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硬式野球 慶大に圧倒され連敗 2試合連続二桁失点

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 硬式野球部(東京六大学野球)は9月22日、慶應義塾大学と2回戦を戦い、0-10で完封負けを喫し、連敗した。東大は五回に小林大雅投手(経・4年)が6点を失うなど、試合中盤までに大きくリードされる。打線は五回以降毎回安打を記録するが、慶大投手陣を最後まで打ち崩せなかった。東大は10月5日の第2試合で、早稲田大学との1回戦に臨む。

 

二回に右前打で出塁する石元選手。4試合で7安打と打撃絶好調だ(撮影・湯澤周平)

 

慶大|210160000|10

東大|000000000|0

勝:森田晃(慶大) 負:坂口(東大)

 

 打線は二回、今季毎試合安打を放っている石元悠一選手(育・3年)が、1死から右前打で出塁。さらに、前日の1回戦で本塁打を放った梅山遼太選手(理・3年)も右前打で続き、1死一二塁の好機をつくる。しかし次の打者の山下朋大選手(育・4年)は、初球を引っ掛けて遊ゴロ併殺。好機を生かせず得点できない。

 

 東大の先発は坂口友洋投手(文・4年)。序盤から制球に大きな乱れはないが、追い込んだ後の勝負を決めにいった球を慶大打線に狙われる場面が目立った。初回は2死二三塁から中前適時打で2点を失い、二回も1失点。三回こそ内野陣の好プレーに助けられ三者凡退に抑えるが、浜田一志監督は四回からの継投策を採ることを決断する。

 

 四回から登板したのは、今季初登板の宮本直輝投手(育・4年)。しかし宮本投手は先頭打者にいきなり本塁打を浴び、その後は三者凡退に抑えるが「打球は全て芯で捉えられていた」(浜田監督)。そのため五回からは、前日の1回戦では四回途中で降板したエースの小林投手を投入する。

 

今季初登板となった宮本投手(撮影・湯澤周平)

 

 交代直後の五回、小林投手は制球に苦しみ大乱調。先頭から3連打を浴びて1点を失うと、結果的に8人連続で出塁を許す。この回は被安打が5本、与えた四死球が3個となり、打者11人の猛攻で6点を失う。

 

 点差を詰めていきたい打線は、中盤以降も相手投手陣を打ち崩せない。五回以降毎回出塁に成功し、五、八、九回と先頭打者が出塁する。しかしどの回も走者を2人以上ためられず淡白な攻撃が目立ち、得点できない。

 

 小林投手は五回の打席で利き腕の左肘に死球が当たり続投が危ぶまれたが、六回以降「意地を見せてくれた」と浜田監督が振り返るように安定感のある投球を見せる。打たせて取る投球が本来の持ち味だが、この日は六回以降六つの三振を奪う。九回には1死一二塁のピンチを招くが、内野ゴロと三振で無失点。六回以降は互角の勝負だっただけに、五回の6失点が重くのしかかる1戦となった。

 

五回の死球直後、治療に向かう小林投手(撮影・湯澤周平)

 

(湯澤周平)

 


東大進学に地方高校は不利なのか? 東大女子の母校訪問②

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 生徒の前での発表を終えると、先輩方と進路室でお茶をもらってちょっと一息。続いて長年札幌南高校(札南)の進路部長を務める高桑知哉教諭に、進学状況や進路指導について話を聞いた。札南は「堅忍不抜」「自主自律」の校風の下、例年現浪合わせて10人程度の東大合格者、50人程度の国公立大医学部合格者を輩出する、共学の公立校だ。

 

 

━━近年の札南の国公立、私大への進学状況を教えてください

 

 国公立については、北海道だけでなく、首都圏、関西圏など全国から行きたい大学を探して受験するという傾向がずっと続いています。私大についても同様で、特に首都圏が多いです。昔はうちの学校は浪人が多かったですが、ここ数年は3分の2くらいは現役で進路を決めていくという状況になってきました。

 

━━学校としては現役での進学を勧めているのでしょうか

 

 いや、それにはこだわっていませんが、世の中全体を見ると現役で大学に入る人が多くなってきていると思うんですよね。時代の流れもあるし「入った大学で頑張って社会に出る」ことも大事でしょう。場合によっては大学院から他の大学に行くという選択肢もあります。ですが「どうしても医者になりたい」などと自分のやりたいことが見つかっていて、その大学でしかできないというのであれば、こだわるのも悪いことではないと思っています。

 

━━今年の東大への進学状況はどうでしたか

 

  この卒業学年は、文理ともに東大合格者が例年に比べてとても多かったです。2年生くらいまでに英数国をしっかりやった生徒が多く、3年生になってから理科・地歴公民に時間を回すことができたのだろうという分析をしています。今年の現役合格者14人というのは11年前の15人に次いで、過去2番目の実績です。

 

━━以前(2014年)のインタビュー時(http://www.todaishimbun.org/sapporominami1010/)は実施していなかった東大の推薦入試対策は、今は実施しているのでしょうか

 

 特に実施していません。東大の推薦に関しては、初年度(2016年度)に2人合格者が出たのですが、それ以降は出願者自体もいないです。東大に推薦でチャレンジできるようなものを持つにはまだ至っていないようですね。初年度に合格した生徒たちは、自主的に研究して、その内容を実際に海外に行って確認してきたり、学会で発表したりして、大学でも継続して研究をしたいと考えていました。東大に継続研究ができる先生がいたため推薦を希望したようですね。今後も意欲的な、面白い生徒がいればフォローする体制は整えたいです。

 

━━首都圏の高校と地方高校の情報量の違いをどのように捉えていますか

 

 教員としては、札幌は不利になるとは思っていないです。今はネットでいろいろな情報が仕入れられる時代であり、教員は各予備校主催の研究会にも必ず参加するようにしています。東京で行われる研究会に行くこともあって、生徒に伝えた方がいい情報は我々が適切に伝えるようにしています。現在の情報化社会では間違った情報、なびいてはいけない情報も間違いなく存在しているので、惑わされないように心掛けています。

 

   生徒たちは、周りに東大生がそんなにいない状況で3年間過ごすかもしれませんが、卒業生と語る会や東大セミナーを実施し、この環境の中でしっかり力を付けさせるように心掛けています。

 

━━他校、特に首都圏の高校との進学実績の比較はしていますか

 

 全国の公立のトップ校とは比較しています。また、会議で同席したときに情報交換もしています。

 

━━首都圏の高校との情報格差を埋める取り組みを具体的に教えてください

 

 「卒業生と語る会」は生徒に対しての情報提供、モチベーションのアップという面ではすごく効果があると思っています。地理的にすぐには東大まで行けないので、せめて東大の学生に雰囲気を伝えてもらうのは生徒の役に立っているでしょう。進路部では昨年秋から、東京で行われる各予備校主催の東大入試研究会で得た情報を、3年生の東大志望者に伝える「東大直前セミナー」を始めました。以前から実施していた医学部バージョンに加え、今年は京都大学バージョンも予定しているんですよ。あとは生徒に配っている「進路だより」で適切な時期に適切な情報を伝えるようにしています。

 

━━授業のカリキュラムの違いはあるのでしょうか

 

 うちは文理分けが3年からになっているので、理系に行ったけれども最後に文系に変えることは可能なんですよね。ほとんどの全国の学校は2年の時に決めてしまうので、戻れないんですよ。それも札南の自由度をカバーしているのではないでしょうか。全員に2年次に政経、3年次に倫理を取らせる学校も少ないと思います。理系の人にも取らせるのは珍しいですが、幅広い知識を身に付けられ、視野を広げるためにも役立っていると思っています。生徒は当然だと思っているかもしれませんが。

 

━━東大全体では女子が少ないですが、札南からの東大受験者の男女比はほぼ同じですね

 

 うちは女子頑張りますよね。京都大学も医学部もそうです。そこもうちの特徴になっているのかもしれません。地方在住の女子の場合、自宅から大学に通わせたいと考える親御さんもいらっしゃるので、全体としては少なくなるのかもしれませんね。

 

━━確かに私も「東大を目指そうかな」と母に初めて言った時、難色を示されました(笑)

 

 (笑)やっぱり北海道全体で1年間に50人入るか入らないかくらいですからね……100人くらいに増やそうと考えている先生もいるようですが、なかなかハードルは高いですね。

 

   東大は日本一の大学で、誰もが憧れる大学ですが、京都大学行きたい人もいれば、医学部行きたい人もいるでしょ。一橋大学や東京工業大学を選ぶ人もいる。生徒一人一人が、自分の考えに基づいてベストの大学を選んでほしいと思っています。

 

━━札南はいろいろな人がいますよね。東大に数カ月通った今でも、札南生は個性的な人が多く、自由な雰囲気だったと思います

 

 そうでしょ。それをこちらも許容しているし、生徒自身も「あいつ面白いな」と受け入れる度量の大きさがありますよね。なるべく方向性をつけず自由にさせたいけれど、野放しにするのではなくて、必要な情報やヒントを与えてみんなに考えさせる。その上で最終的に決めさせるのが我々の責任だと思っています。「知っていればそうしなかったのに」という不利になる選択だけはして欲しくないので、そこだけは気を付けたいところですね。

 

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ただいま、札幌南高校 東大女子の母校訪問①

日本の大学「教育」は時代遅れ? 東大の「教え方」を変える東大FFPの挑戦とは

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 夏休みが終わり、早くも新学期。シラバスを片手に、どの授業を履修するか思い悩んでいるところだろうか。

 

 東大の中には、履修した学生から「つまらない」と言われる授業も少なくない。一方、東大では、教員の教え方を変えようというプログラムも存在する。大学教員を目指す大学院生やポスドク、若手教職員向けに、教育能力の向上を図る「東京大学フューチャーファカルティプログラム(東大FFP)」だ。東大FFPでは、グループワークなどアクティブラーニングによる学びを通して、学生のモチベーションの高め方や授業デザイン、シラバスや成績評価など、学生が主体的に学べる教育の設計方法を学んでいく。

 

 東大FFPを企画し、高等教育の質の改善を目指す栗田佳代子准教授(大学総合教育研究センター)に、東大FFPに込めた狙いや東大の教育体制の課題を聞いた。

 

(取材:一柳里樹 撮影:高橋祐貴)

 

 

教える側も学び続けろ

 

━━東大FFPはどのような経緯で開設されたのでしょうか

 

 東大FFPが開設されるまで、東大には大学教員としての教育力を付ける全学型のプログラムがありませんでした。東大は大学教員をたくさん輩出する大学であるにもかかわらず、教育力を持たせることなく巣立っていかせてしまう。これを何とかしなければということで、当時存在していた教育企画室において企画が立ち上がったのが2011年のことです。

 

 その頃は日本全体にわたり、大学の機能の一つとして改めて教育が重視され始めた時期でした。東大としても、この流れにどう対応し、教育の質をどう保証するかが問われており、当時の濱田(純一)総長も教育改革をいろいろ打ち出しています。2010年に策定された東大の中期的ビジョン「東京大学の行動シナリオ FOREST2015」では、教育の質を保証し向上させるための取り組みが掲げられていました。

 

 大学教員を育成して、日本の大学教育全体を底上げするという意味でも、東大の責任は大きいです。私がこの東大FFPを担当するために東大に採用されたのは2012年ですから、当時の議論を直接知りませんが、外から見ていても、東大が果たすべき責任について多く議論があった時期なんだろうと思います。

 

 このFOREST2015では、東大として、大学教育の質の改善を図るファカルティディベロップメント(FD)にどう取り組むかという方策も定められました。教員の資質向上という意味では、本来は学内の教員に対して、まず、FDをやるべきかもしれません。でも、いきなり教員を対象に全学型のFDを導入するのは難しい、まずは大学院生向けのプログラムとして始めようということで東大FFPが始動することになりました。

 

 2年かけて議論がなされ、2013年4月に東大FFPがスタートしました。大学院生向けのプログラムとして開始した東大FFPですが、教員やポスドクからもオブザーバー参加のリクエストを多く受け、2016年度から対象を拡大して教職員にも門戸を広げています。現在は、年間の受講者100人のうち約2割分を教職員やポスドクに充てています。

 

━━東大FFPで大切にしていることは

 

