。成果は8日付の英科学誌『ネイチャー』(電子版)に掲載された。

 

 過去の宇宙の銀河では、星からの光がちりでさえぎられ、より波長の長い赤外線が銀河から放出されやすくなる。加えて宇宙の膨張で波長が引き伸ばされるため、過去の宇宙の銀河を捉えるには、波長0.1~ミリのサブミリ波を観測する必要がある。従来宇宙を観測する際に用いられるハッブル宇宙望遠鏡は、波長の短い波しか捉えられず、遠方の天体の観測に適するスピッツァー宇宙望遠鏡は画像の解像度が低かった。

 

今回観測をした領域のハッブル宇宙望遠鏡による画像(左)と、アルマ望遠鏡により観測された巨大星形成銀河の画像
(クレジット:東京大学/CEA/国立天文台)

 

 王特任研究員らは今回、スピッツァー宇宙望遠鏡による画像に写っており、ハッブル宇宙望遠鏡による画像には写っていない天体を63個選出。主に波長0.35~4ミリの波を捉えるアルマ望遠鏡で、うち39個からサブミリ波を検出した。

 

 波の強度や、アルマ望遠鏡による高解像度の画像から、39個全てが110億年以上前の宇宙に存在する、星を活発に作る巨大銀河だと判明。質量は太陽数百億個~千億個分と、110億年以上前の宇宙としては巨大といえる。波の明るさから、今回発見された銀河では天の川銀河の100倍のペースで活発に星が生まれていることも判明した。

 

 王特任研究員らは今回発見された銀河を、多くの銀河の集団の中心に位置し太陽数兆個分の質量を持つ「巨大楕円銀河」の祖先と推定。しかし理論上、110億年以上前の宇宙で活発に星を生む巨大銀河がこれほど多く存在することは予測されていない。アルマ望遠鏡や、今後打ち上げられる可能性がある宇宙望遠鏡などの観測による、研究の進展が期待される。

Interview with Prof. Daniel Foote: Think Critically and Never Stop Inquiring

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Interviewed and Written by Mon Madomitsu

 

 

━━You are now studying the relationship between the legal system and Japanese society, but at Harvard College you majored in East Asian studies. When did you come to have interests in East Asia and Japan?

In World War II, my father worked as a Japanese interpreter after he graduated from the U.S. Navy Japanese Language School. In that school, he was in the same class as Donald Keene, who later became a renowned scholar of Japanese literature. Since my childhood I had been hearing news about Japan from my father and his best friend, who also had been an interpreter and remained in Japan after the war as a journalist; in that sense, I felt an affinity for Japan.

 

━━Why did you go to Harvard Law School after graduating from college?

Ezra Vogel, who later became well known for the book Japan as Number One, was my mentor in college. He was a truly dedicated faculty member, and initially I thought about following in his footsteps and entering the graduate program, with a view to specializing in Japanese society. I suspect he would have supported that plan and convinced me to follow it. But in my senior year he went to Japan for research. Instead I discussed my future plans with a postdoc who was supervising my graduation thesis. The postdoc was very pessimistic about prospects for academic positions in Japanese studies and said, “Even if you complete the Ph.D. program, you won’t be able to find any decent position.”

 

So I wondered what to do with my life. I knew I wanted to maintain ties with Japan; and I felt that if I could graduate from a law school and find a position in a law firm that had a Japan practice, I would be able to do that.

 

━━After graduation from Law School, you gained practical experience in various places.

I served as a law clerk in U.S. District Court and then at the U.S. Supreme Court. During law school I came to realize there might be an alternative pathway to an academic career, as a specialist in Japanese law. In the U.S. setting, having a Supreme Court clerkship makes prospects more realistic for obtaining a teaching position. As preparation for a teaching career, I felt the need to undertake more study and research on Japanese law, and I came to Todai as a Fulbright researcher. I also felt the need to obtain practice experience, which I did by working in the Legal Department at Nissan Motors and at a law firm in New York. Thereafter I was able to obtain a position at the University of Washington. Later, on two occasions I was invited to serve as a visiting professor at Todai, and then I was offered a position as a full-time professor here in 2000.

 

━━As a requirement of the policy that promotes free education in college, which MEXT presented this year, it is noted that there should be a certain percentage of classes delivered by faculty members who have practical experience. How do you regard such a tendency to emphasize the practical aspects of higher education in recent years?

As a faculty member in law, I have mixed feelings. In the Japanese law school system, there is a division between practice professors and research professors. Very few of the latter have attained practice experience; they are overwhelmingly academic in background and orientation. In the United States, on the contrary, over 90 percent of research professors also have practice experience. I feel that even experts on theory should know how law and policy making work in practical settings. In this sense, I am a strong believer in the value of practice experience.

 

At the same time, having a broad background in the humanities, including knowledge of classics, literature, philosophy and ethics, is also very important. Such a background is valuable for viewing matters from a wide range of perspectives and getting to the core of issues, and for ensuring sensitivity to the humanistic element of society.

 

At Harvard College, one of my classmates was the world-renowned cellist Yo-Yo Ma. Before he entered college, he already had been performing around the world, so he did not need to go to a music conservatory. Rather, he came to Harvard because he wanted to expose himself to a wide range of ideas and broaden his horizons. Ever since, Yo-Yo has constantly been challenging new genres and undertaking a wide range of activities. As one recent example, I hear that this April he presented a message of criticism against President Trump’s plan to build a wall between the United States and Mexico, by giving a concert along the border between the two nations. As I see Yo-Yo undertake such rich activities throughout the world, I like to think of it as the fruit of the broad horizons he acquired at Harvard.

 

In sum, while I strongly believe in the value of practice experience, I fear that an excessive emphasis on practical education may lead to neglect for the humanities and liberal arts education, which also are of vital importance for nurturing balanced and well-rounded individuals.

 

 

━━From the standpoint of a foreign faculty member, what sorts of issues do you think Todai is confronted with now?

In my view, three issues to which Todai should devote even more attention are internationalization, interdisciplinarity, and diversity. The situation for all three has improved over the past decade, but there still remains much to be done. With respect to internationalization, study abroad of course is valuable for developing understanding of the foreign nation, but from my own experience it is even more important for developing understanding of your own nation. The experience of living and studying abroad leads to an awareness of aspects of your own nation that you previously took for granted. Thus, I am delighted to see that in recent years Todai has begun to encourage students to go abroad. Yet I get the sense students who acquired overseas experiences and came back do not really have many opportunities to share their experiences with other students. There are some places where they can present their experiences, such as in the briefing session for study abroad programs, but there the audience is limited to those who already are interested in studying abroad. I would like to see many more opportunities for students to share their experiences.

