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東大生協のレジ袋有料化から4ヶ月 利用率が減少

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 東大生協は、今年5月から店舗でのレジ袋の無料配布を終了し、1枚5円の有料制に移行した。まもなく移行から4カ月となるが、使い捨てプラスチック削減のために導入されたという有料化は、どれほどの効果を生んだのか。東大生協に話を聞いた。

(取材・中野快紀)

 

学生の間で浸透

 

 レジ袋有料化の契機となったのは今年2月の閣議決定だ。官公庁や国立大学構内の店舗に対し、食堂での使い捨てプラスチック製品の使用禁止や、売店での同製品削減への取り組みを求める方針を定めた。東大生協はこの閣議決定や社会全体の流れを受け、5月からレジ袋を有料化することを決定した。

 

 有料化した当初は、生協の経営難のために行ったのではないかなどの声も寄せられたという。しかし、東大生協総務課の矢野正悟課長は「有料化の目的は廃プラスチックを削減すること。利益目的の有料化ではないため、利用者が支払ったレジ袋代は大学に寄付する予定だ」としている。

 

 生協の店長間で、レジ袋有料化の方針で合意したのが3月の中旬。そこから5月には完全に有料に移行するという対応を取ったた め、周知期間が1カ月と短く、当初は日常的に生協を利用する学生の中にも有料化について知らない利用者が見られた。しかし、現在ではほとんどの学生の間で浸透しているという。

 

 

 実際、有料化してから3カ月のレジ袋の利用率の推移を見ると、ほとんどの店舗で7月の利用率が5月を下回り、7月の利用率は全店舗平均で3.09%となった(表)。さらに、生協でのレジ袋の発注数は無料配布時の半数未満で済むようになった。レジ袋の使用を控える意識が波及してか、紙袋の使用数も減少したという。2006年に本格的にレジ袋を有料化した千葉大学生協では、18年度のレジ袋の利用率が0.5 %と低く、東大でも将来的には同様の利用率への減少が期待 される。

 

有料化の徹底を目指す

 

 ただ、レジ袋の削減に向けては課題も残る。で示した各店舗のレジ袋の利用率のうち、本郷キャンパスの第二購買部では他の店舗に比べて利用率が高めだ。観光客など大学外部の利用者が多いため、レジ袋の有料化が十分認知されていないという。さらに、東大グッズの購入者には、通常のレジ袋とは異なるプラスチック製の袋を無料で配布しているが、第二購買部の秋山純平店長は「将来的には、どのような利用でもレジ袋を有料として協力を求めたい」と今後の見通しを述べる。さらに、東大グッズの一つとして東大のロゴが入ったエコバッグの商品化も進めているという。

 

 6月に世耕弘成経済産業相が、来年4 月からレジ袋有料化の義務化を目指す旨を表明するなど、社会全体でレジ袋の無料配布への見直しが進んでいる。多くの人が日常的に利用するコンビニエンスストアでの有料化が本格化すれば、大学の内外を問わず利用者の意識はさらに高まるだろう。生協でも、現在のルールを維持しつつ、法整備や新技術の開発を注視するとしている。

 

この記事は2019年8月27日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナル記事を公開しています。

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「海洋ごみ対策プロジェクト」始動 プラスチックごみの行方を追って

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 海洋プラスチック問題が注目を集めている。2019年6月のG20大阪サミットでは、2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにするという目標が共有された。東大も日本財団と共同で「海洋ごみ対策プロジェクト」を始動。危機感が高まる中、本企画では廃棄物処理の専門家と、プロジェクトのまとめ役の東大教員に話を聞き、プラスチック問題の現状に迫った。

(取材・黒川祥江)

 

資源消費社会を再考

 

 まずはプラスチック廃棄物処理の現状と課題について、都市での資源利用やリサイクルが専門の森口祐一教授と中谷隼講師(共に工学系研究科)に聞いた。現代生活ではプラスチックを大量に消費しており、日本が関わるのは輸出入を含め年間1500万トンに及ぶ。

 

 森口教授は「プラスチックは優れた素材でよく使われますが、廃棄物としては焼却、埋め立て、リサイクルが混在する分かりにくい処理がなされてきました」と話す。1990年代には燃やすと有害物質が発生するといわれたが、焼却炉の排ガス処理設備の改良で現在はほぼ解決。埋立地不足が叫ばれる中、焼却による処理を行う自治体も多い。プラスチック焼却による二酸化炭素の発生量は日本全体の排出量の2%に過ぎないが、少しでも削減すべきで、プラスチックのリサイクルが推進されている。

 

 リサイクルにはさまざまな種類があるが、日本ではマテリアルリサイクル・ケミカルリサイクル・サーマルリカバリーに大別される。中谷講師によると、多くの人がイメージするのはプラスチックを砕いたり溶かしたりしてプラスチック素材に戻すマテリアルリサイクルだというが、その廃プラスチック処理に占める割合は約2割。他二つはいわゆるリサイクルのイメージとは少し違う。約6割が処理されるサーマルリカバリーでは、焼却して熱回収し、発電などに用いる。ケミカルリサイクルの中で日本で最も広く行われるのは、高炉で鉄を作るときにコークスの代わりに廃プラスチックを還元剤として使う処理だ。「高炉での利用は環境負荷が低くマテリアルリサイクルと比べるとコストも低いため、経団連はこれを推進しています。しかし『ごみとして燃やすのと同じではないか』と市民感覚に合わないのも事実です」と森口教授は話す。

 

 なぜマテリアルリサイクルが中心にならないのか。日本では消費者のニーズに応じ、多様な材質で凝った包装を行うことが要因の一つだという。中谷講師は「フィルムの表裏で別のプラスチックを使うこともあります。同じ素材が多く集まらないと、リサイクルして良い製品を生み出すことは難しいです」と話す。その点ペットボトルはリサイクルがうまくいっていると森口教授。「メーカーが協力して素材を統一、無色透明なボトルを使うように。これによって集めればリサイクル業者がお金を出して買うまでになりました」

 

生活系プラスチックの循環イメージ。生活系プラスチックのリサイクルを進めるためには、よりリサイクルしやすくなる回収方法を模索していく必要がある(図は中谷講師提供)

 

 他のプラスチック製品のリサイクルを進めるには「市民だけでなく、製造者・小売店・回収する自治体・リサイクル業者といった関係主体の協力」が必要だという。同一の種類で集めやすいものはマテリアルリサイクルし、それ以外はケミカルリサイクルに回すのが効率的だ。森口教授は「それぞれが個別にできることをやるだけでなく、他の主体とともにリサイクルを合理化していくという意識を持ち、システムを変えようと声を上げるべきです」と主張する。昨今は無料レジ袋配布を廃止する風潮があるが、廃プラスチックの削減には「多少役立つ程度」だという。それでも他のプラスチック製品についても見直すきっかけにしてほしいと二人は話す。

 

 「リサイクルよりも大切なのはリデュース」だと強調する二人。家庭生活で排出される廃プラスチックのうち、多くを占めるのは食に関するもの。忙しい都市生活の味方となる中食(なかしょく)には大量の容器包装プラスチックが使われている。家族の形態の変化、女性の社会進出などの影響がある中で「現代生活の便利さを保ちつつ、使い捨てプラスチックの利用を減らそうという意識が必要です。新しいビジネスチャンスが生まれる期待ができます」

 

森口 祐一(もりぐち ゆういち)教授(工学系研究科) 82年京都大学卒。博士(工学)。国立環境研究所社会環境システム部資源管理研究室長などを経て、11年より現職。

 

中谷 隼(なかたに じゅん)講師(工学系研究科) 06年工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。工学系研究科助教などを経て、16年より現職。

 

海洋ごみの謎に迫る

 

2012年11月、対馬の海岸。手前に見えるヤシの実とともに多くのプラスチックごみが漂着している
2010年10月、福岡市の海ノ中道の砂浜。線上に並んだ漂着ごみの多くがプラスチック製品だ(写真はいずれも道田教授提供)

 

 プラスチック廃棄物の問題でも大きな話題になったのが海洋プラスチック問題。東大は日本財団と共同で「海洋ごみ対策プロジェクト」を始動させた。その取りまとめ役は道田豊教授(大気海洋研究所)。道田教授の専門は海洋物理学で、海流や海洋漂流物の研究を通じ海洋プラスチックに興味を持ったという。環境省や各国共同調査の座長を務めるなど、さまざまな人脈を持ち問題の全体を俯瞰(ふかん)していることから担当になった。

 

 海洋プラスチックは景観を損ない、生態系や食の安全への影響が懸念されるが、不明点も多い。海洋プラスチックを媒介に化学物質が生体に取り込まれる可能性が指摘されているが、危険性の程度は未解明だ。そもそも海洋プラスチックがどこにどれくらい存在するか、どこから流出しているかも科学的に確かなデータは出されていない。

 

 そこで今回のプロジェクトでは三本柱で不明点を明らかにすることを狙う。

 

 一つ目はマイクロプラスチックの分布を調査することだ。海洋中のプラスチックは紫外線や波により小さくなる。「海水を汲んで調べれば小さいものが多いはずですが、そうではない。小さくて測定できないのか、沈んでいるのか不明ですが、行き先を解明する必要があります」。プロジェクトが終わる3年後に、深さ方向に大きさ別のマイクロプラスチックがどれだけ分布するか基本的なデータを提示することを目指す。

 

 二つ目は化学物質が生体にどのように取り込まれるのか、免疫細胞は反応するのか調査することだ。「悪影響がある場合の対応は医学の世界で今回のプロジェクトに含まれませんが、情報を提供したいです」

 

 三つ目はプラスチックが製造・使用・回収される中でどのタイミングでどれだけ環境中へ漏れているか調査することだ。プラスチック業界の動向や人の行動なども関わるため文系の研究者が取り組むという。「ポイ捨ての影響が判明すれば、人々の意識改革に役立ちます」

 

 海洋中にはプラスチック以外にも火山灰、カーボン粒子など小さい粒子は存在する。それらよりプラスチックは悪影響を及ぼすのか。「プラスチックに含まれたり付着したりする化学物質の悪影響があるなら、他の粒子と別のリスク評価が必要です。これは長く残る疑問で解明したいのですが、プロジェクト終了後に進めることになりますね」