 授業デザインの根幹にあるのは、受講者に、学生が「いかに学んだか」を最大限に考える姿勢を身につけてもらいたい、ということです。現在、教育においては、学生が「主体的に学ぶ」ことを大切にし、教員が「いかに教えるか」より学生が「いかに学んだか」を重視するパラダイム転換が起こっています。

 

 教授法はたくさんありますが、東大FFPで学ぶ時間は限られていますし、授業技術はすぐに陳腐化していきます。そこで重要なのは「学生がよく学べているか」という視点からどう教えるのが最善かを問い続け、教える者自身が常に学び続ける姿勢です。東大FFPでは、こうした教育の改善あるいは探究のマインドセットを身に付けてもらうことも重視しています。

 

 東大FFP自体も受講者に主体的に学んでもらう場なので、私が一方的に教えるのではなく、ディスカッションや実践を重視して、受講者自身で気付いてもらえるように授業をデザインしています。東大FFPの授業全体の中で、私が話す時間は3分の1もないかもしれません。これまで一方向型の授業を受けてきた人が多いので、主体的に関わっていく学び方ってこんなに面白くてこんなにモチベーションが上がるんだ、他の人から意見をもらえることはうれしいんだ、と体感してほしいと思っています。例えば授業の後半にある模擬授業は、受講者に一度だけやってもらうのではなく、受講者同士でフィードバックをし合って、改善してもう一回、つまり受講者は2回模擬授業を行います。

 

 協調的に学べる生産的な環境作りのために、私がグループワークの冒頭で毎回受講者に伝えることとして、「敬意を持って」「忌憚(きたん)なく」「建設的に」という「3K」があります。東大FFPの受講者は大学院生も教員もおり、年齢でも23、4歳から50歳以上まで、国籍も性別もさまざまな人がいるため、こうしたグラウンドルールの共有は大変重要です。他にも「フラットな関係づくり」のため、私も含めてお互いのことを「さん」付けで呼ぶ、というルールもお伝えします。学生の主体的な学びのためには、議論を活性化したり深めたりできる場を教員が作ることが重要です。東大FFPを通して、それを体験、体感してもらいたいと考えています。

 

━━教育の質保証に向けて、成果は今上がっているのでしょうか

 

 毎期、授業終了後に取っているアンケートでは、受講者の98%あるいは99%近くが「意識や行動が変わった」という結果が得られています。自分の授業やTAとしての行動が実際に変わった、教育者として生きていく上での意識や展望が変わった、というのはもちろんですが、教育にとどまらず、研究の価値を考えるようになった、研究を人にうまく伝えることを意識するようになった、後輩への指導の仕方が変わったというような回答も多く、東大FFPの学びの影響が波及しています。

 

 東大FFPの受講生の約3割が、修了生による紹介による履修希望であることも、このプログラムが高い評価を受けていることの一つの証になるかと思っています。受けに来てくれた方が「良かったよ」と周囲に勧めてくれる循環が生まれている状況は、私たちとしては喜ばしいことだと思っています。

 

 また、東大FFPを修了した大学院生から、教員ポストに応募し、模擬授業などが評価されて就職できたというお礼のご報告をいただくことも増えてきました。これはいつか修了生にフォローアップ調査をするなど、成果としてまとめていきたいと考えています。

 

学生も自ら行動を

 

 一方、東大FFPを越えたより大きい話として、FDは本来、大学総合教育研究センターが全学に対する支援として現在よりももっと推し進めていくべきだと思っています。例えば、多くの教育部局で独自にFDの取り組みが行われていますが、全ての教育部局にFD専任の先生がいるわけではないので、専門外の先生が持ち回りで担当されていることが多いという現状があります。それでは担当の先生の負担も大きく、取り組みの充実はままなりません。各部局のFDに関する取り組みにおいて、大学教育総合センターが協力させていただくことで、より効率的にかつ充実したFDの機会提供ができるのではないかと思っています。

 

 ただ、ハーバード大学やオックスフォード大学、シンガポール国立大学など世界の他の多くの総合大学では、FDの専門スタッフが4、5人、事務スタッフも4、5人くらいいて、FDだけで10人くらいの体制が整っています。一方、このセンターでFDを職責として明示的に担っているのは、実質的に私の他は特任研究員と事務職員がフルタイム換算で各1人という状況です。東大のFDは全学的な連携体制に加え、人的リソースの面でも非常に弱い状況です。

 

 現在シンガポールや中国などアジア諸国は、国策として大学教育におけるアクティブラーニングへの転換を進めています。一方向の授業から脱し、授業の前にオンライン動画で予習しておいて授業内ではディスカッションを主体にするような授業形式がここ数年で急速に取り入れられてきており、改善が進んでいます。その流れには、東大だけでなく日本の大学の多くは完全に乗り遅れていて、かなり危機的な状態だと個人的には感じています。

 

 

━━東大の教育に対する改善の取り組みが弱いのはなぜでしょう

 

 入学してくる学生が優秀で、教育する側もそれに甘えることができてしまうからでしょう。しかも国内では、日本における首都圏という魅力、また東大自体の魅力およびネームバリューが通用することから、優秀な学生が継続的に集まってきます。ですから、現状、教育の改善を必死にやらなければという危機意識を持つに至りません。従って、FDの必要性はそこまでない、という認識になりやすいかと思います。実際のところFDは、学生集めに苦労する「危機感」を持つ大学のほうが熱心に取り組むという傾向があります。しかし、学生が集まってくるから何もしなくてよいというわけではなく、世界のなかの日本の高等教育として見た場合、やはり東大は教育の改善を進めていく必要があると思います。

 

 教育の質を上げる取り組みとしては、先生方一人一人の授業の質を上げる段階の他に、カリキュラムとして教育の体系化の質を高める段階もあります。現在、日本の全ての大学はディプロマポリシー(学位授与基準)とカリキュラムポリシー(教育課程編制方針)、アドミッションポリシー(入学者受入方針)を定め公開することが義務付けられています。これらは教育の体系化において重要な方針であり、東京大学も各研究科や専攻において定めていますが、実際は全教員に浸透しているとはいえず、カリキュラムポリシーに沿ってカリキュラムが編制され学生に周知されていない状況にあります。学生の科目選択における自由度が大きいことは魅力の一つにもなり得ますが、一方、やみくもに履修しても卒業できてしまう状況もあります。学年を通じてどのように選択すれば体系だった学びとなっていくのか、という点の整備やサポートは東大としてまだまだできる余地が残されているのではないかと思います。

 

━━そのような状況の中で、今後教育の改善のためにできることはありますか

 

 一つは、学生にももっと声を上げてもらうこと、また、大学側として現在よりももっとそうした声を重視することではないかと思っています。教養学部と学生自治会の学部交渉、あるいは卒業時に行われる学生達成度調査などにおいて学生の声を聞く機会は設けられていますが、それらが全学としての教育方針に大きな影響を与えるには至っていません。授業評価アンケートも部局ごとに実施されていて統一されていませんし、前期課程と後期課程にわたる縦断的な調査が整っていないこともあり、全学としての教育改善に資するような情報収集の仕組みは弱い部分です。学生の4年間を追跡できる調査体制などは少しずつ進んでいる部分もありますが、時間はかかりそうです。その加速において学生の声は本来強力なものであると思うので、一緒に大学を変えていくという意識の下、教育改善に対する声をいろんな方向から上げ続けてもらうことが、大学を変える一つの契機になるのではないかと思います。

 

 もう一つはTA制度です。東大では2017年にTA制度の改革が行われました。これまでは、TA制度の運用は授業支援というよりは学生の経済的支援としての意味合いが強く、また他大学に比較して賃金が低く抑えられていました。今回の改革で、業務の幅が広がりそれに応じた賃金の見直しが行われました。特に業務の見直しが図られたことでTAの授業支援の幅が広がり、さらには、教育実践の機会としても位置付けられるようになりました。これは、授業そのものを改善する契機になるのではないかと感じています。実際、駒場で行われている初年次ゼミナール(理科)(理科Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ類の1年生が入学直後の学期に履修する必修のゼミ)の教員とTAを対象に、教養教育高度化機構が教員・TA研修を実施しています。初年次ゼミナール自体がアクティブラーニング形式の少人数授業なのですが、そこでは、TAはただのコピー取りだけではなくて、グループワークの支援などもしっかりやる位置付けです。そうした授業支援の在り方が浸透すること自体が、授業が変わっていく契機になるのではないかと思います。

 

 

教育は地味? 遅れる日本

 

━━東大外の日本の大学では、東大FFPのようなプログラムは浸透し始めているのでしょうか

 

 この種のプログラムは、いわゆる旧帝大のほとんどで行われていますが、受講者数が年間10人を切るようなところもあります。年間の受講者が3桁に乗っているのは東大だけです。教育が研究より一段下に見られている節があることが不人気の一因です。大学院生がFDプログラムを受けていると「そんなことしている暇があったら論文書け」と言われたり「研究で活躍できないから教育に力を入れているの?」と思われたり、といったことがあります。本来教育は、未来を創りだすという点では夢があり尊い仕事だし、研究と教育は分かつものではなくて、教育の発展が各専門領域の研究の発展にもつながるわけですが・・・・・・。

 

 教育の質を上げる取り組みって、非常に見え方が地味なんですよ。教育においても新規プログラムの立ち上げはニュースになりやすいですが、一方で既存の教育の授業の質が上がったというのは成果として見えにくい。学習成果の可視化は近年言われてきていますが、いざ教育の質を可視化しようとすると測定が難しく、従って評価されにくい。すると先生方の時間的な余裕もなく、「今も回っているのだから」と、時間とお金と手間をかけて改善するだけの価値を見出せないということになってしまいます。授業設計を変えて授業評価をいくらか上げることよりも、研究の新発見の方が成果として一見華々しいですよね(笑)。

 

 東大の場合、教育といえば研究者を育てることに重点を置く教員が多く、それも当然かつ重要なことです。ただ、学部で卒業していく学生も、研究者にならない修士卒もたくさんいるわけですね。そういう学生が社会に出た時、納税者の一員として科学技術の重要性を理解してもらえるという意味でも、研究を通して会社での企画開発や営業に非常に役立つ汎用的なスキルを学ぶという意味でも、研究者育成に限らず良い市民や有能な人材を育てるための教育は重要です。そして、日本という国や地球全体をゆくゆくは支える人材を育てることは大学の機能として重要だと思います。

 

 東大FFPでは、「教育の価値は研究に並ぶ」ことを示す点に気を付けていて、履修希望者が毎回定員の1.4倍くらいで推移する中で、学振(日本学術振興会特別研究員)に採用された経験のある人に優先的に履修してもらうようにしています。これは「東大FFPの修了生は研究者としても教育者としても一流」という意識的なブランディングで、結果的には現在、履修者の約4割が学振経験者で占められています。

 

━━東大FFPを今後、どのように発展させていきますか

 

 東大FFPは、ミニマムな内容ではありますが大学教員になる上で身に付ける知識・技術が詰まっています。まずは、東大FFPの学内外での認知度を上げて、東大FFPの素材もオープンにして、この種のプログラムを全国に広げ、いつか「大学院生なら受けてて当たり前」にしたいと考えています。

 

 東大FFPは学内向けのプログラムですが、学外に対しては既にオープンにする仕組みがあります。2014年に東大FFPの内容を基盤として「インタラクティブ・ティーチング」というオンライン講座を開発し、無料で学べるプログラムとして開講していました。2016年までは修了証を発行する講座として運営していましたが、現在は一度閉じており、異なるプラットフォームでの再開講を準備中です。ただし、80本ほどある動画は今も誰でもいつでも閲覧できる状態で「東大FD」というウェブサイトで提供しています。また、これらの動画を活用した新しい取り組みとして、「インタラクティブ・ティーチング・アカデミー」というプログラムを昨年度より開始し、大学関係者だけでなく初等中等教育の先生や民間企業の方も対象にして、オンラインと対面講座を組み合わせたブレンド型学習という方法で提供しています。今までの研修と異なる特徴は、ブレンド型学習というのもそうなんですが、受講者が学校種や職種を越えて多様であること、そして、実践につながるような研修デザインを持つことです。例えば、授業デザインについて学ぶ回の場合、研修初日でつくった授業のデザインを、各自の現場で実践してもらい、その経験を研修2日目に持ち寄り、共有して互いに学ぶ、という形式です。

 