 

Next, with respect to interdisciplinarity, there are opportunities for students to expose themselves to a wide range of academic disciplines through the liberal arts curriculum over the first two years. With regard to research, though, my sense is that the barriers between disciplines remain high. Even within the Law Faculty, there are separate gatherings for faculty in civil law, criminal law, labor law, etc., but few academic events that bring together law and politics scholars from a broad range of fields. While there have been many promising developments, such as the establishment and success of the Graduate School in Public Policy (GraSPP), a joint undertaking of the Faculty of Law and Faculty of Economics, and the recent establishment of the Global Leadership Program, which spans many faculties including the Faculty of Law, I would like to see even more opportunities for interdisciplinary research and study, by faculty as well as students.

 

━━As for diversity, does it not seem that Todai is endeavoring to increase diversity in such matters as gender and national origin?

With regard to national origin, with the PEAK (Program in English at Komaba) program and other programs for foreign students, there is far greater diversity now than when I first studied at Todai in the early 1980s. With regard to gender, I do not question the sincerity of Todai’s desire to increase diversity; but I am disappointed to see that women still comprise only about twenty percent of all undergraduate students and under ten percent of all professors and associate professors.

 

One other concern I have is the lack of attention to the importance of diversity in the educational process itself. For instance, when the new law school system was established, in an effort to secure diversity, the law schools, including Todai, were expected to recruit students with work and other societal experience and graduates from faculties other than law (although, notably, there was no mention of gender). At the time, many observers recognized the value of such diversity for the legal profession – having lawyers, for example, with backgrounds in economics, or engineering, or medicine. Yet I largely doubt whether such diversity is made good use of inside classrooms. From my own experience teaching both in the United States and Japan, a diverse student body greatly enhances the learning environment by allowing us to examine the same issue from different perspectives. Taking a law class as an example, students can think what the impact is of a particular law or precedent on women, on minorities, or even on matters such as business innovation, based on their own identities and experiences, and can share their thoughts with other classmates. In this way, diversity in students has great significance for the learning process itself. For this purpose, of course, it is essential to have classes in which students discuss with the professor and among themselves, and not simply one-way lectures.

 

 

━━It is regarded as problematic even among the students that there are many one-way lectures given in big lecture halls in the Law Faculty of Todai. However, some people maintain that interactive classes, in which teachers ask students questions and engage in dialogue with the students, are meaningful only in the United States, where judicial cases are central to the law, but are not suitable for Japan, where codes rather than cases are central.

Many people in Japan have seen broadcasts of Michael Sandel’s “Justice” course, in which he engages students in stimulating give-and-take discussions, in large lecture halls packed with several hundred students. He is truly exceptional. Even in the United States, very few professors can effectively conduct discussion-based teaching in classes with 200 or more students.

 

That said, I flatly disagree with the notion that interactive teaching is not suited to Japan’s code-based legal system. The dialogue-based class practiced in American legal education is referred to as the Socratic Method, but the philosopher Socrates, after all, was not discussing judicial cases. It is a method to deepen your thoughts and thinking process; and its use is not limited to any particular type of contents. As Sandel demonstrates so well in his Justice classes, the method can be very effective for examining concepts, theories, and philosophical debates; and, I would submit, it also can be very effective for considering code provisions and statutory interpretation. As the teacher and students repeatedly engage in back-and-forth questions and answers, students are led to realize that they had not considered all the possible aspects and ramifications of the problem; and, by engaging in this intensive analytical process, students also hone their skill in reasoning and their ability to apply that skill in other settings. By leading students to think for themselves about the many often-hidden aspects of a problem, the dialogue-based class helps develop intellectual self-reliance, the habit of continually probing on one’s own. That, to my mind, is the essence of the dialogue-based class.

 

━What do you wish for the youth in the next generation?

The University of Washington, where I used to teach, has a slogan, “Question the Answer.” The slogan is not “Answer the Question,” but “Question the Answer.” It means, in essence, do not simply take what you are told as a given, but think for yourselves; think critically, and never stop inquiring.

 

When I clerked at the U.S. Supreme Court, one of the justices was Thurgood Marshall. He was the first African American to serve on the Supreme Court, and he had been a leader in the civil rights movement, as well. At the U.S. Supreme Court, oral argument sessions are very active; some justices bombard the lawyers with question after question. In contrast, Justice Marshall didn’t ask many questions during the oral argument sessions, but one question that he did ask from time to time was, “But is it right?” When a lawyer was presenting a highly legalistic justification for some narrow interpretation of a statutory or constitutional right, Justice Marshall would ask, in a deep, booming voice, “But is it right, counselor? Is it right?” By this he meant not “Is that a technically justifiable interpretation?”, but rather, “Is it morally right? Is it appropriate? Is it fair? You are giving us this narrow interpretation of the law, but think about the implications of that argument for American society. Isn’t that what we should be focused on?”

 

I was deeply impressed by Justice Marshall’s attitude. Do not just be content to say, “This is the way things are.” Look beyond, and keep asking, “But is it right?” That’s the sort of attitude I hope you all will take.

 

(The Interview was conducted in English. The Japanese version is available from the following link.)

真の多様性とは 日米両国の視点をもったフット教授にインタビュー

 

Prof. Daniel Foote graduated from Harvard College in 1976 and Harvard Law School in 1981, where he earned the J.D. After serving as professor at the University of Washington, since 2000 he has taught in the Graduate Schools for Law and Politics at the University of Tokyo. His works include 裁判と社会――司法の「常識」再考.

 

真の多様性とは 日米両国の視点をもったフット教授にインタビュー

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 ハーバード大学を卒業、米国で法律家として活躍した後、東大に渡り日本に関する法社会学が専門の研究者となったダニエル・フット教授(法学政治学研究科)。日本に興味を持つようになった理由とは何か、東大が抱える国際性や多様性の問題はどのように対処されるべきか。数少ない外国出身の教授の目に映った東大像を描き出す。

(取材・翻訳 円光門、撮影 高橋祐貴)

 

 

 

──現在は法システムと日本社会の関係について研究している先生ですが、ハーバード大学では東アジア学を専攻していました。いつから東アジアや日本に興味を持ったのですか

 

 私の父は米海軍日本語学校を修了後、第2次世界大戦中に日本語の通訳をしていました。日本語学校では、後に著名な日本文学者となったドナルド・キーンと同じクラスにいたそうです。小さい時から日本についてのニュースを父や、戦後記者として日本に留まった父の親友から聞かされていました。そういう意味で日本に親近感を感じていました。

 

 

──学部卒業後は、なぜハーバード・ロー・スクールに進学したのですか

 

