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硬式野球 立大に連敗 打線は四回以降無安打

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 硬式野球部(東京六大学野球)は10月15日、立教大学と2回戦を戦い、0-6で敗れ連敗となり、今季最下位が確定した。東大は先発の坂口友洋投手(文・4年)が立大打線に初回から捕まり4失点。打線は相手投手陣を打ち崩せず、四回以降は無安打だった。東大は10月26日からの第2試合で、法政大学との1回戦に臨む。

 

東大|000000000|0

立大|40001100X|6

勝:手塚(立大) 負:坂口(東大)

 

三回、笠原健吾選手(文・3年)は2死三塁の好機で見逃し三振に倒れる(撮影・中野快紀)

 

 東大先発の坂口投手は初回、先頭打者にいきなり左翼越え本塁打を打たれ先制点を与える。試合後浜田一志監督が「調子自体は悪くなかったが、立大打線に研究され落ちる球に軽く合わされていた」と振り返った通り、坂口投手はその後も立大打線を止められない。2本の安打に失策も絡んで無死二三塁とすると、相手4番打者に右前へはじき返され2点を失う。さらに右翼手が打球を後逸する間に三塁まで進塁されると、続く打者の犠飛でこの回4失点目。坂口投手は後続打者を抑えるが、二回以降小林大雅投手(経・4年)にマウンドを譲る。

 

坂口投手は初回に4失点し降板(撮影・中野快紀)

 

 連投となった小林投手だが、二回以降走者を背負いながらも好投。しかし打線は1回戦同様早いカウントから打って凡退する場面が目立ち、立大投手陣を打ち崩せない。二回には1死から久しぶりのスタメン出場となった武隈光希選手(文・3年)が中前打で出塁するが、後続打者は相手先発の変化球にタイミングを外され2者連続の空振り三振。三回は先頭の新堀千隼選手(農・3年)が思い切り引っ張って左翼線に二塁打を放ち、次打者の小林投手が送って1死三塁とするが、またしても後続打者が2者連続で三振に倒れ、無得点に終わる。

 

 四回以降の打線は立大投手陣から1本も安打を放てず、六回までに相手先発から11個の三振を奪われる。投手が代わった七回以降も好機をつくれず、結局完封負けで試合終了。打線は1回戦と合わせて18回で1得点と貧打にあえぎ、2回以降二つの犠飛による2失点に抑えた小林投手の力投に応えられなかった。

 

7回2失点と好投した小林投手(撮影・中井健太)

 

◇浜田監督の話

 

──打線は四回以降無安打

 東大の打者は直球と変化球1種類であれば追い込まれてもある程度対応できるが、相手先発は140キロ台中盤の直球に加えて130キロ台のフォーク、120キロ台のチェンジアップの2種類の球速差がある落ちる球を組み合わせて投球していたため、うまくタイミングを外されてしまった。

 

──最終節となる法大戦に向けての意気込みを

 とにかく(4年間未勝利のまま最終節を迎えるエースの)小林(大雅投手)、小林ですよ。

 

 

(湯澤周平)


【東大新聞オンラインPICK UP】 〜スポーツ編〜 飽きの来ないスポーツの秋を

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 残暑もようやく終わり、秋の過ごしやすい気候が訪れるようになった今日この頃。世間ではラグビーワールドカップなどでスポーツへの関心が高まっている。そこで今回は、過去に東大新聞オンラインで公開された記事の中から、スポーツに関連したお薦めのものをいくつか紹介する。興味のある記事はぜひ記事の本文を読んでみてほしい。

 

 まずは、一風変わった「ラグビー」の魅力について。フィールド上ではなく、砂浜の上で行われるビーチラグビーというスポーツを知っているだろうか。記事「スピーディで戦略的。ビーチラグビーというスポーツで、僕らが全国優勝を目指すわけ」では、ユニークで熱気あふれるビーチラグビーに本気で挑む東大生チームの活動に迫る。ラグビーとは呼ばれるものの、ルールは異なる。例えば、タックルの代わりにタッチで相手を止めたり、5人対5人で対戦したりする。ラグビーのような激しいタックルはないが、炎天下の砂浜を縦横無尽に駆け回り、他のスポーツとは違う熱気を帯びている。

 

 もうすぐ今年最後の大相撲である十一月場所が始まるなど、相撲も見逃せない。東大で本格的に相撲に取り組む部活を取り上げるのが、記事「サークルペロリ 東京大学運動会相撲部」。部員は9人と少ないものの、5月に開催された全国国公立大学対抗相撲大会の団体戦で3位に入るなどの実績を持つ部活だ。駒場キャンパスに設置された土俵付きの練習場で、週3回汗を流す。部員の話を中心に、基本動作から実戦形式の練習までの地道な鍛錬を支えるモチベーションとは何かに迫る。

 

 「部員目線」で試合を解説した記事も注目だ。連載寄稿「部員が見る東大軟式野球2019」(リンクを押すと連載第1回の記事に移動します)では、東大の軟式野球部員に秋季リーグの模様を伝えてもらった。春季リーグ終了に伴う4年生の引退と1年生の加入を経て、新チームで挑んだ本リーグ戦。春季優勝の明治大や早稲田大などの強豪校と熾烈(しれつ)な競争を繰り広げた。部員だからこそ分かる苦悩や努力も交えつつ、深く試合を掘り下げる。

 

 パラスポーツへの理解も重要だ。記事「東大運動部の幹部が合宿所に集結 ブラインドサッカー体験から得られる学びとは?」では、ブラインドサッカーを通してスポーツのコミュニケーションを考える。参加者は目隠しをした状態で、難しい動作を段階的に行う。まずは声だけで伝えられた動作を実践。次に名字や身長順などで一列に整列し、最後にブラインドサッカーへと移った。視覚に頼れない分、声だけで意思や動作のイメージを伝える大切さ。ブラインドサッカーは、全てのスポーツに通じるコミュニケーションの重要性を教えてくれる。

 

 「東大新聞オンラインPICK UP」は東大新聞オンラインに掲載された過去の記事から、特定のテーマに沿ったお薦めの記事を紹介するコーナーです。

 

【東大新聞オンラインPICK UP】

【東大新聞オンラインPICK UP】~芸術編~ 芸術を味わう新たな視点を

【東大新聞オンラインPICK UP】〜研究編〜 興味の数だけ広がる世界

【東大新聞オンラインPICK UP】〜留学編〜 心機一転のチャレンジを

【東大新聞オンラインPICK UP】〜恋愛編〜 バレンタインデーに備えて

 

アメフト リーグ戦第4戦は立教大に一時リードも惜敗 再三好機を逃す

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 アメリカンフットボール部(関東学生1部リーグ上位TOP8)は10月20日、リーグ戦第4戦を立教大学と早稲田大学東伏見グラウンドで戦い、14-21で敗北した。東大は前半に一時リードするも、直後に逆転されてからは、再三好機を逃し追い付けなかった。なお、本試合は当初10月13日午前11時から、慶應義塾大学日吉キャンパス陸上競技場で行われる予定だったが、台風第19号の影響で試合日程が変更となっていた。第5戦は11月10日午前10時45分から、中央大学と横浜スタジアムで戦う。

 

東 大|0833|14
立教大|3873|21

 

第2Q、QBの伊藤選手自ら一時逆転となるTDを決める(撮影・小田泰成)

 

 第1クオーター(Q)、東大は相手に約9分間にわたって攻め込まれ、タッチダウン(TD)まで残り5ヤードの地点で3rd downを迎える。相手クオーターバック(QB)のランに対応できずTDを許したかと思われたが、反則により3rd down 15(残り2回の攻撃で15ヤード進まないと攻撃権を更新できない状態)に。相手選手のランを見極めタックルし、4th downでのフィールドゴール(FG)の3点でしのぐ。

 

 東大は直後、敵陣40ヤードの好位置から攻撃開始。伊理直人選手(育・3年)の巧みなステップのランなどで順調に前進すると、最後はQBの伊藤宏一郎選手(文・4年)自ら飛び込みTDをもぎ取る。東大はTOP8昇格後初めて相手をリードする展開に。TD後に1回のみ与えられる攻撃権(トライフォーポイント)では、堅実に1点を取ろうとしたFGのボールを弾かれるも、うまく回収して相手選手ごとエンドゾーンに押し込み、2点を獲得する。

 

 第2Q終盤にはミスなくパスを通す相手に対応しきれず、あっさり逆転を許す。後半のキックオフリターンでは、フィールド左側でボールをキャッチした相手選手に次々とタックルをかわされ、そのまま手薄な右側に逃げられてTDを決められてしまう。

 

 食らい付きたい東大は第3Q序盤に攻めあぐね、陣地回復のためにパントを選択。相手選手がボールを確保し損ねると、児玉直也選手(理Ⅰ・2年)がボールを拾い上げて1st down 9の好機につなげる。TDも十分狙える距離だったが、後が続かない。左奥を狙ったパスは大きく後方に外れ、中央へのパスはタイミングこそ合うもレシーバーが相手のタックルに遭い失敗。1ヤードも進めず、FGでの3点追加にとどまる。

 

 第4Q序盤、東大は永幡洸裕選手(工・4年)へのロングパスで一気に35ヤード進み、敵陣15ヤード地点へ。しかし再びゴールライン手前で足踏みしてしまい、第3Qと同様FGに終わる。

 

 直後の相手の攻撃では、QBサックでこぼしたボールを側島眞太郎選手(理Ⅰ・2年)が拾い上げ、右端を駆け抜ける。東大は敵陣9ヤード地点で攻撃開始。今度こそTDで同点もしくは逆転といきたかったが、負の連鎖を断ち切れない。3rd down 2ではQB自ら中央をこじ開け、ゴールラインを越えるも、ボールをこぼしていたとの判定でTDは認められず、そのまま相手に攻撃権が移る。東大は以降も攻撃に精彩を欠き、最後の攻撃ではパスを相手にインターセプトを決められるなど、後味の悪い終戦となってしまった。

 

第4Q、QBの伊藤選手のランは惜しくもTDとはならなかった(撮影・小田泰成)

 

◇森清之ヘッドコーチの話

 前半はディフェンスが、勝利を意識して手堅くプレーしようとして、思い切りの良さを失ってしまった。後半は逆にオフェンスの歯車がかみ合わなかった。ベンチワークも、もう少しうまくできる部分はあったと思う。

 

◇関剛夢主将(工・4年)の話

 勝機はあったが、食らい付くことと、勝ち切ることとの差を埋められていないと感じた。

 

 

 慶應義塾大学アメリカンフットボール部は10月15日、公式ホームページで無期限の活動自粛を発表した。複数の部員による著しく不適切な行為が認められたためだという。

 これを受けて関東学生アメリカンフットボール連盟は16日、試合日程の一部変更を発表した。変更後の東大の試合日程は以下の通り。

 