 また、学内の東大FFP普及という点では、より受講しやすい形態を模索中です。現在は隔週2こま連続の3時間半の授業を全8こまとなっています。特に、教職員の方々には授業期間中に3時間半も空けてもらうのは大変です。2こま連続で行うメリットは大きいものの、やはり受講しやすくする工夫として、短時間でできる構成や、グループワークも含め基本的に全てオンラインで行い、対面でしかできないところだけ集まる、というような授業形式の実現も検討しています。

 

 東大FFPの修了生に私がいつもお伝えしているのは、毎年100人ずつの修了生が各大学に散らばって、いつか学長になっていくと日本の大学が変わるから、みんな偉くなってくださいということです(笑)。教育は、学生の将来、日本の未来を作っていく大変誇らしく重要であるという捉え方をする人が偉くなれば、大学も変わっていきます。20年、30年、50年くらいのスパンの戦略になりますが、東大FFPの修了生が育てた学生が教員になり、東大に戻ってきたら東大もより変わっていくと思います。ただ、国策として大学教育を強化している東南アジアなどのスピード感からはかなり遅れているので、本当はすぐにでも変わってほしいんですけどね・・・・・・。

秋季入学式 五神総長「『知』の蓄積を共存させ統合し、未来を切り開いて」

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新入生に式辞を述べる五神真総長=20日、安田講堂で(撮影・友清雄太)

 

 2019年度秋季入学式が20日に安田講堂で挙行された。大学院には修士課程444人、博士課程309人、専門職学位課程53人の計806人が入学。教養学部PEAKには37人、理学系研究科・理学部が実施するグローバルサイエンスコースには4人が入学した。

 

 五神真総長は英語の式辞で、世界が分断されつつあるとし、万葉集を典拠とした新元号「令和」の文字が中国の古典『文選』にも見られることを異文化受容の例に挙げた。その上で総合大学に在籍する強みを生かし、知の越境を実践すること、既成の知の在り方にとらわれず、超えていく感性とバイタリティーを持つことが重要だとし「分断の流れにあらがい、あらゆる『知』の蓄積を共存させ統合し、未来を切り開いていってください」と語った。齊藤延人医学系研究科長も式辞を述べ、新入生代表の査承晗さん(数理科学・博士1年)とマヒ・パトキさん(養・1年)が宣誓した。

世界大学ランキング 総合36位に上昇 国際性38点台にとどまる

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 英国の教育専門誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)が12日に発表した世界大学ランキングの最新版で、東大は昨年の42位から総合順位を上げ国内最高の36位となった(表)。アジア内順位は2年連続5位だった。

 

 評価基準5分野のうち、東大は教育・研究の分野でそれぞれ85・9点(13位)、89・6点(17位)。この2項目では80〜90点を、評価基準が変わった2011年からほぼ維持している。産学連携では昨年から10・2点増加して77・4点と満足な結果を残した。70点を超えたのは12年以来。一方、論文被引用では60・7点、国際性では38・2点と、依然課題を抱える。

 

 国内大学では京都大学が65位、東京工業大学と東北大学が251位~300位にランクインしている。日本の大学についてTHEは「優れた研究者や留学生を引きつけたり、他国の研究者との協力を進めたりして国際性のスコアを向上させるべき」と評価した。

 

 アジア内では、清華大学が2年連続で首位。他にも北京大学、シンガポール国立大学、香港大学が東大を上回った。

 

 世界1位は4年連続で英オックスフォード大学で、昨年5位だった米カリフォルニア工科大学が続く。上位12校は米英の大学が占めた。

「HONGO AI 2019」最終選考会進出スタートアップ紹介・前編

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 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が主催するAIスタートアップ企業の表彰イベント「HONGO AI 2019」の最終選考会と授賞式が、10月2日に本郷キャンパスの伊藤謝恩ホールで行われる。それに先立ち、弊紙オンライン版では最終選考会に駒を進めた全14社を2回に分けて紹介。今回は前編として以下の7社を紹介する。

 

・AIQ株式会社

・株式会社ACES

・インスタリム株式会社

・株式会社RevComm

・株式会社DeepX

・ソシウム株式会社

・株式会社日本データサイエンス研究所

 

HONGO AI 2019についての詳細はこちらの記事を参照

 

 

AIQ株式会社

 「Discover a New Me」をモットーとし、AIによるプロファイリング技術を基にしたデジタルマーケティングソフトウエアの開発、販売を行う。最高執行責任者(COO)の渡辺求さん、CCOの髙島孝太郎さんは、メディアを通じて多くの選択肢が提供される現代において自分が本当にやりたいこと、欲しいものを見つけることは難しいと語る。そういった「本当の好き」を提示するために、UGC(User Generated Contents、ユーザーの手によって制作・生成されたコンテンツの総称)からデータを抽出するソフトウエアを開発。さらに、AIソフトウエア「LiveReal」を開発し、人間の手で行われてきた投稿者の属性分析を効率的に行うサービスを提供している。

 

 この他にもSNSの分析や画像解析を行う数々のAIソフトウエアを開発。技術の性能や画期性を売りにするスタートアップは多いが、それらに加えて明確なユースケースを持ち、実際に多くの企業に技術提供をしているスタートアップは少ないのではないかと強みを語る。大手企業で技術と実績を積んだ社員たちは「こだわり」や「夢」、「先端技術」などへの九つの愛を胸に急成長を遂げる。

 

 

株式会社ACES

 工学系研究科松尾研究室発のスタートアップ。ディープラーニング(データを基に機械が自動的に特徴を抽出する技術)を用いた画像認識技術などAI技術の開発、パッケージライセンス提供を行う。主力パッケージの「SHARON」では、人間の行動や感情の認識、物の検知などを行う画像認識のAIアルゴリズムを提供。従来人の目で見てきたものを「機械の目」を通してデジタル定量化し、問題の最適化を図る技術で、広告代理店の電通と協力してプロ野球球団への導入も進めている。他にも、多くの大手企業と連携してディープラーニングの社会実装を進めている。

 

 ACESの強みは「アカデミアの最先端アルゴリズムをシンプルにビジネスフローに組み込み活用できること」と語る代表取締役の田村浩一郎さん(工学系研究科・博士1年)。最先端AI研究の社会実装に力を入れる松尾研究室に在籍する田村さんは、アカデミアとビジネスの距離(ギャップ)に価値が存在すると分析する。人間が行う繰り返し作業や複雑で非連続的な作業をAIアルゴリズムによって自動化、効率化し、よりシンプルで誰もが生き生きと暮らせる社会の実現を目指す。

 

 

インスタリム株式会社

 HONGO AI AWARDを受賞した各社の中で異彩を放つ、フィリピンで事業を行うスタートアップ。起業のきっかけは創業者の徳島泰さんが青年海外協力隊の活動中に目の当たりにしたフィリピンの風景だ。足が不自由な人が義足を手に入れられず、結果として満足のいく生活を送れない。CSOの梶芳朗さんによると、世界的に見れば義肢装具を手に入れられる人は、装着の必要があるうちのわずか10%程度にとどまり、特に発展途上国でその問題が深刻化しているという。多くの人に義肢装具を届けるために、起業を決意した。

 

 従来の義肢装具製作では石こうで型を取るなどのアナログな作業を伴う一品生産が行われており、製作コストと技師の不足のために価格が高くなっていた。そこでインスタリムは、AIを用いて患部のデータからソケット(断端を収納する部分)のモデルを作成し、3Dプリンターで義足を出力するデジタル製造技術を開発。価格と製作時間の大幅な削減に成功した。

 

 日本のスタートアップでは珍しく、日本、フィリピン両国のグローバルチームで事業を展開するところが強みであると語る同社は今年6月からフィリピンでの事業を開始。今後はインドなど世界各国への展開を目指す。

 

 

株式会社RevComm

 音声解析AIを搭載したクラウド電話「MiiTel」を提供しているRevComm。人工知能で電話営業・顧客対応を可視化して生産性を飛躍させるサービスである。「営業における最大の課題は、顧客と担当者が何を・どのように話しているか分からない、ブラックボックス問題」と代表取締役の会田武史さんは言う。「営業トークが可視化されていないことによって、労働集約型の属人的な、数打てば当たる電話営業・顧客対応に陥っています」

 

 「そこに課題があったから」起業したと語る会田さん。日本社会全体で生産性の向上を図っている中、生産性向上に寄与する製品の開発を考えたとき、企業活動の中で一番生産性が低い営業に目を付けたという。強みは全てフルスクラッチで自社開発していること。自社エンジニアによる開発で、需要に合わせて作られた商品だからこそ、現場で使われ役に立っているという。実際に導入された会社では営業の質が向上し、教育コストも下がった。最終的には人間を電話営業から解放することを目標にしている。

 

 

株式会社DeepX

 「先端人工知能を駆使してあらゆる機械を自動化する」ことをミッションに掲げるDeepX。代表取締役の那須野薫さんは、働き手不足が深刻化する日本社会において、建設業や食品加工業、農業などといった社会の基盤に関わる産業が崩れていくことを危惧していた。所属していた工学系研究科の松尾研究室で研究したディープラーニング技術を生かして社会貢献できると考え、博士1年次にDeepXを起業。

 

 機械を自動化するためには、ソフトウエアであるAIを開発するだけでなく、ハードウエアのメーカーとの連携が重要になる。日本には多くのハードウエアメーカーがあり、グローバルな競争力の回復のためには、機械の自動化を推し進めることは有効な手段であると語る。「ベンチャーでハードウエアメーカーと連携するのはスタートアップには難しいので、それ自体が強みになります」。AIのシステムそのものにとどまることなく、メーカーと連携し、実際に問題が起こっている現場に足を運ぶことで社会課題の解決を目指す。

 

 

ソシウム株式会社

 創薬プラットホームを提供するソシウム。当時国立研究開発法人産業技術総合研究所に所属していた、最高技術責任者の堀本勝久さんが開発した技術を基に、2017年に設立された。リスクの大きい製薬というビジネスにおいて、製薬の成功確率を上げることで、製薬事業の安定化につなげることができるのが強みだと代表取締役の高橋学さんは語る。具体的には、薬の有効性メカニズムの解明、開発を断念した薬の再開発、そして薬の効果の有無を判定に関するサービスを提供。効果の有無の判定に用いる「層別化マーカー」にAIの技術が応用されている。

 

 ただ、堀本さんは第一に社会実装の重要性を強調する。「重要なのはテクノロジーよりむしろ、社会課題の解決です」。AIはあくまでも道具の一つであり、薬を作って世の中に出すという目標を達成することこそが重要なのだという。国や人種に関わらず、病気を治す薬は必要とされる。そんな分野だからこそ、日本のベンチャーの技術で社会に貢献することに意味がある。

 

 

株式会社日本データサイエンス研究所

 日本の基幹産業にAIを導入して労働生産性を上げることを事業としている日本データサイエンス研究所。「日本をアップグレードする」ことを使命として、アカデミアの知を社会実装する事業を展開。クライアントの利益に直結したAIサービスを提供している。不在配達を減らすAIアルゴリズムの実証実験で、不在配達率を従来の20%から2%まで減らすなど、実績も多い。代表取締役の加藤エルテス聡志さんは、事業の背景として、日本の人口減少率の高さ、労働生産性の低さを挙げる。「労働者がどんどん減っているのに、労働生産性も他の先進国に比べて低いのです」

 

 一つの企業だけで完結しては駄目、というのが加藤さんの主張だ。例えば、アカデミアには宝の山のような論文がたくさんあるのに、企業は外に情報を取りにいかず、全く生かされていない。そういう状況で産官学の連携を支援することが労働生産性の向上につながる。さまざまなベンチャーが集結する本郷において、とがった技術を持つ企業同士をつなぎ、組み合わせる指揮者のような役割を担いたいという。

「HONGO AI 2019」最終選考会進出スタートアップ紹介・後編

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 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が主催するAIスタートアップ企業の表彰イベント「HONGO AI 2019」の最終選考会と授賞式が、10月2日に本郷キャンパスの伊藤謝恩ホールで行われる。それに先立ち、弊紙オンライン版では最終選考会に駒を進めた全14社を2回に分けて紹介。今回は後編として以下の7社を紹介する。

 

・Xamenis

・株式会社科学計算総合研究所

・株式会社estie

・株式会社シンカー

・株式会社スペースシフト

・Mantra

・MI-6株式会社

HONGO AI 2019についての詳細はこちらの記事を参照

 