 『ジャパン・アズ・ナンバーワン』という本で後に有名になるエズラ・ヴォーゲルが私の学部時代の指導教官でした。彼は本当に熱心な教員で、はじめ私は大学院に進学し、ヴォ―ゲルのように日本社会の専門家になろうと考えていました。彼ならきっと私の計画を支持してくれたと思います。ところが私が4年生の時ヴォ―ゲルは研究で日本に行ってしまったので、代わりに卒業論文の指導を担当していたポスドク(博士研究員)に自分の計画を話してみました。ポスドクは日本学の研究職としての将来にとても悲観的で「博士号を取ったとしても、立派なポストにつけないだろう」と言ったのです。

 

 さあ今後の人生をどうしようか、と悩みましたね。日本とのつながりは保ちたいと思っていました。ロー・スクールを卒業して、日本に関する業務を取り扱う法律事務所で働くことができるのならば、と考えたのです。

 

 

──ロー・スクール卒業後はいろいろな場で実務経験を積んでいます

 

 地方裁判所と最高裁判所でロー・クラーク(裁判官付調査官)を務めました。ロー・スクール在学中に、日本法の専門家になるという、研究者への別の道があり得ることに気づきました。ロー・クラークの経歴はその後教授職を得るために有利に働くのです。その準備をするために日本法についてより勉強、研究する必要を感じ、フルブライト奨学金研究生として東大に留学しました。実務経験を得る必要性も感じたので、日産自動車法規部やニューヨークの法律事務所で働き、その後ワシントン大学で職を得ることができました。後日東大に客員研究員として2度招かれ、00年に専任教授として就任しました。

 

 

──今年文部科学省が発表した大学無償化政策の要件に、実務経験のある教員による授業が一定数を占めていることが記されています。近年の高等教育における、実用性を重視する風潮をどう評価しますか

 

 法学の教員としては、複雑な心境です。日本の法科大学院では実務家教員と研究者教員という区別があって、後者のほとんどは実務経験を持たず、法実務と乖離(かいり)しています。対して米国のロー・スクールでは、研究者教員でも9割方は実務経験があります。理論の専門家であっても、実際の現場で法律がどのように運用され、政策がどのように決定されるのか知るべきだと思いますし、そういう意味で私は実務経験の価値を強く信じています。

 

 しかし同時に、古典や文学、哲学や倫理の知識といった人文学の幅広い学識を持つことも重要です。他分野の知識を持ち合わせることで、事象を多角的にとらえて問題の核心を見極め、社会の人道的な側面に敏感であり続けることができるのです。

 

 ハーバード大学では、私のクラスメイトに世界的なチェリストであるヨーヨー・マがいました。大学入学前からすでに世界中で公演をしていた彼は、音楽院に入る必要はなかったわけですね。いろいろな思想に触れて視野を広げたかったからハーバードに来たのだと、彼は言っていました。現在に至るまで、彼は新しいことに挑戦し続け、様々な活動を行っています。最近の例として、彼は今年の4月に米国とメキシコの国境沿いでコンサートを開くことで、両国の境界線に壁を建てようとするトランプ米大統領を批判するメッセージを発信したと聞いています。こうした素晴らしい活動を世界中で展開できるのは、ハーバードで培った幅広い視野のたまものでしょう。

 

 つまり私は、実務教育は確かに重要だと考える一方で、実践的教育が重視されすぎてしまうことで人文学や教養教育が軽視され、総合的でバランスの取れた人材が育たないのではないかと恐れているのです。

 

 

──外国出身の教員という立場から見て、現在東大はどのような課題に直面していると思いますか

 

 東大は国際性、学際性、多様性の三つにより一層取り組む必要があると考えます。三つとも、ここ十年で随分と改善されましたが、まだ課題は山積みです。まず国際性に関しては、留学することはもちろん外国の理解を高めるために重要ですが、私自身の経験から言えば、母国の理解を高めるにあたってもより重要だと考えます。外国で暮らし学ぶ経験は、それまで当たり前だと思っていた自国の側面について新たな発見をするきっかけになるからです。なので、近年東大が学生を積極的に海外に送り出そうとしていることは大変喜ばしいことです。ただ現状では、留学から帰ってきた学生たちがその経験を他の学生と共有できるような場が少ないと思います。留学説明会などで発表の場はありますが、聞き手はあくまで留学に興味がある人たちだけ。学生が自身の経験を発信する機会がより多くなるべきです。

 

 次に学際性ですが、東大では前期教養課程で学生がいろいろな学問分野に触れる機会があります。ですが、研究に関しては未だ分野間の垣根は高いと感じます。法学部の中でさえ、民法や労働法などを専門とする教員の集まりはあっても、多様な分野出身の法学や政治学の学者が集う機会は少ないです。法学部と経済学部が共同で携わる公共政策大学院が設立され好評を得ていたり、法学部を含めて多くの学部にまたがるグローバルリーダー育成プログラムが設立されるなど、最近は学際性を意識した取り組みが見られますが、教員や学生の手による学際的な研究や学習の場がより増えてほしいと思います。

 

 

──多様性に関しては、性別や国籍の多様性を増やす努力は、東大内でもなされていると思いますが

 

 国籍に関しては、PEAK(教養学部英語コース)など外国出身の学生に向けたプログラムの登場によって、私が初めて東大に留学した80年代初頭に比べはるかに多様性があります。ジェンダーに関しても、東大が真剣に多様性を高めようとしていることは確かです。しかし女性が学部生全体で20パーセント、教員の中では10パーセント以下しか未だに占めていないことには落胆しています。

 

 さらに私が懸念しているのは、教育プロセスそれ自体における多様性の意義に目が向けられていないことです。例えば、東大を含む日本の法科大学院は多様性を確保するため、社会人や法学部以外の卒業生を受け入れることが求められていました(ジェンダーへの言及はありませんでしたが)。経済学や工学、医学の教育を受けた弁護士といったように、法曹の中で経歴の多様性があることは重要だと当時も認識されていました。しかしそのような多様性が教室で十分生かされているかは甚だ疑問なわけです。日米両国で教えた私の経験から言えば、多様な学生の集団があることは、同じ問題を異なる観点から考察することを可能にし、学習環境をより豊かにします。法学の授業であれば、ある法律や判例が女性やマイノリティー、さらには事業革新といったものに対してどのような影響を持つのか、各々が持つアイデンティティーや経験を基に問題を考え、他の学生と共有する。こうして初めて学生の多様性が、学びのプロセスの中で意味を持つのです。そのためにはもちろん、一方向的な講義だけではなく、生徒と教員が、また生徒同士が対話できるような授業が必要です。

 

 

 