・10月26日に予定されていた慶大戦は、慶大の棄権により中止。東大は不戦勝扱いで勝ち点3を獲得
・11月10日午前10時45分から 中央大学戦 横浜スタジアムで
・11月24日午前10時45分から 日本体育大学戦 横浜スタジアムで

 

 18日には、連盟が慶大を今季最下位扱いするとともに、1部リーグ下位BIG8へ自動降格させると決定した。東大は今季6位以上になれば無条件で来季TOP8残留が決まり、7位でも、BIG8で2位のチームとの入れ替え戦に勝利すれば残留となる。

 

(小田泰成)

国民の関心維持が課題 裁判員制度開始から10年

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 2009年に始まった裁判員制度は今年で10年を迎えた。司法に対する国民の理解を深め、信頼性を向上させるという当初の目的は達成されたのか。10年間の運用を経た今、裁判員制度が果たしてきた役割と浮かび上がってきた課題、そして今後の展望について刑事訴訟法が専門の成瀬剛准教授(法学政治学研究科)と裁判員経験者に向き合ってきた弁護士の大城聡さん(裁判ネット代表理事)に話を聞いた。

(取材・中村潤)

 

 

理解と信頼を深める

 

 司法に対する国民の信頼を深めることがどうして重要なのか。成瀬剛准教授(法学政治学研究科)は「選挙を経て選ばれたわけではない司法は国民の信頼が権威の源泉」と指摘。今年5月に最高裁判所が公表した報告書によると、一般国民を対象にした刑事裁判の印象についての点数評価(5点満点)では「身近である」「手続や内容がわかりやすい」が裁判員制度が始まる前と比べておよそ1.5点増えた。成瀬准教授は「国民の理解と信頼を深めるという裁判員制度の当初の目的はほぼ達成されている」と語る。もう一つの成果が、大量の書証を調べて細かな事実認定を行う「精密司法・調書裁判」から、審理対象を絞り人証中心の証拠調べを行う「核心司法・公判中心主義」への移行が実現しつつあることだという。「刑事裁判は現行の刑事訴訟法が本来予定していた姿に戻ってきました」

 

 さらに潜在的な成果として法曹三者の連携と研究者の参画が進んだことを挙げる。裁判員裁判終了後は法曹三者による反省会・勉強会が開かれるようになった。法曹以外の国民の裁判への参画という共通目標を前に、より良い刑事司法を実現すべく協力関係が構築されつつある。

 

 裁判員制度の運用を経て量刑の幅にも広がりが見られる。同情の余地のない殺人や強制性交といった凶悪犯罪で量刑が重くなりがちな一方、介護疲れを原因とする殺人事件などでは量刑が軽くなる傾向にある。執行猶予判決には、保護司の指導を通じて社会復帰を促す保護観察処分が付されることが多くなっている。こうした量刑の幅の広がりについて成瀬准教授は「裁判員が犯罪の悪質性や被告人の更生について考慮した結果だ」と指摘。「国民の多様な視点や健全な感覚が裁判に反映され、司法への理解と信頼が深まる」と肯定的に捉える。ただし裁判の公平性維持のため、具体的・説得的な理由があって初めて量刑傾向の緩やかな変更が認められるという。

 

 被告人の命を奪うという点で他の刑罰と質が大きく異なる死刑判決を下す場合は、従来の量刑傾向を十分に踏まえた判断が求められ、一審の裁判員裁判に認められる裁量は小さい。そのため一審の判断を是認できない理由を説得的に説明できるのなら、裁判員裁判の結果が裁判官のみで構成される控訴審で覆ることは十分考えられるという。

 

 メディアの報道では、一審の裁判員裁判で下された死刑判決が控訴審で覆されることの当否が大きく取り上げられる場合がある。これに対し成瀬准教授は「裁判員裁判の判決が尊重されていないのでは、という誤解が広がる恐れがある」と懸念を示す。裁判員裁判の判決が控訴審で破棄される割合は過去7年間で10.9%となっており、裁判員制度が始まる前の17.6%と比べて低下。裁判員裁判の判決を尊重する流れは、確かに生まれているといえる。

 

 一部の裁判員裁判の事件がメディアで大きく取り上げられる一方、裁判員制度自体が取り上げられる機会は減っている。成瀬准教授は「裁判員制度への国民の関心は低下している」と指摘し「国民の関心をどう維持するかが課題」と話す。最高裁判所の報告書によると、裁判員経験者の95%以上が「非常によい経験だった」「よい経験だった」と回答。そのため裁判員経験者の声を国民の間で広く共有することが裁判員制度への国民の理解を深める上で大切だという。今後も裁判員制度の運用が長く続くことを踏まえ、法曹三者が学校で出張講義を行い、将来の裁判員制度を担う子どもたちに法教育を実施することも重要になる。

 

 裁判員裁判で実現しつつある核心司法・公判中心主義を非裁判員裁判でどのように実現するのかも課題だ。「非裁判員裁判は数が圧倒的に多く扱う事件も多様。法曹三者の負担を勘案しながら実現方法を考えていく必要があるでしょう」

 

社会全体での運用を

 

 裁判員制度について情報発信や提言を行ってきた一般社団法人「裁判員ネット」の代表理事である弁護士の大城聡さん。現行の裁判員制度の課題を裁判員への負担や経験の共有といった観点から分析する。裁判員裁判では殺人などの重大な事件が対象となり、死刑判決が下されることも。大城さんは「死刑判決に関わる裁判員の心理的負担は当然重い」としつつも「死刑といった極めて重大な刑罰こそ市民が参加してチェックすべき」と述べる。

 

 裁判で提示される証拠も裁判員の心理的負担となり得る。大城さんは「証拠を見慣れた法律家は裁判員と感覚が違うので、法律家の感覚で裁判員への心理的負担を判断するのは難しい」と指摘。その上で「証拠に基づいて事実の有無を確認する事実認定の段階では、必要な証拠はしっかり出すべきだ」と強調する。一方で量刑を決める段階では刺激の強い証拠によって量刑判断が重い方向へ傾いてしまうことを防ぐために証拠提示には細心の注意を払うべきだという。

 

 裁判員の経験を広く市民で共有することは大切だ。その中で守秘義務が課題となると大城さんは指摘する。守秘義務は、裁判員が評議で自由に発言できるようにするため必要だが、守秘義務の範囲が広いために、裁判員を務めた人が自らの経験を伝えにくいことが問題だという。大城さんは、守秘義務の規定を見直し、評議の経過や、発言者を特定しない形での意見、評議の多数決の数は守秘義務の対象から外し、裁判員経験を話しやすくすべきだと提案する。

 

 もう一つの課題として挙げるのが、自分が裁判員候補者になったことを公にすることを禁止する規定だ。現在でも家族や友人、職場の上司に伝えることは認められているものの「別のお客さんが聞いているかもしれない飲食店などで話すのは大丈夫なのか、などの線引きがあいまいだ」と語る。こうした規定が萎縮効果を生み裁判員制度を市民から遠ざけているのではないかとの懸念も示す。

 

本人の同意があれば、裁判員候補者になったことをSNSを通じて不特定多数の人に発信することも可能になる

 

 大城さんは「事件関係者からの不当な働き掛けから裁判員候補者を保護するためには、担当するかもしれない事件について裁判所から呼出状が届いたことを公表禁止にすれば十分だ」と述べる。その上で「裁判員候補者」に選ばれたことを自分で公表できるようにすべきだと提案。「実現すれば裁判員候補者に通知が届く毎年11月には裁判員制度に関する関心がネット上などで高まるのでは」として期待を寄せる。社会全体で裁判員制度を運用するために模索は続いている。


この記事は2019年10月15日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を公開しています。

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量子もつれ「2次元クラスター状態」を初生成 量子コンピューター大規模化へ

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 アサバナント・ワリットさん(工学系・博士2年)、古澤明教授(工学系研究科)らは、量子コンピューターによるあらゆる量子計算に使用可能な量子もつれ「2次元クラスター状態」を世界で初めて生成した。成果は18日付の米科学誌『サイエンス』(電子版)に掲載された。

 

 さまざまな分野での応用が期待される量子コンピューターは、世界各国で開発が進められている。しかし、従来の開発方式では量子コンピューターの情報の最小単位である量子ビットが増えるほど配線が複雑になる。このことが量子コンピューターの大規模化に向けた課題になっていた。

 

 今回の研究では、従来の方式とは異なる一方向量子計算方式に着目。多数の量子ビットから構成された量子もつれ状態を用意し、各量子ビットを測定することで量子計算を行う方式だ。十分な数の量子ビットと複数の数の入力が可能な量子もつれの構造(2次元クラスター状態)を用意できれば、大規模で汎用的な量子計算が可能になる。

 

 ワリットさんらは、量子もつれの新しい生成方法により2次元クラスター状態を世界で初めて生成。さらに、生成された量子もつれの状態を効率的に計算する手法を理論的に考案した。結果、作製した2次元クラスター状態を用いて5入力・5000計算ステップの任意の量子計算が実現可能であることを示した。

 

 今後は、クラスター状態を実際の量子計算に用いるための技術を開発して原理実証を行うとともに、クラスター状態の質や入力数・ステップ数の向上を目指す。量子コンピューターの実現が加速することが期待される。


この記事は2019年10月22日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を公開しています。

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学生向けスペース「知るカフェ」駒場にも誕生

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知るカフェ東京大学(駒場)前店の外観(写真はエンリッション提供)

 

 学部生・院生向けスペース、知るカフェの東京大学(駒場)前店が7日、オープンした。営業時間は平日の午前11時〜午後8時半で、座席数は36席。

 

 知るカフェは主に大学周辺に出店しており、本郷キャンパス周辺には東京大学(本郷)前店とInternational東京大学前店(留学生専用店)がある。各店舗では電源とWi-Fiを完備。普段は学生向けに無料のドリンクなどを提供しながら、企業が主催する就活関連のイベントなどを随時開催する。運営母体は大学生に早くから就職について考える機会を提供する企業、エンリッションが担う。

 

 知るカフェと同様の形態を取る就活支援型の学生向けスペースは、本郷キャンパス周辺で近年増加傾向にあったが、駒場キャンパス周辺での出店は異例。駒場キャンパスには、主に就活が本格化する前段階に当たる学部1、2年生が通っているため、経済団体連合会(経団連)のルール撤廃による就活早期化との関連が注目される。