 

 海洋プラスチック問題は世間の関心を集めているため「想像以上に前進できるかもしれない」と道田教授は期待を寄せる。企業が動き始め、先日日本財団が行ったシンポジウムは満席になったという。「政府・業界・学術界が連携し、実態の解明と並行して量を減らす努力を行いたいです」

 

 プラスチックへの問題意識が高まり、レジ袋の配布廃止から海洋プラスチックの調査までさまざまな取り組みが始まった。プラスチックを大量消費する我々の生活を見つめ直すきっかけとしてはどうだろうか。

 

道田 豊(みちだ ゆたか)教授(大気海洋研究所) 84年理学系研究科博士課程中退。博士(理学)。海上保安庁、科学技術庁などを経て07年より現職。

 

この記事は2019年8月27日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナル記事を公開しています。

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「県人寮」の魅力とこれからに迫る

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 「県人寮」の名前を聞いたことがあるだろうか。主に首都圏の大学に進学する地方出身の学生に向けて、安心して学業に専念できる場を提供するために設立された、各道府県出身者限定の学生寮のことだ。さまざまな大学に通う学生と交流でき、低廉な家賃と食事付きのサービスが魅力だが、近年は寮生不足に悩まされる県人寮も少なくない。県人寮での暮らしの様子や業界の現状について、実際に県人寮で暮らす東大生や県人寮の管理者組合の会長に話を聞いた。

(取材・撮影 大西健太郎)

 

左から山中理事、飯寮長、料理人の細川二郎さん。肱水舎を背景に

 

大学や出身地を超えた交流を

 京王線つつじヶ丘駅から歩くこと10分。小高い丘の上の閑静な住宅街にあるのが、愛媛県は旧大洲藩の男子学生寮「肱水舎」だ。その歴史は古く、明治34(1901)年、旧大洲藩主が郷土の男子学生のために屋敷の一部を解放し、育英寮としたのが始まりだ。現在は公益財団法人として運営されており、住み込みで働く料理人による朝夕2食の食事付きで寮費は月5万5千円とリーズナブル。各居室にはベッド、収納棚、机、エアコンが付いており、浴室、洗濯室、トイレや食堂が共用となっている。

 

 肱水舎の寮長を務める教養学部4年の飯雅樹さん(愛媛県松山市出身)は、入寮した理由について「寮費の安さと食事が付いてくることが決め手でした」と話す。1、2年の間はアパートで一人暮らしをしていたが、3年生に進学する際、県人寮への引っ越しを決意。寮の存在は、先に入寮していた高校時代の友人を通して知ったという。       

 

 県人寮の魅力は「やはり毎日おいしい食事が出てくることですね」。一人暮らしの頃は眠気に負けてしまい、朝食を取らずに大学に向かうことも少なくなかったというが、寮に来てからはそうした事態も減り、健康的な生活を送ることができているという。

 

 また気軽に話し合える友人がいることも寮に来て良かったことの1つだと話す飯さん。「同郷ということで同じバックグラウンドを共有しながらも、いろいろな大学に通う学生と語り合えることは、大学が運営する寮では得られない魅力ですね」。新入生歓迎会や納涼会など、寮生同士の交流を深める行事も季節ごとに用意されている。

 

 県人寮ならではという点では、地元の企業説明会や愛媛県にまつわるイベントへの参加がある。飯さんも先月、寮生を代表して愛媛県知事との意見交換会に参加したという。

 

 そんな肱水舎だが、一昔前までは寮生不足に悩まされていたという。寮の管理・運営を行う山中暹常務理事は、少子化のみならず寮を持つ大学の数が増えたことも原因の1つではないかと推測する。そのため肱水舎は、従来の大洲市をはじめとする愛媛県出身の学生に入寮者を限定する姿勢を転換し、日本全国から学生を募集するなど門戸を広げている。さらに現在では中国や韓国からの留学生も在籍している。その結果、現在の満室率は90%まで回復したという。

 

時代に合わせ、より良い生活空間へ

 そもそも県人寮とは一体どのような学寮制度なのだろうか。また、その現状と課題はどういったものか。県人寮の多くが加盟する管理人組合である全国学生寮協議会の会長で、自身も静岡県人寮で寮長を務める山田耕司さんによると、県人寮の沿革は大きく分けて2種類あるという。1つは肱水舎のように、江戸時代以降の藩の流れを汲むもの。その名残は現在も見られ、例えば石川富山明倫学館(文京区)は石川、富山両県から学生を受け入れているが、これは両県がもともと加賀藩に当たるためだ。

 

山田耕司さん(全国学生寮協議会・静岡県学生会館富士寮)

 

 もう1つは、1955年ごろ、地方出身の学生の住居問題を憂慮した当時の文部大臣の号令のもと整備されたものだ。自治体が直接運営している場合もあるが、多くの県人寮は公益財団法人化しているという。

 

 現在同協議会に加盟しているのは全部で41寮。かつては60寮ほど加盟していたというが、定員不足や老朽化などで廃寮になるケースが多かったのだという。とはいえ、廃寮となった県人寮の中には、千葉県人寮のように、交通網の発達から寮が不要になったというものも含まれているため、必ずしも人気低下や少子化の影響が大きいとは一概には言えないようだ。

 

 「いくら少子化が進んでいるとはいえ、上京する学生は今でも多い。大切なのはいかに学生のニーズにあった運営をするかですね」と山田さん。運営する静岡県人寮は寮内設備の更新や運営規則の変更などの他、寮のウェブサイトを一新するなど時代に即したPR戦略を取ったことで、現在でも常に満室状態が続いているという。

 

 県人寮はその成立時期や背景から、男子専用寮が多くを占めているのが現状だが、時代の変化に合わせて新たに女子寮を開設する県人寮もますます増えてきている。

 

 県人寮の魅力はその安さや食事の面だけにとどまらないと話す山田さん。急な病気や交通事故、ブラックバイトに詐欺被害など、学生には様々なトラブルが生じる可能性があるが「身近に相談できる人がいると、そうしたトラブルも未然に防いだり、適切に対処したりできると思います」

 

 山田さんも勉学や課外活動といった日常生活から就職活動に至るまで、普段から学生の相談相手になり、有意義な学生生活が送れるようサポートしているという。山田さんは「共同生活を送ることで、社会人としての礼儀やマナーも身に付くはずです」と県人寮に住む意義を強調する。

 

 京都府や宮城県など、県人寮を持たない府県もあるが、「県出身にこだわらずに外から学生を募集している寮もあるので、まずはインターネットで調べてみてください」

 

全国学生寮協議会に加盟している東京大学周辺の主な県人寮

 

この記事は、2019年8月27日号からの転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

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知と人材の集積を生かす Society5.0実現に向けた東大の取り組み

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 AI、IoT、ビッグデータ解析などの新たな技術は人とモノのつながり方、ひいては社会全体の在り方を変革する可能性を抱いている。その中で政府は第5期科学技術基本計画で現在の情報社会に次ぐ新たな社会像としてSociety5.0を提唱した。この社会の実現に向けて東大の果たす役割とは何であろうか。未来社会協創推進本部の福田裕穂副本部長(理事・副学長)に聞いた。(取材・友清雄太)

 

福田 裕穂(ふくだ ひろお)理事・副学長 82年理学系研究科博士課程修了。理学博士。理学系研究科長・理学部長などを経て17年より理事・副学長。19年より特任教授。17年より未来社会協創推進本部副本部長を務める。

 

東大が実現リードへ

 

 Society5.0は、狩猟社会(Society1.0)、農耕社会(Society2.0)、工業社会(Society3.0)、情報社会(Society4.0)に次ぐ新たな社会を指す(表1)。この社会では、AIやIoTなどの技術を用いてさまざまな知識やデータを共有・活用し、現実世界とサイバー空間を連結させ、今まで解決困難だった課題の克服が可能となるという。これらの技術は地域、性別、年齢、言語などの障壁を下げ、多くの人の社会参加も促す。これは2015年に国連で採択された持続可能な開発目標(SDGs)の「誰一人取り残さない No one will be left behind」の理念に合致する。

 

 現在、日本経済を取り巻く環境は厳しさを増している。「日本企業が生き残るためには新しいアイデアを出さないといけません。日本はモノ作りは得意ですが、Society5・0時代では知を統合する仕組みを構築し商品にすることが求められます」と福田副本部長は語る。そのような構造転換は産業界だけでは不可能で、実現には大学の知や人材、技術が求められる。「大学には多種多様な最先端の知見が存在し、それらを掛け合わせることで新たな知の創出が可能になります。利益を考慮する必要がなく、公共性を担保でき、知と人材が集積されている大学こそが知識集約型社会への変革を駆動する拠点にふさわしく、その中でも東大がSociety5.0の実現をリードする立場にあるのです」

 

(表1)社会の変遷とSociety5.0(日立東大ラボ提供)

 

企業との連携に力

 

 17年6月、東大は「地球と人類社会の未来に貢献する『知の協創の世界拠点』の形成」を掲げ、指定国立大学法人に指定された。その際、五神真総長就任後に打ち出した「東京大学ビジョン2020」を踏まえ、Society5.0やSDGsの理念の実現に努めることを宣言する。同年7月には指定国立大学法人構想を実現する司令塔として未来社会協創推進本部(FSI)を設置した。

 

 FSIでは、SDGsの実現に貢献する学内の研究活動を募り「登録プロジェクト」として整理し、学内研究の可視化と学内外への発信に着手した。これは、シナジーを伴う社会的価値を生み出すことが狙いだ。登録プロジェクトの数は現在190を超える。例えば、高木健教授(新領域創成科学研究科)の「水中浮遊式海流発電装置の開発」や横山広美教授(カブリ数物連携宇宙研究機構)の「数物系女子はなぜ少ないのか」、石田浩教授(社会科学研究所)の「格差の連鎖・蓄積とライフコースに関する総合的研究」など登録プロジェクトは多岐にわたる(表2)

 