──東大法学部は大教室での一方向的な授業が多いことが学生の間でも問題になっています。しかし、判例を基に教員が学生に質問を投げ掛けて考えさせる対話型授業は、判例が司法の判断基準の中心となる米国などで意味があるのであって、判例より体系的な法典に基づいて判断する日本には適さない教育法だと考える人もいますが

 

 日本人の多くはマイケル・サンデルが「正義」について講義する放送番組を観たことがあるでしょう。サンデルは数百人で埋まった大講堂の中で、刺激的で双方向的な議論を学生と展開するわけですが、彼は本当に例外なのです。米国でも200人かそれ以上の学生がいるクラスで対話型の授業を効果的に行うことのできる教授はほとんどいません。

 

 それはそれとして、対話型の授業が日本の法典に基づく法システムには適さないとする考え方には、私は断固として反対です。米国の法学教育で行われる対話型授業は、ソクラティック・メソッドと呼ばれていますが、そもそも哲学者のソクラテスは判例のことなど話していたわけではないのです。あれは思考を深めるための方法であって、どんな題材を扱うかは本質的な問題ではありません。サンデルが彼の「正義」の授業でよく示しているように、このメソッドは概念や理論、哲学的な議論を考察するのにとても有効ですし、法典の条文の意味合いや制定法の解釈を考える際にも非常に効果的だと思います。教員が学生と問答を繰り返すことで、学生はその問題の全ての側面や影響を考えてこなかったことに気付かされるのであり、この濃密な分析プロセスにおいて、学生は推論の技法を磨き、その技法を色々な場面で応用する能力を養うことができるのです。事象の隠された側面について学生が自分自身で考えられるよう導くことで、知性の自立と主体的に探究する力を養うことが、対話型授業の本質だと思います。

 

 

──次世代の若者に望むことは

 

 私が以前教壇に立っていたワシントン大学にはQuestion the Answerというスローガンがあります。Answer the Question(問いに答えろ)ではなくQuestion the Answer(答えを問え)なのです。与えられたことをそのまま受け取るのではなく、常に問い続けろという意味です。

 

 私が米国の最高裁判所で働いていた頃に、サーグッド・マーシャルという判事がいました。彼はアフリカ系アメリカ人で初めて最高裁の判事になった人で、公民権運動のリーダーでもありました。米国の最高裁判所における議論というのはとても活発で、弁護士に次から次へと質問をぶつける判事などいるわけですが、それと対照的に、マーシャル判事は口頭弁論で多くの質問をしませんでした。しかし彼が時々したのは「しかしそれでいいんですか?」(But is it right?)という質問でした。弁護士が法令上、憲法上の権利について極めて法的な解釈を主張すると、マーシャル判事は低くてうなるような声で「しかしそれでいいんですか。本当にそれでいいんですか、代理人よ?」と聞くのです。つまり彼が言わんとしていたのは、その議論が解釈論として成り立つのかではなく、道徳的に正しいのか考えるべきだということでした。「それは適切なのですか?公平なのですか?あなたはこの法律の限定的な解釈を提示していますが、我々が考えるべきはその解釈が現実問題として社会にもたらす影響なのでは?」と。

 

 私はそんな彼の姿勢に大変感銘を受けました。「現状はこういうものだから仕方がない」で終わらせるのではなく、現状の背後にあるものを見極めて「しかしそれでいいんですか?」と問い続ける。このような姿勢を私はみなさんに身に付けてほしいと思いますね。

 

(取材は英語で行われました。下記リンクに英語本文も掲載しています)

Interview with Prof. Daniel Foote: Think Critically and Never Stop Inquiring

 

 

ダニエル・フット教授(法学政治学研究科)

 76年ハーバード・カレッジ、81年ハーバード・ロー・スクール卒業。法務博士。ワシントン大学教授などを経て、00年より現職。主な著書に『裁判と社会――司法の「常識」再考』(NTT出版)など。

 


この記事は8月7日、8日に本郷キャンパスで配布された『オープンキャンパス特集号』に掲載された記事を加筆修正したものです。『オープンキャンパス特集号』は上記リンクより随時閲覧することができます。

東大2020 内容訂正について

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 弊紙出版の書籍『東大2020』の235ページ「後期学部紹介 自然科学編」に掲載されている薬学部の青木彩さんの出身科類に誤りがありました。正しくは理Ⅰ→薬学部薬科学科です。同ページ本文2行目「理Ⅱに入学」についても、正しくは「理Ⅰに入学」です。お詫びして訂正いたします。

【飛び出せ!東大発ベンチャー】長期インターンシップの魅力を広める Buildsの挑戦

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「長期インターンシップの良さを広めていきたい。そう思ってこの会社を立ち上げました」。そう語るのは、株式会社Buildsの代表取締役社長、橋本竜一さんだ。

 

 Buildsは長期インターンシップや新卒採用において東大生などレベルの高い学生と企業をマッチングするサイト「JobShot」を運営している。長期インターンシップとは、長期休暇中に学生が数日から一週間ほど就業体験をする通常のインターンシップとは違い、主にベンチャー企業で数か月以上にわたって実務に携わりながら働くことだ。

 

 橋本さんも、大学2年のときに広告代理店のベンチャー企業で1年ほどの長期インターンシップを経験した。「家庭教師とかのアルバイトは、別に僕がやらなくてもいい。長期インターンシップは自分で知識を得られる上、お金までもらえるなんて、すごくいいじゃないですか」と橋本さんは語る。

 

 こうして長期インターンシップの楽しさに気づいた橋本さん。長期インターンシップを始めた当初から起業を意識していたわけではなかったという。しかし、一度は就活に失敗した友人が長期インターンシップを経て就活で成功を収めた姿を見て、もっと多くの人に長期インターンシップについて知ってもらおうと知人や後輩たちを誘ってマッチングイベントを開催。参加者からの「長期インターンシップを経て人生が変わりました」というコメントに手応えを感じた橋本さんは起業を決意した。

 

 橋本さんにとって、起業は比較的身近なことだった。東大入学後のクラスには起業した人が5人もいる。起業するための十分な資金、システムの整備をしてくれる友人もそろっていた。ただ、創業当初は苦労もあった。「特に苦労したのは人ですね」と語るのは、広報を担当する執行役員の伊澤航太郎さんだ。「方向性の違いや就職のために会社を離れた人は20~30人はいますね。会社のビジョンに共感してもらえる人を集めるのが難しかったです」。社員にとっては「企業と文化が合うのか」が重要なことを痛感した。

 

 この経験はJobShotのサービスにも生かされている。例えば、恋愛経験の有無を尋ねる項目。一見必要性がなさそうだが、異性が多い職場の方が働きやすいのか、そうでないのかを判断する一つの基準になるという。

 