 

Xamenis

 

 社名の由来は医療の象徴である「アスクレピオスの杖」に巻きついたクスシヘビの学名Zamenis longissimus。カプセル内視鏡の読影支援AIを開発している。高峰航さん(医・5年)と澤辺一生さん(医・5年)は、数万枚の画像から1枚を探し出すという消化器内科医の身にこたえる作業を目の当たりにし、機械に置き換えられるはずだと起業を決意。

 

 「現在の医療には進歩するべきところが残っている。医療と情報技術の両方の技術を持つところがわれわれの強みです」。企業として生き残るためにはまずは食べるものに困らないほどの売り上げが必要としながらも、人々の生活を変えたいという大きな野望を抱きながら開発にまい進する。高いレベルの医療を誰でも低価格で受けられるように、現在の医療の経済的なほころびを情報技術で繕う。加えて、病気になる前に心身の不調を発見できるような仕組みを病院外に構築することでQOLの向上や健康寿命の延伸を目指し、患者にも医療者にもSustainableな医療を再構築する。

 

 

株式会社科学計算総合研究所

 

 科学計算総合研究所(RICOS)は「設計の高速な最適化」を目標として掲げている。従来のものづくりでは、試作品を作って評価し、改善点を見つけ、また試作品を作り……と、完成に至るまでに多くの時間・費用がかかっていた。この現状を打開するため、CAE(Computer Aided Engineering、コンピューターシミュレーションを用いて製品の評価をする技術)にAI技術を組み合わせ、設計の最適化プロセスの全自動化・高速化を目指す。

 

 起業のきっかけは、代表取締役の井原遊さんが東大在学中に、起業やスタートアップ(ベンチャー)について初歩から体系的に学ぶプログラム「東京大学アントレプレナー道場」に参加したこと。「当時の研究室でも、今と似たようなことはやっていましたが、論文になりづらい成果を生かしたかったんです」。今は研究チームのメンバーにも顧客にも恵まれているが、知名度が足りない。「コンテストを通じて、面白いことをやっているなと、自分たちがやっていることの価値をアピールできれば」

 

 

株式会社estie

 

 企業向けのオフィス探し・提案プラットホーム「estie」と、プロの機関投資家向けの不動産データマネジメント・アナリティクスサービス「estie pro」を提供しているestie(エスティ)。「estie」は今月20日に正式版がリリースされたばかりで、現在は東京大学エッジキャピタル(UTEC)からの出資を受けながら経営されている。代表取締役の平井瑛さんを筆頭に、事業用不動産業界の出身者が複数参画しており、業界の知見を多く有している。さらにドコモ、ヤフーといった最新のテクノロジーを扱う企業の出身者も参画しており「チームとしてこれ以上ない人材に恵まれています」。構造化が難しい生の不動産データを解析して投資家に提供しているのも、他社にはない強みだ。

 

 平井さんは不動産業界大手の三菱地所出身。データが活用されていない不動産業界の現状を目の当たりにして起業を思い立った。「業界関係者の多くは最新のテクノロジーを使った取り組みを進めようとしていますが、具体的に何をしたらいいかに悩んでいます。彼らと一緒に市場をよりシンプルに、意思決定をよりスムーズにしていきたいです」

 

 

株式会社シンカー

 

 クライアントである企業が所有するあらゆる数値を有効なデータに変換し、その企業のマーケティングを多様な角度から最も効果的な形で実現するサービスを提供するシンカー。現在のマーケティング業界では顧客データは集まっているが、それを活用する基盤や技術がないと語る取締役CAOの岩瀬央さん。クライアントとなる企業にとっての顧客個々人が、ウェブサイト上でどのように行動するかのデータなどを収集・蓄積・統合し、AI技術で分析することで、潜在的なニーズを見つけ出す。一部のAI技術関連企業とは異なり、テクノロジーありきではなく「顧客にとって最適化されたサービスを提供する」という、マーケティングに根差したより実利的なサービスを展開している点に強みがある。

 

 岩瀬さんはかつてコンサルティングファームでAIの開発や導入支援に携わっていた。しかし現在は「知名度も低いし、社員が5人しかいないスタートアップです」。HONGO AI 2019で優秀な成績を収めることで、事業拡大につなげたい考えだ。

 

 

株式会社スペースシフト

 

 「宇宙とAIで世界をひもとく」をテーマに、地球観測衛星のデータをAIで解析する事業を展開する。代表取締役の金本成生さんは大学在学時からインターネットサービスの開発などを行っていたが、10年前に起業。事業の根底には、環境問題や持続可能な社会といったテーマが扱われることが多い現代社会において、人間活動そのものの把握が不十分だ、という問題意識があると語る。金本さんが子供のころから好きだった宇宙というフィールドから地球を見下ろす衛星。一番大きい視点から人類を観察するその観測データとAIを組み合わせれば、環境保護や経済活動の最適化が大きく進展しうる。

 

 現在、東大の学生もインターンシップ生として参加するスペースシフト。コンテストを機に衛星データの解析が社会貢献につながることを多くの学生に知ってほしいという。AIによる衛星データの解析は世界でも先進的な事業で多くの注目を集める。他のAIスタートアップとも共同して世界をひもといていく。

 

 

Mantra

 

 東大の卒業生らがマンガのための自動翻訳技術「Mantra」を開発。産学協創推進本部FoundXと東大IPCの支援を受けながら事業化に取り組んでいる。従来のマンガ翻訳の場合、ページから人間の手でテキストを抽出した後に翻訳するという煩雑な手順を踏む必要があり、高コストである。加えて、雑誌掲載→単行本発売→翻訳版発売というプロセスに長い時間を要し、結果として海外ではファンが翻訳する「海賊版」が流通してしまう。開発者はその現状を問題視し、マンガ翻訳にかかる手間やコストを削減するために「Mantra」を開発した。

 

 この技術ではAIが自動でテキストを高速、低コスト、高精度に検出、翻訳することを可能にし、人的コストを70〜80%削減することに成功した。Mantraの代表で生産技術研究所の特任研究員も務める石渡祥之佑さんは「翻訳に時間がかかることから、海外のファンを長い間待たせてしまっている。さらに、1冊の単行本の翻訳にはおよそ20万円もかかっていることから正規に翻訳される作品も多くはない。世界中のマンガ作家とファンを正しくつなぐ、という目標の下に活動している」とし、「すべての作品が即時的かつ低コストで世界中の読者に届く未来を実現します」と語気を強める。

 

 

MI-6株式会社

 

 MIとは「マテリアルズ・インフォマティクス」の略語で、材料開発をデータ科学の知見から行おうとする取り組みのこと。現在の材料開発の現場には勘と経験に依存していて非効率という問題があるが、それをAI技術などを用いることによって効率化することを目指している。MI-6は日本で唯一のMIを専門とするスタートアップであり、実績は世界トップクラス。MIの活用を通じて企業の新たな材料の探索と開発、実用化までを支援する。

 

 代表取締役社長の木嵜基博さんは、半導体産業や家電産業における日本の競争力が失われる中、AI研究で世界をリードする中国などの国々がAI技術を活用した材料開発を積極的に行えば日本の強みである素材産業さえ輸出できる産業ではなくなるとの危機感を抱く。一方で「強みだからこそ、日本でMIの活用が進めばまだまだ高い競争力を維持できる」と力を込める。材料開発におけるMIの活用を当たり前とすることで、日本の材料開発をレベルアップさせることを目指す。

【部員が見る東大軟式野球2019秋⑦】先制許すも慶應大に6-2で逆転勝ち

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軟式野球部秋季リーグ第7戦vs法政大学(9月17日)

 

慶大 0 1 1 0 0 0 0 0 0 | 2

東大 1 1 0 0 2 0 1 1 × | 6

 

初登板し好投、勝利投手となった横山(理Ⅰ・1年)(写真は軟式野球部提供)

 

 6戦5敗と厳しい状況に追い込まれた東大と6連勝の慶應との1戦。東大は初回、二回と得点するが直後に取り返されてしまう嫌な展開となる。流れが変わったのは五回。先頭九番信崎(文・3年)の安打ののち、雨天のための少々の中断をはさんで、一番中谷(医・3年)が適時二塁打を放ち、三たび勝ち越しに成功する。また、その走者を三塁に送ったのち、三番保知(経・3年)にも適時打が出て、東大が試合の流れをつかんだ。投手陣も先発の小川(経・3年)こそ三回5四死球と苦しんだものの、中継ぎの横山(理Ⅰ・1年)、田中(理Ⅰ・2年)、木村(理Ⅱ・1年)の3投手が残りの六回を無失点でつなぎ、打線も七、八回にそれぞれ1点追加して、危なげなく勝利をものにした。

 

勝ち越しのスクイズを決めた静間(育・3年)(写真は軟式野球部提供)

 

 厳しい状況の中、勢いに乗る相手に対し打線がつながり上位大会への進出への望みをつなぐ勝利となった。初登板の横山、田中の2人の投手の活躍も頼もしい。残り3戦、この勢いに乗って、上位大会の切符を目指して勝ち進んでいきたい。 

 

文責:軟式野球部 宮部浩人(理Ⅱ・2年)

【部員が見る東大軟式野球2019秋】

開幕戦、春季覇者の明治大に惜敗

打撃振るわず法政大に完封負け

失策絡み慶應大に2-3で敗れる 開幕3連敗

11回裏ホームラン浴びサヨナラ負け 1勝遠く

早大に勝利し連敗抜け出す

投手陣好投も打撃振るわず法政大にサヨナラ負け


【部員が見る東大軟式野球2019秋⑧】四死球、失策が絡み立教大に完封負け

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軟式野球部秋季リーグ第8戦vs立教大学(9月20日)

 

立大 0 0 1 0 0 0 1 0 3 | 5

東大 0 0 0 0 0 0 0 0 0 | 0

 

 ここまで2勝5敗と、負け越し三つとして迎えた秋季リーグ第8戦の対立教大学戦。勝率5割に向けて大事な1戦となったこの試合、東大は先発として木村(理Ⅱ・1年)を送り出す。木村は前回の立教大学戦でも見事な投球を見せている。

 

 三回表、早くも試合が動く。東大は先頭打者を二塁打で出塁を許すと、犠打、中前安打を許し、1点を先制される苦しい展開となる。すぐに反撃したい東大は、相手先発佐々木の前になかなか得点することができないが、堅実な守りと木村の粘り強い投球で相手に得点を許さない。

 

 しかし七回表、東大は先頭打者から3連打を許し、痛い2点目を奪われる。

 

怪我から復帰後、中継ぎとして好投を続ける田中(理Ⅰ・2年)(写真は軟式野球部提供)

 

 その後九回表には四死球や安打、失策などが重なり、さらに3点の追加点を許してしまう。その後の打者を打ち取り、九回裏の攻撃で反撃をしたい東大であったが、相手投手を攻略することができず、そのまま試合終了となった。

 

 これで通算成績2勝6敗となった東大。前の試合で勝利をおさめ、勢いに乗りたい中で痛い敗戦となった。しかし、今リーグで引退する部員や普段東大を応援し勝利を願ってくれている方々のためにも、このまま終わるわけにはいかない。1戦ずつ勝利を積み重ねていくことで、巻き返しを図っていきたい。

 

この日お越しいただいた応援部の方々との集合写真(写真は軟式野球部提供)

 

文責:軟式野球部 齊藤弘樹(文Ⅲ・2年)

【部員が見る東大軟式野球2019秋】

開幕戦、春季覇者の明治大に惜敗

打撃振るわず法政大に完封負け

失策絡み慶應大に2-3で敗れる 開幕3連敗

11回裏ホームラン浴びサヨナラ負け 1勝遠く

早大に勝利し連敗抜け出す

投手陣好投も打撃振るわず法政大にサヨナラ負け

先制許すも慶應大に6-2で逆転勝ち

あしたから消費増税 東大生協の軽減税率・還元事業への対応は

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 あした(10月1日)から消費税率が8%から10%に引き上げられる。これに伴って始まるのが、飲食料品を主な対象とする軽減税率制度と、中小店舗でキャッシュレス決済を行ったときのポイント還元事業だ。そもそもこれらはどのような取り組みで、私たちの生活にどのような影響があるのか。これらの取り組みに対する東大生協の対応を聞いた。