 FSIでは、これらの研究活動を活発にするための財源確保や企業との連携にも力を入れている。財源の多様化のために「未来社会協創基金」を設置し、研究活動や若手人材の育成に活用。企業との連携では全学を挙げて共同プロジェクトを行う「産学協創」を掲げ、日立製作所と共同で設立した「日立東大ラボ」やダイキン工業と締結した100億円規模の産学協創協定などがある。

 

 

学生の参加も促す

 

 「日本にはSociety5.0を実現できるだけの基盤インフラが既に整っている」と福田副本部長は語る。そのインフラとは、「SINET」と呼ばれる世界にも類を見ない超高速学術情報ネットワーク。これにより850を超える全国の大学、研究機関を結び、膨大な学術情報やデータを瞬時に全国各地に移動・共有できる。国立情報学研究所が主に構築・運用しているが、東大もその活用を構想中。「SINETを活用することで全都道府県にある国立大学がその地域でのSociety5.0実現のためのハブ拠点となり得ます」。Society5.0を目指す上でこうした基盤インフラの存在は日本の強みだ。今後はSINETが産業界などにも開放され、新たなビジネスチャンス創出につながる仕掛けを構想中だという。

 

 今後の展望として福田副本部長は「学生を巻き込んでいく」ことを挙げる。「大学側だけで進めるのではなく、学生の参加も促すともっと面白くなっていくでしょう。主体的に学べる学生を育て、送り出すことで社会の好循環につながることを期待しています」

 

 

「産学協創」で理論と実践進展

 

出口 敦(でぐち あつし)教授(新領域創成科学研究科) 90年工学系研究科博士課程修了。工学博士。米マサチューセッツ工科大学客員研究員、九州大学大学院教授などを経て、11年より現職。

 

問題を数式的に整理

 

 現場では具体的にどのようなことが行われているのだろうか。日立東大ラボでプロジェクトリーダーを務める出口敦教授(新領域創成科学研究科)を取材した。

 

 日立東大ラボは2016年6月に「産学協創」の最初のモデルとして日立製作所と東大が共同で設立した研究組織だ。日立製作所が長年培ったインフラ技術やIT技術と、東大の多岐にわたる最先端の研究を融合。「エネルギーシステム」と「ハビタット・イノベーション」の二つのテーマからSociety5.0の実現を目指す取組みを進めている。後者はIoTで収集したデータや情報を知識に変換し、現実を動かすデータ駆動型で、居住からの変革を目指すアプローチとして五つの研究グループで構成される。出口教授はプロジェクト全体と都市政策・評価の研究リーダーを務め、Society5・0実現のビジョン構築に向けた研究を行っている。

 

 出口教授らは、Society5・0の概念を整理し、実社会への適用に着手した。その中で重視されるものの一つに「経済発展と社会課題解決の両立」がある。政策目標としてコストや生産力の主要業績評価指標(KPI)のみに注目すると、人々に我慢を強いて長時間労働をさせるなど生活の質(QoL)の低下を招く考え方に陥りがちだ。例えば、「CO2排出量/人口」は1人当たりのCO2排出量を減らす時に使われるKPIだが、この式のままでは人々の活動を抑制して排出量を抑えるように受け取られてしまう。そこで同ラボはKPIを三つの項に因数分解することで問題の整理を試みた。(図)のように整理することで、「CO2排出量/総エネルギー消費量」と「総エネルギー消費量/総活動量」を抑制し、「1人当たりの総活動量」の増加を促せば、QoLを向上させつつ「CO2排出量/人口」のKPIは改善されることになる。

 

 出口教授はKPI評価法の再考の他、都市計画における新たなPDCAサイクルの確立やデータ駆動型プランニング、Society5.0の都市像と課題解決方法を研究。Society5.0を社会実装するに当たっての方向性や課題の整理を行っている。

 

 ラボでは愛媛県松山市を拠点にSociety5・0の社会実装に向けたテスト実験を開始している。日立製作所が開発した「Cyber―PoC」という都市データを可視化するサービス事業シミュレータを用いた参加型の都市計画立案時の影響や効果の評価とPDCAサイクルモデルの試行を進めている。

 

 「ハビタット・イノベーションを通して多様で嗜好の異なる個々の人の満足度を上げる一方で、社会全体の課題を解決していくことを目指すことで、Society5・0の実現につなげたい」と出口教授。今後の課題としては積み上げた理論をいかに社会実装させるかを挙げる。「ハビタット・イノベーションがいかにして社会に受け入れられ、浸透できるかが課題ですね」。実社会のデータを使用するデータ駆動型の方法が社会の信頼を得て、生活に組み込まれていけるかが実現の鍵となる。

 

(図)1人当たりのCO2排出量のKPIの因数分解。項目別の項に分けることで取り組むべき課題と方針を明確化している(日立東大ラボより提供)

 

記者の視点 人間の幸福を考慮した変革を

 

 Society5.0は情報やデータを上手に活用することで成立する超スマート社会だ。その一方で、情報の寡占や悪用、それに伴う格差の拡大などで息苦しい社会になる可能性もある。あくまでSociety5.0が目指すのは「誰もが快適で活力に満ちた質の高い生活を送ることのできる人間中心の社会」(内閣府ホームページより)、つまり人間の幸福を最重視する社会だ。ホームレスや引きこもりなど、社会とのつながりが薄いために正確なデータを入手しづらい人もいる。データはあくまでも人間の行動を反映した結果であり、それを受けた効率化は内面の幸福に直接結び付くのかという疑問も残る。

 

 情報やデータは生活を豊かにするためのツールにすぎず、過信は避けなければならない。社会の合理化のみに目を奪われず、人々の幸福や生活の質を考慮できるだけの余裕を持って社会の変革に取り組む姿勢が求められる。

 

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東大と日本IBM 文理融合の共同研究設立

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 東大と日本アイ・ビー・エム(以下、IBM)は8月21日、新たな研究プログラム「コグニティブ・デザイン・エクセレンス(CDE)」の設立を発表した。東大の持つ人文社会科学や先端科学の知見と、IBMの持つAIやIoT、量子コンピューターなどの先端デジタル技術の融合により、日本の持続的成長を実現する社会モデルの創出を目指す。今年7月から22年3月まで実施予定で、須藤修教授(情報学環)がプログラムリードを務める。

 CDEは、人文社会科学やデジタルデザインの専門家の課題提起を受け、日本企業の経営幹部が社会モデルを提起する形で進められる。さらに、革新的な社会モデルをデザインする基本的な技能を学生に教育する。参画企業はパナソニックやマツダなど18社。今後は、人材交流やインターンなどの共有の場として、東大の本郷地区に産学協創スペースを新設し、研究や討議を行う予定。

東大で学び、音楽する 角野隼斗さんインタビュー

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 昨年国内最大級のピアノコンクールであるピティナピアノコンペティション特級にて、東京藝術大学などトップの音楽大学の学生を差し置いて優勝するという快挙を成し遂げたピアニストの角野隼斗さん。情報理工学系研究科に在籍し、フランス音響音楽研究所 (IRCAM) で機械学習を用いた自動採譜の研究に従事するなど、工学研究者としての顔も併せ持つ。音楽と研究を両立させる角野さんの話からは、東大入学後の多様な可能性を垣間見ることができるだろう。記事後半では、牛田智大氏など多くの著名な若手ピアニストを輩出し、角野さんを幼少期から支えてきたピアノ指導者の金子勝子さんにもインタビューを行い、ピアニストになるために必要なことや、音楽大学に行かずに音楽をすることについて聞いた。

(取材・円光門 撮影・円光門、宮路栞)

 

角野隼斗(すみの・はやと)さん(ピアニスト) 2018年工学部卒業。現在、情報理工学系研究科修士2年。幼少期から国内外のピアノコンクールに入賞し、18年ピティナピアノコンペティション特級グランプリ、及び文部科学大臣賞、スタインウェイ賞受賞。多くのリサイタルを展開し、これまでに国立ブラショフ・フィルハーモニー交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団オーケストラと共演。

 

――子供の時から数々のピアノコンクールで優勝してきた角野さんですが、演奏技術を維持、発展させていくためには毎日の継続的な練習が必要です。ピアノと勉強はどのように両立させてきたのでしょうか

 

 両立しているという意識はありませんでした。音楽と算数の両方に興味を示していたのを親が上手に僕の好奇心の向く方向に導いてくれたのも大きかったと思います。小5の夏から塾に入った経緯もその延長線上で、いつしか受験勉強に専念していました。中高時代はバンドで編曲活動をしたりドラムを叩いていてピアノは毎日1時間くらいの練習でしたね。むしろ本格的にピアノに取り組んだのは大学に入ってからでした。

 

――そうは言っても、中3の時にはショパン国際コンクール in Asiaで金賞を受賞しています

 

 もちろん、コンクール前には集中して何時間も練習しました。しかしなによりも、幼少期の聴音や和声感覚、小学校の時に固めた技術的な基礎が有利に働いたのだと思います。師匠の金子勝子先生が開発した「指セット」という練習法で、5本の指を独立させそれぞれの実力の差をなくすことを、まだ小さい時から叩き込まれました。

 

――音楽大学ではなく東大を選んだ理由は

 

 一つは、両親の助言です。進路を迷っているならまず東大に入ってから本当にやりたい事を見つけていくのがベストでは? と、東大押しでしたね(笑)。実際僕自身も、中高時代ピアノをそこまで真剣にやっていたわけではないので、音楽大学で一日中ピアノと向き合う勇気は当時の僕にはありませんでした。あと、音楽大学には派閥同士の争いとかがあって、そこから離れて自由に音楽をしたいというのもあったと思いますし、プロになるかどうかはさておき東大に行っても音楽はできると思ったんですよね。

 

 

――音大生をうらやましいと思うことはありますか

 

 今でも音大コンプレックスはありますよ。音大生しかいない所にいると何となく肩身が狭いような気がするし,彼らは演奏はもちろん音楽理論や音楽史を包括的に学ぶので、楽曲に対して深い理解を持っていて、自分の不勉強さを恥じることはあります。

 