 現在、JobShotには40社以上の企業と1500人以上の学生が登録し、事業は順調だ。今後は、学生向けの事業にとどまらず、まだ働く意欲があるシニア層向けに就業の場を提供する事業も始める方針だという。また、東京だけでなく関西や北海道での事業展開も考えている。

 

 攻めの姿勢を貫くことに不安はないのか。橋本さんに聞くと「不安はもちろんありますよ」。ただ「絶対に成功するという自信があります。不安を解消するためには突き進むしかないですね」

 

代表取締役の橋本さん(写真左)と伊澤さん(同右)

この記事は2019年8月27日号からの転載です。弊紙では他にもオリジナル記事を公開しています。

ニュース:レジ袋利用率が減少 有料化の影響を検証
ニュース:七大戦 28種目を終え総合2位 女ラク・陸上ホッケー全勝
ニュース:駒場イタトマ改修工事 9/16まで休業 新たなカフェへ
ニュース:ラクロス 秋リーグ黒星発進 格下・中大に9失点
ニュース:110億年前の巨大銀河 宇宙の進化の謎深まる
ニュース:東大は2件採択 卓越大学院 博士人材育成に補助金
ニュース:新たな磁性材料開発 次世代デバイスへ応用
企画:「海洋ごみ対策プロジェクト」始動 プラスチックごみの行方を追って
企画:地元の絆、忘れていませんか? 「県人寮」の魅力とこれからに迫る
推薦の素顔:湊杏海さん(理Ⅱ・1年→農学部)
飛び出せ!東大発ベンチャー:Builds 長期インターンのの魅力広める
著者に聞く:『人間と機械のあいだ 心はどこにあるのか』池上高志教授(総合文化研究科)
赤門恋愛相談室:悩める東大生にプロの処方箋
キャンパスガール:平田裕子さん(理Ⅱ・1年)

※新聞の購読については、こちらのページへどうぞ。


ラクロス男子 立大に勝って2連勝 今度は4点差を逆転

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 ラクロス部男子(関東学生1部リーグ)は8月31日、立教大学とリーグ戦第3戦を戦い、7─4で勝利した。東大は前試合の武蔵大学戦と同様、序盤から追う展開に。しかしゴーリーの三木理太郎選手(工・3年)が第3クオーター(Q)に立大の猛攻をしのぎ、第4Qには黒木颯主将(工・4年)のゴールで同点に追い付く。その後間野弘暉選手(経・3年)が鮮やかにランニングシュートを決めて勝ち越した。次は9月8日午後1時30分から、立大新座キャンパス多目的グラウンドで成蹊大学と戦う。

 

逆転直後、シュートを決めた間野選手に選手が駆け寄る(撮影・湯澤周平)

 

東大|0304|7

立大|3100|4

 

 第1Qに3失点した武蔵大戦から1週間、東大は守備の連携を修正して立大戦に臨んだ。しかし、この日の序盤は、連携以前に各選手の動きが固かった。簡単に突破を許してしまい、第2Q2分までに4点を奪われる。

 

 追う展開には慣れている東大。体も徐々に温まり、反撃を開始する。まずは第2Q5分、菅原秀選手(農・4年)が右サイドをえぐってチーム初得点。13分にも菅原選手が追加点を奪うと、第2Q終了間際にはゴール裏からパスを受けた鶴田直大選手(法・4年)が至近距離からシュートを決め、3─4と1点差に迫る。

 

第2Q13分、自身2得点目となるシュートを放つ菅原選手(撮影・湯澤周平)

 

 一気に追い付きたい東大だが、第3Qは立大の猛攻を受ける。東大は激しいプレスで対応するが、相手のボールをなかなか奪えず、逆に反則を取られてしまう。しかし武蔵大戦で勝負強さを見せた三木選手が、この日もピンチで得点を与えない。鋭い反応で次々に好セーブを繰り出し、味方の追撃を待つ。

 

この試合も好セーブを連発した三木選手(撮影・湯澤周平)

 

 すると第4Q開始直後、間野選手が相手を引き付けてできたスペースに黒木選手が走り込み、シュートを決める。主将の一撃でついに試合を振り出しに戻すと、第4Q6分、今度は黒木選手が相手を引き付けてできたスペースに間野選手が走り込み、得意のランニングシュート。これがネットを揺らし、鮮やかな勝ち越しに成功する。ここからは完全に東大のペース。ゴール後のフェイスオフでも常に優位に立って次々に得点を重ね、突き放した。

 

(児玉祐基)

 

◇黒木主将の話

──今日も序盤に3失点してしまった

 戦術云々というよりは、シンプルにディフェンスの動きが良くなかった。0失点で抑えた後半は、しっかり体を当てにいけていた。あれが東大の本来の動きだが、立ち上がりにできていなかったのが課題。

 

──その点、今度どう修正していくか

 戦術に間違いがあるわけではないので、アップからもっと気持ちをつくって、準備しないとな、というところ。

「学歴社会」は本当か 採用に用いられる学歴フィルターとは

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 企業説明会の申し込み画面が、東大生は「空席あり」なのに他の大学生は「満席」と表示される「東大生はエントリーシート(ES)が通りやすい」という否定できないうわさ……。その背景には、企業が採用活動時に用いる「学歴フィルター」が存在する。学生を出身大学によって機械的に評価しているかのような企業の採用活動に、複雑な思いを抱く人も多いだろう。なぜ学歴フィルターは必要なのか、最新の就活事情とともに就職コンサルタントの福島直樹さんに話を聞いた。合わせて、学歴に頼らない選考を実現する可能性を秘めた新技術についても紹介する。

(取材・武沙佑美)

 

競争率を抑えるため

 

━━企業の採用活動において、学歴フィルターは実際どの程度機能しているのでしょうか 

 「うちは学歴フィルターを使っている」と明言する企業はありませんが、HR総研が実施した「2018年新卒採用動向調査」では、特定の大学層の学生を重点的に採用したいと回答した企業が全体の39%に上ります(図1。 

 

(図1)2017年3月21日から29日にかけて、企業の人事責任者・担当者にウェブアンケートを実施。有効回答数184社(うち社員数1001人以上:14%、301〜1000人:34%、300人以下:52%)HR総研の2018年新卒採用動向調査結果報告を基に東京大学新聞社が作成

 

━━なぜ企業は就活生の学歴を気にするのでしょうか

 

 主な理由は、業務の効率化です。00年代に入り就活情報サイトが普及し、学生がインターネットで多数の企業に一括エントリーできるようになりました。企業によっては100倍超の競争倍率となるほど競争率が高まったため、企業側は学生の選別を簡略化するために学歴フィルターを用いるようになりました。

 