この記事は2019年10月22日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を公開しています。

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悩んだらまず相談に 東大生の悩みに向き合う現場に迫る

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 進学選択や就職活動、大学院入試が一段落し、新学期や新たな環境での生活が始まったこの季節。自分の選択が正しかったのか、将来はどうするか悩む学生も多いはず。また新たな環境での疲れで精神的に元気を失ってしまうことも。そんな時、人に相談するのも一つの手だ。学生からの相談に応じる東大の組織と、保健センターで東大生を診察する医師に話を聞き、東大生の悩みに向き合う現場を追った。

(取材・渡邊大祐)

 

東大内の相談施設利用の流れ(図は相談支援研究開発センター提供)

 

学生も相互扶助を

 

柳田 則幸(やなぎだ のりゆき)さん(相談支援研究開発センター)

 

 まず訪れたのは本郷キャンパスの「なんでも相談コーナー」。その名の通り、どんな相談にも応じている。「道案内してくれ、なんてものもありますよ」と笑いながら教えてくれたのは室長の柳田則幸さん。相談員は、学部の教務課窓口などで学生と関わった経験のあるベテランの大学職員だ。職員間のネットワークを持っているのも心強い。相談内容はメンタルや学務に関するものに加え、他の相談機関への取り次ぎも多いという。学生相談所や精神保健支援室に個人では行きづらいと思う学生がいるためだ。予約無しで気軽に立ち寄れるため、居場所や話し相手として利用する学生も。「2、 3月に修論や博論の愚痴を聞いてくれという相談はよくあります。話し終えた学生は『すっきりした』って言ってますね(笑)」。学生以外に家族や教職員からの相談も受け付ける。「孤立することが一番良くないので、相談相手がいない時にでも気軽に利用してください」

 

高野 明(たかの あきら)准教授(相談支援研究開発センター)

 

 「カウンセリングに行くことは恥ずかしいことだという偏見をなくし、誰でも利用するものとポジティブな見方にしてほしい」。学生相談所長の高野明准教授(相談支援研究開発センター)は話す。「学生相談所」はカウンセリングの専門家である臨床心理士が学生の心理的な悩みを聞き、対処を共に考える場だ。寄せられる相談は相談者の性格や将来のキャリア、アイデンティティーについてなど大学生が一般に悩む内容が多いという。「学生生活の中で、解決のレパートリーが足りずに行き詰まることがあります。そんな時にうまく人の力を借りることも必要です」

 

 高野准教授がカウンセリングのイメージ改善を志向する要因の一つは、1割未満という利用率だ。相談にたどり着けた一部の学生が長期的に利用する傾向があるが、米国では利用率が15%に達する大学もあるほど受け入れられており、東大生はカウンセリングへの偏見を持っているのではないかと心配する。「何かあったら気楽に使えると思ってほしい」

 

 利用率を上げるなど相談の間口を広げる方向での対策には限界もある。自殺者をはじめとする支援を要する人が、相談機関を利用しようとしない問題があるためだ。そこで、個別相談に加え専門家などが現場に出向いて支援するアウトリーチ型の活動も進める必要がある。相談支援研究開発センターでは、学生向けにストレスへの対処力を学ぶ講義を教育学部と開講し、教職員向けの研修も行う。

 

 高野准教授が室長を兼務するピアサポートルームでもアウトリーチ型の活動を行っている。東大のピアサポートは、悩みを抱える学生を、同じ立場である学生が支え相互扶助を目指す活動。東大生なら研修を受ければ支える側のサポーターになることができる。本年度は唾液からストレス度を計測するイベントを開いたり、ぴあサポラウンジという学生が気軽に立ち寄り話せる場を設けたりしているという。高野准教授は相互扶助という考え方自体にも理解を求める。「身の回りでおせっかいを焼く、学生同士で支え合う関係づくりをぜひ広めてほしいと思います」

 

受診への偏見無くせ

 

渡邉 慶一郎(わたなべ けいいちろう)准教授(相談支援研究開発センター)

 

 「東大生は真面目で、考え抜いてから来る人が多くて、簡単な助言では解決しないんですよね」。そう語るのは精神保健支援室長を務める渡邉慶一郎准教授(相談支援研究開発センター)。精神保健支援室(保健センター精神科)で精神科医として診療に当たる。

 

 保健センター精神科受診者の約3分の1はうつ病などの気分障害と診断されるという。うつ病については、何をしても気分が晴れない状態が2週間以上毎日続く「抑うつ気分」に注目する。

 

 大学生に多い要因として挙げたのは学業と進路だ。学業関連では授業についていけないという悩み、進学条件を満たすために興味がない授業を履修しなければならないという悩み、グループワークが苦手といった悩みがあるという。「東大は学問を特に尊重する大学です。学生も学問に真摯に向き合うので、学業で行き詰まると特に苦しいはずです」。進路関連では就職など、自分が何に打ち込むのかという主体性を要求されて苦しむ場合が多いという。「主体性といっても、例えば僕が主体的に生きているかと言われると悩んでしまいますし、簡単な問題ではありません」

 

 問題となる悩みは誰もが抱える悩みの延長であることも多いという。「そのような場合はどうして悩んでいるのか、話を聞いて一緒に考えを深めます」。学生相談所などの臨床心理士と協力する場合もある。治療は症状が軽度の場合は認知行動療法が中心で、重度の場合は薬物療法を用いることもあるが、ケースバイケースだ。

 

 診療と並んで渡邉准教授は予防啓発を重要視する。すぐに実践できるものとして挙げたのは運動。毎日1時間、軽く汗ばむ程度にウオーキングなどの運動をすると良いという。「予防だけでなく治療にも効果があり、薬物療法に匹敵するとした研究もあります」

 

 学生には「気軽に受診して」と伝える。「治療の対象になるかどうか僕ら医師でも悩むこともあります。ネットで自分がうつ病なのかどうかゴリゴリ調べているより、気軽に来てほしい」。自分は悩んでいないという人にも精神疾患への偏見をなくすように訴える。「東大生が将来組織のリーダーや責任者になった際、率いる組織には必ず精神疾患を抱えた人がいるはず」と渡邉准教授。「自分が精神科に行くのは嫌だけど、同僚や部下には行けよといった態度にはならないでほしいですね」

 東大の学生や教職員が相談できる組織の詳細は次のウェブサイトから確認できます。相談支援研究開発センター(http://dcs.adm.u-tokyo.ac.jp/)


この記事は2019年10月15日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を公開しています。

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世界というキャンパスで:分部麻里(文・4年)④
100行で名著:『もの食う人びと』辺見庸著
東大CINEMA:『ジョーカー』
キャンパスガガイ:能森恵佑さん(文Ⅰ・1年)

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細胞のインフルエンザウイルスへの防御機構解明 ワクチンの改良など期待

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 森山美優さん(医科学研究所博士課程=当時)らは細胞がインフルエンザウイルスの増殖を抑える仕組みを解明した。ワクチンの改良や発症の過程の理解が期待される。成果は11日付の英科学誌『ネイチャー・コミュニケーションズ』(電子版)に掲載された。

 

 DNAウイルスが細胞に感染すると、細胞内のDNAセンサーは、ウイルスが増えにくい環境をつくる機構、インターフェロン応答を誘導する。インフルエンザウイルスやEMCV(脳心筋炎ウイルス)を含む一部のRNAウイルスが細胞に感染した場合も、ミトコンドリアDNAが細胞内に放出されてDNAセンサーが機能する。しかしRNAウイルスがミトコンドリアDNAを放出させる仕組みは不明だった。

 

 森山さんらは、インフルエンザウイルスが細胞に侵入するときに必要なM2タンパク質や、EMCVの2Bタンパク質がミトコンドリアDNAの放出を引き起こすことを発見。DNAセンサーはミトコンドリアDNAを認識した後、DNAセンサーのアダプターに当たる「STING」を介してインターフェロン応答を誘導・増幅することも明らかになった。インフルエンザウイルスのNS1タンパク質がミトコンドリアDNAと相互作用し、細胞内のDNAセンサーからミトコンドリアDNAが検出されることを逃れていることも分かった。


この記事は2019年10月22日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を公開しています。

ニュース:変わる高校入試 中学で教育さらに高度化 中高一貫校の高校募集停止の背景
ニュース:リーグ最下位確定 硬式野球立大戦 打線振るわず連敗
ニュース:細胞のインフルへの防御機構解明
ニュース:量子コンピューター大規模化 実現へ加速
ニュース:台風19号 駒場・本郷ともに閉鎖措置
ニュース:AI技術でSNSのハッシュタグを改善
ニュース:極薄炭素層の準結晶 高速で巨大電場生成
ニュース:遠赤色光が光合成促進
ニュース:学生向けスペース「知るカフェ」駒場にも
企画:WHO,ROBOT ロボットと人の役割分担明確に 「ロボット工学三原則」に迫る
企画:音を立てるのは日本文化? 麺の食べ方巡る対立
東大新聞オンラインPICK UP:スポーツ編
東大教員と考える日本の問題:「日本社会と外国人」石田賢示准教授(社会科学研究所)
地域の顔 本郷編:わだつみのこえ記念館
キャンパスガール:戸倉佳音さん(理Ⅱ・1年)

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遠赤色光が植物の光合成の効率を上昇

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(図)強光下では、光の一部は熱として散逸され、光化学系Ⅱの活性を抑える。弱光下、ほとんどの吸収した光エネルギーは光合成に利用される(河野特任助教ら発表の資料より転載)

 

 河野優特任助教(理学系研究科)らは16日、単独では植物の光合成を駆動しない「遠赤色光」が光合成の効率を上昇させることを明らかにしたと発表した。光合成能力の高い作物の創出による、将来的な食料不足解決が期待される。

 

 光合成では光化学系Ⅰ、Ⅱが機能し、強光下では光化学系Ⅱにある、光エネルギーを熱として散逸する機構が、光の過剰吸収で光合成装置が壊れるのを防ぐ(図)。光合成に利用される光の範囲は400〜700ナノメートル(1ナノメートルは100万分の1メートル)の波長域に限られ、光合成有効放射と呼ばれる。

 

 700〜800ナノメートルの波長域「遠赤色光」は光化学系Ⅰに作用するが、光合成による酸素発生や二酸化炭素固定を駆動しないためか、光合成との関連は研究されてこなかった。従来、光合成測定の多くは遠赤色光を含まない光合成有効放射で、光強度が一定の環境で行われており、野外植物の環境を再現できていないという問題もあった。

 

 河野特任助教らは、遠赤色光を含み、光強度が変動する環境下で、シロイヌナズナの葉の二酸化炭素交換速度、光化学系Ⅱの活性と光化学系Ⅱの熱散逸機構の活性を算出。吸収した光エネルギーの光合成への利用と熱散逸を素早く切り替えることで遠赤色光が光合成効率を上げていることが判明した。その効果は強光から弱光に変わる際に顕著であることも分かった。