――しかし、2018年には東京藝術大学などトップの音大生を差し置いて、ピティナピアノコンペティション特級でグランプリを受賞しました

 

 はい、そのおかげで、音楽関係の色々な人たちに出会うことができましたし、共演やリサイタルのお話も多くいただきました。また、フランスの世界的なピアニストであるジャン=マルク・ルイサダの友人の作曲家が演奏を聴きに来てくれて、それがきっかけで後日フランスでルイサダのレッスンを受けることができました。

 

――東大に入ってよかったことは

 

 東京大学ピアノの会に入ったら、クラシック音楽に情熱を注ぐ人たちに多く出会って、刺激を受けました。あと、東大POMPというサークルで引き続きバンド活動をしたのですが、こういう経験って音楽大学では得られなかったと思いますね。金子先生にも、「あなたは音大生よりも楽しんでピアノを弾いてるね」って言われます。

 

 

――現在は演奏活動の傍ら、情報理工学系研究科に修士2年として在籍していますが、どのような研究をしていますか

 

 主に機械学習を用いた自動採譜の研究をしています。まず、音源データをMIDIデータという抽象化・記号化された情報に変換します。採譜はMIDIデータを楽譜に還元することでなされるわけですが、正確な採譜がなされるためには、音源データとMIDIデータの差をできるだけ縮めなければいけません。そこで、MIDIデータを再生した際の音源データと、元の音源データを比べて、データ変換時のパラメーターをどう調節すれば両者の差は縮まるのかということを、人工知能に学習させています。

 

――研究の意義は何だと考えますか

 

 まず、聞いたものを楽譜にするシステムを構築することには一定の需要があると思います。また、メガバイト単位の音源データをキロバイト単位のピアノロールに還元できれば、それだけ情報量の濃度が高くなるわけです。音楽面に関しては、楽譜では半音までしか表記できなかった音の差が、ピアノロールではもっと細かく表記できるようになります。ピアノロールの表記を元に演奏、作曲すれば、いずれ音楽が12平均律の枠組みから脱却して新たな次元に到達するのではないかと考えます。

 

――研究のアイデアが演奏に生きることは

 

 ありますね。私は自動採譜だけでなく自動編曲の研究も行っているのですが、オーケストラをピアノに編曲する時に、弦楽器のレガートを、打鍵したら音が減衰していくピアノでどう表すかという問題があります。弦楽器のダイナミクスをピアノで近似するには、ピアノで一音が出されてから減衰するまでの時間を考えて、つなげれば良いということが分かりました。このようにして、音源データの細かいダイナミクスに着目することで演奏のヒントを得ることがあります。

 

©︎平舘平

 

――昨年9月からは半年間、フランス音響音楽研究所 (IRCAM)に留学されました

 

 私が所属している原田研究室は機械学習の研究を行っているところなのですが、音に特化しているわけではないので、教授からフランスで自分の専門を深めてみればどうかというお話をいただきました。フランスでは演奏家や作曲家といった実践者と工学研究者などの理論家の協同作業を見ることができて、とても刺激的でした。日本の音楽界では実践は音楽大学、理論は一般大学とくっきり分かれていますが、不思議に思いますね。分かれずに一体となっている方が、双方にとって面白いのではないでしょうか。

 

――たしかに、日本では実践者を目指すならば音大に行く傾向が強いですね。イェール大学など海外の総合大学では、学内に音楽学部があって、演奏家や作曲家の養成が行われています

 

 あいにく高校生の時はそのような学部の存在を知りませんでした。知っていたら進学していたかもしれません。

 

――研究の最終的な目標は

 

 音楽の本質は音そのものだろうか、それとも音を創り出している人間なのだろうか、という問いを突き詰めたいです。ぼくは前者だと思うんです。会話相手が人間ではなく機械であることを見破れるかというチューリングテストと同じように、演奏が機械によるものか、人間によるものかというテストをして、区別できなければ音楽の本質はただ音の構造だということになるじゃないですか。楽曲を純粋な記号としてモデル化することで人間的なものを全て排した時、音楽にどのような表現が生まれてくるのかということに関心があります。

 

――今後の展望は

 

 修士号を取得後はベンチャー系の企業に就職して、そこで音に関する研究プロジェクトに参加させてもらいながら、ピアニストとしての演奏活動もする、というのが目下の計画です。ゆくゆくは、人工知能等の技術を自らの音楽活動に活かしたいですね。

 

 

金子勝子(かねこ・かつこ)さん(ピアノ指導者) 国立音楽大学ピアノ科卒業。昭和音楽大学・大学院ピアノ科教授などを経て、現在社団法人PTNA(全日本ピアノ指導者協会)理事・運営委員・指導法研究委員会委員長。

 

――はじめに、先生が開発した練習メソッド「指セット」について教えてください

 

 単に指をよく回らせるための教材は世間にたくさんあります。でも5本の指は付き方が一本一本違う上に、実力の差があるわけで、その状態のままだと何回も弾けば弾くほど実力の差が出てきて下手になってしまうのです。この問題を解決する教材が今までなかったので、各指の実力差を縮める「指セット」というメソッドを私が作りました。もっとも、角野くんは生まれながら良い指をしていたので、「指セット」をそれほどやる必要はなかったのですが。

 

――角野さんはどのような生徒でしたか

 

 昔からピアノ一筋というよりは、音楽全般が好きという子でしたね。中学に入学した時、親御さんから「この子は勉強の道の方が合っていると思うので、ピアノはそこそこにお願いします」って言われたんです(笑)。本人もクラシック音楽以外に編曲や即興、ロックバンドなんかやったりして、興味の幅が本当に広かったですね。昨年ピティナピアノコンペティション特級で優勝したのを見て初めて、彼はピアニストになれる、と思いました。

 

――東大や東大院に入ってから、角野さんの演奏が変わったと思うことはありますか

 

 より考えてから音を出すようになりました。中高生の時は、何も考えずにぱらぱらと弾いていることがありました。そんな時、左手のこれは何を意味しているか、フレーズの中でこのハーモニーはどの方向性を帯びているのかなどと聞くと、角野くんの答えは私が考えていたことに、いつもぴたりと合っていました。音楽は彼の中に内蔵されているのだけど、出し方が分からなかったわけですね。今でも、よく聞くと左手で出す音が平坦になっていたり、レガートにもう少し内容がほしいと指摘することはたまにありますが、ハーモニーの方向性や連続音の差異などの表現の仕方をよく考えて弾いていると思います。大学院で研究する上で、音楽ってこういうことなんだなということが分かってきたのでしょう。

 

 

――先生のもう1人の著名な門下生である牛田智大さんと、角野さんの共通点はありますか

 

 2人に共通するのは、音大のような環境とは縁がないということと、頭が良いということですね。牛田くんは義務教育の期間までしか学校に通わなかったですが、中学校の時はすでに音楽事務所のジャパン・アーツに所属してプロとして演奏活動を行っていましたから、1週間の内3日間だけ勉強して、それでもクラスで5番以内に入っていたそうです。なにせ2時間ものプログラムを演奏時に全部頭に入れなければいけないですから、ピアニストになるには頭が良くなければいけません。

 

――逆に2人の違いは

 

 本人がピアニストになろうと意識した時期は違いました。牛田くんは小学校3年の時からでしたが、角野くんは昨年ピティナで優勝してからですね。

 

――角野さんは、今でも音大コンプレックスがあると言っていますが

 

 音大コンプレックスなんて感じる必要はないですよ。確かに音大には切磋琢磨できる環境が備わっているという点では良いですが、ピアニストになるに当たって何より重要なのは本人の資質と努力、そして環境です。今回も江口玲先生(東京藝術大学准教授、ジュリアード音楽院ピアノ科出身。ニューヨークと東京を行き来しながら作曲活動を行う)の目にとまり、角野くんは共演させていただきました。角野くんは資質という点では天才的なものがあり、楽曲に対する理解の速さや、リズム感、音色感、バランス感覚、暗譜力、音楽的な頭の良さを持ち、そして中高時代にドラムをたたいていたためかリズム感も抜群です。私は大学教員を引退した後時間的な余裕が生まれたので、角野くんのような優秀な門下生により力を注ぐことができました。現在リサイタルも多く持っている彼には週1回2~3時間のレッスンをしています。時々外来の名教授のレッスンなどを入れることも大切だと思います。

 

――音大に行かなくても、良いピアニストになる環境は整えられるということですか

 

 もちろん、王道は音大に進学することですが、諸事情でその道を選ばなかった、選べなかった人の道が必ずしも閉ざされるわけではないということです。

 

――角野さんは、人間による演奏と区別のつかない機械による演奏が可能になるのではと考えていますが、先生はどう思いますか

 

 私は不可能だと思いますね。芸術というのは、人間が創り出すものですから。作曲家と演奏者の人生が演奏に反映されているからこそ、音楽は美しい芸術となるわけです。角野くんの研究が今後どうなるかは、楽しみに待っていることにしましょう(笑)。

 

※この記事は現在発売中の『現役東大生がつくる東大受験本 東大2020 考えろ東大』に掲載されたインタビュー記事を加筆修正したものです。他にも受験生でない方にとっても面白い情報満載の書籍ですので、ぜひ合わせてご覧ください。

 

細胞内へのリン脂質輸送機構解明

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 平泉将浩さん(理学系・博士1年、田辺三菱製薬)らは、細胞を構成する生体膜において、リン脂質を膜の外側から内側へ運ぶ酵素「P4―ATPアーゼ」の立体構造を解明するとともに、詳細な輸送機構を明らかにした。P4―ATPアーゼの変異が原因となる神経系疾患や代謝疾患のさらなる理解が期待される。成果は8月15日付の米科学誌『サイエンス』(電子速報版)に掲載された。

 

(図)P4-ATPアーゼとCDC50の複合体のトポロジー図(左)とクライオ電子顕微鏡構造

 

 

 生体膜は、外側の層と内側の層で異なるリン脂質が分布することで、さまざまな生体反応に関与している。P4―ATPアーゼは「CDC50」と呼ばれるタンパク質と合体し、外側から内側へリン脂質の輸送を仲介することが知られていた。しかし、P4―ATPアーゼの立体構造や輸送機構については明らかになっていなかった。