(取材・衛藤 健)

 

中央食堂での飲食にも、10%の消費税が課されることになる。

 

東大生協での対応状況

 

 東大生協では、消費増税に伴って原則的に「消費増税分をそのまま転嫁するため値上げとなる」(東大生協・矢野正悟さん)。特に、食堂は持ち帰り対応を行っていないため、全ての商品で増税分値上げとなる。

 

 しかし、飲食料品の持ち帰りが可能な購買部では、飲食料品を対象に消費税率を8%にすえおく軽減税率制度に対応する。ただし柏店はカフェを併設しており、そこで飲食する場合には「外食」とみなされて軽減税率は適用されない。また、生協食堂から配達するオードブルや会議などでのコーヒーデリバリーサービスは軽減税率の対象になるという。

 

 東大生協は、キャッシュレス決済を使用した時に決済額の一部が還元される「キャッシュレス・消費者還元事業」の対象店舗だ。今月6日、事業を主導する経済産業省が全国の対象店舗を公開し、そのリストに東大生協の各店舗も掲載されていた。

 

 東大生協は27日、ウェブサイト上で事業への対応状況を公開。それによると、9月以前に交通系ICカード、学食パス、クレジットカードを使用できた店舗のすべてで、原則として還元が受けられる。

 

 ただ、クレジットカードの使用には注意が必要だ。本郷、弥生、駒場の各キャンパスに設置された食堂では還元が受けられないほか、他の生協が設置する店舗でも還元の開始が遅れる見込みだという。つまり、10月1日の消費税率引き上げ時は東大生協の店舗でクレジットカードを使用しても還元の恩恵を受けられない。

 

 また、生協食堂で使用できる「学食パス」も還元事業の対象決済サービスだ。1カ月間に利用した金額の5%が翌月上旬にポイントとして付与される形で還元が行われる。還元されたポイントは、学食パスのマイページ上で確認できるという。

 

軽減税率制度とは

 

 軽減税率制度とは、酒類や外食などを除く飲食料品と週2回以上発行される新聞の定期購読に対し、これまでの消費税率8%が引き続き適用される制度のこと。低所得者の負担軽減として導入が決まった。

 

 この制度の複雑な点は、同じ商品を購入しても消費税率が異なるケースがある点だ。例えばコンビニやファストフードで食品を購入する場合、店内に設置されている座席やイートインスペースで消費すれば「外食」とみなされ税率は10%となる一方、持ち帰れば税率は8%となる。混乱を避けるため、各食品チェーンでは本体価格を調整することで8%適用時と10%適用時の税込み価格を統一する動きも出てきている。

 

 なお、東京大学新聞は週1回発行のため、軽減税率の対象とはならない。

 

軽減税率制度の導入に伴い、同じものに違う税率が適用されることも。

 

キャッシュレス・消費者還元制度とは

 

 経済産業省が主導する「キャッシュレス・消費者還元事業」は、事前に登録された店舗で現金を使わず決済した場合に、その決済額の一定額が還元される制度。中小店舗では5%、大手チェーンのフランチャイズ店では2%が還元される。クレジットカードやSuica、PASMOといった交通系ICカードはもちろん、QRコード決済、nanacoやWAONといった電子マネーでの支払いが対象だ(主な対象サービス)。

 

 対象となる店舗は大手チェーンのフランチャイズ店を含む中小の店舗で、6日に公表された対象店舗リストによると全国で約58万店が登録済み。リストに記載されていないコンビニなど大手チェーンの直営店でも、企業側の負担で2%還元が行われている場合がある。

 

 この制度は増税に伴う消費落ち込みの軽減策として一時的に導入されるもので、10月1日から来年(2020年)6月末まで行われる予定。

 

経産省は、還元の対象となる店舗を検索できる
「ポイント還元対象店舗検索アプリ」を公開している。

 

還元を受けるには?

 

 ポイントの還元方法は、使用する決済サービスによって異なる。

 

 一つ目の方法はポイントや残高による還元。この方法をとるのは、交通系ICカードやQRコード決済といったチャージ式のサービスが多い。決済から数カ月以内にポイント付与や残高付与の形で還元される。

 

 この方式をとる交通系ICカードは、東大生協でも使うことができ、東大生にとって特に身近な決済手段だろう。しかし、自分が持つ交通系ICカードが還元に対応しているか、またポイント還元のために事前登録が必要かどうか、確認が必要だ。JR東海のTOICAやJR北海道のKitacaなど還元に参加しないICカードも存在するほか、SuicaやPASMOといった還元に参加するICカードでも、SuicaのJRE POINTなど事前に登録が必要な場合がある。

 

 二つ目は引き落とし額を減らす方法。この方法をとるのは、クレジットカードに多い。使用額の引き落とし時に還元額相当を割り引いて引き落とす方式だ。

 

 また、使用する決済サービスが還元、引き落とし額の減額のどちらを採用していようと、決済する時に即時値引きを行う方法を行う店舗もある。コンビニ各チェーンではこの方法をとることが決まっている。

 

 使用するサービスによっては月当たりの還元額の上限が定められている場合もあるため、注意が必要だ。各サービスがどのような形で還元を行うかは、経済産業省の特設サイトで確認できる。

サーギル博士と歩く東大キャンパス④ 本郷キャンパス 総合図書館 【前編】

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 我々が日々当たり前のように身を置いている「場」も、そこにあるモノの特性やそれが持つ歴史性などに注目すると、さまざまな意味を持って我々の前に立ち現れてくる。この連載企画では、哲学や歴史学、人類学など幅広い人文学的知見を用いて「場」を解釈する文化地理学者ジェームズ・サーギル特任准教授(教養学部)と共に、毎月東大内のさまざまな「場」について考えていこうと思う。第4回は、本郷キャンパスの総合図書館だ。

(取材・円光門)

 

ジェームズ・サーギル特任准教授(教養学部)14年ロンドン大学大学院博士課程修了。Ph.D.(文化地理学)。ロンドン芸術大学准教授などを経て、17年より現職。

 

歴史とは痕跡の取捨選択

 

 「『歴史』とは痕跡を選択し、提示することであり、これらの痕跡が積み重なって層を成してできるのが『場』なのです」。サーギル特任准教授の言う「歴史」と「場」の関係性は、総合図書館周辺の空間に顕著に表れている。

 

 総合図書館(図1)は、1877年の東京大学の創設と共に旧図書館として建てられた。関東大震災の火災で焼失した後、1928年に再建され、現在に至るまで幾度か改修工事を経験している。86年に図書館前広場の改修を任された工学部の大谷幸夫教授(当時)は、自分が東京帝国大学在学中に戦没した同輩や後輩への追悼の意を込めて、広場の地面に曼荼羅(まんだら)のモザイク画を施した。

 

(図1)2015年から改修工事を行っている総合図書館

 

 だが2015年から始まった地下書庫の建設を伴う改修工事により、曼荼羅のモザイク画は失われることに。他方、工事の過程で旧図書館の土台と加賀藩邸時代の水路石が発見された。土台は噴水周辺のベンチとして加工、再利用され(図2)、水路石については石の表面が切り取られ、広場の同じ位置にはめ込まれた(図3)

 

(図2)ベンチとなった旧図書館の土台
(図3)加賀藩邸時代の水路石

 

 このように総合図書館周辺の空間には複数の異なる時代の痕跡が存在するが、ある層の痕跡は保存され、別の層の痕跡は排除される。一部の痕跡が選択、提示されることが「歴史の語り」を形成するのだ。

 

 江戸時代の水路石、明治時代の旧図書館の土台、そして戦争の記憶である曼荼羅。なぜ前者二つは保存され、後者は排除されたのであろうか。サーギル特任准教授によると、痕跡がその場に根差しているか否かという「正統性」が理由の一つとして論じられ得る。「水路石も旧図書館の土台も、元からその場にありましたが、曼荼羅は後から恣意的に添えられました。従って、曼荼羅は保存にふさわしいほど『正統』ではないと判断されたのかもしれません」

 

 だが、このような「正統性」の議論は短絡的だとサーギル特任准教授は言う。「水路石にしろ土台にしろ曼荼羅にしろ、全てある時点で人の手によって恣意的に作られたものです。古いか新しいかという相対的な違いしかありません」

 

 もう一つの理由として考えられるのは、戦争という極めて政治的なものに関わる記憶を排除することで図書館前広場を非政治的、中立的な場にしようとする意図の存在だ。「近隣住人が犬を散歩させ、家族連れが談笑し、学生が学問や将来について語り合う場であるこの広場が政治色に染まってはいけないと考えられているのかもしれません」とサーギル特任准教授は指摘する。

 

 だが、政治的でない場など存在するのだろうか。あらゆる痕跡は、今は存在しない時間や空間に関わるものであるから、ある種の記憶に他ならない。故に水路石や旧図書館の土台といった過去の痕跡も、言い換えれば記憶である。アイルランドの地理学者カレン・ティルは、記憶の場は「行為」と「政治」の相互作用の中に生まれると主張した。公の場に記憶が保存され得るのは、人々が定期的にその場に来て出来事を想起するという「行為」があるからであり、また特定の権力が、継承するにふさわしく、正確で正当な記憶とはどれかということを規定する「政治」があるからである。そしてこの記憶の規定に際し、さまざまな意志を持つ権力者同士の力関係が作用する。「故に、一見政治とは関係ないように思える水路石や旧図書館の土台も、図書館前広場に置かれることでその場を政治化しているのです」

 

 そもそも、場から政治性を排除しようとすること自体が政治的だ。「本来曼荼羅は戦没者の純粋な追悼を目的として設計されたものです」とサーギル特任准教授は語る。「にもかかわらず、寛容で先進的であるべき大学という場において、帝国や排他主義を喚起する戦争のイメージはふさわしくないと判断された可能性もあります」。そしてこのような判断は政治的な判断に他ならないのだ。

 

後編は約一カ月後に公開予定です。

 


 

【英訳版】

Take a Walk through Todai’s Campuses with Dr. Thurgill #4 General Library, Hongo Campus 【Part 1】

 

【関連記事】

サーギル博士と歩く東大キャンパス① 本郷キャンパス赤門

Take a Walk through Todai’s Campuses with Dr. Thurgill #1 Akamon, Hongo Campus

サーギル博士と歩く東大キャンパス② 本郷キャンパス三四郎池

Take a Walk through Todai’s Campuses with Dr. Thurgill #2 Sanshiro Pond, Hongo Campus

サーギル博士と歩く東大キャンパス③ 駒場Ⅰキャンパス 1号館

Take a Walk through Todai’s Campuses with Dr. Thurgill #3 Building 1, Komaba Campus

Take a Walk through Todai’s Campuses with Dr. Thurgill #4 General Library, Hongo Campus 【Part 1】

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We, without doubt, lay ourselves in “places,” which, if we heed the specialty of things therein or the history therewith, appear to us as having a variety of meanings. In this serial article, we aim to contemplate various “places” found in Todai’s campuses with the cultural geographer Dr. James Thurgill, who interprets “places” by employing a knowledge of the humanities that spans philosophy, history, anthropology, and so on. Our fourth meeting is at the General Library on Hongo Campus.

(Interviewed, Written and Translated by Mon Madomitsu)

 

Dr. James Thurgill graduated from the graduate school of University of London in 2014. Ph. D (Cultural Geography). After serving as an assistant professor at University of the Arts London, from 2017 he is a project associate professor of the University of Tokyo.

 

History as a Curation of Traces

 

              “’History’ is a curation of traces, and ‘place’ can be thought of as sites where these traces pile up.” The relationship between “history” and “trace” which Dr. Thurgill describes is represented prominently in the space around the General Library.

 

              The General Library (Photo 1) was built in 1928 after the original library, which opened in 1877 with the founding of The University of Tokyo, was destroyed by fire in the wake of the Great Kanto Earthquake. Since its opening, the General Library has undergone several periods of repair and renovation. In 1986, Prof. Sachio Otani from the Faculty of Engineering took charge of the renovation of the library square and set mandala mosaics into the ground there to express mourning for his former Todai classmates who had died in the Second World War.