この記事は2019年10月22日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を公開しています。

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AI技術でより閲覧数を上げるハッシュタグを推薦

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SNSに投稿してから10日間の平均閲覧数推移(累積)。一般的なAI技術でタグを生成した場合が一番下の線で、今回の新手法を用いた場合が一番上の線(汪特任研究員ら発表の資料より転載)

 

 汪雪婷特任研究員(情報理工学系研究科)らはサイバー・バズ社と共同で、SNS上で画像や映像の閲覧数などの人気を高めるハッシュタグ推薦技術、UFP-Rankを開発した。実証実験では通常の2.8倍の閲覧数を獲得。成果は21日から開催される国際計算機学会(ACM)の国際会議などで発表予定。

 

 SNSでは閲覧数やコメント数などが人気の指標とされ、SNSを用いた宣伝の際に重要となる。ユーザーはテキスト検索でコンテンツを探す場合が多く、コンテンツに適切なタグを付けることが閲覧数の上昇に欠かせない。しかし、従来のタグランキングや推薦システムは客観的に正しいタグを付けることに注力しており、閲覧数の向上を主眼に置いたものはなかった。

 

 汪特任研究員らは2017年にコンテンツの人気度とタグの関連性を考慮して人気度を向上させるタグ推薦技術、FP-Rankを開発していた。今回はタグとコンテンツの人気度の関係や、タグとユーザーの人気度の関係をグラフなどで表現。使用するタグ数と使用頻度、タグ同士の関連性を考慮して、各タグの人気度への影響を数値化・ランキング化した。画像や映像などのコンテンツ内容に関連度が高く、人気のあるユーザーをまねしたタグを推薦できるようになる。

 

 実証実験ではSNSから取得した約6万枚の画像を学習させ、推薦されたタグを付与してSNSに投稿。投稿後10日目に、一般的なAI技術でタグを付与した投稿に比べて2.8倍、FP-Rankでタグを付与した投稿に比べて1.2倍の閲覧数を獲得した。


この記事は2019年10月22日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を公開しています。

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Y-biz富松希さんインタビュー 東大OGの「地方で働く」という選択

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 「何でも相談に乗ってくれる」「とても優秀で素敵な人」と町中で話題の東大OGが、山形市にいる。中小企業の経営相談を行う山形市の機関「Y-biz」で、公募により164人の中から選ばれてセンター長として働く富松希さんだ。

 

 東大大学院修了後、首都圏や海外での生活を経て山形で働くという選択をした富松さん。地方で働くということについて、同じく地方への就職を決めた記者が話を聞いた

(取材・撮影 石沢成美)

 

富松 希(とみまつ・のぞみ)さん
(山形市売上増進支援センターY-biz センター長)
 00年総合文化研究科修士課程修了。日立製作所やコンサルティングファームでの勤務、カナダ留学などを経験。18年10月、年収1200万円などの条件を付けた公募によりY-bizセンター長に選ばれる。広島県生まれ。

 

━━現在の仕事内容について教えてください。

 

 山形市の個人事業主・中小企業経営者の方の「売り上げをアップさせる」というチャレンジに対して「知恵とアイデア」で支援するという仕事をしています。事業者さんの相談は1回1時間、無料で何度でも利用できるようになっています。

 

 知恵とアイデアで支援するというのは、「f-Bizモデル(※)」に基づくものです。大企業には人材や資源がたくさんありますが、中小企業には十分あるとは限りません。そんな中で、相談に来られた企業が今持っているものから強みを見つけ、それをいかに売り上げにつなげていくかという観点でアドバイスをしています。

 

※編注:「f-Bizモデル」:2008年に開設した静岡県富士市にある富士市産業支援センター「f-Biz(エフビズ)」から始まり全国の自治体に広がっている、中小企業支援の取り組みのこと。

 

━━仕事の面白いところは?

 

 相談業務で事業者さんの強みを引き出すということは、まだ多くの人には知られていない事業者さんの魅力に気付けるということ。それがとても面白いです。

 

 Y-bizにお越しになった当初は「どうしていいかわからない」と悩んでいた事業者さんが、何度も相談を続ける中で笑顔が増える様子をそばで見させていただけるというのもやりがいですね。「前に進むためのプロジェクト」を応援する仕事だから、楽しいんです。

 

━━逆に大変なことはありますか?

 

 体力と集中力、かなあ。私が受ける相談は1日で4〜8件くらい。1時間ごとに違う事業者さんの話を聞くので、それぞれにしっかり向き合って話を聞くには相応の体力と集中力が求められますね。

 

 だから休みの日はできるだけ体を休めるようにしています。休日に羽目を外すとたぶん、平日にしんどくなってしまうので……(笑)。

 

 

 

学生時代に身に付けた「思考のパターン」

 

━━大学院ではどんな研究を?

 

 認知科学や組織知の分野の研究をしていました。

 

 修士論文で扱ったのは、これまで教育心理学の分野で「人-人」の関係で成り立つといわれていたことが、「人-ロボット」の関係でも成立するかということ。例えば、テストの成績について「あなたたちは優秀だ」などポジティブな言葉を掛けるグループと、「全然だめだ」とネガティブな言葉を掛けるグループではその後の成績の推移が異なるとされていたけれど、ロボットからのフィードバックでも同じ結果になるのか、といった内容です。

 

 面白かったのは、ロボットからの反応を受けた人は気持ち自体にはほとんど変化がない一方、結果としてはネガティブな反応よりポジティブな反応を受けた方がパフォーマンスに上がっていたこと。自覚はなくても意識の深層に響いているものがあるのだと分かり、人に対して前向きな声掛けをすることは大事なんだと感じました。

 

 大学院での2年間は本当に楽しかった。後輩や先輩と、研究や日常のことをああでもないこうでもないと1日中話したり、修論や試験の時期にみんなで夜中まで大学に残って頑張ったり、ということが強く印象に残っていますね。

 

━━学生時代の学びで、今に生きていることは何ですか?

 

 システム的な考え方を学んだことです。システムというのは、例えばハチが花粉を運んで植物に実がなったり、その植物や実が動物の餌になったり、さまざまなものがそれぞれの役割をもってお互いに影響を及ぼし合いながら機能しているもの。だからひとつの役割、ひとつの担い手だけに注目していては駄目だということです。私は広域システム科学系という専攻だったので、物事をそのような相互作用の中で捉えること、その影響先や事象同士の関係性を考えるという思考パターンを学生時代にしっかり訓練されました。

 

 この考え方は、どんな仕事をする上でもとても大事なものだと思います。例えばマーケティングなら、広告を打ち、それを人が見て、どういう反応するかという流れを必ず考えなきゃいけない。自分の見えない受け取り手がいるということを意識し、常に視野を広げて物事の仕組みを考えていくということにつながります。

 

 

チャンスを逃さない進路選択

 

━━大学院修了後、大手メーカーに就職されました。どんな軸で就活していましたか。

 

 研究生活が本当に楽しかったから、新卒の時点では大学院でやっていた研究を続けられるところに行きたかったんです。結果的にいいご縁をいただき、一生そこで研究者として働きたいくらいの気持ちでいました。

 

━━今は転職を前提に就活する学生も少なくありませんが、そうではなかったのですね。転職するきっかけは?

 

 結果的にいろいろ転職する人生になっているけれど、そんなつもりはなかった(笑)。

 

 最初のきっかけは、新卒で5年ほど働いたころ。研究を続ける中で、私は事業やビジネスというものについてほとんど知らないということに気付きました。そんな自分に会社の役に立つ研究ができるのだろうかともやもや考えていた時、先輩の1人から「コンサルティングファームを立ち上げるから手伝ってほしい」というお誘いがあって。立ち上げたばかりで安定性もなく何が起こるか分かりませんでしたが、経営者が何を考えて何に悩んでどう判断しているのかをそばで見る経験ができるなら、このチャンスを生かすしかないと思い転職したんです。

 

 そこで海外案件の支援なども行いながら英語力を伸ばしたいと思っていたころ、夫が仕事でカナダに行くことが決まりました。私だけ日本で仕事を続けるという選択肢もあったけれど、せっかくの機会なので仕事を辞めてカナダのバンクーバーに行き、語学留学とビジネススクールでのマーケティングの勉強をしました。

 

カナダ在住時の富松さんご夫妻

 

━━毎回リスクの大きな道を選んでいる気がしますが、その決断の理由は?

 

 面白そうな方を選んでしまうんだと思います。新卒から一生同じところにも勤められるはずだったけれど、それよりも、いろんなチャレンジがあり新しいことをできそうな道を迷わず選択してきましたね。

 

 あとは、両親の影響かな。母親が「人に迷惑さえかけなければ何でもいい」とよく言っていて、子ども心に「肝が据わっているなあ」と思っていました。ベンチャーに移りたいと話した時も、両親は「あなたがやりたいなら、自分の食いぶちさえ稼ぐ覚悟があるならいいんじゃない」と。そんな家で育ったので、基本的に「なんとかなるだろう」と思って生きています。

 

 

地方にこそある「多様性」

 

━━その後日本に戻り、2018年に山形でY-bizセンター長に。

 

 バンクーバーから横浜に戻りましたが、その頃は働くなら必ずしも都心でなくていい、という思いがありました。バンクーバーは、トロントやアメリカの大都市と比べると決して大きい街ではなく、自然に囲まれた地方都市。でもそこに暮らす人が自分の地域に誇りを持ち、生き生きとしていて、とても魅力的な場所だったんです。日本でもそんな魅力的な地方都市が増えればいいな、そんな街を応援できる仕事をしてみたいという気持ちを持っていました。

 

 当時夫が転勤していた山形に遊びに来る中で良い街だと実感し、山形での仕事を探し始めました。そこで友人に紹介されたのがY-bizセンター長の公募。任期は1年更新だし、親戚も友人もいない山形での暮らしに不安がなかったわけではないけれど、面白い、やってみたいという気持ちが強く挑戦してみました。

 

 

━━山形のどこに魅力を感じたのでしょうか。

 

 新しいものと古いものが共存する街だと思います。老舗が京都に次いで多いと言われていて、でも若者たちが新しいものを作って動いている実感がある。いろんな店や建物があるけれど、ちょっと郊外に行くとすぐ山がある。アートフェスティバルや映画祭という地域での文化的な活動も活発。街の様子に多様性があり、可能性を感じる町だなあと思ったんです。

 

━━「多様性」は渋谷のような街にこそあるものと思っていましたが……。

 