 

 今回平泉さんらは、P4―ATPアーゼとCDC50の複合体の立体構造を解析するため、液体窒素で冷却した試料に電子線を照射する「クライオ電子顕微鏡」を使用。撮影した多数の像から立体構造を再構成する「単粒子解析法」によって構造を特定した(図)。さらに、P4―ATPアーゼがリン脂質を輸送する過程の複数の立体構造を明らかにすることで、従来考えられていたものとは異なる輸送機構の解明に成功。リン脂質の親水性(水に溶けやすい)部位が、P4―ATPアーゼの親水性の溝を通過することで、外側から内側への輸送が行われていることが分かった。

 

この記事は9月3日発行号からの転載です。本紙では他にもオリジナル記事を公開しています。

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キャンパスガイ:武田直樹さん(文Ⅰ・1年)

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飢餓を学習・回避する機構発見

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 ジャン・ムンソン特任研究員(理学系研究科)らは飢餓時に経験した味を忌避する学習に関わる感覚神経を見つけ、その機能を明らかにした。動物の学習と適応の基本的な仕組みが明らかになり、複雑な学習への応用が期待される。成果は8月27日付の米科学誌『米国科学アカデミー紀要』(電子版)へ掲載された。

 

 動物は飢餓を避けるため、飢餓時の環境条件を神経細胞で記憶し、同様の環境を回避するよう行動を変える。しかし、環境条件の感知から行動の変化までには複雑な情報処理が必要で、不明な点も多かった。

 

 ジャン特任研究員らは、塩濃度に応じて線虫に与える餌の量を調整し、餌の有無と塩の関係を学習させた。その後線虫を塩濃度勾配上で自由に動かせると、餌があった塩濃度には近寄り、餌がなく飢餓状態に陥った塩濃度を回避した。

 

飢餓経験と同時に感知した塩濃度を忌避する仕組み

 

 飢餓を経験した塩濃度を回避する線虫の行動には、餌があった塩濃度に向かわせる感覚神経ASERに加え、ASGという感覚神経の協力が必要なことが判明。飢餓後にASERを活動させると餌が豊富だった際の行動が誘導されたが、加えてASGを働かせると行動は抑制され、両神経が協調し線虫の進行方向を制御していると示唆された。

 

この記事は9月3日発行号からの転載です。本紙では他にもオリジナル記事を公開しています。

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映画『愛がなんだ』上映会 監督・今泉力哉さん、原作者・角田光代さんら登壇

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 映画『愛がなんだ』の上映会が5日、駒場Ⅱキャンパスで開催された。本作は主人公テルコの片思いを中心に描く恋愛映画。監督の今泉力哉さん、原作者の角田光代さん、熊谷晋一郎准教授(先端科学技術研究センター)らが登壇し、映画の内容や恋愛について来場者と意見が交わされた。

(取材・伊得友翔、撮影・渡邊大祐)

 

トークショーで質問に答える登壇者

 

 冒頭、上映会を主催した田川菜月さん(理学系・修士1年)が開催の経緯を説明。自身が映画を見て感動し、恋愛について真剣に語る場所を作りたいと思ったという。さらに障害や病気を持つ本人が自らの苦労を研究する当事者研究とも相性が良いと考え、自身も脳性まひを抱えつつ研究を行う熊谷准教授が登壇することに。続く映画本編は、字幕と音声ガイド付きのバリアフリー版で上映された。

 

主催者の田川菜月さん(左)と熊谷晋一郎准教授

 

 トークショーでは、今泉監督は長期間付き合った経験が少なく、テルコの思いの強さがうらやましいと話した。一方で角田さんは、テルコのように尽くす性格。執筆当時、そのような人の肩身が狭いと感じ、むしろひたすら尽くす女の子を書こうと思ったという。熊谷准教授は、抑圧が恋愛の原動力になりうるという点で、テルコら女性の恋愛と自身の経験に基づく障害者の恋愛に重なる部分があるように感じたと語った。

 

監督の今泉力哉さん(左)と原作者の角田光代さん

 

 質疑応答に移ると、話題は映画と原作の違いや細かい描写の意図に。恋愛相談に対しては、登壇者がそれぞれの経験を打ち明けながら回答を模索した。閉会に当たり熊谷准教授は「監督と角田さんが作品に込めた思いを聞くことができ、非常に貴重な機会となった」と締めくくった。

サークルペロリ 東京大学運動会相撲部

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ぶつかり合って絆育む

 

 駒場Ⅰキャンパスに本格的な土俵があるのを知っている人はどれくらいいるだろうか。第一グラウンドとラグビー場に挟まれた格技場の中にあるその土俵で、東大運動会相撲部は汗を流している。活動日は月・水・土の週3日。部員数は1年生4人、2年生2人、4年生1人と少人数ながらも、前日夜の大相撲について盛り上がりながら和気あいあいと稽古していた。

 

「押し」を練習する部員たち。さまざまな角度で繰り返し行う

 

 「練習は、四股・すり足・押しを入念にやってから始まります。野球で言えば素振りのようなものです」と主将の野口旬紀さん(法・4年)。「四股」は足の鍛錬とストレッチを兼ねた、相撲の基本動作だ。「すり足」は相撲独特の足の動きで、自分の体に体重を残しながら相手をコントロールする。「押し」は文字通り相手の体を押す動作だが、腕の角度によって威力が全く違うので、他の部員の体を使った練習が必須だ。これらの基本練習を地道に繰り返し強くなる。続く試合形式の練習では技を体に染み込ませるという。

 

 練習の成果もあり、5月に行われた全国国公立大学対抗相撲大会では団体戦で3位に入賞した。競技人口が全国で200〜300人と少ないからこそ他大学の相撲部との交流の機会も増え、いいライバル関係を作れるという。「一番のライバルはやはり京都大学ですね」

 

 毎年夏に行われる合宿では相撲部屋に倣い、朝稽古の後昼食を3時間近くかけて食べ昼寝をした後、さらに3時間かけて夕食を食べる。一食の一人当たりの米の量は3合にも達するという。「食べるのは本当に厳しいです。稽古の中で一番つらいですね(笑)」

 

 普段の駒場での練習後も部員で食べ放題に行く。大量に食べるのはきつい一方、目に見えて自分の成長を感じられ、達成感があるのだとか。新入生も2カ月で体が随分大きくなる。

 

 「相撲では普段とは全く違う方向から力が加わるため、靭帯などのけがが多く、くじけそうになるときもあります。でも体一つで相手にぶつかっていく正々堂々とした潔さに勝るものはないです」。勝負が数秒で決まる厳しい世界であるため、洗練された集中力と精神的な成長も得られる。
 「相撲部はやる気さえあれば誰でも大歓迎です」と野口さん。気になった人は駒場格技場を訪ねてみてはいかが。(米原有里)

部員9人・インカレ


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瀧本ゼミ生による瀧本哲史さん追悼文

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 8月10日、京都大学准教授で自主ゼミナール「瀧本ゼミ」を主催していた瀧本哲史さんが47歳で死去した。死因は明らかにされていない。
 東大のOBで、投資家として活動の傍ら、政策分析と企業分析のゼミを主催、学生との交流を深めていた瀧本さん。亡くなって1カ月の9月10日、瀧本ゼミに所属する学生2人に追悼の意を寄せてもらった。

 

我らが師・瀧本哲史に寄せて

 

 瀧本哲史先生、謹んでご冥福をお祈り申し上げますと共に、生前の先生との思い出や学びを書かせていただき、追悼文とさせていただきます。

 

 ゼミに入会した昨年5月から先生が亡くなる今年8月まで、短い期間でしたが自分は先生からいろいろなことを得られたと思っています。特に代表として伴走した今年1月からの7カ月間は、企業分析のスキル以上にプロフェッショナルとしての「卓越への意識」を学び取ってきたのではないかと思います。この半年間で学んだことは、今後の人生においても何か「標準」のようなものとして自分の中に残り続けると感じています。

 

 瀧本先生は自分にも他人にも非常に厳しい方でした。瀧本ゼミには”Adhere Performance”つまり「成果にこだわる」「常に卓越を志す」という考え方が強くあります。自分も特に1回目の発表と新歓戦略会議では、それを一番体現する先生から厳しく詰められたことを覚えています。凄まじいスピードで咀嚼し、ロジックの穴を突いてくる。

 

 一方で、厳しく詰めるだけでなく「こうしたらいい」と案を示してくれる方でしたし、何より徹底した成果主義であるからこそ、成果に対しては誰よりも素直に喜んでくれる方でもありました。良い発表はその場で褒めてくれるだけでなく、誇らしげにさまざまなシーンで「昔、ゼミ生がしたリサーチで〇〇という会社が・・・」と語り継いでくれたりもします。

 

このスタンスは6月末に行った京都瀧本ゼミとの交流会の時まで変わりませんでしたから、ニュースに先んじて卒業生から訃報を聞いた時は、起きたことがにわかに信じられませんでした。しかし15日の午後にNHKの速報で訃報が届くと一気に現実のこととして突きつけられ、自然と涙が出てきて止まりませんでした。今まで何度詰められても堪えてきたものが、その時は堪えられなかった。まだ先生は47歳、ゼミは創設8年目、先生自身もゼミもこれからだったのに・・・自分は無念でなりませんでした。

 

ただ、いつまでも落ち込んでいるわけにはいきません。瀧本ゼミはこれからも半学半教の精神の元、創設者である瀧本哲史先生の志を学生たちで引き継ぎ、活動を続けていきます。そして自分自身もいつか、卓越したプロフェッショナルとして天国にいる先生に良い報告ができるよう“Do my homework”を続けていきます。

 

今までありがとうございました。ご冥福をお祈り申し上げます。

 

東京大学文科二類 2年 余越優

 

 

 僕が瀧本先生と初めてお会いしたのは、大学1年生のときの瀧本ゼミ春新歓でした。イタリアンレストランの隣の席に、やけに早口で話す人が来たなと思ったら瀧本先生でした。ゼミ生の活躍を嬉しそうに語る先生が印象的で、こんなに頭の回転が早い先生と、この人と渡り合うほどの優秀なゼミ生がいるのかと、驚いたのを今でも覚えています。