 

The construction of the underground section of the General Library began in 2015

 

              However, due to the construction of the underground section of the library that began in 2015, the mandala mosaics were removed and have never been replaced. Instead, the foundations of the original library along with a collection of stones that once formed a water channel for the Kaga Family were discovered during the renovation process and have taken the place of the commemorative mandala. The former was processed and reused to form benches around the fountain (Photo 2), while the surfaces of the latter were cut off and set into the plaza’s surface, positioned just as they would have been during the Edo Era (Photo 3).

 

The foundations of the original library were shaped into the benches
The water channel for the Kaga Family

 

              As such, within the space around the General Library there exist multiple traces from different ages: but while some traces are conserved, others are removed. Ultimately, the curation of these traces comes to form and represent the “historical narratives” of the place now occupied by the General Library.

 

              The Edo period water channel, the library’s original Meiji Era foundations and the mandala stones that once acted as a material memory of the war: why were the former two conserved but the latter removed? According to Dr. Thurgill, some might hold the notion that the reason for managing this area’s spatio-historical narrative in such a way arises from a sense of “legitimacy”, urging us to question whether or not the trace is historically rooted in the place. “The water channel and the foundation of the original library were originally there, physically in this place, but the mandala were placed there somewhat arbitrarily at a later stage. In this sense, perhaps the mandala stones were not viewed as ‘legitimate’ in the conservation process of the site,” says Dr. Thurgill.

 

              However, Dr. Thurgill points out that such an argument regarding “legitimacy” is short-sighted: “Be it the water channel, the foundation, or the mandala stones, they were all arbitrarily created by human hands at some point. The only difference is that each is either older or newer than the other, relatively speaking.”

 

         Another reason that can be considered in the removal of the mandala stones is that there might be an active attempt to depoliticize and neutralize the library square by removing the memory concerned with the war, which, after all, is an extremely political and contested topic. Dr. Thurgill maintains, “It may be thought that this square, where the neighbors take their dogs for a walk, families have pleasant talks, and students discuss their academic topics, futures, and such, is not an appropriate place for political features to be displayed.”

 

              However, is there such a place that could not be considered political? Every trace is related to a time or space that no longer exists: thus, a trace is nothing but a kind of memory. The water channel and the foundations of the original library are, in other words, material memories. The Irish geographer Karen Till maintains that a memorial place is created within the interplay between “performances” and “politics”. A memory can be preserved in a public space both because there are “performances” in which people regularly go there and remember an event, and because there are “politics” in which a certain authority determines which memory is accurate, legitimate, and appropriate for future conservation. In the determination of memory, there functions a power-balance among authorities with various agendas: “Therefore, even the water channel and the foundation of the original library, which at first glance appear to be unrelated to politics, politicize the library square simply through their being positioned there.”

 

              The act of depoliticizing is itself a political action. “The mandala stones were originally designed purely as a memorial to the war dead,” says Dr. Thurgill. “In spite of this, it might have been judged that the image of war, which is often associated with empire and exclusionism, is not appropriate in the place of the university, a place which is supposed to be inclusive and progressive.” Nevertheless, in the end, such a judgement can be nothing but political.

 

The Part 2 will be released a month later.

 


 

【Japanese Version】

サーギル博士と歩く東大キャンパス④ 本郷キャンパス 総合図書館 【前編】

 

【Serial Article】

サーギル博士と歩く東大キャンパス① 本郷キャンパス赤門

Take a Walk through Todai’s Campuses with Dr. Thurgill #1 Akamon, Hongo Campus

サーギル博士と歩く東大キャンパス② 本郷キャンパス三四郎池

Take a Walk through Todai’s Campuses with Dr. Thurgill #2 Sanshiro Pond, Hongo Campus

サーギル博士と歩く東大キャンパス③ 駒場Ⅰキャンパス 1号館

Take a Walk through Todai’s Campuses with Dr. Thurgill #3 Building 1, Komaba Campus

アメフト リーグ戦第3戦は法政大に惜敗 一時同点の奮闘も見せる

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 アメリカンフットボール部(関東学生1部リーグ上位TOP8)は9月29日、リーグ戦第3戦を法政大学と戦い、21―24で敗北した。東大はTOP8初勝利とはならなかったものの、一時同点に追い付く熱戦を演じ、手応えを感じさせる内容となった。第4戦は10月13日午前11時から、慶應義塾大学日吉キャンパス陸上競技場で立教大学と戦う。

 

東 大|0777|21
法政大|140010|24

 

 ここまでの2戦、いずれも第1クオーター(Q)に先制を許している東大。この日も試合開始早々、先制となるタッチダウン(TD)を許すと、第1Q終了間際にもTDを決められてしまう。追い掛ける東大は第2Q、パスとランを織り交ぜながら前進。クオーターバック(QB)伊藤宏一郎選手(文・4年)のランで7点を返し、食らいつく。

 

第2Q、伊藤宏一郎選手がエンドゾーンにボールを持ち込みTD(撮影・石井達也)

 

 第3Q前半、東大はインターセプトとファンブルリカバーで立て続けに好機を作る。しかし2度のインターセプトを生かせなかった前回の明治大学戦同様、この日もあっさりと攻撃権を手放してしまう。

 

 面白いのは、2度好機を逃した後に「三度目の正直」があるところまで、前回の試合と同じ展開が待っていたことだった。東大はファンブルリカバーを生かせなかった直後、法大の攻撃を1分ほどで退け、50ヤードライン付近で攻撃開始となる。足をつった伊藤宏一郎選手に代わり、パンターも務める伊藤拓選手(育・4年)がQBに。フィールドを広く使ったパスでじわじわと前進し、最後はQB自ら中央をこじ開けようとするも、相手選手も負けじと押し返す。あと一歩届かない、そう思われた直後、伊藤拓選手の周りに他の選手たちが集まり後押しする。一丸となった選手たちはそのままエンドゾーンへ。今季初めて1試合当たり複数回のTDを決め、同点に追い付く。

 

第3Q、チーム一丸となって同点TDをもぎ取る(撮影・石井達也)

 

 喜びもつかの間、第4Q前半には法大にフィールドゴール(FG)とTDを許し、点差を10点とされる。さらに試合時間残り2分半にもFGのピンチを迎える。しかし、ここでボールをはじくことに成功すると、後方に転がったボールをいち早く拾い上げた浜崎颯一郎選手(文・3年)がそのままフィールドを独走。幸運な形で、3点差に詰め寄るTDに成功した。

 

第4Q、ボールを拾い上げた浜崎選手が相手の猛追を振り切る(撮影・石井達也)

 

 最後は相手チームに時間を消費され、逆転はならず。運が東大に味方した部分もあり「3点の点差以上の実力差がある」(森清之ヘッドコーチ)。それでも一戦一戦選手たちの練習の成果は着実に出てきており、TOP8での初勝利も近いと思わせる内容だった。

 

(小田泰成)

【部員が見る東大軟式野球2019秋⑨】初回に攻められ早稲田大に5-2 連敗続く

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軟式野球部秋季リーグ第9戦vs早稲田大学(9月25日)

 

早大 2 1 0 1 0 0 0 0 1 | 5

東大 0 0 0 0 0 0 2 0 0 | 2

 

 相手は2勝5敗と勝ち点で並ぶ早稲田大学。一つでも上の順位を目指すために絶対に負けられないこの試合に、東大は先発のマウンドに初先発となる横山(理Ⅰ・1年)を送り込む。

 

 試合は初回から動いた。2本の安打から一死一、三塁のピンチを迎えると、相手の四番打者に適時二塁打を打たれ2点を先制される。二回にも二死三塁から暴投により1点を取られ、苦しい展開となる。しかし後を受けた今リーグ初登板となる赤羽(理Ⅰ・2年)は、1点を取られたもののテンポの良い投球で相手打線を勢いづかせない。

 

リーグ戦初登板を果たし、好投を見せた赤羽(理Ⅰ・2年)(写真は軟式野球部提供)

 

 六回まで相手のエースを打ちあぐねていた東大は、七回裏に先頭の吉川(工・3年)が四球で出塁すると、ここで相手投手が交代し、二つの四球などで二死満塁の好機を作ると、一番中谷(医・3年)の押し出し死球と相手投手の暴投で2点を返す。また八回裏に二死一塁から中久保(文Ⅰ・1年)の二塁打で一塁走者が本塁を狙うも、惜しくもアウトとなってしまう。

 

 東大は、九回表に安打、失策、死球で二死満塁のピンチを迎えると痛い押し出し四球を与えてしまう。九回裏に代打攻勢に出るも、牽制死などで3人に終わり、東大は2対5で敗戦を喫した。

 

文責:軟式野球部 鈴木陽也(理Ⅱ・2年)

【部員が見る東大軟式野球2019秋】

開幕戦、春季覇者の明治大に惜敗

打撃振るわず法政大に完封負け

失策絡み慶應大に2-3で敗れる 開幕3連敗

11回裏ホームラン浴びサヨナラ負け 1勝遠く

早大に勝利し連敗抜け出す

投手陣好投も打撃振るわず法政大にサヨナラ負け

先制許すも慶應大に6-2で逆転勝ち

四死球、失策が絡み立教大に完封負け

【写真特集】重力波望遠鏡KAGRA本格稼働へ 世界水準の観測精度に期待

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 宇宙線研究所などが完成を目指していた大型低温重力波望遠鏡KAGRA(岐阜県飛騨市)が9月30日、報道陣に公開された。KAGRAは、超新星爆発など大きな天体現象が起きた際に発生する重力波の観測施設。今年6月に機器の設置が完了し、本格的な観測に向けて調整作業が進められていた。今回、今月4日に予定されている完成記念式典に合わせて内部が公開された。年内の本格観測の開始を目指す。

(取材・渡邊大祐 撮影・衛藤健)

 

大型低温重力波望遠鏡KAGRAの坑道。ダクトの中をレーザー光線が走り、3km先の鏡へと続く
坑外にある観測拠点。リアルタイムでKAGRAからデータが送られていた

 

 観測では、レーザー光線が直交する二つの坑道中を直進。端点にある鏡で反射し、坑道を往復する。戻ってきた二つのレーザーの到達時間の差を利用して重力波を捉える。重力波による空間のゆがみは「太陽と地球の間で水素原子1個分が揺らぐ程度」(大橋正健教授、宇宙線研究所)ほど微小なため、高精度な観測には外部からの振動による影響を取り除くことが必要とされる。KAGRAでは、神岡鉱山の地表から200m以上の深さにある地下トンネルに施設を設置し地面振動による影響を軽減。サファイア製の鏡を氷点下253度まで冷却することで、熱による物体の微小な振動の影響も取り除いた。

 

レーザー光源や光検出器など中心的な機器を備える中央実験室

 

 重力波の観測では2015年に重力波を世界で初めて直接観測し、重力波の存在を確認したLIGO(米国)とVirgo(イタリア)が先行する。KAGRAは、地下への建設と低温に冷却した鏡という新手法によってLIGOと同等以上の観測精度を目指す。また重力波の国際観測網に参加することで、重力波が発生した方向などが従来以上に正確に分かるようになるという。

 

中央実験室付近から見た坑口。入り口からKAGRA本体まで約500mに及ぶトンネルはKAGRAが地下にあることを実感させる

 

 重力波観測研究施設長を務める大橋教授は「予算化から10年近くがたち、ようやく完成した姿を見せられること、また国際観測網に参加できることにほっとしている」と語った。KAGRAでは宇宙線研究所の大学院生も、観測開始に向けた研究に参加している。修士2年の大柿航さん(宇宙線研)は「重力波天文学の日本での幕開けに立ちあえそうで幸せだ」と話した。

 

重力波観測研究施設長の大橋正健教授(左)とKAGRAに関係する研究を行う修士2年の大柿航さん

 

【写真特集】

重力波望遠鏡KAGRA本格稼働へ

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癒やしの空間にようこそ 温泉の魅力に迫る

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 日本は3千余りの温泉地を持つ世界屈指の温泉大国だ。しかし時間や距離の問題で、実際に温泉に赴くことがそれほど頻繁でない人も多いだろう。今回は、多種多様な発信活動を通し温泉好きの輪を広げる活動を行う東大温泉サークルOKRの代表の高舘直稀さん(法・3年)と、上山和輝さん(工・3年)に温泉の魅力や楽しみ方を聞いた。

(取材・田中美帆)

 

東大温泉サークルOKR代表高舘直稀さん(左)、上山和輝さん

 

五感で気軽に楽しむ

 