 もちろん渋谷も、お店や人種、出身地という意味では多様です。でも私が東京のサラリーマンという生き方を続けることに限定して考えると、生活はそんなに広がらないと思っています。通勤圏内と言われる場所に住んで、1時間以上も電車に乗って都心に通う。そうでなければ高い家賃を払って狭いところに住む。休日に自然を楽しむのにも一苦労。通勤形態も休日の過ごし方もある程度限られてくると感じています。

 

 多様性といってもいろんな面があって、若者が新しい人と出会いたいと地方を出て都会に行くことを否定はしません。それぞれの年代で、その都度いろんな多様性に出会っていけばいいと思います。

 

 

━━山形に来て、どんな暮らしの変化がありましたか。

 

 一番大きいのは通勤時間。横浜にいたころは90分だったのが、今は自家用車だと15分、バスを乗り継いでも40分と大きく減りました。家での時間が増えて、ほぼ3食しっかり自炊するようになりましたね。

 

 それから季節の移り変わりに敏感になりました。夏の暑さも冬の雪も、季節の変化を感じながら楽しんでいます。

 

 ただ首都圏や地元にいる友達とは離れてしまって、会う機会が減ったのは少し残念ですね。

 

━━この地で働くことを、どのように感じていますか。

 

 東京では、仕事と生活の場はしっかり切り分けられていました。同僚や仕事の相手先の顔は分かっても「〇〇社の〇〇さん」でしかないからその人たちの生活というのは見えてこない。

 

 それと比べると、この街の中では住んでいる人たちの生活感があり、つながりが深い感じがします。例えば、地域の中に飲食店があって、食べに行く人がいて、店に野菜を提供する人がいて……と、地域を支えている人たちの顔が見える。その温かみ、無機質ではない感じというのが地方で働く大きな魅力の一つだと思っています。

 

━━これから大学の外に出る東大生にメッセージをお願いします。

 

 どんどん転職しろとは言わないけれど、都会から地方に、大企業からベンチャーにと全く違うコミュニティーに移る機会があるなら、どんどん飛び込んでチャレンジしてみてもいいんじゃないかなと思います。日本にいて見える日本と、海外から見る日本は全然違うし、それは地方と都会でも同じ。自分が場所を変えないと分からないこと、想像だけでは気付けないことがたくさんあるから、若い時にチャンスがあるのであればぜひチャレンジして人間の幅を広げてほしいです。

【東大CINEMA】 『ジョーカー』

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描かれる狂気への道

 

『ジョーカー』 10月4日㈮日米同時公開 ワーナー・ブラザーズ映画 © 2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC Comics

 

 白塗りの顔、緑色の髪、裂けた口。『バットマン』の悪役ジョーカーの姿を、誰もが一度は目にしたことがあるのではないだろうか。彼はこれまで、理解不能な殺人鬼として描かれてきた。しかし本作は彼の過去に焦点を当てることで、ジョーカーの理解可能な人間性の描写に挑んでいる。

 

 アーサー・フレックは、ゴッサムシティの古いアパートで母親と2人暮らし。病気の母を看病しながら大道芸人として働くが、突然笑ってしまう病気のため周囲から気味悪がられる。彼は、ソーシャルワーカーとの面談や7種類もの薬が必要な日々を送っていた。

 

 ある時、大道芸人の同僚から銃を手渡されるアーサー。何気なく受け取った彼は仕事先の病院に携帯し、思わず銃を落としてしまう。事が上司に伝わりアーサーはクビに。落ち込む彼は、自身のメークや病気をからかう3人の男が現れると、彼ら全員を射殺した。

 

 殺された3人は、街を支配する大企業の社員。凄惨な事件と報道される一方、一部の貧困層は犯人のピエロを支持して仮面をかぶるように。アーサーは警察に追われながらも、狂気あふれる悪のカリスマ・ジョーカーへと変貌していく……。

 

 本作は、今年の第76回ベネチア国際映画祭にて最高賞の金獅子賞を受賞。アメコミ映画としては初の快挙となり、アカデミー賞受賞の見込みも高い作品だ。監督は『ハングオーバー!』シリーズなどのコメディー映画で知られるトッド・フィリップスが務め、主役であるジョーカーをホアキン・フェニックスが演じた。

 

 ジョーカーを演じることには大きなプレッシャーが伴う。役柄が情緒不安定で難しい上に、これまで彼を演じてきた俳優はいずれもアカデミー賞受賞者だ。しかしそれでも、本作のジョーカーには見事な狂気がある。彼が病気で突然笑い出す様子は、それが単なる症状という以上に、個々の状況に応じた不気味さや悲哀さを観る者に感じさせる。

 

 「笑い」は本作において最も重要な要素の一つだ。ピエロとして常に笑顔を保つアーサー。母には「どんな時でも笑顔で人々を楽しませなさい」と言われてきた。しかし彼は一方で、持病のため周囲にあざ笑われる存在。常に虐げられてきた彼にとって、笑いに満ちた人生とは必ずしも幸福なものを意味しなかった。

 

 アーサーが虐げられるのは、奇妙な病気によってだけではない。富裕層優遇の政治により、自分や母親の医療費を払えなくなるように。さらに彼は、実は幼少期に親から虐待を受けていた。こうして蓄積されていった鬱憤が、彼をジョーカーという悪に変貌させる。

 

 以上の過程は明らかに悲劇的だ。理解不能だったジョーカーは、もはや理解可能な弱者でしかない。しかし彼は「全ては主観だ」と語る。つらい人生さえもそのメークで永遠に笑い飛ばすジョーカー。自らの悲劇を喜劇と捉える彼の姿に、より一層の悲劇性を見いださずにはいられない。

 


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ニュース:芸術に大学の知性を 芸術創造連携研究機構 世界水準の芸術教育へ
ニュース:堅守で強敵振り切る ラクロス慶大戦 関東優勝に王手
ニュース:硬式野球早大戦 1回戦は一時同点 投手陣奮闘も連敗
ニュース:10倍の高効率で冷却 半導体デバイス 高密度高速化に対応
ニュース:結晶構造の関連解明 ゼオライト合成条件 機械学習を活用
ニュース:遺伝的変異が身長に影響
企画:国民の関心維持が課題 裁判員制度開始から10年
企画:悩んだらまず相談に 東大生の悩みに向き合う現場に迫る
世界というキャンパスで:分部麻里(文・4年)④
100行で名著:『もの食う人びと』辺見庸著
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【駒場祭2019おすすめ企画】「見て触れて楽しむ」同人誌即売会 コミックアカデミー

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〜五感で楽しめ〜  編集部が選んだおすすめ企画

 

 500に上る企画が行われる駒場祭。どれも魅力的で目移りしてしまう読者も多いだろう。そこで、編集部員が選んだ、多種多様な興味をそそられる企画を紹介する。色とりどりの企画に胸をときめかせてみてはいかがだろうか。(写真は各企画提供)


同人誌即売会 コミックアカデミー

コミックアカデミー実行委員会

 

@12号館1階1213教室
体験型イベント
 22日 午前9時~午後4時
即売会
 23日 午前11時~午後5時
 24日 午前11時~午後5時

 

毎年開かれている即売会。昨年の駒場祭も多くの人でにぎわった

 

東大生の表現一堂に会す

 

 今や日本を代表する文化の一つと言っても過言ではないオタク文化。その広がりと奥深さを支えるのが、自分が興味を持つ作品の二次創作の同人誌や、自身が考えたオリジナルの作品を頒布する即売会の存在だ。中でも毎年東京で開かれるコミックマーケットは特に有名なため、聞いたことがある方も多いだろう。

 

 そんな同人誌即売会を東大で開催しているのがコミックアカデミーだ。普段は学園祭に向けて準備を進める他、創作系サークルの合同新歓や創作体験会を駒場キャンパスで実施して同人誌制作をはじめとする創作活動の普及に努めている。

 

 駒場祭の企画の中心となる同人誌即売会には、現役の東大生を中心に毎回20~30程度の個人や団体が出展。内容も漫画やアニメ、鉄道、音楽など多岐にわたるという。代表のぎんなんまんさん(文Ⅲ・2年)は「学園祭で東大生の表現活動を見られるのは貴重な体験のはず」とその魅力を語る。

 

 今回は同人誌即売会だけにとどまらず、1日目には創作活動の体験型イベントを開催する予定。来場者に自分の興味に沿ったイラストや文章などの作品の制作を体験してもらい、出来上がった作品は合同誌として頒布する。ぎんなんまんさんは「創作活動や同人誌制作に興味がある人が実際に活動を始めるきっかけになってくれれば」と話す。

 

 企画は一見すると「オタク向け」の内容だが、「コミックマーケットのような敷居が高いイベントを想像しないで」とぎんなんまんさん。「作品を手に取ってくれるだけでいい。冷やかしでも構いません(笑)」と笑う。手に取った多種多様な作品の中には、きっとあなたの興味を引くものがあるはず。


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インタビュー:人と違う視点を見つける 人気著作家が語る学生時代と仕事論 能町みね子さん
ニュース:佐々木元総長らが受章 文化勲章 紫綬褒章には4人
ニュース:ウナギ激減要因に殺虫剤の可能性
企画:〜五感で楽しめ〜 編集部が選んだおすすめ企画
企画:東大ガールズハッカソン2019 「×(掛ける・組み合わせる・multiply)」をテーマに開発
企画:輝く10人の東大生 栄冠は誰の手に ミス&ミスター東大コンテスト 駒場祭3日目開票
企画:駒場祭が見た70年 伝統ある学園祭の歴史を振り返る
企画:駒場Ⅰキャンパスマップ
キャンパスガイ:永野創斗さん(文Ⅲ・2年)

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【駒場祭2019おすすめ企画】「聞いて楽しむ」東京大学ベルカント研究ゼミナール 2019年駒場祭演奏会 イタリアを歌う

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〜五感で楽しめ〜  編集部が選んだおすすめ企画

 

 500に上る企画が行われる駒場祭。どれも魅力的で目移りしてしまう読者も多いだろう。そこで、編集部員が選んだ、多種多様な興味をそそられる企画を紹介する。色とりどりの企画に胸をときめかせてみてはいかがだろうか。(写真は各企画提供)


東京大学ベルカント研究ゼミナール2019年駒場祭演奏会 イタリアを歌う

東京大学ベルカント研究ゼミナール

 

@コミュニケーションプラザ北館
2階 舞台芸術実習室
24日 午前10時45分~午後0時半

 

少人数だからこそきめ細やかな指導を受けられる

 

祭りのにぎわい離れオペラ歌曲堪能

 

 東大に声楽を学べる場があることを知っている人はどれくらいいるだろうか。今年で34年目と長い歴史を持つベルカント研究ゼミナールはその一つだ。ベルカントとはイタリア語で「美しい歌」を意味する歌唱法のこと。「息の流れを大切にする歌い方が特徴です」と広報担当で副ゼミ長の揚原妃織さん(文Ⅱ・2年)は語る。