 

 先生がゼミに実際にいらっしゃることは僕の代の入ゼミ後は稀でしたが、いらっしゃったときは的確なフィードバックをくださり、そんな視点・考え方があったのかといつも驚かされました。また発言のなかの情報量が誰よりも多く、頭をきちんと働かせてついていくのにいつも必死でした。一つ質問をすると、想定した返答の10倍くらいの情報を返してきて圧倒されたことも多々あります。でもそんな今までにない体験が楽しく、瀧本ゼミには大学在学中の時間を割きたい、と強く思えました。

 

 ゼミを続けた最初の動機は、実はこのように「先生からたくさんのものを吸収したい」という気持ちだったのですが、新歓戦略を練るとき先生が「権威に学びたい人はゼミで取りたい人ではないんですよ」と仰っていて、自分の浅さに気づかされました。今思うと僕は先生から直接アドバイスを受けたことは少なく、このように先生の発言から自分を振り返ることが多かったです。それでも自分にグサリときたことは一度や二度ではなく、先生にはお見通しなんだな……と勝手に反省していました。だから先生は気づいていないと思いますが、僕は先生の言葉に何度も凹んでいます笑。ただそれでも不思議と悪い気はせず、むしろその後のやる気や勇気をもらえるのでした。先生の振る舞いや言葉には、そんな力が宿っていたような気がしています。

 

 今回のことで、先生は本当にお忙しいなかゼミに時間を割いてくださっていたのだとようやく気づきました。亡くなる直前まで、遠隔でゼミに参加してほしいとしつこくお願いしていたことが恥ずかしく、申し訳ないです。微力ながら、これからもゼミを発展させていけるよう尽くしたいと思います。1年半という短い間でしたが、本当にお世話になりました。ご冥福をお祈りします。

 

東京大学文科二類 2年 藤田健司

 

【関連記事】

受験と大学生活は別のゲームであると理解せよ 瀧本哲史さんインタビュー

東大VRサークル「UT-virtual」が夏フェスを開催 令和のRealityとは 

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 3月に「東大VRサークル UT-virtual 春祭り2019『ば展』」を開催したUT-virtualが、9月13日より夏フェスを実施します。その概要を寄稿してもらいました。


 東大VRサークルUT-virtual(代表:松迫翔悟)は、体験シェアリング株式会社様のご協賛、TSUKUMO様の機材提供を賜り、VR(バーチャルリアリティ)技術を用いた作品展「東大VRサークル UT-virtual 夏フェス2019『Reiwality』」を開催いたします。日程は2019年9月13日~15日で、会場は東京大学本郷キャンパス内の東京大学情報学環オープンスタジオ中山未来ファクトリーです。

 

 

 本展は、創設3年目にして総部員数120人を超える全国最大規模の学生VRサークルへと成長したUT-virtualが、令和の時代の新たなRealityを創造することを目指し開催するものです。

 

 令和の風を巻き込んだRealityとは一体何なのか?平成とは一線を画す時代の幕開けをコンセプトに、Realityの地平を切り開きます。新時代を担う若者達の、活気あふれる数々の作品を存分にお楽しみください。出展予定の作品は『Reiwality』の特設サイト及びUT-virtualの公式Twitterで公開しております。

 

 また、「第24回バーチャルリアリティ学会大会」が2019年9月11日~13日に東京大学本郷キャンパスで開催され、最終日の9月13日には「国際学生対抗バーチャルリアリティコンテスト(IVRC)」の予選大会が行われます。

 

 

 本コンテストにはUT-virtualからも2作品が書類審査を通過しており、東京大学本郷キャンパス工学部6号館3階にてデモ展示が行われます。ご声援のほどよろしくお願い申し上げます。

 

 なお、9月13日は『Reiwality』の開催時間も19時まで延長いたします。ぜひ「第24回バーチャルリアリティ学会大会」や「国際学生対抗バーチャルリアリティコンテスト(IVRC)」とあわせてご来場ください。

 

【開催概要】

イベント 東大VRサークル UT-virtual 夏フェス2019『Reiwality』
日時 9月13日(金)12:00-19:00
  ※初日のみ開催時間が異なりますのでご注意ください
  9月14日(土)10:00-17:00
  9月15日(日)10:00-17:00
場所 東京大学情報学環オープンスタジオ中山未来ファクトリー
アクセス 東京メトロ千代田線 根津駅徒歩10分
  東京メトロ丸ノ内線・都営大江戸線 本郷三丁目駅徒歩10分
  東京メトロ南北線 東大前駅徒歩12分
入場料 無料
主催 東大VRサークルUT-virtual
協賛 体験シェアリング株式会社
機材提供 TSUKUMO
特設ページ http://reiwality.utvirtual.tech/

 

【お問い合わせ】
メールアドレス:contact@utvirtual.tech
UT-virtual WEBページ:http://utvirtual.tech/

 

寄稿=東大VRサークルUT-virtual

【部員が見る東大軟式野球2019秋①】開幕戦、春季覇者の明治大に惜敗

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軟式野球部秋季リーグ第1戦vs明治大学(8月27日)

 

東大 0 0 0 0 0 1 0 0 0 | 1

明大 0 1 3 0 0 0 0 0 × | 4

 

 春のリーグ戦を終え、4年生が引退すると共に1年生が入学し新チームとなった東大。それからの東大は練習試合でもそれまでチームの主戦力を担っていた強力な4年生を失っての戦いに試行錯誤してきた。秋季リーグの初戦となった本試合も、先リーグ優勝を果たして全日本にも進出し、満を持して臨む明治大学に序盤から苦戦する。

 

 先発した小川(経・3年)は二回には相手の明治大学打線に長打と四球が絡んで早々に先制を許し、続く回には失策と四球が絡み早くも4点を追いかける展開となる。しかし東大の守備陣はそれ以降相手打線に得点を許さず、六回には好投してきた相手先発投手から、四球と安打2本で作り上げた無死満塁の好機で犠飛によって1点を返すものの反撃は続かず、この試合で挙げた得点はこの1点のみで、東大の秋季リーグ初戦は黒星発進となった。

 

今季から選手兼任監督としてプレーする保知(経・3年)。この試合ではチーム唯一の打点となる犠飛を記録した(写真は軟式野球部提供) 

 

 東大は序盤から大きな得点差を作られるという前リーグではあまりなかった展開の中で、守備・攻撃の双方に課題が見られた。その一方で、中継ぎとして好投した木村(理Ⅱ・1年)を初めとする1年生や、投手として初登板を果たし二回を無失点に抑えた吉川(工・3年)などの新勢力の活躍もあり、今後のリーグ戦に向けて収穫を得る試合ともなった。

 

1年生ながら堂々たるピッチングで三回を無失点に抑えた木村(理Ⅱ・1年)(写真は軟式野球部提供)

 

文責:軟式野球部 赤羽祐紀(理Ⅰ・2年)

ラクロス男子 成蹊大に5─1で快勝 次戦引き分け以上で決勝T進出

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 ラクロス部男子(関東学生1部リーグ)は9月8日、リーグ戦第4戦を成蹊大学と戦い、5─1で勝利した。これまでの試合は序盤にリードを許す展開が多かったが、この試合では終始リードを保つことができた。そのゲームレポートを、ラクロス部男子のマネジャーに寄稿してもらった。

(寄稿)

 

東 大|2111|5

成蹊大|0100|1

 

 リーグ戦初戦に敗れた東大は、これ以上負けられない状況で第2戦、第3戦と逆転勝ちしてきた。最終第5戦に弾みをつける勝利が欲しい一戦の相手は、昨年のFINAL4(決勝トーナメント1回戦)で延長戦までもつれる激闘を演じた成蹊大。昨年も活躍していたエースが残るなど、警戒すべき相手だった。

 

 相手は東大フェイスオファー(※1)を警戒し、最初からディフェンスの選手をフェイスオフ(FO)(※2)に出し、徹底的にFOからボールを奪いに来る。思うようにポゼッション時間を確保できない中、先制したのは主将黒木颯選手(工・4年)。得意のランニングシュートを決め、喜びを爆発させる。ファウルにより1人少ない状態でディフェンスをしなければならないマンダウンディフェンスを切り抜けると、次は相手のファウルにより東大がエキストラマンオフェンスのチャンスに。ゴール前の黒木選手が鶴田直大選手(法・4年)のゴール裏からのパスを受けて追加点を挙げ、第1クオーター(Q)終わって2─0とリードを得る。

(※1)フェイスオファー…フェイスオフを専門とする選手

(※2)フェイスオフ(FO)…試合開始時や得失点後の試合再開時に行われる。ボールを挟んで両チームのフェイスオファーが向き合い、笛の音と同時にボールを奪い合う。

 

 

1得点、1アシストを決めた鶴田直大選手

 

 

 第2Q、ショットを連続して打たれる時間が続くが、ゴーリー三木理太郎選手(工・3年)が体を張ったグッドセーブを見せる。鶴田選手が追加点を挙げるも、パスカットが運悪くゴールに入ってしまい、1失点。しかし、鍛冶維吹選手(工・4年)が相手のボールを叩き落とす気迫のプレーを見せるなど、流れを渡さないまま後半を迎える。

 

 

ファインセーブを連発した三木理太郎選手

 

 

 第3Qには平田東夢選手(工・4年)が相手のパスをカットしてオフェンスに繋げる、ゴール裏で櫻井遼哉選手(文・4年)が相手のショットをキャッチするなどディフェンス陣がナイスプレーを見せる。すると川尻雅輝選手(文・4年)がゴール裏から走り込んでリーグ戦初得点を挙げ、観客席はこの日一番の盛り上がりを見せた。

 

 3点リードで迎えた第4Q、疲れを隠せない相手に対し東大ディフェンスが畳み掛ける。原大和選手(法・4年)が守備に向かない短いクロスで相手ボールを叩き落とすと、観客が沸いた。その後互いのゴーリーがナイスセーブを連発する中、試合終了直前、空いたゴールに川尻選手が追加点を決め、最終スコア5─1。今シーズン初めて一度もリードを許すことなく勝利を収めた。