 「OKRでは温泉を楽しむため、五感を重んじ体験を鮮明にすることを大切にしています」。例えば、風や湯の音に耳を澄ましたり、肌に触れたお湯の感触を確かめたりする。湯の色や透明度も目で楽しむ要素だ。とはいえ温泉の楽しみ方は十人十色。高舘さんはその温泉を過去に訪れた偉人の資料を見て、過去に思いをはせるという。また、泉質にこだわる上山さんは「鉄成分が多く鉄サビの匂いが強い温泉や、CO2が多くシュワシュワな温泉(炭酸泉)が好きですね」。飲用スペースや湯口に準備されたコップで源泉を飲める温泉を好む人もいる。他にも昔ながらの建築を見たり、風呂上がりに縁側で風を感じたりするなど、自分なりの楽しみ方を発見するのが良いという。

 

 温泉地というと敷居が高く感じる人もいるかもしれないが、身近なところにも温泉はある。都内の銭湯の中には温泉水を使ったところがあるという。東大からアクセスが良い温泉銭湯を2人に紹介してもらった。

 

六龍鉱泉

 根津駅徒歩5分と本郷キャンパスから抜群のアクセス。古風な建物も魅力の一つだ。都内有数の熱湯で、墨汁より少し透明度が高い黒色の湯が名物。銭湯内の壁のタイルには、美しい自然を背景に錦帯橋が描かれている。「ワンコインで入浴可能なため、1人暮らしの東大生に薦めたいです」

 

男湯(写真は六龍鉱泉提供)

 

高井戸天然温泉 美しの湯

 高井戸駅徒歩2分と駒場キャンパスから行きやすい。特徴的なのは琥珀(こはく)色の湯。湯の成分に塩が多いため湯冷めしにくい長所がある。炭酸泉(週替わり)もあり健康に良いだけでなく、水風呂やサウナ(2種類)、地下のリラクゼーションスペースなど、設備が整っている点も魅力だ。

 

女性露天風呂(写真は高井戸天然温泉 美しの湯提供)

 

 どちらも大学が終わった後、帰宅の前に気軽に寄れる。「カフェやカラオケのノリで、友人と気楽に遊ぶ場としても楽しんでみてください」

 

 気軽に行ける都内の銭湯だけでなく、全国津々浦々の温泉も訪れて魅力をもっと知ってほしいと口をそろえる2人。大きな湯船で安らげることや、美肌効果などの温泉ごとに異なる効能を得られることにとどまらず、温泉には日常から離れ心理的に解放される効果も期待できる。「温泉がある宿も、ない宿と宿泊費は大きく変わりませんし、もっと気軽に温泉に行ってほしいということに尽きます」

 

湯治で安くのんびり

 

 OKRが温泉の楽しみ方の一つとして挙げるのが湯治。湯治とは、長期間温泉に滞在し療養することを指し、元々は上流階級の人々が行っていた。江戸時代になると、閑散期の農民や漁民も家財一式を宿に持ち込んで、自炊をしつつ長期間滞在したという。「当時の姿を完全に再現することは不可能ですが、長期間の滞在や宿泊者が自炊を行うといった点で現在も湯治のエッセンスを受け継ぐ旅館があります」

 

 湯治を味わえるOKRお薦めの温泉は二つ。近接しているため一緒に楽しむ人も多いという。

 

大沢温泉(岩手県)

 豊沢川沿いの景観が美しく広い露天風呂「大沢の湯」が名物。古くから湯治場として親しまれ、昔ながらの建物からはおもむきが感じられる。「食事時に共同炊事スペースで和気あいあいと自炊を楽しめました」

 

混浴露天風呂「大沢の湯」(写真は大沢温泉提供)

 

鉛温泉(岩手県)

 同じく自炊を満喫できる。源泉を沸かしたり薄めたりしていない掛け流しの自然のままの温泉が売り。深さ約1・25mの立って入る温泉「白猿の湯」が有名。全身に湯圧がかかることで健康効果があるという。

 

「白猿の湯」(写真は鉛温泉 藤三旅館提供)

 

 

 湯治の魅力は、宿泊者が自炊をしたり布団敷きを自分で行ったりするため、通常の温泉旅行に比べて宿泊費が安価になっていること。お金に余裕のない学生時代に特にお薦めできる。また、2泊以上の連泊が普通なため、1泊2日の忙しない旅に比べて中日もあってゆったりとした時間を過ごせる。「楽しい予定を詰め込み最後はくたくたになりがちな旅行ですが、湯治でのんびり過ごすことで、疲れや病気を癒やす観点から温泉を満喫できます」

 

OKR厳選 泉質と景観が魅力の温泉

 

 温泉に行こうとしても数ある候補の中から選ぶのは至難の技。そこでOKRお薦めの温泉2選を紹介する。

 

韮崎旭温泉(山梨県)

 

 少し足を延ばした日帰り温泉として、山梨県の韮崎旭温泉がある。営業時間は午前10時から午後8時で、料金は大人600円。炭酸泉の中でも泡がしっかりとしていて「発泡入浴剤を30個入れたくらいの刺激を楽しめますね」。泡を保つため通常低温のことが多い炭酸泉の中でも、比較的高温であることも特徴。源泉を入浴中に飲むことも持ち帰ることもできるのも魅力だ。

 

大浴場(写真は韮崎旭温泉提供)

 

乳頭温泉郷(秋田県)

 

 景観の美しさでは秋田県の乳頭温泉郷が有名だという。東京駅からは新幹線で2時間50分。七つの温泉宿があり、入湯料金は600円前後で宿泊費は8千円台後半〜約2万円。宿自体が一つの町のようになっている。「広い露天風呂からは美しい景色を満喫できます。冬の雪景色は格別です」。いずれかの宿の宿泊者は、「湯めぐり帖(1800円)」を購入し泉質の異なる七つの温泉を巡ることもできる。

 

七つの宿のうちの一つ、休暇村乳頭温泉郷の露天風呂「田沢湖高原の湯」(写真は休暇村乳頭温泉郷提供)

この記事は2019年9月24日号に掲載された記事の拡大版です。本紙では他にもオリジナルの記事を公開しています。

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企画:癒やしの空間にようこそ 温泉の魅力に迫る
世界というキャンパスで 分部麻里③
研究室散歩@高分子ゲル 吉田亮教授(工学系研究科)
サークルペロリ UTSummer
キャンパスガイ 星合佑亮さん(文Ⅱ・2年)

※新聞の購読については、こちらのページへどうぞ。

Campus Guy 星合 佑亮(ほしあい ゆうすけ)さん(文Ⅱ・2年)

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人を巻き込むチカラ

 

 1年次は「とりあえず行動」をモットーに企業などのイベントに多数参加。2年次前期は徹底した自己分析を。現在は地元三重県出身者をつなぐ学外団体「みえフェス」の代表を務めつつ、東京五輪を視野に、現在開催中のラグビーワールドカップで外国人と積極的に関わる。「自分の『人を巻き込むチカラ』が外国の人相手にも通用するのか試してみたくて」

 

 行動力の源は「自分にしかできないことをしたい」という情熱。高校時代のバスケ部では、他の部員が技術を磨く中、初心者の自分にこそ出来ることを考えた。進路に関しても、より範囲の広い「経済」に目を向ける。

 

 「地元伊勢の温かさを守りたいという思いが常にあります」。地元で受けた恩、人との縁。全ての人を愛する心を大切に、自分にしか生むことが出来ない価値を生み出したい。そう語る瞳は野心に燃えていた。

 

取材・撮影【丼】

注目の若手が続々 現在進行形の落語に迫る 簡素な形態に詰まる妙技

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 新たな落語ブームの到来が叫ばれている。東大卒落語家の春風亭昇吉が話題になっていたが、新しく東大卒落語家が生まれるなど、落語に注目する東大関係者も増えつつある。そこで、東大を卒業して音楽雑誌の編集長を務める傍ら、落語評論家としても活躍する広瀬和生さんと東大落語研究会のメンバーに、落語の魅力や楽しみ方を聞いた。

(取材・中井健太)

 

演者選びにはご用心

 

広瀬 和生さん(落語評論家、音楽雑誌編集長)

 

 1世代前の落語ブームは、05年、ドラマ『タイガー&ドラゴン』(TBS系)をきっかけとして起きた。現在落語評論家として活動する広瀬さんは、当時「落語評論家が落語を見ていない」「本当に面白い落語の情報を伝える、落語ジャーナリズムが存在していない」と感じていたという。当時の落語評論家らは、破天荒な振る舞いで有名だった立川談志が創設した立川流をタブー視。「一流の落語を演じていた」にもかかわらず、評論として取り上げなかった。

 

 落語に興味を持った人が「どこに行って何を聞くか」のガイドを欲していると感じた広瀬さんは『この落語家を聴け! いま、観ておきたい噺家51人』(アスペクト)を著した。「当時も、寄席の存在を紹介して『とにかく寄席に行け』という雑誌特集やムックはありました。ただ、本屋に行けば本がある、映画館に行けば映画をやっている、ということを紹介するだけのものを評論とは呼びません」。落語ファンとして現代の落語、落語家を追い続けていた広瀬さんの著書は落語関係の書籍として異例の売り上げを見せ、落語ブームの追い風となった。

 

 落語の聞き方には2種類ある。一つは毎日落語を催す寄席で聞く方法で、もう一つは事前にチケットを買い決まった演者が出演するホール落語で聞く方法だ。広瀬さんが落語初心者に薦めるのはホール落語。「主催者が演者を選ぶホール落語は、寄席と違ってクオリティーがある程度担保されています。寄席にふらっと入って楽しめるのは相当なマニアといえますね」

 

 固定されたテキストがない落語。演者によって演じられ方が全然違うため、誰を聞くかが重要になる。今、特にお薦めなのは春風亭一之輔、桃月庵白酒、三遊亭兼好、柳家三三の4人だという。「この人たちが出ているホール落語のチケットを取れば間違いありません」。初心者に一番理想的な入門は立川志の輔。「独演会も1席目で分かりやすい新作、2席目で分かりやすい古典の大作をやるなど、初心者に優しい構成が多いです」

 

 落語の魅力はそのシンプルな形態にあると話す広瀬さん。「使うものは扇子と手ぬぐいだけ。最低限の道具でシンプルにやるからこそ、観客の想像力で世界が広がる、何でもできるのが最大の魅力ですね」。着物を着て座布団の上に座り、上半身だけで表現する制約があるからこそ、観客の想像が広がる。

 

 ストーリーの中にある矛盾、無理を感じさせないのも落語家の腕だ。文七元結という話の中で、主人公が娘を売って得た50両という大金を、自殺しようとしている人にあげてしまう場面がある。「普通はそんな大事なお金を見ず知らずの人に渡しません。そこで、悩んだら渡せないと考え、思い切って渡す演出にする落語家、悩む過程を見せることで感情移入させる落語家など、さまざまな工夫をして噺を聞かせます」

 

 落語を聞きに行く際、気を付けるべきことは「特にない」という。昔は着物で行くべきかなどを聞かれることが多かったというが「今は落語を聞きに行くのにルールがないことは知れ渡っています」。しかし「とにかく誰かを聞きに行けばいい」というのは間違いだとのこと。同じネタでも演者によって雲泥の差があり、それこそが落語の良さだという。「落語を見てつまらなかったら、落語がつまらないんじゃなくて、その落語家が面白くなかったんだと思ってください」

 

 娯楽を楽しむのにこんなことをするのも面倒かもしれませんが、と前置きして広瀬さんは語る。「一度聞いた落語がつまらなかったからといって落語に見切りをつけず、根気よくいろんな演者の落語を聞いてください。1回はまってしまえば、落語のユニークさ、エンターテインメントとしての底の深さから抜け出せなくなりますよ」

 

 

番組から入るのも手

 

今道さん(左)と伊東さん

 

 東大落語研究会の伊東広香里(東京外国語大学・2年)さんは、落語の魅力は「準備の必要のなさ」にあると語る。手ぬぐい、扇子は必要だが、それがなくても自分の身一つで成立させられるのは大きな魅力だという。今道周作さん(農・3年)は「自分1人のしゃべりで、客を30分間笑わせられ続ける、独占できる」のは他のお笑いにはない魅力だという。

 