 

 本格的な声楽を東大の授業で習いたいと思った学生が立ち上げた本ゼミ。毎年受講希望者が多く、オーディションが行われる。授業では、全員で発声練習をした後、プロの声楽家である夏目張安さんから交代で個人レッスンを受ける。自分の番が回ってくるのは1、 2週間に1度だが、他の人に対する指導も自分のためになるそうだ。

 

 駒場祭では「イタリアを歌う」と称しオペラなどのイタリア歌曲を披露する演奏会を毎年開催。ゼミ生が習得したベルカント唱法の成果をソロで発表する。出演希望者には普段のカリキュラムとは別に、夏目さんがそれぞれの声やレベルに合わせた曲を用意。「初心者だった人もいますが、一人一人がそれぞれに輝ける場になっています」

 

 演奏会にはゼミの卒業生も出演し、レベルの高い演奏を楽しめる。昨年は迫力満点の男女のデュエットもあり、会場は大いに盛り上がった。最後を締めくくる夏目さんの演奏も例年大好評だそう。イタリア語を普段耳にしない人でも「有名な曲もあるので親しみやすいと思います」。

 

 入場券は不要で、曲間であれば途中入場も可能だ。「にぎやかなキャンパスから少し離れて、本格的なオペラ歌曲を聴きに来ませんか」と揚原さん。気軽に足を運び、美しい歌声に浸ってはいかが。


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インタビュー:人と違う視点を見つける 人気著作家が語る学生時代と仕事論 能町みね子さん
ニュース:佐々木元総長らが受章 文化勲章 紫綬褒章には4人
ニュース:ウナギ激減要因に殺虫剤の可能性
企画:〜五感で楽しめ〜 編集部が選んだおすすめ企画
企画:東大ガールズハッカソン2019 「×(掛ける・組み合わせる・multiply)」をテーマに開発
企画:輝く10人の東大生 栄冠は誰の手に ミス&ミスター東大コンテスト 駒場祭3日目開票
企画:駒場祭が見た70年 伝統ある学園祭の歴史を振り返る
企画:駒場Ⅰキャンパスマップ
キャンパスガイ:永野創斗さん(文Ⅲ・2年)

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【駒場祭2019おすすめ企画 番外編】ジブン×ジンブン 人文学を身近に感じる契機に

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ジブン×ジンブン

UT-humanitas

 

@21KOMCEE West K402

全日全時間帯

 

今回は会場の設計にも、これまで以上にこだわった

 

 2018年、人文学の面白さや意義を社会に発信するために、人文学系の大学院生を中心に結成された、UT-humanitas。企画「ジブン×ジンブン」は今年の駒場祭で3回目を迎える。軌道に乗りつつあるが、今年の駒場祭の企画の内容を巡っては紆余曲折があった。

 

 活動当初から実施している「ジンブンアトラス」では、お題となる画像に対して、メンバーが事前に自身の専門分野に沿ってコメントを付ける。コメントを展示し、参加者に見てもらうことで、人文学の広がりを示すことが目的だ。しかし従来のお題は『写真週報』(大日本帝国の国策の一環で発刊された雑誌)やポーランドの古都・クラクフといったように、やや専門的なものばかりだった。

 

 今回は日常生活で目にする身近なお題を用意。渡部亮さん(人文社会系・修士1年)は「上から目線で啓蒙するような態度では、人文学に興味を持ってもらえません。来場者に主体的に考えてもらえるようなお題を選びました」と解説する。メンバーがコメントを付ける際には、お題と専門知識をどう結び付けるか苦労したという。それでも岡田進之介さん(人文社会系・修士1年)は「日常に対しても、人文学ができることはあります」と手ごたえを見せる。

 

 一見「人文学らしくない」視点からも、企画の改善を試みた。従来はただ壁にポスターを貼り付け、自由に見学してもらっていたが、今回は新たに参加した中西亮介さん(工学系・修士2年)の発案で渦巻き型の通路を用意。来場者にまず人文学の方法論を理解してもらい、その後ジンブンアトラスへ……と、順を追って理解を深めてもらいやすくなった。初めての人はもちろん、過去に参加した人も、人文学を身近に感じる契機にしてほしい。


AIの力でビジネスは変わる? AIビジネスの秘訣を2人の先駆者が語る

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 今はやりの最新技術、AI。必要性は感じるが、ビジネスにどう活用していいか分からない――そんな悩みに応えるシンポジウム「AIビジネス成功の秘訣を考える~AI導入の成功事例から読み解く~」が8月29日、本郷キャンパス伊藤謝恩ホールで開かれた。

 

 登壇者は、メーカーなどにAIプロジェクトの内製化支援を行う東大発ベンチャー・アイデミーの石川聡彦社長と、電通のビジネス共創ユニットを担う片山智弘さんの2人。AIビジネスの最先端に立つ2人が指南する、AI活用の秘策とは。

 

(取材・一柳里樹)

 

対談する石川社長(左)と片山さん。背後には会場からの質問がリアルタイムで表示されている(写真はアイデミー提供)

 

 対談の初めに、2人がAIビジネスの現在地を分析した。石川社長は「2012年に初めてディープラーニングの活用が叫ばれてから5年以上が経ち、試作品から実運用に移っていく時期ではないか」と解説。片山さんもこれに同意した上で、エンターテインメントやアートなどAIと縁遠いと思われていた業界でAIが活用されている事例を紹介し「AIが今よりもっと安く、もっと汎用的に使われるようになる」と予測した。

 

 AIには一部例外を除き、責任が取れない、判断できない、教師データがないと動かせないといった問題が付いて回る。しかし片山さんは、電通の開発したAIコピーライター「AICO」のように「たたき台として最初の切り口を出させる」こともAIの活用法だと語る。石川社長は、Yahoo!がニュースのサムネイル画像のトリミングを機械学習で最適化させ、クリック率を数%向上させた事例を紹介。このような、AIが上げている「地味な成果」がメディアに紹介されないまま埋もれているとした上で、「メディアで取り上げられる分かりやすい事例に惑わされず、目の前の課題を適切に改善していこう」と呼び掛ける。

 

 対談は、会場から募った質問を司会者や対談者が拾っていく方式で進んでいく。「AI活用が一番ホットな業界は」という質問には、石川社長が「自分の専門領域から攻めるのは良いのでは」と助言。大学院生時代、水処理の研究室で膜処理が必要となるタイミングの予測にAIを活用した経験も踏まえ「どの業界であっても、一つの業界に特化してAI活用を進めようとすると、AIで解くと効用が高そうな課題を見つけるのに専門知識が必要になる」と分析した。一方、片山さんは、一番AIを活用しやすいのは「データを取れるサイエンティフィックな分野でありながら、判断は人間が介在しないと難しい」領域だと話す。具体的な業界としては、自動運転の実用化が待望される自動車、教育、データの取りやすいヘルスケアや医療を挙げた。

 

 AI活用を推進する現場からは、「旧来型の日本企業でAIの理解度を高めるためにどんなアプローチが有効か」という切実な悩みも。片山さんは「社長が上から推し進めるやり方と、利便性や価値が伝わりやすいケースを作って社内啓発するやり方の二つが有効だ」と助言する。後者の方法の場合、「コストを100万円削減できる」「勤務時間を6時間減らしてくれる」など管理職に理解しやすい言葉で説明することの重要性を2人は口々に語った。

 

 一方、AIの活用には落とし穴もある。石川社長によれば、「半年や1年でドラスティックな成果を出すのは難しい」のが機械学習。例えば、工場の製品検査をAIに代替させる場合、最初は人の目とダブルチェックするところから始め、徐々に人員を減らしていくこととなる。中長期的には成果を上げられる目処が立っていても、「短期的に日々の成果を追い掛ける」現場には有用性が理解されにくいのが現状だ。片山さんも、AIの導入当初に「PDCAサイクルを何度も回さないと成果が出ない」という理解を広げることが重要だと話し、「システムの実装後に改修を繰り返さないと失敗する」と強調。AIの導入に併せてログ解析の仕組みを組み込み、内部のデータを分析することを提案する。

 

 AI人材がいない企業では、外注や協業でAIビジネスを展開することが多い。外注で事業を成立させるこつについての質問も飛んだ。石川社長が警鐘を鳴らすのは、発注する側の手持ちのデータありきで話を進めていく事例。それでは「受注者側は何をしていいか分からず、よく分からないアウトプットしか出てこない」。重要なのは、発注者側が最終的なゴールを明確化することだ。加えて片山さんは、必要となるデータの量や厳密性を事前に吟味し「どのレベルのAIを使うか」発注者としても仮説を立てておくべきだという。さらに、発注先のレピュテーションを事前に聞くなど、慎重なマインドセットを持つことが大事だと話す。

 

 逆に、AI企業で働くビジネスパーソンが意識すべきことは何か。石川社長は「特に日本のAIベンチャーでは、大企業に信頼していただくことが成功するための一番のキーファクター」だと分析。片山さんは、事業理解やビジネスモデルへの想像力の重要性を強調した。

 

 発展著しいAIだが、それを生かすのも殺すのも生身の人間。先駆者2人の話から、AIをビジネスにつなげるヒントを得た1時間だった。

第15回出版甲子園決勝大会、12月1日に開催 本が産まれる瞬間を見逃すな

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 学生の、学生による、学生のための出版企画コンペティションである出版甲子園。第15回大会の決勝大会が、12月1日に開かれます。実行委員会で広報を務める小林あきのさんに、決勝大会の魅力について寄稿してもらいました。


 12月1日、出版甲子園実行委員会は、出版コンペティションイベント 「決勝大会」を開催する。

 

 

 出版甲子園実行委員会 (早稲田大学公認サークル代表:石井七海)は、日本で唯一学生と出版社をつなげ、学生の商業出版までの道のりを支援するために活動している学生団体である。具体的には、全国の学生から本にしたい企画を募集し、イベントを開催することによって企画の書籍化をサポートしている。毎年100近く集まる企画を団体員で三回審査し、三回目の審査を通過した上位6企画は12月1日に行われる決勝大会への出場権を得る。

 

 決勝大会の見どころは主に2点ある。

 

 1点目は、本を出版したい学生による企画プレゼンバトルである。出版業界の最前線で活躍する敏腕編集者・書店員の審査員や多くの観客の前で、学生企画者が自身の企画について書籍化を懸けた熱いプレゼンを披露する。各プレゼン終了後には、編集者・書店員からの質疑応答が行われ、出版の可能性を問うような質問が飛び交う。最終的には、編集者・書店員・来場者の投票によってグランプリ・準グランプリ・ゲスト賞を決定し、編集者の目に留まった企画はオファーを受け商業出版への道を歩みだすことができる。