━━フィルターをかけなくても済むよう、応募者の数を制限することはできないのでしょうか

 

 採用は企業の自由な経済活動ですので、そのやり方に制限をかけるのは難しいでしょう。高倍率にならない別の仕組みが必要です。例えばエイベックスという企業では、専門のプログラムに参加して応募資格を得る「志採用」を行っています。このように1社応募するだけで大きな労力が必要となれば、応募者の数は減るでしょう。ただ、第1志望の大手人気企業に時間を割くために中小企業を受けない人が増える可能性や、学業に支障を来す恐れもあります。

 

━━機械的な学歴フィルターは「人材を取りこぼす」ことにつながります。企業側はそのリスクにどう対処しているのでしょうか

 

 どこの人事も「ESで落としたけれど正しい判断だったのか」と考えることはあるようです。学歴と入社後の活躍を分析している企業もありますが、必ず相関があるわけではないと聞きます。

 

 ですが10万人もエントリーする中で、全員を面接することはできない。そこでESを手書き指定したり、性格と能力を検査する試験(SPI)のスコア提出を義務付けるなど、エントリーに手間がかかるようにして熱意ある学生を抽出します。説明会の申し込みで「お断り」の対象となった学生が、諦めずに参加したいと問い合わせ承諾された例もあります。結局企業にとって重要なのは、取りこぼし対策と経済的合理性のバランスなのです。

 

━━誰でも何社でも応募できる現在の状況を、どう評価しますか

 

 悪いことばかりではないと思います。実は60年代から90年代まで、企業は、大っぴらに「うちは◯◯大学の学生しか採用しません」と宣言する推薦依頼大学制度や指定校制度を多用していました。しかし四年制大学進学率が上昇し、将来の安定を期待して大学に進学する若者およびその保護者が増えたこともあり、学歴差別を批判する世論が形成されてきました。

 

 そのような風潮の中で就活情報サイトの誕生により「誰でもどんな企業でも受け入れられる環境」になったのです。指定校制度では応募すらできなかった学生が大手企業に就職する事例も見られるようになりました。

 

本気度合いを見る

 

━━SPIなどで性格や能力を検査し適性を測る審査は、有効なのでしょうか

 

 能力検査に関してはウェブ上で受験することも多く、友人同士で協力して回答したり、解答例が出回っていたりします。その点で、個人の能力を測る指標としては弱いかもしれません。それでも企業が受験を応募条件に含める理由は、志望している学生の本気度合いを見極めたいからです。選考過程でもう一度筆記試験を実施し、学生の本当の能力を確認する企業もあります。

 

━━性格検査はどうでしょうか

 

 10年ほど前から一部の企業は、社員の性格と入社後のパフォーマンスの関係性を分析し始めました。蓄積された分析結果を基に学生にも性格検査を実施して、企業に適した人材を見極めようとしているではないでしょうか。

 

━━学生側の学歴フィルターに対する意識の現れとして、出身大学により学生の就活に対する態度が異なっていると感じたことはありますか

 

 東大生は就活で有利とされているためか動きがゆったりしているというのはあるかもしれませんね。東大生がプレエントリーをするとすぐOB・OGと会う誘いが来るなど優遇されるケースもあります。ですが面接などで企業に合わないと判断されれば、学歴に関係なくすぐに排除されてしまうのも事実です。

 

━━東大生は就職先で「使えない」という風説を耳にすることがあります。この実態をどのように見ますか

 

 東大生に対する社会の期待値は高いので、仕事ができないと目立つようです。それについては、期待に応えられるように鍛錬するしかありません。

 

 そのコツとして、受け身でない姿勢が大切です。「やり方を教えてくれない上司が悪い」のではなく、「自分で学ぶこと」を学ぶべき。新しい知を生み出す場である大学でメタ認知能力を鍛え、職場でも評価される人になってほしいです。

 

発想力や課題解決力を可視化 

 

 個人が持つ創造力や発想力、課題解決力を客観的に計測する技術が今、大手を含む数々の企業の注目を集めている。VISITS Technologiesが開発した「CI技術(コンセンサスインテリジェンス技術)」だ(図2。この技術を用いた商品の一つに、一般受験が可能な設計をした「デザイン思考テスト」がある。工学部出身で同社社長の松本勝さんは「このテストの一般化が進むことで従来の採用制度を塗り替える可能性もある」と意気込む。

(図2)CI技術はアイデアの価値を可視化する、VISITS Technologies独自の特許技術だ(図はVISITS Technologies提供)

 

 CI技術では、まず各利用者がアイデアのアウトプットを行い、互いに各案の創造力の高さを評価する。次に、創造力の評価のデータから参加者の「目利き力」を推定し、目利き力を加味して評価の比重を変動させ互いの案への評価を計算し直す。特殊なアルゴリズムでこれを実施することで、単なる多数決ではない重み付けを加味した相互評価により創造力の高い発案者を特定できる。デザイン思考テストでは、この仕組みを受験者同士で実施し、創造力の高い受験者を割り出す。

 

 企業はデザイン思考テストを用いて学歴やESでは見落としかねない才能を持つ人材を拾い上げようとしている。松本さんは「デザイン思考テストに興味を示す企業は、主体的に考える人材を集めることで日本的なトップダウン型の組織を脱却し、『下からの改革』を促す風潮を作ろうとしています」と分析する。

 

 就活する学生が気になるのは、デザイン思考テストの対策法だろう。「実はクリエーティブな思考をするための思考の枠組みというものが存在する」と松本さんは明かす。「思考法を繰り返し実践して練習を積み重ねれば、発想力や課題解決力を身に付けテストでスコアを伸ばすことが可能です」。創造力や発想力は一部の天才が持つ先天的な能力ではなく、努力さえすれば習得できるものなのだ。

 

 だが松本さんは就活生に対し、選考の心配をする前に考えてほしいことがあると言う。「就活生の中には『安定した企業』を志向する風潮があるようですが、社会情勢が激しく変わる現代において、確実に将来が安心な企業など存在しません」。自らの将来の安定を保証するのは企業ではなく、自分自身。「課題解決力と発想力を身に付け、自ら道を切り開けるようになることが大切です」

 

福島 直樹(ふくしま・なおき)さん 就職コンサルタント。大手広告会社勤務を経て、93年より現職。就職に関する講演や学生の就職支援を行う他、企業の採用で戦略立案、選考なども担当する。著書『学歴フィルター』(小学館)他多数。
松本 勝(まつもと・まさる)さん 01年工学系研究科修士課程修了。ゴールドマン・サックス社などを経て、14年に現VISITS Technologiesを設立。元文部科学省事業委員。


この記事は2019年7月30日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナル記事を公開しています。