 伊東さんお薦めの落語家1人目は春風亭百栄。「マッシュルームカットの中年男性です。不思議な雰囲気があって、はまると抜け出せなくなりますね」。2人目は桂春蝶。「落語を好きになるきっかけとしては邪道かもしれませんがとても声がいい落語家です」

 

 今道さんは落語家よりも、落語のネタから入るタイプ。「落語のばかばかしさが好きですね。好きなネタを見つけて、いろんな落語家の演出の違いを聞き比べても面白いです」

 

 初めて落語に触れるのはテレビやラジオなどの落語番組でもいいのではないかという今道さん。「最初はそういう形の方がとっつきやすいかもしれません。もし生で見たくなったら、落研の寄席に来てもらえれば(笑)」


この記事は2019年9月17日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を公開しています。

ニュース:東大の非常勤講師 上 世界最高水準の教育にふさわしい制度 非常勤講師の「働き方改革」
ニュース:ラクロス男子成蹊大戦 リード許さず快勝 次戦引き分け以上で決勝T
ニュース:理学系研究科 天文学修士課程入試で出題ミス
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ニュース:データ処理効率化 産学官連携でAIチップ開発
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企画:診断・治療は慎重に 発達障害の実態に迫る
企画:注目の若手が続々 現在進行形の落語に迫る 簡素な形態に詰まる妙技
東大新聞オンラインPICKUP:芸術編
研究室散歩:@海上貿易史 島田竜登准教授(人文社会系研究科)
火ようミュージアム:恐竜博2019 The Dinosaur Expo 2019
キャンパスガール:髙橋明李さん(PEAK・2年)

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診断・治療は慎重に 発達障害の実態に迫る

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 「東大には発達障害の学生が多い」という話をたまに耳にする。近年、発達障害はメディアで取り上げられることも多く、自分が発達障害ではないかと悩む人も増えている。その増加の要因や発達障害で悩む人への適切な教育やサポートについて東大教員に話を聞き、実際に発達障害と診断され悩みを抱えている学生にも話を聞いた。

(取材・本多史)

 

変人らしく堂々と

 

中邑 賢龍(なかむら けんりゅう)教授(先端科学技術研究センター)84年広島大学大学院博士課程後期単位修得退学。香川大学助教授などを経て、08年より現職。

 

 

 

 「発達障害は誰もが有する認知や性格特性の偏りが環境とマッチせず不適応を引き起こした状態だと考えます。発達障害で悩む人の多くは、読み書きやコミュニケーションで困っているだけです」。そう切り出したのは、中邑賢龍教授(先端科学技術研究センター)。中邑教授は、発達障害で悩む人の増加原因として、産業構造の変化を挙げる。かつての日本では農業や工業が中心となっており、それほどコミュニケーションが必要とされなかった。しかし、サービス業のような第3次産業が中心となったことで、読み書きやコミュニケーションが必要となる職業が増えた。結果、仕事に悩む人が増え、その救済のための枠組みとして発達障害が注目されるようになったと分析する。

 

 一方で、そのような枠組みにとらわれ過ぎてしまい、子供を発達障害と診断して治療することには慎重になるべきだという。学校では「あいさつが出来て明るい子」が、企業では「コミュニケーション力のある学生」が求められる。そのため、あいさつや会話が苦手な子は、規範の押し付けによって苦しむことになる。「今の学校では集団に入らず1人でいることが暗いとされ否定される。周囲の人間はその子の特性を尊重してあげるべきです。特性を否定せず、目も合わせてはっきりした声であいさつできない人でも認められる世の中になるとすてきだと思います」と中邑教授は話す。

 

 治療の過程でストレスを抱えて苦しむ人も多い。発達障害という枠組みによって福祉面でのサポートは充実したが、発達障害を理由に物事への挑戦をためらってしまうというデメリットもある。発達障害で苦しむ人が社会で活躍するには、その人の得意なことを生かしたり好きなことができたりするような、仕事の多様化が求められるだろう。

 

 中邑教授は入試制度にも改善の余地があると話す。例えば、ほとんどの大学入試で英語は必須科目だが、そのことで他の科目に突出して秀でている学生に不要な負担をかけている可能性があると指摘する。日本の学校教育は平均的な学力を付けることを目標としており、得意科目を伸ばすのではなく、苦手科目をなくすことが指導の方針になっている。結果として、一部の分野に突出した能力や好奇心を持つ生徒は他のことに時間を割かれ、自分の好きなことを追求する機会が失われてしまう。この背景には、何でも型にはめてしまう効率主義があると考えられる。標準化をすることで管理がしやすくなり、反発も減らすことができるからだ。

 

 発達障害で悩む人にとって最大の懸念事項の一つが就職だ。中邑教授は、自分の好きなことで起業したり、好きなことを副業でやることを勧める。生活のためのベーシックインカムとして企業で働きながら、副業で好きなことを追求するなど、柔軟な働き方が考えられる。また、コミュニケーションが苦手な人は、無理に集団行動しなくても良いと考える。「集団が苦手なのに、ストレスを抱えてまで、集団で結束しようとする必要はないです。ハブとなる人間が個人とつながっていれば十分ではないでしょうか」

 

 中邑教授は、長時間働けない人のために、「超短時間雇用」という取り組みを行っている。一か所でずっと働くのが苦手であれば、短時間で複数の箇所で働けば良いという考えだ。

 

 中邑教授は、ユニークな子供たちが自分らしさを発揮できる環境をつくるため、「異才発掘プロジェクトROCKET」の運営もしている。ROCKETでは、ユニークさ故に学校になじめない子が多く、その中には発達障害と診断された子もいるという。同プロジェクトに、キノコマニアの子供が参加した。彼はキノコに夢中だが、理解してくれる子供は周りにいないため、学校で友達ができない。しかし、彼がとってきたトリュフなどをシェフたちに見せると、高値で買うという。子供たちは学校という狭い世界の中に閉じこもっているから、ユニークな子供は理解者を得ることが難しい。だが、価値が認められる場所を用意することで、人一倍の輝きを放つ可能性を秘めている。必要とされているのは、輝ける場所を見つけて用意してあげられるプロデューサーだ。自分と合わない場所にいるとストレスがかかり二次障害に発展する場合もあるので、周囲の助けを借りながら自分に合った場所を見つけるのが大事だ。

 

 中邑教授は、発達障害で悩む東大生にも同じようなアドバイスをする。「周りの言うことを気にし過ぎず、自分の得意なことを見つけて、同じことをやっている仲間の所に行きなさい。自分に合った環境を見つけて、変人は変人らしく堂々と生きましょう」

 

当事者の声

 

コミュニケーション・サポートルームの相談室。東大生の発達障害に関わる悩みの相談にも応じている(写真はコミュニケーション・サポートルームより提供)

 

山中優里さん(仮名)(理・3年)

 

 今年ADHDと診断された山中さんに話を聞いた。

 

━━ADHDを診断された経緯は

 

 1年の秋ごろに他のメンタル系の悩みで保健センターの精神科を受診したところ、ADHDの傾向がありその2次障害ではという話になりました。ただ、2次障害の方が重くその治療に専念したため、ADHDについては後回しになりました。3年になって、ADHDの先輩に勧められコミュニケーションサポートルームに行きました。予約もその先輩がとってくれたのですが、自分では何が問題なのか分からず、何でも相談室や学生相談所にも相談しました。

 

━━診断されたときはどう思いましたか

 

 「もっと早く知りたかった」という思いが強かったです。出来ればメンタルがしんどくなる前に知りたかったです。努力して東大に入ったのに、授業に集中することができず、成績も思うように取れなくて悩みました。その時ADHDと分かっていれば、適切なサポートを受けてメンタルの負担を減らせたかもしれません。

 

━━ADHDに関連していそうな悩みはありますか

 

 一番困っているのは、大学の授業と実験ですね。授業はとにかく集中して聞けないです。実験では器具を割ってしまったり、試薬をこぼしたりすることが多いです。他にも、頻繁に物をなくしたり、物事を後回しにしがちです。

 

━━自分なりの対策はありますか

 

 最近ではなくしものを減らすために、必要なものを一つの袋にまとめて、袋ごとかばんに入れるようにしています。他にも、洗い物を後回しにしてため込んでしまうので、使い捨ての皿や箸を使うようにしています。

 

━━大学の支援体制はどうですか

 

 おおむね満足ですが、実験の際にミスを減らすために机を広くしてほしいという要望を伝えても通らなかったので、少し融通が利かないと思います。コミュニケーションサポートルームは非常に混んでいるのですが、理学部支援室は同じような支援をしてくれて空いているので、利用しやすかったです。


この記事は2019年9月17日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナル記事を公開しています。

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【研究室散歩】@海上貿易史 島田竜登准教授 史料と向き合う喜び胸に研究

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島田 竜登准教授(人文社会系研究科)01年ライデン大学大学院上級修士課程修了。Ph.D.(文学)。西南学院大学准教授などを経て12年より現職。

 

楽しむ気持ちエネルギーに

 

 16~20世紀前半のアジアの海上貿易史を専門とする島田竜登准教授(人文社会系研究科)。オランダ東インド会社の史料を用いて、アジアの貿易商人について研究している。最近は、歴史学の方法論としてのグローバル・ヒストリーにも注目。グローバル・ヒストリーを扱う『世界史論』は前期教養課程の人気授業の一つだ。

 

 学生時代は早稲田大学政治経済学部で江戸時代の海外貿易を研究。休業期間には「研究対象とする場所に実際に行った方がいい」と思い、九州各地をたびたび訪れた。その中で長崎の人々はおっとりとしていると感じるなど、次第に長崎の風土が分かるようになった。大学図書館の書庫に入るのが好きで「休業期間に、書庫で洋書や変わった本を探すことに夢中でした」と笑う。宝探しのような気分だったそう。本を夢中で読み込む研究姿勢の源流がうかがえる。

 

 修士課程修了後は近世東洋史で有名なオランダのライデン大学に留学。国立公文書館にあるオランダ東インド会社の史料を直接閲覧できる環境は、島田准教授にとって魅力的だった。留学時期はオランダ東インド会社設立400周年に当たり、そのプロジェクトのため留学していた多くのアジア人と交流。「今母国の大学で教えている彼らとのつながりは、私にとって大きな存在です」

 

 当初は日本経済史を研究対象としていたものの、次第に輸出品の行き先、輸出先の事情などに興味が広がり、東南アジアやインドの魅力に取りつかれていった島田准教授。日本と似ているようで違う世界を魅力的に感じるようになったという。アジア貿易に関するオランダ語の史料は手付かずのものも多く、研究の可能性がある分野だと思ったそうだ。

 

マレーシアのムラカの漢人街

 

 多くの史料を読むうちに何かつながりが見えたときや、面白いことが言える発見をしたときに研究の喜びを感じるという。一方で、分かったことを人に伝えるために、論理を組み立てながらの執筆作業が大変だそう。特に、5年間の留学中に英語で執筆した博士論文で苦労した。「でも自分の成果が人に伝わるとやりがいがありますね」。今後はグローバル・ヒストリー的視点からオランダ東インド会社を捉えた、これまでの研究成果についての本を書きたいという。学術書だけでなく、一般向けの本も執筆する予定だ。

 

 現在島田准教授の研究室には10人前後の学部生と数人の院生が所属しており、それぞれの興味に沿って研究をしている。最近は院生だけでなく学部生の留学が増えたそうだ。留学中の院生にはインターネットを通じた論文執筆指導もしている。研究者を目指す学生は3分の1ほど。着任8年目の島田准教授は自分の研究室に所属していた学生と、共同研究をするのが夢だそう。残りは官公庁や民間企業に就職する。就職先は幅広く、過去には法科大学院に進学し、弁護士になった人もいたという。

 

インドのコチ

 

 歴史研究を志す学生には「面白い、楽しいという気持ち」が研究を続けていくために必要だと伝える。長い時間を要する研究でも、努力しただけの成果は返ってくる、とエールを送る。「10年も研究すればたいていその分野の世界一になれます」。思ってもいなかったようなことを発見することもあるため、研究過程で生じる副産物を見逃さないことが大事だという。文学部を志望しない学生に対しても「あらゆる学問において、現在の社会は歴史が積み重なってできているものであり、歴史は未来を創り出すものであるという視点を常に持っておいてほしい」と語った。

(上田怜)


この記事は2019年9月17日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を公開しています。

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