 

 

第15回決勝大会出場企画・企画者名一覧(五十音順)

 

・『お金がないから大学にいこう』
〜貧困家庭のための大学進学マニュアル〜
陸 祥児

 

・『科学と歩く How to live with science?』
〜大学生と考える科学との付き合い方〜
かきもち

 

・『「9浪はまい」の遠回り人生のススメ 』
〜現役早大生の人気YouTuberが伝えたい、毎日が楽しくなる道草の食べ方96(9浪)食〜
濱井 正吾/9浪はまい

 

・『死亡フラグが立って『から』読む本』
~「あっ、死んだ」のそのあとに~
素 粒子

 

・『「セックスしないと出られない部屋」に閉じ込められてしまったので脱出方法をはじめからじっくり考察してみた』
〜ジェンダー/セクシュアリティの基本概念をめぐる対話集〜
松浦 優

 

・『他者へ向かって 』
〜「無我」とはどういうことか〜
大角 宗純

 

 

 今年も実用書からエンタメ本までさまざまな企画が揃っており、個性豊かなプレゼンに期待できる。

 

 見どころの2点目は、ゲスト・箕輪厚介氏によるトークショーである。幻冬舎の編集者として活躍する箕輪厚介氏をゲストにお呼びし、「だれもが著者になれる可能性の時代〜公募という視点から考える令和の出版〜」というテーマでトークショーを行う。さらに箕輪氏だけでなく、NPO法人企画のたまご屋さんの代表理事 山本洋之氏にもご登壇いただき、出版甲子園の代表・副代表が進行役を務める予定だ。立場は異なるものの、出版に熱い思いを持つ者たちが、どのような対話を繰り広げるのか注目である。

 

 そのほかにも、一般の来場者の方々からの質疑応答の時間や出版甲子園に関する展示コーナーも設けており、出版に関しての知見が深まる1日になること間違いなしである。

 

 

*開催概要

 

日時:2019 年 12 月 1 日(日)
開場:13:30 開演:14:00  終了予定:17:30
入場料:無料
会場:DNP プラザ(最寄り駅:市ヶ谷)(会場へのお問い合わせはご遠慮ください)

決勝大会ご予約(本大会は予約制です。)
http://spk.picaso.jp/15th-yoyaku

出版甲子園ホームページ
http://spk.picaso.jp/

 

(寄稿=出版甲子園実行委員会広報局3年・小林あきの)

【細胞農業連載】④細胞農業界最大級イベント: New Harvest 2019参加レポートと今後の展望

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 理学部生物情報科学科3年の山口尚人です。近年注目を集める「細胞農業」という分野に興味があり、それに関わる様々な活動をしています。今回の「細胞農業」という分野に関する連載で、今まで馴染みのなかった人に興味を持ってもらい、聞いたことあった人にもより深く知ってもらうことができたらと思います。

 

 さて、前回は細胞農業、培養肉の日本での取り組みについて見てきました。今回は、私が参加した細胞農業界最大級イベント、New Harvest 2019の参加レポートと今後の展望をお届けします。前回、細胞農業に取り組むNPO法人として日本細胞農業協会を紹介しました。こちらは2019年の10月に設立されたばかり、活動はこれからというところですが、一方アメリカでは、New Harvestという細胞農業に関わるNPO法人が2004年に設立され現在までにさまざまな活動をしてきています。

 

New Harvestとは?

 

  New Harvestは、アメリカのニューヨークとボストンを拠点とした、細胞農業を推進するNPO団体です。主に、ファンドとしての働きを持っていて、投資家などからお金を集め、細胞農業分野の発展のために産業界や学術界にお金を投資しています。細胞農業は重要な分野でありながら新しく認知度の低い分野であったことから、従来の投資環境では研究費を集めにくく、それを解決しようとして立ち上がったのがNew Harvestです。驚くべきことに2004年に設立され(随分早い!)、細胞農業(cellular agriculture)という言葉を使い始めたのもNew Harvestです。そのため、細胞農業自体はこのNew Harvestと共に発展してきたと言っても過言ではないでしょう。またファンド以外にも、細胞農業業界のコミュニティ形成、正しい情報の提供と教育にも力を注いでいます。資金源は完全に投資家などからの寄付で成り立っており、 現在10人弱の主要メンバーで構成されているようで、フルタイムメンバーは多くないものの、New Harvestを中心としたコミュニティは非常に大きく、研究費支援を受けている研究者など何かしらの形で関わっている人の数を入れると相当な数になると思われます。

 

 そんなNew Harvestが開催するイベントであるNew Harvest Conferenceは、細胞農業業界においては世界最大規模のイベントです。2016年に 第1回 がサンフランシスコで、第2回 はニューヨーク、第3回 と今年の第4回 はボストンのMIT Media Labといった具合にアメリカの主要都市で毎年開催されています。ちなみに、第2回と第3回にはIntegriculture, Incの代表の羽生雄毅さんがスピーカーとして登壇しました。

 

 私は、2019年7月に開催された第4回にShojinmeat Projectの代表として参加し、Shojinmeat Projectの研究や活動内容をまとめたポスター発表をおこないました。

 

写真はNew Harvest 2019より提供(上下)

 

 メインは、2,300人が収容されるホールでのプレゼンテーションやパネルディスカッションでした。プレゼンやパネルディスカッションのタイトルはNew Harvest 2019のサイトのAgendaから、実際の様子はYouTubeのNew Harvestチャンネル から全て見られます(素晴らしい!!)。動画はそのうち消されてしまうとNew Harvest側からの連絡がありましたが(2019年11月現在残っており)、まだ見られるようです。

 

 主な内容としては、細胞農業やその周辺分野に取り組む研究者のプレゼンやポスター発表があり、培養肉の大規模生産のためのバイオリアクター開発、筋繊維を作るための組織工学アプローチの研究、無血清培地開発の研究などがありました。また、細胞農業スタートアップの最新情報のアップデートや社会受容や規制に関するパネルディスカッションなど、企業や政府の関係者など幅広い分野の人が参加していました。

 

 イベントの最後には、New Harvest 2019開催の数日前に発売されたPerfect Day Foods社のアニマルフリーのアイスクリームのオークションが行われました。このアイスは細胞培養技術を用いて、卵や牛乳を使わずに作られたアイスで、発売数日ですぐに完売してしまいました。特別にこのイベント用に残していたアイスがオークション形式で販売され、強者が600ドルで落札し大盛況のうちに幕を閉じました。

 

 New Harvest 2019では世界の細胞農業の盛り上がりと熱気を感じることができ、細胞農業に取り組む人達に直に会い、コミュニティの一員となることの価値の大きさを感じました。New Harvest 2019以外にも、Cultured Meat Symposium, Good Food Conferenceなどアメリカを中心に開催される大規模なカンファレンスに参加するとその熱気を感じることができると思います。

 

情報源は?

 

 上記のようなイベントへ参加し細胞農業に取り組む人々に直接話を聞くのが一番なのは言うまでもありませんが、それ以外でオンラインでの情報収集源の一例を上げておきます。一番のお薦めは、以前にも取り上げましたが、Shojinmeat ProjectのSlideshareです。ここまでまとまっている情報が日本語で一般に公開されていることに感動すら覚えます。それ以外には、特にNew Harvestなどの団体や細胞農業スタートアップのTwitterはかなり重要な情報源になると思いますし、以下のサイトは有益な情報を提供してくれるでしょう。

 

Website

  • NewHarvest’s website
    • Aboutページはとてもよくまとまっています。こちらを翻訳したものが、「5分でわかる細胞農業」で、導入記事としておすすめです。
  • Good Food Institute’s Blog
    • New Harvestと並ぶ存在感の巨大なNPO法人で、メディアとして機能する他、funding programなどもおこなっています。
  • CellAgri’s Blog
    • 細胞農業に関するメディアです。ニュースレターやJob Listingもあります。
  • Robert Yaman’s Blog
    • YouTubeのソフトウェアエンジニアをやめて、Cellular Agricultureの分野へ移った人のブログです。サイトにまとまっている情報が豊富で、会社のリストや特許分析などもあります。
  • Golden
    • 最新情報とスタートアップに強い新時代のWikipedia(TechCrunchの紹介記事)
    • 細胞農業だけでなく、新しいテクノロジー(AI, BioTech, EdTechなど)の情報が詰まっています。
    • これからさらに充実していくことが期待されます。

 

Podcast

  • Cultured Meat and Future Food
    • 培養肉や植物性の肉をはじめとした未来の食に関わる人たちのインタビューpodcast。ホストのAlexさんが良い声でおすすめです。

 

細胞農業の行方は?

 

 さて今後の細胞農業はどのようになっていくのでしょうか?まずは法規制の観点から見ていきます。

 

画像はShojinmeat Project提供。

 

 現在の主要国の法規制を含めた状況は以上のようになっています(あくまで現状であり、様々な見方もあることに注意して下さい)。

 

 アメリカでは政治の問題も絡み少々停滞気味、EUでは培養肉を世界で初めて作った国がオランダであったこともあり、法整備が整い、議論の中心はHACCPなどの食品衛生管理規格の具体的な運用方法や基準値の設定などの各論に移っています。一方で認証手順は長期間を要するため、すぐに市場に出るかはわかりません。香港、中国、日本では現行法規でも培養肉に対応可能であり、安全データや世論次第とみられています。どの国が初めの培養肉市場となるかは、社会受容はもちろん、食肉生産や輸出入の事情にも影響されるため一概には言えませんが、日本が培養肉の初めの市場となる可能性もあります。日本でも細胞農業のルールメイキングに向けた議論は徐々に進んできており、既存の畜産業界や一般消費者など幅広い層を巻き込んで社会全体の最適解を探っていくことが期待されます。

 

画像はShojinmeat Project提供。

 

いつになるんだ培養肉

 

 結局いつになったら培養肉が市場に出回るようになるのでしょうか?技術発展の度合いや社会受容に大きく左右されるため、こればっかりはまだ誰もわかりません。実際に広まるとなると、培養肉の「コスパ」が既存の肉を上回ることが重要であり、この地点(以下スライドでは、Price Parity pointとしています)を到達すると本格普及が始まることが考えられます。

 

 PP(Price Parity)未達、すなわち培養肉の「コスパ」が既存の肉を下回っている時点では、新しい技術が従うと言われているハイプ曲線をなぞることになるでしょう。近年代替タンパク質に関する報道が増えてきており、まさにハイプ曲線を駆け上がっています。しかし、ピークを迎えた頃に生産されている培養肉では明らかに商品力不足の可能性が高く、期待バブルがはじけ、関心や投資が離れていく可能性が高いです。そんな中でもプレーヤー達の地道な努力によって着実に技術が進歩し、2030年頃には培養肉の本格普及に大きく近づくのではないでしょうか。