 

 

得点を挙げ喜ぶ川尻雅輝選手

 

 

 9月16日(月・祝)午後0時30分から御殿下グラウンドで行われる最終戦の一橋大学戦で引き分け以上であれば、FINAL4進出が決まる。五月祭試合の雪辱を果たし、FINAL4進出をホームグラウンドで決めたい。

 

(文=上羅彩加、写真=大熊和輝)

火ようミュージアム 奈良大和四寺のみほとけ

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祈り、観て味わう仏像の魅力

 

 仏像は仏教の崇拝の対象として、各時代の文化を反映しながら約1500年にわたって日本社会に浸透している。人々を熱い信仰へと駆り立て、日本人のよすがであり続けた。今回は、9月23日まで東京国立博物館本館11室で開催されている特別企画「奈良大和四寺のみほとけ」から、仏像の魅力をひもといていく。

 この展覧会では7世紀から8世紀に創建された古刹である岡寺、室生寺、長谷寺安倍文殊院の「奈良大和四寺」に所蔵されている文化財を展示。国宝4件、重要文化財9件を含む名品で構成されている。

 

 最初に目に入るのは、長谷寺所蔵の2体の十一面観音菩薩立像だ。観音とは人々が苦しみ悩む「音」声を「観」じて救うことに由来する。出展された仏像は平安末期から鎌倉時代に作られ、その時代の傾向を受けた穏やかな容貌だ。国風文化によって和様化した仏像形式によるもので、観音菩薩にふさわしい慈愛が表現されている。

 

 

 また、他の菩薩と比べて瓔珞(首飾り)など華美な造形が随所に見られ、見る人を飽きさせない。しかし、これは現世の煩悩を取り除き悟りを開く仏教の教義とはちぐはぐな印象を受ける。華美な仏像は当時の上流階層の「煩悩」を想起させるからだ。仏像が仏教美術の側面を持つ以上、「煩悩」を感じさせずとも目を釘付けにする作品があるのではないだろうか。

 

 その答えは、奈良時代の仏像である岡寺の菩薩半跏像にある。古式な上瞼のみで表現された目や、自然だが微笑みを想起させる口角。女性的で華奢な肉体とその曲線の美しさ。これだけで慈愛を表現するには十分だ。宝冠など頭上の装飾品はあるが、長谷寺のものと比べると全体的に質素であり、わびさびの美意識を感じさせる。「煩悩」を想起させる華美さはなく、仏像の微笑みや肉体美が雑音なく見る人に伝わり心を打つ。

 

 時代は移ろうものであり、様式も変化し続ける。菩薩半跏像から先に進むと、螺髪のない如来像が目に留まる。平安前期に作られた室生寺の釈迦如来坐像は弘仁・貞観文化に当たり、中国からの影響がうかがえる。他の仏像よりも腕が太く、胸板も厚い。男性的でどっしりとした体つきで、口角も下がっている。見る人を包み込むような優しさは感じられないが、質実剛健なこの仏像は悟りを開く仏陀の姿をありありと示している。

 

 さらに注目したいのが、翻波式の衣紋だ。大波と小波を交互に配するこの様式は、独特の律動感で仏像に生気を与えている。この衣紋によって仏陀の姿が無味乾燥な像から脱皮し、芸術的にも優れた形となる。

 

 救いを求める人々のよすがとして、文化を踏まえた一級品の芸術として、仏像は今日も鎮座する。ぜひ仏像の魅力を肌で感じてほしい。時代を超えて真っすぐ心を打つものが展示室にあるはずだ。【貴】

 


この記事は9月3日発行号からの転載です。本紙では他にもオリジナル記事を公開しています。

ニュース:知と人材の集積を生かす Society5.0実現に向けた東大の取り組み
ニュース:3点差逆転し辛勝 ラクロス男子武蔵大戦 守備の連携は修正途上
ニュース:勘と経験に頼らず選別 単結晶試料構造解析 高精度に事前評価
ニュース:細胞内へのリン脂質輸送機構解明 ニュース:飢餓を学習・回避する機構発見
ニュース:東大と日本IBM 文理融合の共同研究設立
企画:総合図書館が残す「歴史」とは 『サーギル博士と歩く東大キャンパス』拡大版
企画:昆虫食を始めよう 記者が実食、レシピも紹介
火ようミュージアム:奈良大和四寺のみほとけ
サークルペロリ:東京大学運動会相撲部
キャンパスガイ:武田直樹さん(文Ⅰ・1年)

※新聞の購読については、こちらのページへどうぞ。


【東大新聞オンラインPICK UP】~芸術編~ 芸術を味わう新たな視点を

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 秋の楽しみ方はさまざまだ。運動のように外でアクティブに動くのもよし、読書のように家でゆったりと過ごすのもよし。その中で、活発さと安らぎ、その両方を兼ね備えるものこそ「芸術」・「アート」ではないだろうか。今回はテーマに過去に東大新聞オンラインで公開した記事の中から「芸術」をテーマにしたものを選び、お薦めの記事として紹介する。ぜひ気になる記事は本文を読んでみてほしい。

 

 まずは音楽だ。記事「数学科卒、JAZZピアニストの音楽論」では、理学部数学科を卒業した後数学者、ジャズピアニストなどとして活躍する中島さち子さんにインタビュー。幼少期から音楽に親しんだ中島さん。中学で数学の「神秘性」に興味を抱き、高校時代には国際数学オリンピックに出場した。東大進学後は「即興演奏や人生や色々なものが絡み合う」ジャズにのめり込み、卒業後も独自でトリオを組むなど精力的に活動。当時所属していた別のバンドの海外ツアーでは日本と欧米の求められる音楽像の違いに気付いた。「数学者とミュージシャンは似ている」と語る中島さんが考える音楽の魅力をひもとく。

 

 続いては絵本。絵本と聞いて「読書と何が違うのか」と思う人もいるだろう。しかし記事「絵本と芸術の関係とは 世界初の絵本美術館を作った松本猛さんが語る絵本の魅力」では、絵本の「芸術」としての側面に焦点を当てる。絵本を自身の卒業論文の研究対象とした松本さんによると、神話美術のように元来人間は物語と絵の融合を楽しんできた。しかし教育と結び付けられてから、美術ではなく、児童文学として見なされるようになってしまったという。「絵と文章で構成されるもの」としての絵本の歴史をたどりながら、単なる子ども向けのジャンルという認識を越えた絵本の魅力とを再考する。 

 

 日本の伝統「芸能」も見逃せない。記事「秋田の民俗芸能・根子番楽 伝統の意味は『根源』ではなく『経過』」では、秋田県の集落に伝わる根子番楽を通じて伝統の本質を探る。規模の小さな芸能故に存続が課題の根子番楽。その困難の中でも人々の間で確かに受け継がれるのは何故か、「伝統」という言葉の意味と共に探る。歌舞伎や能など、日本の伝統芸能を鑑賞するための新たな角度を提供してくれるだろう。

 

 デジタル技術を駆使した現代的なアートはいかがだろうか。記事「猪子寿之さんが語る、チームラボのアートが目指すもの」では、新進気鋭のアート集団「チームラボ」の代表、猪子寿之さんが考える芸術観に迫る。他の芸術のように作品と鑑賞者の間に明確な「境界」を生むのではなく、作品と鑑賞者が一体となるような幻想的な空間を作り出すチームラボ。まさに全身を使って味わうことのできる、アクティブかつ新感覚の芸術といえるだろう。猪子さんの言葉から、その美の根源に迫る。

 

 「東大新聞オンラインPICK UP」は東大新聞オンラインに掲載された過去の記事から、特定のテーマに沿ったお薦めの記事を紹介するコーナーです。

 

【東大新聞オンラインPICK UP】

【東大新聞オンラインPICK UP】〜研究編〜 興味の数だけ広がる世界

【東大新聞オンラインPICK UP】〜留学編〜 心機一転のチャレンジを

【東大新聞オンラインPICK UP】〜恋愛編〜 バレンタインデーに備えて

硬式野球 開幕戦は延長12回を戦うも春王者の明大に惜敗

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 硬式野球部(東京六大学野球)は9月14日、明治大学との秋季リーグ開幕戦を戦い、2-4で敗れた。東大は四回、石元悠一選手(育・3年)が右翼越えの本塁打を放ち先制する。その後逆転されるが、八回に青山海選手(育・4年)の適時二塁打で同点に。試合を延長戦に持ち込むが、150球超えの力投を見せた小林大雅投手(経・4年)が十二回に2点を失い、敗れた。東大は9月15日午後1時30分(予定)から、明大との2回戦に臨む。

 

今季から4番に座る青山選手。八回に適時二塁打を放ち一時同点とする(撮影・関根隆朗)

 

明大|000002000002|4

東大|000100010000|2

勝:森下(明大) 負:小林大(東大)

 

 東大は序盤、大学No.1投手の呼び声が高い、相手先発の森下暢仁投手(4年)から毎回走者を出す。しかし、ピンチで150キロ台の直球を連発して抑える森下投手をなかなか攻略できない。森下投手と投げ合う小林投手は、走者を背負いつつ打ち取る粘りの投球。打たせて取る持ち味を生かし、明大に得点を許さない。

 

打たせて取る投球がさえた小林投手(撮影・関根隆朗)

 

 東大が均衡を破ったのは四回。1死から6番の石元選手が甘く入った134キロのカットボールを強振。浜田一志監督が期待を寄せる3年生が右翼越えのソロ本塁打を放ち、先制する。

 

四回に先制本塁打を放ちホームインする石元選手。「直球に張っていたが、甘く入ったカットボールにうまく対応できた」(撮影・藤田創世)

 

 好投を続ける小林投手だが、六回に明大打線につかまる。安打と犠打で1死二塁とされると、打席には森下投手。初球の緩い変化球を左中間に運ばれ、同点とされる。続く打者にも初球を弾かれ、逆転を許す。しかし、七回以降は再び打たせて取る投球で明大に追加点を与えない。

 