ニュース:東大「不正はなかった」 早野名誉教授らの論文不正疑惑の調査結果公表
ニュース:10〜2月は仮店舗営業 本郷生協書籍部 第2食堂建物耐震改修で
ニュース:思春期に身近な人を重視するほど自殺考えづらい
企画:「若手研究者・学生への支援を充実」 目白台インターナショナルビレッジ
企画:「学歴社会」は本当か 採用に用いられる学歴フィルターとは
企画:本郷で味わう本場の味 中華料理店4選
推薦の素顔:河村若奈さん(文Ⅰ・1年→法)
ひとこまの世界:ネコカフェでホッと一息
著者に聞く:常松祐介さん『古いのに新しい!リノベーション名建築の旅』
火ようミュージアム:クリスチャン・ボルタンスキー – Lifetime
キャンパスガイ:遠藤一樹さん(文Ⅱ・2年)

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アメフト リーグ戦初戦は惜敗 昨季関東王者に善戦も最後は突き放される

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 アメリカンフットボール部(関東学生1部リーグ上位TOP8)は9月1日、リーグ戦第1戦を早稲田大学と戦い、10―23で敗北した。東大は昨季、関東学生1部リーグ下位BIG8からの昇格を決めたばかりで、今回がTOP8所属チームとして初の公式戦。昨季TOP8を制した相手に食らいつくも、最後は突き放された。第2戦は9月15日午後3時半から、AGFフィールドで明治大学と戦う。

 

東  大|01000|10
早稲田大|10706|23

 

 第1クオーター(Q)序盤、東大の守備陣は相手の力強いランをなかなか止められず、簡単に攻撃権を更新される。結果、わずか1分ほどで先制のタッチダウン(TD)を許してしまう。次の守備でもテンポよく距離を稼がれ、相手のミスでTDこそ免れるも、フィールドゴール(FG)で3点を追加される。

 

 一方の攻撃陣は、第1Q終盤に好機を得る。早大とは対照的に、細かいパスやランを織り交ぜ地道に前進。5分以上に及ぶ攻撃の末、永幡洸裕選手(工・4年)への巻くような軌道のパスでTDをもぎ取る。東大は直後に再びTDを許すも、FGで応戦し、7点差で前半を折り返す。

 

第2Q、TDをもぎ取った永幡選手(右)(撮影・中野快紀)

 

 第3Q前半、東大はクオーターバック(QB)の伊藤宏一郎選手(文・4年)を中心に、着実に前進する。敵陣36ヤードで迎えた4th down 1、東大は相手の意表を突いて、前の攻撃から間髪空けずに中央突破を仕掛ける。攻撃権更新できるかどうか際どいプレーだったが、ここで審判が介入。プレー開始直前がちょうど第3Q残り6分に当たるため、プレーの結果ではなく、毎Qの真ん中に挟まれる「水分補給のためのタイムアウト」が優先されることになった。東大は4th down 1からやり直しとなり、今度はパスを選択するもレシーバーがファンブル。攻撃権更新とはならない。

 

 試合は徐々に、再び早大がテンポよく攻撃する展開に。本多孝全選手(工・4年)のQBサックなど、東大の守備陣にも好プレーが飛び出すが、最後は40ヤードのFGを許す。一刻も早く追いつきたい東大は第4Q残り4分、ロングパスを狙うも、東大のレシーバーの前に回り込んだ相手がインターセプト。直後にFGを食らい、万事休す。とはいえスコアほどの力の差を感じさせない健闘で、次戦以降に期待が持てる結果となった。

 

第4Q、東大は食らいつくもあと一歩及ばなかった(撮影・中野快紀)

 

(小田泰成)

 

◇森清之ヘッドコーチの話

 選手たちはよく頑張った。今持っている力自体は出せていた。当たり負けはしておらず、特にラインはよく耐えていたので、フィジカルではなくスキルの差が大きいのだろう。ロングパスがインターセプトされたのは、一気に前進したいという欲が出てしまったか。今後は先のことは考えず、目の前のことに集中して力を付けていきたい。

 

◇関剛夢主将(工・4年)の話

 良いプレーも悪いプレーもあったが、総合的に相手の方が上だった。次の(試合までの)2週間にやることはこれまでと変わらないが、より質を上げたい。

【セミが見た高知⑤】木のおもちゃ・山のくじら舎で気付いた、”東大生”の僕が見失っていたもの

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山のくじら舎のみなさん(左から順に、湊美保子さん、萩野和徳さん、見神準さん)

 

 高知県安芸市。セミが見た高知④で訪れた奈半利町にほど近い町だ。高知と言えば海!安芸市にもいたるところにきれいな海岸がある(地元に方にとっては普通かもしれないけれど)。そんな安芸には海からほんの少し行けば“山”があり、今回はその“山”でのお話。

 

 今回訪れたのは、高知県安芸市で「木のおもちゃ」を作っている山のくじら舎さん。そこで作られる木のおもちゃの魅力もさることながら、社長の萩野さんの生き方には痺れた。三重の田舎で18年過ごしてきたのに、この2年で都会に「染まっていた」自分を見つめなおした。

 

 海沿いからほんの少し車で向かった“山”エリアのふもとに山のくじら舎はある。落ち着いた雰囲気の中に木造の建物があった。

 

 山のくじら舎の社長、萩野和徳さん。ご両親が高知出身で荻野さん自身は大阪育ち。お話を伺っているうちに、なんだか自分の父を思い出した。僕の父も三重で商売をしていて、言葉でうまく表せないけれど、懐かしい空気感を感じた。「なんだか、いい話が聞けそう」

 

  「子供がお風呂で遊ぶおもちゃが欲しい」

 

 木材の加工をしているところへ、近所のお母さんからそんな声を聞いた。せっかくなので、作ってプレゼントをしてみたという。すると、みるみる口コミが広がり……今ではその木のおもちゃが主力商品になった。

 

 「できないと言ってても何も始まらない。」

 

 その言葉が萩野さんのこれまでを言い表している。木のおもちゃを作り始めた当初は、たとえいいものだったとしても、なかなかすぐには広まらない。

 

 「いっそのこと、空港にでも置いてもらおうか。」

 

 思い立ったら早い。すぐに空港に売り込んだ。が、あっけなく断られた。

 

 「まあ、しかたないか…」とならないのが荻野さん。今度は安芸市の職員さんに相談し、安芸市を通じて交渉することに。すんなりとはいかなかったがそうこうして、高知龍馬空港のお土産売り場に木のおもちゃが並んだ。

 

 効果は抜群だった。ここから、山のくじら舎の木のおもちゃは一気に飛躍することになる。

 

木造の温かい建物

 