 

画像はShojinmeat Project提供。

 

 注目度が高まり、関わる人が増えていくにしたがって動きも盛んになっていきつつある中、細胞農業、培養肉の今後の行方に注目し自分でもいろいろと考えてみると面白いでしょう。

 

 さて第1回の細胞農業の紹介に始まり、第2回の代替タンパク質市場からみた細胞農業、第3回の日本の取り組み、そして今回の情報源の紹介と細胞農業、培養肉の展望、と細胞農業に関わる様々な内容を取り上げてきました。個人的には、日本にとってはプレーヤーの増加と、社会受容の議論の活発化が重要であると考えています。その一環として多くの人に細胞農業、培養肉とはそもそも何かを知ってもらい、興味と関心を持ってもらうことが大切であると考え、本連載を執筆しました。

 

 ここまで読んでいただいた方が人類の食と地球の未来に少しでも想いをはせるきっかけになってくれたらとても嬉しいですし、またこの連載が何かしら良い影響を与えられるものであったら最高です。

アメフト リーグ戦第7戦で日体大を下す 今季初勝利でTOP8残留決定

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 アメリカンフットボール部(関東学生1部リーグ上位TOP8)は11月24日、リーグ戦第7戦を日本体育大学と横浜スタジアムで戦い、16-3で勝利した。東大は今季、関東学生1部リーグ下位BIG8からTOP8に初昇格しており、これがTOP8で初めての勝利。今季を6位で終え、来季のTOP8残留が決まった。

 

東 大|7306|16
日体大|0030|3

 

樋山選手は気迫のランで2度のTDを決める活躍を見せた(撮影・中野快紀)

 

 試合開始からお互い敵陣に攻め込めない時間が続く中、均衡を破ったのは東大だった。第1クオーター(Q)中盤、ランニングバック(RB=ボールを持って走ることで陣地を広げる)樋山大郎選手(工・4年)のランがさえわたり、2連続で攻撃権を更新。勢いに乗って一気に敵陣に突入すると、以降も樋山選手らが相手の包囲網をかいくぐり、タッチダウン(TD)まで残り9ヤードに迫る。東大はここで早くもタイムアウトを要求し、確実に得点する構え。するとタイムアウト明け最初のプレー、クオーターバック(QB=攻撃の司令塔で、味方選手にボールをパスするなどして攻撃の起点をつくる)伊藤宏一郎選手(文・4年)の素早いパスを受けた樋山選手が、しぶとく相手をかわし先制のTDを決める。

 

先制のTDを決め、雄叫びをあげる樋山選手(撮影・中野快紀)

 

 「相手は(距離を一気に稼ぎ得る)パスが得意なチームではないので、こちらがリードする時間帯を長くすることで、試合を優位に進めようとした」(森清之ヘッドコーチ)。東大は第2Qにも4th down ギャンブル(通常4回与えられる攻撃権のうち4回目で、陣地回復ではなく攻撃権更新を狙うこと)を仕掛けるなど、勝つために最善を尽くす姿勢を見せる。結局このギャンブルは失敗、以降も攻撃陣はミスや反則を立て続けに犯すが、前半終了間際にはフィールドゴール(FG)で3点を追加。守備陣は相手の反則もあり、一度も攻撃権を更新させずに前半を終える。

 

 後半に入ると一転、東大はピンチに。フィールド中央をすり抜ける相手RBの勢いを止められず、ずるずると自陣19ヤード地点まで追いつめられる。しかし中央の守りを固めるとともに本多孝全選手(工・4年)や助川左門選手(法・3年)のタックルが決まり、FGの3点でしのぐことに成功する。

 

 第4Q開始直後にはインターセプトを食らうも、再び相手RBの動きを封じることに成功。すると約4分後、お返しとばかりに助川選手が相手のロングパスをインターセプトする。ここで再び樋山選手がランでチームを勢いづけ、最後も相手選手を飛び越えるかのような巧みなステップでTD。トライフォーポイント(TD後に1回のみ与えられる攻撃権)のFGは弾かれたものの、逸機が目立った今季の悔しさを拭い去るかのように、しっかりとチャンスを得点につなげる。

 

 得点直後には自陣21ヤード地点まで攻め込まれるも、長めのパスを狙う相手にうまく対応し、無失点で切り抜ける。最後はニーダウン(故意にプレーを終了させること)で時間を消費。試合終了の笛が鳴るのと同時に、グラウンドでは歓喜の声が上がり、スタンドでは多くの観客が立ち上がって奮闘に応えた。試合開始直前まで雨が降っていた横浜スタジアムには、曇天の切れ間からライトブルーの青空が見え隠れしていた。

 

 

 

 TOP8の1~6位のチームは、来季もTOP8に残留可能。TOP8の8位とBIG8の1位、TOP8の7位とBIG8の2位が、それぞれ昇格・降格をかけた入れ替え戦(チャレンジマッチ)に臨む。今季はTOP8の慶應義塾大学が無期限活動休止を発表したことにより、TOP8の最下位として扱われ、来季はBIG8に自動降格することが決まっていた(BIG8の首位となった日本大学は来季TOP8に自動昇格)。東大と日体大は今季ここまで、不戦勝扱いの慶大戦を除けば共に全敗で6・7位を争っていたが、東大は日体大に勝ったことで6位が確定し、TOP8残留を決めた。

 

 

◇森清之ヘッドコーチの話

──今日の試合の率直な感想を
 半分、いや、3分の1はホッとしている。3分の1は優勝に絡めなかった悔しさ。残りの3分の1は、4年生がいいプレーをしてくれたこと。さすがだと思う。

 

──今季を振り返って、一番の収穫は
 目標を残留ではなく優勝に据えたことで、TOP8のレベル感をフルに味わえたことが、中長期的に見ても財産になった。正直、他のチームほど選手層が厚くはない中で、けが人が続出しないか、戦い抜けるかどうか不安な部分もあった。でも、結果的にはほとんど初戦と同じメンバーで戦えたので良かった。もちろん、今年の選手たちのポテンシャルからしたら、もう少しやれた部分もある。選手たちも「意外と戦えたな」と思っているのでは。

 

──今後の展望は
 今年の4年生は下級生の時から主力だった選手も多い。来年はメンバーが大幅に入れ替わるので一からチームを作り直すことになると思う。ただ、いつも選手たちには言っているが、スキルにしろフィジカルにしろ、どういうレベルでやるかが鍵となる。東大生は勉強ではトップランナーで、入試合格という成功体験も持っている。それがアメフトに変わっただけのこと。(東大に受かるなら偏差値がどれくらい必要か、というように)自分の中での基準を上げることの重要性は変わらない。

 

 

◇関剛夢主将(工・4年)の話

 

──今日の試合の率直な感想を
 今季初勝利ということで、素直にうれしい。残留が決まったことで、自分たちの役目はギリギリ果たせたかなと安心している。劣勢の時でもチーム全員が気持ちを切らさずにプレーできたという意味では、みんなのおかげで勝てたと思う。

 

──引退後のアメフト部の展望を
 今の下級生たちは、自分達が下級生の時と比べても、うまいし、強い。これからどんどん強くなっていくと思うが、強くなればなる分だけ、さらに強くなるために必要な労力も増えていく。それでも頑張って、TOP8優勝、さらには甲子園ボウル制覇を果たしてほしい。

 

(小田泰成)

囚人のジレンマで搾取の仕組み解明 心の狭い者と寛容な者の間で安定的に発生

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囚人らは相手が黙秘しているときに罪を告白する方が得だが、両者告白するよりは両者黙秘した方が得であるという利己か利他かのジレンマを抱える(表は東京大学新聞社が作成)

 

 藤本悠雅さん(総合文化・博士3年)らは、互いに利己ないし利他行動を選択する理論「囚人のジレンマ」により、搾取が発生する仕組みを解明した。成果は5日付の米科学誌『フィジカル・レビュー・リサーチ』へ掲載された。

 

 囚人のジレンマは社会の行動選択を表す数理モデル。例えば、証拠不十分の囚人2人に別々に「もし両者とも罪を黙秘したら懲役2年、もし片方のみが相手の罪を告白したら告白した方は釈放、された方は懲役5年、もし両者とも告白したら懲役4年とする」と取引を持ちかける(表)。囚人個人としては相手の罪を告白する方が得であるが、両者告白するより両者黙秘した方が得になるという状況を表す。

 

 今までの囚人のジレンマにおける研究内容は、同じ取引を繰り返す中で相手が協力したら協力を、相手が裏切ったら裏切りを選択する「しっぺ返し戦略」を双方が獲得することで対称的な協力関係を築く仕組みが中心。搾取関係のように非対称な関係は注目されてこなかった。近年行われた搾取関係の研究では、初めから両者の非対称な状況が想定されていたが、両者が対称な状況から相互に学習を行う中で非対称な関係が発生するかは不明だった。

 

 藤本さんらは、囚人のジレンマにおいて両者が相手の行動を見て学習する前に取り得るさまざまな戦略を仮定し、計算機でシミュレーションした。結果、相手が協力しても確率的に裏切る心が狭い者と、相手が裏切っても確率的に協力する寛容な者の間に安定的な搾取関係が発生し得ることが判明。両者の能力は対称でも、初期行動の微小な差が増幅され、次第に大きな搾取関係が定着し得ることも分かった。


この記事は2019年11月19日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を公開しています。

ニュース:東大の足元は今①教育編(上) 東大の教育力 教員負担の削減とTAの活用を
ニュース:出願要件化は困難か 英語民間試験利用 入試監理委で対応協議
ニュース:推薦入試出願者数 過去最低タイの173人に
ニュース:ラクロス男子 2年連続で準優勝 またも早大に完敗
ニュース:アメフト中大戦 好機逃し敗戦 最終戦で初勝利目指す
ニュース:囚人のジレンマで搾取の仕組み解明
ニュース:仁科記念賞に岩佐教授 東大からは2年ぶり
ニュース:硬式野球部 新監督にOB井手さん 中日でもプレー
企画:論説空間 問われ直す存在意義 図書館の過去と未来 河村俊太郎准教授(教育学研究科)
企画:味わい深いひとときを コーヒーの楽しみ方
推薦の素顔:村本剛毅さん(理Ⅰ・1年→工)
サークルペロリ:東京大学運動会ソフトボール部
100行で名著:『鉄道が創りあげた世界都市・東京』矢島隆・家田仁編著
東大で昆活!:秋のコオロギ特集
キャンパスガイ:伊東敦紀さん(文Ⅰ・1年)

※新聞の購読については、こちらのページへどうぞ。

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