 すると八回「夏のオープン戦で逆転勝ちを多く経験し、勝ち方を分かってきた」(浜田監督)東大が反撃を開始する。まずは先頭打者で、故障から復帰した新堀千隼選手(農・4年)が出塁すると、1死後の青山選手への2球目で相手バッテリーの乱れを見逃さず二塁に進塁する。ここまで2三振と森下投手に苦しんでいた青山選手だが、追い込まれた後の151キロの直球を右中間に弾き返して同点に。なおも1死二塁の好機とするが後続は打ち取られ、試合は延長戦に突入する。

 

 昨季の延長サヨナラ負けの雪辱を期したい東大だが、延長でも最速152キロの直球を計測する森下投手から得点を奪えない。すると十二回、投球数が130球を超えて疲れの色を隠せない小林投手が、連打で1死一三塁のピンチを招くと、中犠飛で勝ち越される。守備のミスも絡み、なおも2死三塁とされると、続く打者に二塁への絶妙なセーフティーバントを決められ、追加点を許す。その裏の攻撃で東大は代打攻勢に出るが、三者凡退に終わり敗戦。それでも昨季の優勝校相手にあと一歩に迫り、昨季不振だった小林投手が12回を完投するなど、価値ある試合となった。

 

◇浜田監督の話

 小林投手は150球までなら投げさせるつもりだった。彼の最後のシーズンだし、後悔させたくなかったので、継投は考えていなかった。相手先発の森下投手に力及ばなかったが、選手はよくやった。

 

◇小林投手の話

四球を出しながらのらりくらり投げる従来のスタイルではなく、無駄を省く意識で投げた結果、球数を減らして長いイニングを投げられた。今日の接戦を契機に「東大はぬるくない」と他大学に意識付け、焦りを誘いたい。

 

 

(湯澤周平)

ただいま、札幌南高校 東大女子の母校訪問①

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 東大は「多様な学生構成」を目標の1つとしているが、いまだに地方出身の東大生は少なく、2019年度一般入試の女子の東大合格者は510人で、全体の16.9%にすぎない。東大を目指す女子学生を増やすため、2010年度から「在学女子学生による母校訪問」という事業が始まり、特に地方高校出身の女子の参加が呼び掛けられている。今回は記者自身が母校訪問を実施するとともに、母校の進路担当の教諭に話を聞き地方高校の現状に迫った。その様子を2回に分けて送る。

 

 大学進学とともに上京し、忙しくも充実した日々を送る記者のもとに、ある日高校の恩師からメールが届いた。「『東大生・京大生と語る会』に参加しませんか?」

 

 記者の母校、北海道札幌南高校は「堅忍不抜」「自主自律」の校風のもと、例年現浪合わせて10人程度の東大合格者、50人程度の国公立大医学部合格者を輩出する、共学の公立校だ。毎年夏休み明けには卒業生が大学生活や大学での授業内容、高校時代の生活や受験勉強などについて話すイベントが行われる。記者も高2の時に参加し、先輩方の話に感銘を受けて勉強のモチベーションが高まった。そんなイベントに講師側として呼ばれるなんて、うれしい反面、後輩の役に立つ話をしなければと身が引き締まる思いだ。

 

 恩師からのメールには続きが。「東大は女子学生が母校で講演等を行う場合補助が出ると思います」。確か高校時代に、オープンキャンパスでの女子向け説明会でそんな話を聞いたような……調べてみると「在学女子学生による母校訪問プロジェクト2019」の案内を発見。謝金や交通費の補助が出ることも確認し、早速申請して事前説明会に参加することにした。

 

 事前説明会の終了後、高校生向けの説明用DVDの上映が始まった。その冒頭、ある東大女子が語った東大を目指したきっかけを聞いてかすかな違和感を覚えた。「周りも東大を目指す人が多かったので……」記者の高校時代、周りにいた東大志望者は決して多くはなかった。このDVDを見て、地方の女子学生はどれほど共感できるのだろう。DVDの使用は必須ではなかったため、自作のスライドで説明することにした。

 

 母校訪問当日。共に講師役を務める男性の東大生・京大生の先輩方と教室に向かうと、高校生40人程度が集まり教室は満員状態。男女比は少し女子が多いくらいだ。少々緊張しつつも発表を開始する。

 

 東大を志望した経緯、塾や部活、受験勉強など高校時代の話から入学しての感想まで、自分が高校時代に聞きたかったことを思い出して話す。受験生時代の夏に受けた東大模試の数学で3点しか取れなかったエピソードも紹介し、なるべく親しみを持ってもらえるように心掛けた。東京大学新聞社が毎年刊行しているシリーズ「現役東大生が作る東大受験本 東大2020 考えろ東大」を紹介すると、終了後に代わる代わる見本誌を手に取って見ている生徒たち。勉強法や模試について個別に質問をする生徒もいて、意欲的な後輩にこちらが刺激をもらった。

 

 後日生徒たちの感想を問い合わせると「楽しかった」「パンフレットにはない生の声が聞けて良かった」「もう少し受験勉強のことが聞きたかった」「もっと基本的なことから聞きたかった」と十人十色。拙い発表だったが、後輩たちに情報を提供して、少しでも東大に興味を持ってもらえたならうれしい限りだ。

(②に続く)


※この記事に登場した現在発売中の『現役東大生がつくる東大受験本 東大2020 考えろ東大』。受験生でない方にとっても面白い情報満載の書籍ですので、ぜひ合わせてご覧ください。

硬式野球 先発崩れ明大に連敗 五回以降出塁できず

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 硬式野球部(東京六大学野球)は9月15日、明治大学との2回戦を戦い0─8で敗れ、連敗となった。東大は先発の坂口友洋投手(文・4年)が三回につかまり4失点。継投に移った後も明大に着実に得点される。打線は明大の4投手の継投の前に沈黙し、最後まで点差は縮まらなかった。東大は9月21日午前10時30分から、慶應義塾大学との1回戦に臨む。

 

四回、石元悠一選手(育・3年)のヒットでヒットエンドランが決まる。しかし得点には至らなかった(撮影・児玉祐基)

 

東大|000000000|0

明大|00420200X|8

勝:伊勢(明大) 負:坂口(東大)

 

 打線は二回、先頭で4番の青山海選手(育・4年)がきれいに左翼前に引っ張って出塁する。続く岡俊希選手(法・3年)が遊ゴロで辛くも併殺を逃れ1死一塁とすると、打席には1回戦で本塁打を含む2安打を放った石元悠一選手(育・3年)。ここで東大はヒットエンドランを仕掛け、石元選手は4球目を見事に中前へ弾き返す。しかし、走者の岡選手は進塁への迷いを見せて転倒。結果的に二塁で憤死し、この回は無得点に終わる。岡選手は四回も2死三塁の場面で見逃し三振に倒れ、期待に応えられない。

 

二回、帰塁しようとした岡選手はタッチアウトに(撮影・児玉祐基)

 

 先発の坂口投手は、春季は明大相手に9回2/3を1失点に抑える好投を見せた。今日も一、二回と走者を出しながらも打たせて取る投球で無失点に抑える。しかし三回、安打と四球で無死一二塁のピンチを招くと、連続適時打や犠飛を喫し4失点。坂口投手は四回にさらに1点を与えたところで降板する。東大は小宗創投手(文Ⅲ・2年)に継投するがピリッとせず、六回までに計8点を失う。

 

三回、適時二塁打を浴びて3点目を失った坂口投手の元に、浜田一志監督(#30)が向かう(撮影・児玉祐基)

 

 打線は五回以降、継投を展開する相手投手陣を捉えることができず、走者すら出せない。八回には2季連続で打率2割5分以上と安定した成績を残してきた笠原健吾選手(文・3年)が代打で登場するが、空振り三振。この回は三者連続三振に打ち取られ、結局試合を通じて得点を奪えなかった。

 

 しかし、投手陣には収穫があった。小宗投手の後を継いで六回途中から登板した大久保英貴投手(文Ⅱ・2年)が、2回2/3を被安打1、奪三振3で無失点に抑える好投。次節以降の活躍に期待だ。

 

好救援を見せた大久保投手(撮影・児玉祐基)

 

 

(湯澤周平)

【部員が見る東大軟式野球2019秋②】打撃振るわず法政大に完封負け

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軟式野球部秋季リーグ第2戦vs法政大学(9月2日)

 

法大 0 0 0 0 0 0 1 0 0 | 1

東大 0 0 0 0 0 0 0 0 0 | 0

 

 雨天中止を挟んで迎えた第二戦。初戦を落としまず1勝をあげたい東大は、初戦で好投した1年生木村(理Ⅱ・1年)をマウンドに送り出す。1年生投手の投げ合いとなったこの試合は、投手戦となった。

 

 先発した木村は、途中制球を崩しかける場面もあったが、要所を締めて得点を与えない。対する東大は、四回に保知(経・3年)の安打と二つの四死球で一死満塁のチャンスを作るも、後続が倒れ無得点。続く六回にも、保知の四球と川野輪(理Ⅰ・2年)の安打で一死一三塁のチャンスを作ったが、あと1本が出ず、制球が不安定な相手投手からなかなか得点をあげることができない。

 

この日も好投を見せた投手木村(理Ⅱ・1年)(写真は軟式野球部提供)

 

 すると七回、相手先頭の代打に二塁打を浴びると、内野安打と進塁打によってついに1点を先制される。その後失策も絡み二死一三塁のピンチとなったが、ここは木村が鋭い牽制で一塁走者を刺し、ピンチを切り抜ける。これで流れを引き寄せた東大は、その裏、主戦投手をマウンドに送り出してきた相手から、先頭の代打菅野(文Ⅱ・2年)がライト線への三塁打を放つと、その後二つの四球で無死満塁のチャンスを作る。流れは完全に東大に来ていたものの、ここも後続が倒れ得点できず。八、九回の東大の守りでは、投手吉川(工・3年)を中心にしっかりと抑えたものの、東大も得点できずに痛い完封負けとなった。

 

代打で登場し、三塁打を放った菅野(文Ⅱ・2年)(写真は軟式野球部提供)

 

文責:軟式野球部 川野輪壮太(理Ⅰ・2)

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