 そんな荻野さんの姿勢は意外なご縁もつくった。山のくじら舎のHPには「皇室ご愛用」とある。紀子さまが山のくじら舎のおもちゃを買われたのだという。

 

 だがこれも「たまたま」ではない。

 

 皇室の方が宿泊される宿に商品を置かせてもらえるよう交渉した結果なのだ。そんな姿勢は海外の王室とのご縁まで呼びこんだ。

 

 「動く。チャンスをつかむ。できないことって、ほとんどないと思う。」

 

 荻野さんのその姿勢に、僕はジーンときた。

 

 父にも小さいころから「できない理由を探すな!」とよく諭されていた(怒られていた?笑)のを思い出した。その姿勢で自分も生きてきたつもりだし、そう思っていた。でも、荻野さんの生き方に触れて、思った。上京してからの2年間は果たしてそうだっただろうか。

 

 東大に来て、びっくりしたこと、それはここにいる人たちは「できない理由」を探すのがものすごく上手だということ。勉強すればするほど、なぜだめなのかがよく分かってくる。分析すればするほど、”ほころび”が見えてくる。でも、どうすればいいかは、ほとんどの「かしこい」人たちは分かっていない。そんな1人になっていなかったか。

 

 「地方創生」と名のつく本を読んで、「地方」を分かった気になる。高知に行ったこともないのに、高知の人たちより、高知を知った気になる。「高知はここがダメなんですよ。東京はこうです。」こんな感じ。でも、「どうすれば高知が良くなるんですか?」この質問には答えられない。

 

 そんな姿勢を知らず知らずのうちに身に着けていた僕ははっとした。目を覚まされた。

 

 「僕らはイノベーションを起こすことはできん。でも、世の中に必要なものを作ってやっていくしかないんや。」

 

 荻野さんはそう言う。けれど、荻野さんたちは間違いなく、一歩ずつ前へ進んでる。どうやったらできるかを必死に考えて、着実に前に進んでいる。

 

 僕たちは本を読んで、高知のことを都会の一室で議論して、わかった気になって、問題提起して、いい気になってるだけだ。「高知を変える」なんてかっこいいことを言ったって、結局は一歩ずつ前に進んでいくしかない。

 

 荻野さんの目標は「安芸の地を木工産地にする」、その「種」を作ることだ。

 

 僕らだったら、「安芸の地を日本一の木工産地にする!」とか事の大変さを知らずに意気込むだろうけど、荻野さんはギラギラした野心を持ちながら、でも謙虚な目で現実を見ている。

 

 「木工産地。その種を作れればいい。」

 

 大きいことを言うのはいい。目の前の小さいことしか見えていないのは長い目で見たら危険だ。でも、僕らは、少なくとも僕は、「大きいことも小さいことも、目の前の階段を一歩一歩登らなくちゃいけない」、そんな当たり前のことを忘れていた。

 

 そんな僕らに荻野さんはこんな言葉をかけてくれた。

 

 「君らはプラチナチケットを持っとる。俺はクーポンチケットしかない。でも、俺はそのクーポンチケットを使ってる。プラチナチケットも使わなクーポンに負けるで」

 

 荻野さんから僕らへのエールだ。

 

 この言葉を今でもふと思い出す。「プラチナチケットか…」今の自分が上手に使えているのかはわからない。でも、大事なのは「やるか、やらないか」(荻野さん)だから。もっといっぱい「プラチナチケット」を使わんとな。

 

笑顔バージョン!

 

 

 そして、その後安芸でおすすめのカレーをご馳走になり、次の目的地まで送っていただいた。その道すがら、荻野さんお気に入りの海岸に。

 

海岸

 

 

 「坂本龍馬がああいう気持ちを抱いたのもわかる気がする」と思った。「よし!俺も龍馬に負けとれん!やってやるぞおおお!!」意気揚々と次の目的地に向かった。やれやれ、人間すぐには変われない……(笑)

 

文・写真 矢口太一(孫正義育英財団 正財団生・工学部機械工学科3年)

Mail: taichikansei@gmail.com (記事へのご意見大募集中!)

 

【セミが見た高知 シリーズ】

セミが見た高知① 高知県知事、駒場に来たる!!

セミが見た高知② 人ってこんなに温かい!?

セミが見た高知③ んん..思ってたのと違うぞ? セミ現実を知る。

セミが見た高知④ ふるさと納税の光と影

勘と経験に頼らず選別 単結晶試料構造解析 高精度に事前評価

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 星野学研究員(理化学研究所)、中西義典助教(総合文化研究科)らは、単結晶試料の構造解析の結果を事前に評価する技術を開発した。解析作業の効率や精度の向上が期待される。成果は8月22日付の英科学誌『サイエンティフィック・リポーツ』(電子版)に掲載された。

 

 研究の場では、分子や物質の性質を評価、理解するために単結晶構造解析という測定法が用いられる。この解析には数時間から数日かけた計測を要するため、数分の予備計測をして研究の目的にふさわしい結果が見込まれる試料の選別や計測条件の設定を行うことが多かった。しかし、試料の選別や計測条件の設定は研究者の「勘と経験」を頼りに行われ、「勘を外し」たり、未熟練であったりした場合、計測を繰り返す必要があり低効率だった。

 

 星野研究員らは、事柄の原因を観測された結果から推定するベイズ推論という統計解析法に着目。予備計測で得られるデータから被験試料の結晶構造を推定する技術を開発した。実際に、この技術を異なる溶媒分子を含む2種類の結晶に適用。従来はデータ測定と単結晶構造解析を経なければ判別できなかった溶媒分子の違いを単結晶構造解析の前に確認することに成功した。試料の選別や計測条件の設定を未熟練の研究者でも効率良く行えるだけでなく、これらの作業をコンピューターに置き換える技術への発展が期待される。

 

この記事は9月3日発行号からの転載です。本紙では他にもオリジナル記事を公開しています。

ニュース:知と人材の集積を生かす Society5.0実現に向けた東大の取り組み
ニュース:3点差逆転し辛勝 ラクロス男子武蔵大戦 守備の連携は修正途上
ニュース:勘と経験に頼らず選別 単結晶試料構造解析 高精度に事前評価
ニュース:細胞内へのリン脂質輸送機構解明 ニュース:飢餓を学習・回避する機構発見
ニュース:東大と日本IBM 文理融合の共同研究設立
企画:総合図書館が残す「歴史」とは 『サーギル博士と歩く東大キャンパス』拡大版
企画:昆虫食を始めよう 記者が実食、レシピも紹介
火ようミュージアム:奈良大和四寺のみほとけ
サークルペロリ:東京大学運動会相撲部
キャンパスガイ:武田直樹さん(文Ⅰ・1年)

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